四十二話目
四十二話目です。
誤字・脱字があったら申し訳ありません
矢波先輩と別れ、部室へとまた向かう。
自分の右手にはスマホがあり、その中身には一つ、連絡先が追加されている。
そのことに少しニヤけそうになりながら進めていた歩みを早める。
今ある連絡先のほとんどが女子とかこれもう俺やばいんじゃないの。
多分端から見れば出会い系に掴まされた人か何かにしか思われないだろうけど。
素直に受け止めれない感情を適当に捨ててスマホをスリープさせようとすると、メールが一通入ってきた。
昔だったら広告ぐらいしか来なかったのでスルーしていたのだが、今は違う。
めんどくさくて本文を読んでないその広告メールのせいでカンストしかけのメールボックスを開くと、珍しく笠木さんからのメールが来ていた。
そのことに驚きながら、
それを開くと、『助けて』
その三文字しか書かれておらず、殺人事件的な事に巻き込まれたのではと思わせる。
珍しく推理ものの本を持ってきたからこうなったのかと、急いで部室へと向かい扉を開けると、涙目の笠木さんが冬花ちゃんに何とか話を振っていた。
どんなに答えやすく、分かりやすい質問でも冬花ちゃんが口を開くことはなく、ただ窓の外をみつめているだけだった。
神に助けを請う罪人みたいな状態。
「あの…」
「あっ!灯くん!」
こちらが声を出すと、嬉しそうに小走りで向かってくる。
少し短めなスカートが揺れるが、その下は見えなかったのでドキドキしただけで終わった。
おかしい…普通なら突然の突風とかあるはずなのに…。
「あのメールって…」
「いや…冬花ちゃんに話しかけたんだけど何も返してくれなくて…で、ずっと一方的に話しかけてたらドンドン気まずくなって…」
「……………」
無言を貫いている冬花ちゃんは、外で準備をしている他の部活の生徒を見ているだけで部屋に目線を動かすことはない。
「あんまり喋らない子ですし、冬花ちゃんは」
「うん…そうなんだけどさ、
折角の部活なんだし」
とりあえずのフォローとして保護者みたいなことを言ってみる。
笠木さん自体が自分から話しかけるタイプの人だということは知っている。
今こうして気軽に会話が出来ているのがその証拠としてある。
だが、冬花ちゃんは違う。
自分の意見を言いたいときにしか口を開くことはない。
そこいらの奴みたくとりあえず会話を始めようとするタイプではない。
俺だったら話しかけてもらうのが嬉しくて、勢いよく話しすぎてそのまま嫌われることとかもあった。
「自分が何とかしろってことですか…?」
冬花ちゃんと話したいが為に呼ばれて俺とは話したくないとそういうことですか。
「ううん、そういうことじゃなくてね、早く灯くんに会いたかったから、かな?」
「…そ、そうですか」
恥ずかしいことを言われ少し照れる。
…こういううっかり恋に落ちそうな発言を気軽にできるのも、多分新崎のせいなんだろう。
彼が鈍感過ぎるがゆえ、そして純粋に好意を向けられてもそれを好意と分かっていなから。
彼に伝えようとする為に分かりやすく、そして単純になっていったその影響で周りにもこうも簡単に素直に思いが伝えられるのだ。
長い間それをしてきた笠木さんはもう目も当てられない。
どっかの優しくされた男子生徒から今頃女神とかそんな感じで祭り上げられていることだろう。
恩恵があるなら是非とも受けてみたい。
「でも…俺もあんまりですよ」
昼のあれもあり、無口からシャイになった俺はもう止められない。
ていうか進んですらないから止めようがない。
「それでも大丈夫だよ、また一人にならないだけでも安心できるから」
「まぁ、そうですか」
「うん!ほらっ、お菓子も準備してきたから食べよっ?」
席へと戻っていく笠木さんを追いかけるように付いていく。
椅子に座ると、机の上に綺麗にラッピングされた袋が置かれた。
そしてその袋のリボンがほどかれると、甘い匂いが部室に広がる。
すると、外を見ていた冬花ちゃんがちらりと机に目線を動かす。
「あ、冬花ちゃんも食べる?」
「ん…」
こくりと頷き、笠木さんの手にあるクッキーに見入る。
笠木さんが冬花ちゃんの口にクッキーを持っていくとぱくりと食べ、幸せそうな表情をした。
その事を確認して鞄から本を取りだし、本を読み始める。
ゆったりと流れている空気が本に集中をさせてくれる。
ページをめくり、ふと目線を机に動かせばクッキーやらチョコやらが入ったカゴが置かれていて、笠木さんが優しく微笑んでくれる。
それに一言お礼を言って、クッキーを食べ、また目線を戻す。
やっぱり自分は静かな空間の方がしっくり来る節がある。
今までの静かとかなり違うところもあるが本に集中すればそれさえも無くなる。
物語のなかに逃避するのが一番安心してしまう。
笠木と冬花ちゃんの会話に最低限の相づちをうち、本をペラペラ読み進めていると扉を開ける音がする。
「あ、陽斗と…夏…どうしたの?テンション低いけど」
「いえ…別に」
「あー、風紀委員にとやかく言われちゃってな」
気になる話なので、本にしおりを挟み顔を向ける。
確かにいつもより城戸さんの表情は優れていない。
にしても風紀委員…。
「…あぁ」
「どうした灯?急に」
「いや何でもない」
風紀委員と言われすぐに納得をする。
こういう何故か関わってくる風紀関係の人は、大抵一応のヒロインだったりすることがある。
良かったね新崎、と心の中でお祝いをして、また本を開く。
読み進めている物語は新たに人が死ぬ。
青春ラノベと違ってすごく物騒。
「ただ先生に書いたものをお渡しして終わりかと思ったら…途中から割り込んできたのですわよ?」
「しかも妙に俺に対してだけ当たりが強かったしな…」
「初対面なのっ?」
「あぁ、ん?でも何か…会ったような…?」
…それは多分会ったようなではなく本当に会ったのであろう。
その風紀委員が可哀想…でも多分俺の方が扱いとしてはもっと可哀想。
「へぇ…陽斗はまだ他の女性との交流があるのですね…」
「……ねぇ陽斗一応聞きたいんだけど…一応ね?どんな子だったのかな?」
耳に入ってくる声が冷ややかなものになり、怖くなったので席の上で少し縮こまる。
「…何でこっちに近寄って来るんだ!クールな子だよ!普通の!」
「えぇ、可愛らしい子でしたわよね?」
「いや、どっちかって言うと一年生なのにかなり綺麗な感じだったかな…おい何で俺の腕を掴むんだ、痛い!痛いんだけど!」
腕を引っ張られ色々言われながら新崎は机を挟んで俺の目の前の席に座らせされる。
そしてその運んだ二人も、椅子を持ってきて裁判のように
俺の斜め前辺りに運んできた椅子を置くと、こちらを見てくる。
一体何が始まるんです?
「裁判官っ!」
「えっ何俺?」
「この被告人に真っ当な罰を与えてくださいまし!」
「ええ…」
新崎女の子綺麗だと思った裁判は、俺が裁判官という役目をもらい唐突に始まった。
そして被告人へとビシッと検察と検察から求刑を求められた。
傍聴席には冬花ちゃんがジーっとお菓子を食べながら見てくれている。
…弁護士が誰もいない辺りブラックな香りがする。
「では…えぇ、まぁ裁判を始めます…?」
「い、意義ありだ、灯!」
新崎は直ぐに勢いよく手を上げた。
何でこいつこの状況にすぐに対応できてんの。
「被告人…どーぞ」
「お、俺だって人を見て可愛いとか綺麗だとか思うぐらいの人権はあるぞ!」
「でしたら私達のことをどう思っているのか説明してくださいまし!」
「うんうんっ!」
城戸さんの発言の続くようにこくこくと笠木さんも頷く。
被告人頑張ってー。
罪を確実に与えるということを念頭に置いて話を進める。
「ですとよ被告人、言ってみれば?」
「…嫌でも、恥ずかしいし」
「お前は乙女か」
どうせなに言ったって好感度は上がるんだから、躊躇う必要もないだろうに。
「言ってよ陽斗っ!」
「言ってくださいまし陽斗!」
城戸さんと笠木さんに迫られ、新崎は椅子を少し後ろに下げようとする。
だが傍聴席にいた冬花ちゃんが、席を立ってその後退を止め、私も、と言わんばかりに顔を寄せる。
あの新崎の場所絶対いい匂いしそう。
すると新崎は覚悟を決めたのか口を開いた。
「…秋葉はまぁ、昔から一緒にいて安心できるし、その…ほらこれからも出来るだけ仲良くしてくれればとは思ってる…」
「…!う、うんっ!これからもずっとだよっ!」
頬を染め笠木さんは新崎の手を掴んで優しく微笑む。
「すげぇ恥ずかしいんだけど…これ止めちゃ駄目か?」
「もちろん駄目ですわよ!
ほら私にも!」
「はぁ…夏は一緒にいて楽しいし、この部活を作ってくれたことにも感謝してる、だから秋葉と同じでこれからも仲良くしてくれれば…って抱きついてこないでくれ!」
「陽斗…これからも仲良くいや、それ以上に絶対なってみせますわ!」
城戸さんは腕に抱きついて、にっこりと太陽のような笑みをする。
「………」
自分は、と言いたいのか冬花ちゃんは新崎の頬をプニプニといじりだした。
おのれぇ!
「冬花は、最初は俺が一方的に話しかけてるだけだったから迷惑かなとも思ったけどよーく見てみると色々表情があって、可愛くて、だからこれからも仲良くしていたい」
「うん…」
こくりと冬花ちゃんは頷くと、顔を赤らめたまま席へと戻っていった。
…もしこれが、俺が言わせた物ではなく、自発的に言い出していたのなら、この本を新崎にぶん投げていたところだった。それはもう高校の甲子園で取り上げられるぐらいの速さで。
「こ、これでいいか…?」
「俺に聞くなよ…まぁでも、満足はしてるみたいだしいいんじゃないか?」
あくまでこれですべきことは新崎に刑を与えることだったが、当人たちがそれを求めないんなら特に何かする必要もないだろう。
ていうか、この甘ったるい空気のせいで完全に忘れられてる人がいる。この発端となった風紀委員を。
…だが、こちらからその事に触れてしまうのはよくない。
基本的に、ていうか多分ほとんどがこういういまいち思い出せない登場の仕方の場合は、何かしらそれを思い出すきっかけが必要。
最初に出会ったときと同じ場面に遭遇する、やら、ふとした瞬間に急に思い出すなどだ。
そしてその思い出す過程としてうちの部活にその風紀委員が乗り込んできた時とかに「少し前に
お前が話した風紀委員だろ」
的な台詞を俺は言わなければならない。
だから、俺だけはすっかりとこの場から消えた風紀委員を忘れない。
いつだって味方だよ!風紀委員!
だけど前にもいったが俺の体調少しでも悪くなったりしたら学校行かない、という性格のせいで、風紀委員会に目をつけられてるらしいけどね!
「…ま、まぁ!今回はこれで許して差し上げますわ!」
「う、うんっ!だね!今回は許してあげるから!」
「…ふふ」
妙に小物キャラっぽい事を言って二人はまた席につく、冬花ちゃんもお菓子を食べながら優しく微笑んだ。
「…ま、じゃあこれで、お仕舞いですかね」
終わりを告げる俺の声を聞いて、皆各々に日常部の活動を始める。
こうしてこの部活はゆるりと活動を開始した。




