四十三話目
四十三話目です。
誤字・脱字があったら申し訳ありません
落ちていく太陽を明かりにしようと、窓側に席を移す。
窓の外を見ると、風に吹かれながらも、なんとか部活を全うする野球部員が遠目に見えた。
ボールを投げても風が邪魔をし、すんなりと進んでくれはしない。
だが流石野球部員、負けてはいない。
的確にカキーンと打ち返した。
打たれたボールは放物線を描いて他の部員に拾われる。
こういう天気も案外いい練習法になるのかもしれない。
見事に強く打ち返したその彼のもとに、トテトテとマネージャーらしき人が近寄ってきて、ドリンクっぽいのものを渡す。
何を話しているのかは、聞こえないが、何か二人とも満足したのだろう。
野球部員の方がマネージャーの頭をポンポンと優しく叩き、またバッターボックスへと戻り、構えた。
……………。
外せっ!外しちまえっ!何だその彼女に良いとこ見せたいみたいのは青春イベント!
やれピッチャー!お前の本気はそんなものか!
恋やら愛に現を抜かすやつにお前が負けるはずなど無い!やっちまえ!
俺の思いが通じたのか、はたまたピッチャーくんもそう思っていたのか、投げられたボールは先程よりもかなり速い。
進む先はしっかり真っ直ぐ、ストライクを狙ったボール。
カッコつけて打とうとするやつに恥を与えてやれ!
いっけぇぇぇえ!!!
「なに窓の外睨んでますの…」
「へっ?」
見事に空へと舞ったボールを見た後に声がかかった方を見る。
「…まるで親の仇を見るような感じでしたので何事かと…」
「あ、いえ…お気になさらず…」
恥ずかしさからストンと席に座る。
それとほぼ同時に新崎は席を離れ、窓に近寄った。
「あー、こんな風で部活とか大変そうだな…」
「大変な方が部活っぽいけどね」
「…私もあんな感じの青春、送ってみたいんですけどね」
「青春なぁ…」
「そもそも青春…って何なのかなぁ、分からないね」
「確かにな」
「私もいまいち分からないですわね…」
多分そうやって青春って何だろう…ってなるのが青春です。つまり今この事に興味を持っていない俺とお菓子食いまくってる冬花ちゃんは青春していないということになる。
ていうかそもそも青春って動詞なの?
「まぁ、俺からしたらこんな風に平穏に学園生活を送れたんならそれで良いけどな!」
「平穏…ねぇ…」
新崎のこの周りが常に女の子だらけの生活が平穏なら、俺のこれまで生きてきたのは一体何なんだ。
虚無とか空白とかそういう事になってしまう。
「テストが終わってもしばらくは学校行事ないからなぁ、平穏どころか暇になっちゃうね」
「ほとんどが夏とか秋だしな」
「夏の終わりぐらいに体育祭、秋になれば文化祭と…二年生は修学旅行もありますわね」
「どうして夏に体育祭をやらなきゃいけないんだ…嫌だなぁ」
「灯は夏が嫌いなのか?それとも体育祭か?」
「どっちも大っ嫌い」
暑いし、虫増えるし、人も煩くなるし。うっかり夏休み中に図書館に行こうものなら図書館の使い方を知らないやつがキャイキャイしてて、本なんてまともに読めやしない。
司書さんもそういう系統の輩が苦手だったのか、注意できなくて見ててとても辛かった。
六法全書か広辞苑使ってそんなやつらに、天誅でも喰らわせてやろうかと目論んでいた時期もある。
法を使って法を犯す。
かなり違うハムラビ法典的な感じ。
体育祭だって運動ができない俺からしたら晒し上げの場にしか見えない。
そこで最下位とか取ったら同学年から白い目で見られるし、戻ってきたときにも俺だけハイタッチとかされないし。
運動できるやつは是非とも人間に個体差があることを知ってほしいものである。
そんなこんなで歴代通して夏にいい思い出を作った記憶なんて一つもない。
ドキッ!トラウマだらけのサマータイム!(心が)ボキリもあるよ!である。
と、過去に耽っていると
、小さな声が耳に入ってきた。
「夏は嫌いなんですのね…」
その声に目を向ければ、城戸さんがしょんぼりと悲しそうにしていた。
「季節の方ですからね?」
「えぇ…分かっています…
ですが夏が嫌いと言われるとどうしても思うところがありますのよ…」
「あーあ、灯が女の子泣かせたー」
「泣かせてねぇし。後、それお前が言うな。殴りたくなる」
「何でだよ!?」
「私も灯くんに賛成かなぁ…」
「ですよねぇ」
「ねー」
「秋葉もどうしてだ!?」
笠木さんと二人で首を小さくかしげて顔を見合わせる。
昔からの苦労人は大変そうだ。
「まぁ何、イベント事が夏秋メインといっても内容は他校より凝ってるし楽しいかもですよ」
「去年の文化祭、すっごい色んな芸能人呼んでたよね。驚いちゃったよ」
「と、いっても別にOBとかそういうわけじゃなかったけどな。うちの学校別にそんな長い歴史無いし」
「学校での思い出が一つもないのに呼ばれたその人達が可哀想ですわね…」
「…あぁ…」
…確かに思い返してみれば、全然学校と関係ない話ばかりしていたような気もする。
目玉焼き作ろうとしたら、間違ってオムレツになっちゃったんですよ!
とかそんなん話してた。
どこで間違えるんだよ。
他のも大抵が当たり障りのない話だったのを、ちゃんと覚えてしまっている。
「他にはあれだな、演劇部と本物の劇団がコラボしてたり」
「あぁ、それなら見たぞ。どっちの演技も中々上手かった」
「演劇部、かなり練習したみたいだったしね」
「劇団側も本職としての意地があるでしょうから下手な演技は出来ませんでしょうね」
その舞台は記憶では確か、謎解きものだったような覚えがある。
何やら小説として出ていたものを使って、演技も実際の監督から指導まで受けていたとか。
個人的な意見で言うと、謎解きものやサスペンス系の物語で一番面白いところは犯人の自白シーンではなく、謎を解くシーンだと思う。
だから、舞台を見てたときに隣の奴が、犯人と密室のトリックを得意げに彼女さんに話してたときはホントバカだと思った。
面白さ激減である。
そんな感じの謎解き本読む俺カッケー!とか思ってる奴は今後控えた方がいい。
ラノベに至ってはバレそうになったら窓から捨てる覚悟。
「…そういや陽斗は文化祭で何か出たんだろ?」
「あぁ、そんなこと言ったな」
「私と一緒に皆の前でカップルになったよねっ!」
「!?」
「…!?違うから夏!そんな殺意のこもった目で見ないでくれ!」
「じゃあどういうことですか、説明してくださいまし!」
「まぁ…何だ。色々あったんだよ…」
「何ですのそれぇ…」
…このもどかしい言い方からして大方、新崎の過去に通じる何かがあるんだろう。
その証拠に笠木さんも何か不味い事を話してしまったという表情をしている。
「…ゴールデンウィークを楽しみにしててくださいまし…」
新崎を見つめて城戸さんはぼそりと呟いた。
これは…新崎くん休日出勤確定ですね…。
多分ゴールデンウィーク中にあちら側の視点で、何かしらイベントが起こることだろう。
俺がそこに巻き込まれないことを切に願いながら、9割ほど食べ進められていたお菓子の山だったものからクッキーを一枚取り食べる。
「ほら、そんなことよりさ、体育祭とか、何か良い思い出とかないか?」
「無い」
「…私も今年からで、この学校での思い出は無いですわ。それに…私運動はあんまり…」
さっきも言ったが勿論良い思い出何てない。
嫌いなものになるとどうしても、悲観的な捉え方しか出来なくなってしまう。
そんな運動できない組の報告を聞いて、新崎も少々戸惑ってしまっている。
「あぁ…その…何だ、ほらあれだ」
フォローしようとしてくれているのか、ちぐはぐな言葉を言い続けていると、そんな主人公見ていられないと言わんばかりに時計の近くにあるスピーカーから部活終了の合図のチャイムが鳴った。
全員の視線がそのスピーカー辺りに向かい、1ループの短い曲をしっかりと最後まで聞き終わると、笠木さんが喋りだした。
「そろそろ終わりだねっ」
「ですわね、鍵はこちらで返しておきますから…あ、冬花も一緒に」
「ん…」
小さく頷く冬花ちゃんに心を癒されながらテキパキと片付けを進めていく。
フォローが出来ずに落ち込んでいるのか、肩を落としている新崎に近づいて代わりに俺が新崎をフォローしてあげることにする。
「まぁ、別に俺は慰めて欲しくて言った訳じゃないし、あんま気にしないでくれ」
「……そうか」
「そう。ほれさっさと立て、扉閉められないだろ」
「…何か悪かったな」
「ん?」
「いやぁ、せっかくこの部活に誘ったのにさ、あんまし楽しめるような事出来ないで」
鞄を肩にかけ、立ち上がる新崎の表情はちょっと気まずそうだった。
「別に…俺はこういう緩い部活とか大好きだぞ」
緩いのとか優しいのとか生ぬるいのとか、そういう自分を甘やかすのほんと大好き。
「そっか……ありがとな!」
「ほれ、じゃあ行くぞ」
「おう!」
…それに、新崎が主人公な以上、何があっても面白いことは起こる。
色々な事に巻き込まれ、成長して、ハッピーエンドを迎える。
だから…
やっぱり…
俺が矢波先輩と出掛けるのはおかしいと思うんです。




