四十四話目
四十四話目です。
誤字・脱字があったら申し訳ありません
名前の通り、水のような早さで水曜日が流れていき、木曜日当日。
昨日送られてきたメールには11時集合と、集合場所のさっくりとした二つが書かれている。
テレビを見れば夏じゃあるまいに降水確率0%を見事に叩きだし、出掛けるのにはうってつけとキャスターのお姉さんは繰り返していた。
そして目線をずらしテレビの上辺りにあるでかでかとした時間を見ると、11時31分。
もう一度メールを読む。
11時集合。
何度見直しても11時集合。
いや、だけどもちょっと待ってほしい。
俺は悪くない。
悪いのはあの冬花ちゃんが写ったファッションショーの写真を、急に送ってきた執事さんである。
控えめながらキラキラと輝くティアラに優しく微笑んている彼女の表情。
触ってしまったら壊れてしまいそうな細い体は儚さをより強調させている。
そんな美の体現者を貰って10分20分見て満足出来る奴なんてどこにもいるわけがない。
まぁ、そんな感じで夜1時から2時間うへうへして、デー…付き添いを忘れてのんびり休日感覚で起きてしまってこれである。
ちなみに何故一時という深夜まで起きていたのか説明しておくと、恥ずかしながら先輩の付き添いに悶えていたということである。
急いで着替えを済ませ、準備を整えてから、急いで玄関の扉を開ける。
照りつける太陽と共に真っ先に目線に入ってきたのは俺を使え!と言わんばかりに道路までの短いを道に割り込んで主張をしてくる自転車。
行けるのか…お前…!
…だけどもし先輩が今もいてくれるなら、自転車で行くのはどうなんだろうか。
それこそ車とかなら「乗ってけよ…」みたいな感じにはなるが、自転車でそれをすると、敢えなく法律に従ってパトカーに乗ってしまうという可能性もある。
別に遠いという訳でもなし、むしろここは走っていって体力切らして、疲れた状態を見せて同情を誘おう。
矢波先輩だってあんな掴みどころの無い性格だとしても、人の心はちゃんとあるだろうし。
靴に信頼を託し、道路を踏みつけた。
ゴールデンウィークと名前が付くように、お金がジャンジャン飛び交っている場所へと旅立つ目的地の駅前。
そこの広場付近にはまぁ、予想外にも矢波先輩は突っ立っていて、むっすーと頬を膨らませている。
そんな様子の先輩を見つからない少し離れた壁際辺りから、密かに頭だけ出して、どうしようかと色々な言い訳を考えてみる。
…こういう場面では基本、
「ごめん待った~?」
とか言いながら駆け出していけば良いのだろうが、本当に待たせてしまったなら真顔で「待った」と返されてしまう可能性もある。
なんならこのままバックレて帰ってしまった方が平和な勢い。
他には、今でもかなりむせそうなぐらいには体力が持っていかれているがなおのこと俺の完璧な演技力を駆使して、むせを超えて死にかけを演じ、心配させることにより、論点をずらすという方法もある。
肝心なのはその完璧な演技力が、幼稚園の頃の木の役を演じていらいの変わらない演技力ということである。
それで死にかけを演じることは出来るだろうか。
「ねぇ…」
最後の選択肢としては新崎同伴で…。
「ねえってば!」
「うぉぅ!?」
ハッと顔を上げて周りを見渡すが特にこちらを見ている人はいない。
…!違う下だ!
急いで顔を下に下げるとジトーっとした目で矢波先輩が見上げていた。
「遅れてきたのに女の子の観察なんて悪趣味だと思うんだけど」
「…違うんですよ。より平和な和解案を考えてて…」
「君が遅れてこない事が一番の和解案でしょ」
「…すいませんでした」
「はぁ…ま、いいよ。もしかしたら君が来ないこともあるかも、って思ってたし。ほら、じゃ行こ?」
「…そんな俺信頼されてないんですか」
特に怒る様子もなく歩き始めたので横に少し間を開けて歩く。
まぁ、確かに会って一週間も経ってない奴に信頼を置くというのは無理がある。
一年間クラスが一緒だったのに俺のことを信頼以前に知ってないやつすらいるんだからね。
「いやぁ、信頼はしてるよ。信頼してなかったら僕もここで30分も待ってなんてないし」
「…会って全然経ってないのにですよ」
「別に僕が勝手にしてることだから、君は気にしなくてもだいじょーぶ」
「いやでもほら、近くにもっと信頼出来て、頼りにもなるやついますよ?例えば新崎とか」
他には新崎とか、後は…新崎とか。
それに新崎とかさ。
「彼は…まぁ、うん。…そんなことよりも僕は君に興味があるの」
「いやだから他の方が…」
「君はどーしてそこまで自分の事を卑屈に捉えるのさ…」
「そんなつもりは、まぁ…」
あんなのが近くにいて卑屈にならない方がおかしいような気もする。
金持ちでイケメンで勉強も出来て可愛らしい女の子まで近くにいる。
言葉だけならこんなのいるはずがないと思うが、実際にそんなのに遭遇したら、皆がその存在に嫉妬してしまうだろう。
俺もそんな皆の内の一人なのである。
「……でも君のそんなとこ、僕結構好きだよ」
「…全っ然嬉しくないんですけど」
「そ、残念だなぁ」
そんなことを言いながらも残念そうな感じは一つもしない。
むしろその横顔は優しく笑っているような感じすらする。
「……そういえば…もう遅刻についてはお咎め無しですか?」
話題がそれて話さなくなっていたが、30分も遅れてしまったのに理由すら聞いてこない。
それが少しばかり不思議である。
「ん?せっかく触れてあげなかったのに…怒られたいの?」
「いや違いますよ…」
そんな性癖はないが、もし冬花ちゃんだったならどんなのでも受け入れますよ!
「でも…何か矢波先輩だと、後々何かこれで脅されそうな気もしまして…」
「僕は君から一体どんな風に見られてるのさ……。ま、合ってるんだけどね」
「…え?」
「これで君は今日は僕の命令、聞くでしょ?」
「…じゃあ、あの、もしかしてと思って聞かなかったんですけど、メールすらしてくれなかったのって」
スマホを何度も確認しても、矢波先輩から届いたメールは予定を送ってきたあの一通だけ。
急かすようなメールが届いてなかったことに不気味さを感じていた。
「正解、このため。」
「うわぁ最低だぁ」
この人先輩としてどうなのよ。ダメなんじゃない?
「本来なら、予定通り集合して、映画見て、で終わりだったんだけどねぇ~仕方ないよね」
「俺は一体何をされるんですか…」
「あ、いや別にそんなとんでもない命令をするって訳じゃないんだけど、そうだ。ちなみに仁田くんってホラーはどうなのかな?」
「苦手ですけど」
「なら良かった」
「良くないですよねそれ、どう考えてもそれ今からホラー見るやつですよねそれ」
一応言っておくと別にホラーが嫌いな訳じゃない…苦手なのだ。
いきなり大音量とか流れるとビクッとしたり、画面に幽霊とかそういうのが写り込んだら目を反らすだけである。
嫌いじゃないから。
「本当だったら洋物のホラーを見よっかなってさ。
でも仁田くんが遅れてきたから時間的に間に合わなくなっちゃって」
「そういうことですか…助かった…。じゃあ何見ます?」
「うん!だから和物ホラーを見よっかなって!」
「是非ともやめていただきたいんですけど」
日本のホラー映画というのはあんまり見てないから知らんけど、海外とはかなり違うような気がする。
海外のがグロテスクよりの体調面が悪くなるホラーだとすれば、日本のホラーは記憶に残り続けて体調面が悪くなるホラーというべきか。
ふとした瞬間にその映像がフラッシュバックして、トイレとか行けなくなるタイプのやつ。
俺がcmとかですら見ただけでチャンネル変えるぐらいに絶対見たくないやつ。
「…そんなに嫌いなら少しぐらい考えてあげるけど」
「嫌いじゃなくて苦手なんです」
「そのこだわりはなんなの…嫌いなんでしょ?」
「苦手なんです。そんなことより、個人的にオススメするのはあの日曜の朝にやってる女の子が出てるあれですかねぇ…」
ホラー映画と違ってハピネスをチャージ出来るやつである。
ホラー要素を消して可愛さと勇気をレッツラまぜまぜした映画を勧めると、矢波先輩の顔があからさまに嫌そうになる。
「仁田くん、それは僕の見た目を見て選んだの?それとも自分が見たいから?」
「後者ですけど…」
「ならよかった。もしそっちじゃなかったら君の家にホラー映画まとめて送り付けてたよ」
「先輩俺の家知らないですよね…えっ、知らないですよね?」
「どうだろうね。あっ、そこのお店のシュークリーム甘くて美味しいよ」
「あの、えっ?あの?」
知ってるの?知ってないの?どっちなの?シュークリームなの?
まさか新崎が…あいつ以外で俺の家知ってるやつなんていないよな…。えっ、それおかしくない?何で十数年も生きてきて俺の家知ってる同年代1人しかいないの?
と、悲しい現実に打ちひしがれているとぽつりと矢波先輩が呟く。
「…普通に学生の青春もの映画とかにしたらそれにしたかもなのに」
…学生の青春映画もの?
「…先輩」
「ん、どしたの真面目に見つめてきて。ちょっと照れちゃうじゃん」
「俺が嫌いな…苦手な映画のジャンルって知ってます?」
「ホラーと…青春群像劇?」
「ふふふ…それは…ってだから何で知ってるんですか」
まぁ、流石に俺がラノベ読み漁った結果、アニメの実写化が嫌いになったことは知らないだろう。
アニメの可愛さやかっこよさを、何故実写でやろうと考えてしまうのか。
俺の思い当たる限り、アニメや漫画が原作で実写が人気なのは『LIAR GAME』ぐらいじゃないだろうか。
むしろ実写が人気すぎて漫画が原作を知ってない人がいるぐらいな作品。
再放送してくんねぇかなぁ。
ちなみにホラーと青春ものは何をしようが嫌いです。
「いやだってさ、学生だったら夢に見るぐらいの青春群像劇を君は送ってるはずでしょ?でも君はそこをやめたいって言ったじゃん」
「日常部…ですか」
矢波先輩の言う通り、確かにあんな風に自分達で部活を作ってただひたすらにワイワイして、そんな高校生活の劇を学生なら誰だって期待する。
俺だってそうだ。
でも、俺が待ち望んでいたのは多分…新崎の役にいた俺なんだと思う。
これまで、主人公いねぇかなと思っていたのも、他にいないことを確認しても自分がこの物語の主人公になれたんだと思い込みたかったからからもしれない。
んで、そんなことも分かってなくて買い物に出掛けて、主人公に遭遇して、これ。
…今思い返してみれば新崎に遭遇したときだってワクワクなんて一つもしてなくてただただ驚いて、どことなく何かを諦めた気さえする。
ゲームなんかで目的のものを手に入れてなってしまう虚無感と言うべきだろうか。
だからもし本当に部活をやめてしまったとしても、またその虚無感を手にいれてしまって性格は相変わらずのままになるのだろう。
色々嫌になってため息を吐くと、先輩が覗き込んでくる。
「む、仁田くんに酷な質問をしてしまったかな?」
「ええ…絶賛迷走中です」
「ゴメンね?ほら映画館着いたし気分転換にホラー見ようよ」
「いやそれ気分転換なりませんから。どん底まで下がりますから」
ちゃっかりとその映画のチケットを二枚購入していて、一枚渡してくれた。早く観たいのかそわそわしている先輩はまるでちっちゃな子供みたいだ。
…言葉通りの人でした。
「チケット代いくらです?」
「んー、別にいらない」
「え、それは困りますって。先輩に恩を売られたら色々でっち上げられた挙げ句に30倍ぐらいになって要求されそうですし」
俺からのまるて詐欺の人みたいな扱いをされたからかまた、矢波先輩の頬はぷくーっと膨れる。
一応少なく見積もりましたよ?
「むぅぅ…僕の優しさなんだよ?」
「だからその優しさが怖いんですって。ほらチケットお返しします」
見たくないから。という理由を包み隠して、薄っぺらい紙を渡そうとするが、先輩は一向に受け取らない。
「見たくないの?」
「見たくないんです」
「嫌いなの?」
「ええ、嫌いなんです」
「じゃ、僕からの命令。それおごり。一緒に見よ?」
「…えっ、あのそれは」
淡々と素直に答えていると、急に話が変わり、先程のお咎め云々の話になる。
この話自体振ったのは俺だし、
反論しようにも言葉が出ない。
言葉に詰まっていると、ふわりと優しく暖かい手が乗せられる。
ハッとして顔を上げると、矢波先輩は優しく微笑んでいて、その頬は少し赤い。
そしてその口から、また優しい一言が…
「映画のときはスクリーンから目を離さないで…ね?」
「…………」
優しさという言葉を履き違えた何かが言われ、手を引っ張られる。
進んでいく足はまるで、地獄の門を通るようなそんな恐怖ですくんでいた。




