四十一話目
四十一話目です
誤字・脱字があったら申し訳ありません
三日間の合宿が終わって、
具体的な部活内容が無いということが決まり、本格的に迷走することとなった部活が始まる今日この日。
空には太陽が輝いているが、
強く吹き付ける風で運ばれてくる雲によって暗かったり明るかったりしていて快晴とは言えない。
スカートがこの風で役割を果たさないことを祈りながらのそのそと登校をしていると、見知った顔を校門で見かけた。
確か名前は山上…
ん?違うな山下だ。…あれ?
誰だっけかなと眉間にシワを寄せてそいつを見ていると、目線が会う。
すると、彼は勢いよくこちらに走ってきた。
「あ!ちょっと仁田先輩!何だったんですかあれ!」
こちらに来るやいなや凄い剣幕で言われ、少々引く。
「いや、つかお前だ…」
「説明してくださいっすよ!」
誰…すら言わせてくれないので君は今日から説明してくださいっすよという名前で。
その説明してくださいっすよ
は「こっち来てくださいっす!」と大声で言うと俺の腕を急に掴み、引っ張り始める。
周りからの視線を集めてあまりいい気分ではないが、まぁまぁ早く来たこともあり、さほどの数じゃなかったのは幸いだろうか。
そしてそのまま引っ張られていると、使われてない部屋まで輸送され掴まれていた腕が離される。
説明してくださいっすよを見つめ自分から話しかける。
「ねぇ、お前ほんと誰」
一年ということ以外知らない説明してくださいっすよは、
はぁ…とため息をつく。
それにしても長ぇなこの名前。
「前に会ったじゃないっすか!山中っすよ!山中!」
「あぁ…」
山中…新崎と一緒にファッションショーの下見をしに行ったときの記憶がぽつぽつと浮かぶ。
「嘘ついてバイトしてたやつか」
「あの…そのことは内緒にしといてください…」
説明してくださいっすよ、ver.山中は頭を下げる。
「何?それ聞きに来たのか」
口止めでもしに来たのだろうかと目線を送ると、首を横に振った。
「じゃなくて、あれっすよ!あれ!ファッションショー!」
「…何だ、お前には出る資格ないだろとかそういうことか」
「いや、そうじゃなくて…桜丘先輩っすよ!なんで一緒だったんすか!」
こいつ…新崎とどことなく似た雰囲気を感じる。
伝えづらいが何かこう周りとは違う明らかな物を持っている気がする。
「あれは…あれだよ、他の先輩に誘われて…んで一緒に、ていうか何でそんなこと聞く」
そう言われて説明ver.山中は
少し頬を赤くする。
「えっと、それはっすねぇ」
歯切れの悪そうな言葉を並べる。
…あぁ、そう。
「…その恋は諦めた方がいいぞ」
「ちょっと?!」
大方予想では桜丘先輩が好きとかそういうことを言い出すのだろう。
だが、新崎という概念が存在している以上、どうあがいてもそれは失敗の道に進む。
ならば先輩らしくこのver.山中の恋をへし折ってやるのが優しい先輩のはずだ。
「あのな、世の中にはどう頑張っても無理なものってのがあるんだ、んでお前の場合がそれ、残されてる選択肢は諦めるか、無惨に散るか、その二つしかないんだよ」
「酷いっすよ!俺の桜丘先輩の愛!なめないでほしいっす!」
「うっせーよ…むきになって愛とかそういうこと言い出すのは一番駄目なんだよ、現実見ろ」
ver.山中はうっかり桜丘先輩の名前をだして慌てたような表情をしたがこちらが変わらないことを確認すると、また元の表情に戻る。
その年でいっちょ前に愛とかそういうことを分かった感じで言うのは大抵理解していないやつ。
一方的に言うのが愛というのなら俺と冬花ちゃんは今頃結ばれてないとおかしいだろ!
…でもこっちにも新崎あてはまんだよなぁ。
「はぁ…まぁ、聞きたかったことはそれだけだったんで」
「おうそうか、じゃその愛…フッ、頑張れよ」
「笑うなんて最低っすね…」
「無理なものは無理だからな」
あの人の場合こういういちいち大声を出したりオーバーなリアクションをする人を好みそうな気配はまるでしない。
静かに、そして大人しい人と仲良くなりそうな気配がある。
あくまでイメージではあるが。
「ねぇ、先輩、最後にいいっすか?」
「何だよ…」
迷いのない瞳でこちらを
見てくる、その視線に耐えきれず、少し目線を反らしてしまった。
「やっぱいいっす、この話はもう少ししてからで」
「ふーん…」
「質問に答えてくれてありがとうっした!先輩!」
「…なぁ、もしかしてお前桜丘先輩がいるからストーカーしてファッショショーのバイトしてたとかじゃ…」
「そんなわけないっすよ!偶然っす!あの時見たときは本当に驚いたんすから」
「ふーん、それならいいや」
好きなあまりに奇行に走るとかそういうことじゃなくて良かった。
大抵そんなことするやつは嫌われるのがオチだ。
なぁ、俺?
「それじゃ、失礼します!」
頭を下げ、こちらにそう言って彼はそそくさとこの部屋から出ていった。
ふと、外を見る、校門にはかなりの数の生徒が投稿していて窓越しにも声が聞こえる。
…山中、ねぇ。
4限が終わり、昼飯を食べるために城戸さんと新崎とで部室へ向かい扉を開けると、そこにはもう秋葉さんが来ていた。
そこに軽く挨拶をして、窓際の席に座り、弁当を取り出す。
ここの部員皆が弁当持参なので、端から見たら女の子のお昼みたいな感じが今の状態である。
その事に軽く笑いそうになりながらも弁当をモシャモシャ食べていると、ふと山中の事が脳裏をよぎった。
彼は一体どういう経緯で、桜丘先輩を好きになったのだろうか。
男子が女子のことを好きになるのは大体優しくされたり、よく話しかけられるようになるのが大体の理由。
つまりは勘違いから始まる。
だがそういうのはそれこそ秋葉さんやらの優しい活発なタイプの女子がすることで、
桜丘先輩がするような事では無いような気もする。
それに最後の去り際で山中は何か言おうとしていた。
色々と分からないものがあるなか、やはりはっきりと無理なことは分かる。
…どうしようか。
「…うーむ」
「灯くんどうしたのっ?」
「何か考えごとか?」
…あ、そうじゃん。
新崎頼ればいいんじゃん。
新崎は何てったって主人公。分からない謎があるならば彼をたより、面白そうな話があれば彼に話す。
それが一番いい選択肢のはずだ。
いやでも、そんな人の恋愛を気軽に話していいものだろうか。
…ま、別にいいか、あいつ俺に最初会ったとき雑な扱いしてたし、こっちも雑な扱いでも問題はないだろう。
「まぁ…いやその何」
「はっきり言ってみたらどうですの?」
「どんな話でも俺はちゃんと聞くからな!」
計画通り…こういう紛らわしくて面倒くさい言い方をすることによって完全にこちらに皆の目を引き付ける。
そうすることによって、この話は今の新崎達にとって重要な話となり、解決に勤しむこととなるだろう。
そして主人公が動いたのならもうそこておしまい、
どうしてそうなったか、何故俺だったのか、最後言いかけていたことは何だったのか全てが分かる。
あの冬花ちゃんですら弁当を食べることをやめ、こちらを見ている。
そのことに嬉しさを感じながら、俺はもどかしそうに口を開く。
「山中っていう一年が…いてだな」
「あぁ、前に会ったやつだな」
「まぁ、で、そいつにだな、今日の朝…あー」
素直に桜丘先輩が好きらしいと、すんなりと口に出てくれない。
「今日の朝?」
「どうされたんです?」
「…?」
「…いやその想い人がいるという」
「「想い人!?」」
城戸さんと笠木さんはガタッと椅子から立ち上がり、体を前に出す。
そのまま倒れていった椅子がとても可哀想。
「…何でお前にそんなこと言ったんだ?」
「いやそれが分からないんだよ、桜丘…あぁ…まぁうん」
「…山中の好きなやつは春先輩なのか」
うっかり名前を漏らしちゃった、テヘッ!
でも俺関係ないし知ったこっちゃないや。
そしてまた、女子二人がキャーキャーと盛り上がる。
冬花ちゃんは興味が無くなったのか、こちらのお弁当の最後に残された卵焼きを見つめている。
その卵焼きを箸で掴んで、冬花ちゃんに運んでいくとぱくっと食べる。
やったぁぁぁ!!
狂喜乱舞しそうな感情を抑え、話を続ける。
「もう全部言うよ…前に出たファッショショー、あれで俺と桜丘先輩一緒だったろ?
あれで関係云々聞かれたんだよ」
この箸を家宝にしようと決め、片付けをしてまた新崎たちに向き直る。
「で、結局それだけでしたの?」
「えぇ、何か話したいことあったみたいですけど、途中でやっぱいいや、と」
「どうする?調べてみる?」
秋葉さんがこちらを見据え、ウキウキの声で話しかけてくる。
待ってました!と、お願いしようと口を開こうとすると、横から声が上がる。
「いや、でも人の恋路だし邪魔するのはどうだろ、それに頼られたのは灯だろ?
つまりはお前に聞いてほしい事だってことじゃないのか?」
「まぁ、それもそうですわね」
…この流れ、昨日の部活の方針を決める話し合いの流れに似ている。
このままいくとこれは…。
「…それもそうだよね、私だったらそういうことで勝手に他で調べられたりはしたくないし…」
「で、ですよねぇ…」
じゃあ、ということでこの話は打ちきりとなり、皆片付けを始める。
何?俺?俺が言い出しっぺだから駄目なの?
と、表情に出すことは無いが、内心不安を抱く。
「あ、そうだ、そう言えばそろそろゴールデンウィークだけど、休日の部活ってどうすんだ」
自分が嫌になっている俺の気持ちなど分かるはずもなく、新崎たちは淡々と話を進めていく。
ゴールデンウィーク…もうそんな時期か…だが学生のゴールデンウィーク、ましてや後ろにはテストも控えていることから、浮かれている一年か余裕のあるやつぐらいしか遊びを目的として外へ出掛けることは少ないんじゃないだろうか。
去年も暇で近くに買い物に行ったときも、いつもよりも学生が少なかったはずだ。
どうも浮かれてた一年でーす。
はぁ…
主人公に否定されるとまるでこの世界全体から否定されているような錯覚がする。
もう自分から話なんて振ってやらねぇ…。
そう卑屈になりながらこの昼は終わった。
幸いにも休日に部活はない、それだけははっきりと覚えていた。
そして放課後、新崎と城戸さんから顧問も保護者もいない状態で合宿をしたことで、色々と書かなければいけない書類があるんだと言われ、一人寂しく少し遠くにある部室へと向かう。
始めての日常部最初の活動、それは書類による報告という仕事じみた物から始まることとなった。
つまり仕事は日常ということである。
その事に嫌気を感じながら、
部活へ向かうやけにワイワイとした一団や、ワイワイとしながらスマホで電話をしている学生、そして、ワイワイしながらこの後どこで遊ぼうかと話している奴らをするりと通り抜けていく。
常にワイワイしている彼らはもうちょっとした童謡の歌詞の域であり、南の島のお猿さんでも将来は目指しているのだろうか。
これに比べると新崎たちのワイワイ度が優しく感じられてしまうぐらいに、ワイワイしていてこのまま行くと新崎の良さに気づいてしまいそう。
そんな感じで適当に考え事をしながら、進んでいると、これまた朝同様に見知った顔に出会う。
そして同じように目線がピッタリと合ってしまう。
「矢波先輩…」
「おぉ!仁田くん!会いたかったよ~」
嬉しそうな声でこちらへトテトテと走ってくる矢波先輩を前に、こちらは少し後ろに下がる。
「…何で下がるのさ」
走るのを止め、こちらに疑問の目を向けてくる。
「それより先輩、可愛らしいあだ名は何処へ消えたんです?」
自分的には超完璧な話題そらしを発動して、また一歩後ずさる。
それを見て矢波先輩もまた一歩前へ進む。
ポケモン的に考えたらこの距離を詰められた瞬間バトルである。
最も逃げる理由は別にあるのだが。
「別に呼んでほしいならそうするけど…それよりどうしてまた下がるんだい?」
「にーにゃん呼びは結構です。あと下がるのは先輩がこっちに来るからでしょ?」
「大好きな後輩に飛び付きに行くのはそんなに間違いなの?」
「その大好きは多分後輩とか親しみやすいとかそういうことじゃなくて面倒ごとに巻き込みやすいとかそういう好きですよね」
距離にして大体4m。
周りに人はおらず、ただただ静かに空気が流れるだけ。
だから話した言葉はそのまま何にも邪魔はされることなく、そのまま耳に入ってくる。
「君、もし僕がまた全力で走り出して君を捕まえようとしたらどうするの?」
「こちらも全力で下がります」
「何でよ…」
また、一歩先輩は前へ進み、こちらも一歩後ろへ下がる。
もう数歩も下がったら階段を下りる心構えをしなければいけない。
この人に捕まったら最後、
多分前のような面倒ごとに巻き込まれてしまう。
ただの背景辺りでこの学園生活を終わらせようと目論んでいる俺には、それは避けねばならないことである。
「話があるならこの距離感でもお願いします」
そう言いまた、後ろに一歩下がる。
「ただ君と普通に話をしたいだけなんだけど、駄目かな?」
怖くないよーと動物をなだめるがごとく声を和らげてくる。
……多分矢波先輩は嘘ついてないんだろうけど、やめ時を失ってしまった俺にはどうすることもできない。
俺ってめんどくせぇな。
「俺に話したいことなんてありますか?」
「うん、デートのお誘い」
「ごめんなさい」
予想通りの面倒ごとだったので頭を下げて丁寧に謝る。
すると、走ってくる足音が聞こえた。
しまった!
「ふふーん、捕まえたぁ~」
急いで顔をあげるが嬉しそうな矢波先輩に正面から強く抱きしめられる。
捕まえられた瞬間胸が当たってる…的なことを感じられるかと思ったが残念、そんなことはなくただ体温が伝わってくるだけでした。
だから同様なんてしない、
こういうのよりもっと破廉恥な展開はラノベで読んだから!
と、心の高鳴りをを抑えようと頑張るが全然止まることはなく、むしろ意識してしまうせいでより酷いことになる。
止めて!これ以上したら死んじゃう!
「あの…離れてくれません…」
「や~だ、また逃げられたりしたら困るもん」
「いや、でもほら、あれですよ?離れないとあれですよ?」
焦っているせいでろくな言葉が出てこない。
こんなときは冬花ちゃんを数えるんだ…一人…二人…
…駄目だ、この温もりが冬花ちゃんの物だと思ってもっとヤバイ…
「…仁田くん顔真っ赤だけど」
「思春期男子にそういうことはお控えください…逃げないんで」
捻り出した言葉は矢波先輩を離すのには効果的だったようどすんなりと離れる。
だけども信頼はされていないのか、今度は手を繋がれる。
「あの?ちょっと?」
「一応の保険、デートの返事を聞くまで離さないから」
「あれ本気だったんですか…」
不意にそらした目線の先にある外では強く風が吹いていて、窓を強く叩きつけていた。
子供は風の子って言うけど、その親全然助けてくんねぇじゃねぇーか!
「うん、で、どうなの?嫌かな?」
「…いや、ごめんなさいって言いましたけど」
「ん?」
「ごめんなさい」
軽くまた頭を下げる。
「ん?」
「え?」
「…………」
そして沈黙。
何故だろうか、分かりましたと言わない限り、この沈黙はいつまでも続いていく気がする。
と、普通なら諦めて素直にオッケーを出すのが主人公であろう。
だが俺は違う。
近くに奴がいるせいで、俺が悲しい存在だということには勿論ながら気づいている。
それはつまり、この状態からも抜け出す方法はちゃんと
あるわけで。
そしてその言い訳を生み出すために必要なのは新崎との約束。
主人公との出来事ならお昼にも似たようなことを言ったが、周りはどうすることもできない。
勝ったな…
「いや、ほら俺こっからしばらくテスト勉強しないとなんですよ、放課後も新崎達と部活ありますし、休日は新崎に色々と勉強教えてもらう予定もありますし」
別にその予定が土曜も日曜も、というわけではないが前に勉強会的なのを開くという予定は取り付けておいたのは確かだし、その部分について具体的にさえ言わなければ特に疑われることはないだろう。
ありがとう…テスト!
お礼の意味を込めて、いつも通りに嫌ってやることとしよう。
徐々に下がり始めている体温に安堵する。
「…そっか…それじゃあ今週の土曜日辺りに…」
「話聞いてます?」
「それとも明後日とかにするかな?ほらゴールデンウィークだし」
確かに今日と、明日、学校に行けば五日連続で休みとなる。先程の話でそれは聞いていた。
…朝のクラス内が妙に賑やかでうるさかったり、先程の学生のワイワイさはそういうことだったのか。
いやでもどうだろうな、ああいうのは常にうるさくしてる気がする。
「いや、そのほらゴールデンウィークは用事がたくさんで」
「…もしかして仁田くんの部活は祝日もかな?」
「…いや別に、あ、違います、むっちゃあります、毎日ですって」
「ふーん、じゃ、今週の木曜日に映画観に行こっか、いやぁ、楽しみだなぁ」
こちらの話など一言も聞く気がなく、窓を開けそこから顔を出し外を見始める。
強い風が室内に入ってくる。
身長が足りずに、足を必死に伸ばしてそうしているのはとても辛そうだ。
多分、この感じはもう決定事項ということで、俺が何しようとどうこうできる問題じゃない。
何事も諦めが肝心。
その言葉が俺を後押しする。
「分かりましたよ先輩」
「うん、よろしい後輩くん」
足を伸ばすのをやめ、こちらを見てにっこりと笑う先輩は、やっぱり分からない人だ。
でも、一緒にいても悪くはない。




