悩み
三十六話目
誤字・脱字があったら申し訳ありません。
「………」
「タキシード似合ってるぞ、灯!」
「…………」
「…えっとだな…その…なんだ…」
「……………」
「無言で睨んでくるのやめてくれ!俺も被害者なんだよ!」
「…はぁ」
新崎を睨むのをやめ前を向く。
今俺がいるのは観客席…のはずだった、だけども目の前には観客席からは知ることはできないであろうスタッフさんのガヤガヤした声や慌ただしく運ばれていく機材などが見えている。
「………………」
ちなみにこの服装、タキシードは先程新崎が邪魔をしてくれたりスタッフさんの華麗なるディフェンスによって早々と着替えさせられてしまったものである。
そして女子達の着替えが終わるまでそのスタッフさんにここで待ってくれてと言われて今、俺たちは廊下でこうしてチキン売ってる店のあの人みたく何をするでもなくただただ立っている。
「…………………」
まぁ?ここに無理矢理連れてかれるときにもしかしたら冬花ちゃんのドレス姿がいち早く見れるかもしれないとか、ちょっとワクワクしてたけど?
何か、年齢制限あったみたいでドレスにはならないとかで?ステージにも立たないらしくて?
「はぁ…」
「また…ため息…灯、お前ここに来てからため息しかしてないぞ」
「そりゃ、嫌だからなぁ…普通ため息ぐらいは吐くだろ…ましてやお前…これ…」
自分が着ているタキシードを見る。…案外似合ってる?
「…灯、一応言わせてもらうんだが…嫌々やらされるの、俺
はほぼ毎日だぞ…」
こういう場合毎日だからこそ慣れて良いような気もするのだが。
その証拠に新崎は落ち込んでいたりはせずにいつも通り、表情豊かに話しかけてくれている。
「その割には表情豊かだな」
その事を指摘してみることにする。
「…まぁ、こういうステージに立ったりするのは去年の文化祭でやったからなぁ」
「あー、そういやそんなんあったな」
去年の文化祭…見に行きはしなかったがここみたく何かしらステージに立つイベントが行われたというのは聞いたことがあるような気がする。
…確かうちの文化祭はこういういかにも学生が喜びそうなイベントが多かったはず、それ目当てで入学してくる人も多いとかなんとか。
俺がここを目指した理由はただ近かっただけだからなんだけど。
「…?あ、あれ…矢波先輩じゃないか?」
「んー?」
しばらくスマホをいじったり新崎と他愛のない会話をしてると新崎が口を開いた。
顔を上げて、廊下の先を見ると確かに矢波先輩が。
しかしこれと言って何か変わった様子もなく、最初に会ったときの服と同じである。
「あぁ、いた」
こちらが気づいて少し経つとあちら側も気づいたようで小走りで近寄ってきた。
「やぁ、にーにゃん!それに陽斗くんも」
「えぇ、どうも」
「…こんにちわ」
「…先輩…は、えっとなんでここに?」
早速気になっていたことを聞いてくれる新崎。
こういう時にズバズバ切り込んでいってくれるのは実にありがたい、俺にはそんなこと出来ないからね。
「…あぁ、いや~、なんかね?僕に合うドレス、無かったみたいで今急いで準備してくれてるみたいなんだ、ほら僕って、ナイスボディだからね、うんうん」
これは…ツッコミをいれてほしいのかはたまた本心で言っているのか…だがどちらにせよ言ったら言ったで何かしらの攻撃を喰らうということは分かる。
「多分、先輩の身長が低いから…」
「ん?」
「いや…なんでもないです」
まぁ…純粋な新崎くんだからどうなるか分からずに言うだろうなぁ、とは思っていたけど…
…まさか攻撃されないとは。
ま、だからといって調子に乗って俺もとかそういうのはダメなんだろうけど。
理由は簡単、新崎主人公。
「まぁ、だからその準備が終わるまで暇だし、君達とでも話そうかなぁ~って」
「生憎なんですけどこっちも暇です」
「えぇ…ま、いいや」
そう言って俺の隣に来て壁にもたれかかる。
俺からしっかりと先輩のつむじが見えてしまっている辺りやはり先輩の身長は低い。
このイベントを開いた人たちもここまで低い人が来るとは思っていなかったのであろう。予想外の早さでその話が回っており先程から目の前を通るスタッフさんがその話をしているのが嫌でも耳に入る。
そしてそのたびに俺が横から
軽い蹴りが入れられる。
「あの…俺無関係なんですけど…」
「ん?どうした灯?」
「さぁ~?なんの話だろうねぇ…にーにゃん」
「……はぁ」
またため息が出る。
早々に諦めてサンドバッグになったほうが色々楽なのかもしれない。
こういう女の子に蹴られる体験も昔の俺からしたら想像つかなかった訳だし。
…心の中では新崎達といることには不安や疑問もあるが楽しいと思っているところもちゃんとある。
誰かと仲良く話したり、
誰かと協力したり、
誰かと競いあったり、
そんなよくあるテンプレ青春物語を俺は嘲笑う…とまではいかないけど少し見下して見ていた。
だけども、実際関わってみたら主人公にも色々と苦悩があることがわかった。
まぁ…会ってからそんな経ってないけど…
多分ヒロイン…城戸さん達にも俺が知らない過去があるのだろう。
だから、だからこそ俺がここに居ていいのか、
ただただ生きてきて話すような過去など無い俺が居ていいのだろうか。
考えれば考えるほどど壺にはまる。
もういっそことこの考えを全部辛い過去ってことでいいんじゃないかな。間違ってはないし。
「…どうした灯?何かいつもより無表情極まってるけど」
「…?お、ほんとだ」
横から…どっちかというと下から覗いてきた矢波先輩の顔をみて我に返る。
…まぁ、ここで考えることじゃないか。
「何でもない、あれだ、喉乾いたんだよ」
そっけない返事をすると新崎は「そうか、何か買ってこようか?」と言う。
適当に断ろうとしたその時に、ハッと思い出した。
今のところとはいえ俺は
こいつの物語に少しは関わっている奴。俺の発言が以外にも物語を進めてくれるのかもしれない。
だから
「ああ、頼むわ、あれな出来れば城戸さん達が着替えてる部屋の近くの自販機で買ってきてくれ」
頼んでみることにする。
「…?まぁ…分かった…?
それじゃ行ってくるな!」
「あぁ…ってその前に」
「ん?」
鞄から財布を取りだし先程の買い物のお釣りの500円を渡す。財布を取り出すところを見た新崎は遠慮がちに
「…別に飲み物位俺が奢るから大丈夫だぞ?」
と、言う。
…こいつほんと優しいのな、
ほんと主人公やってんなこの野郎。
「買いに行って貰うのに流石に金払わんのは駄目だろ」
「あ、僕、ブドウジュースでね~」
………
「ほら受けとれ」
「いや、いいって」
「だったら買ってきても受けとらんぞ」
「むぅ…」
新崎は少し考えた後不服そうにお金を受けとる。
「あっ、ブドウジュース無かったら他の果物系でよろしくね~」
………
「ま、そういうことでよろしく」
「おう!」
そう一言残し新崎は歩いていった。
「…って夏達の部屋って何処だ?」
「知らね」
「頑張って~」
あ、教えないんですね…
新崎が人混みに紛れそれなりに経った時、矢波先輩から声がかけられた。
「…ねぇ、さっきなんで喉が乾いたなんて分かりやすい嘘ついたの?」
「……なんで分かったんですか…」
「いや、普通に気づくでしょ…まぁ、陽人くんは気づいてないだろうけど」
デスヨネー。
まぁ、純粋なあいつだけならば先程のとっさの返しで誤魔化せるであろう、ていうか誤魔化せた。
矢波先輩にもあんまり仲良くないしで特に触れてくれないと少し期待はしていた。
「まぁ…あれですよ、色々と…」
「答えないんなら僕が勝手に色々考えちゃうよ?
…うーん……!もしかして!僕と二人っきりになりたかったとかぁ?」
ニヤニヤとした表情をこちらに向けてくる。
あからさまにこちらの反応を楽しむ気である。
「………」
普通ならばここでちがいますよ!の一言でも言うのだろうが俺は違う。
何せそういう展開は飽きるほど見たからな!
どうせ言ったところで冗談だよ~の一言で流されるに決まっている。
まぁ実際かなり反論したいのだが…
ここはグッと抑えよう。
「…むぅ…無反応とは面白くない…」
やっぱり。
予想通りからかっていただけである。
今まで特に役に立っていなかった知識が活躍したからかやっぱりという感情と一緒に嬉しさも込み上げてきた。
「まぁ…特に気にしなくていいです」
「ふーん…あ、そういえば忘れてたけどタキシード似合ってるね」
「今更ですか…」
また着ているタキシードを見る。
うむ、城戸さんの執事さんが着ていたのに似ている。
やっぱり似合ってるよな…
「あぁ、ごめんね?
予想外に似合っててさ、うん、似合ってるよ」
「え、あ……は、い」
素直に誉められて言葉に詰まった。
くっそぅ…何でだよ…自惚れるのと女子から言われるの全然違うじゃん…凄く嬉しいんですけどぉ!
……うん、まぁ…うん…。
落ち着こう…
冬花ちゃんを思い出せ…
駄目だ、もっと興奮してきた。
「ん?どしたのにーにゃん?顔真っ赤だよ?」
「き、気のせいです…」
うつむいて回避しようとしたが矢波先輩は下から覗いているような状態なので特に意味がない。
「ふーん、そっか…?」
首をかしげ少し疑うような目でこちらを先輩は見てくる。
「そ、それよりも先輩そろそろドレス?戻らなくていいんでしょうか?」
話題をそらす、ちょっと変な言い方になったけど。
「あー、そういえば忘れてたなぁ…うーんでも何でここの人、僕の身長知らなかったんだろ」
「え?」
「あ、いやね、エントリー用紙にさ身長を書く項目があるから、そこでサイズとか調整してると思ってたけど…」 …この人って身長について触れると怒るくせに何故だか身長の話をしてくるんだよな…
反応するだけ損しかないという。
「まぁちょ~っと分かりずらく書いたような覚えもあるけど」
「それ自業自得じゃないですか…」
「聞いてこなかったスタッフさんが悪いっ!」
自分に罪は無いという感じで笑顔で指をピンっとする。
もう何でもいいです…
「はぁ…」
何度目か分からないため息が漏れる。なんで人と話すたびにため息しなきゃあかんのよ。
「うーん、そろそろ戻ってみようかなぁ」
スマホで時間を確認する先輩、ちらっと覗いたスマホの壁紙が矢波先輩と桜丘先輩の2ショットの辺り、二人の仲の良さが分かる。
「まぁ…あーでも新崎に…」
「…じゃあ先輩からのおごりってことで君にあげるよ」
「…こっちが奢ったんですけど…」
「…それじゃ!行ってくるね~」
……こちらの話を無視して先輩はもたれていた壁から離れ
少し歩いたところで振り返りこちらに数回手を振って
「後でね~!」
と、大声で言って廊下を曲がっていった。
「ふぅ…」
先輩が見えなくなってすぐにため息…というよりかは変に詮索されなかったことに安心したことへの息が漏れた。
…本来、ここであの人…本当に何がしたいんだろう…とかそういう一言を思ったりするのだろうが残念、そんなテンプレ、俺が進むわけがない。
今は分からない感じでもどうせなんやかんやであの人も新崎に惚れてしまうのだ。あの行動も実は俺から仲良くなってその次に本命の新崎とかそういうこと。
この立場というのは美少女と関われることはできるがそれだけ。それ以下はあってもそれ以上は滅多に無いのだ。
…なにそれ悲しい。
これ新崎と早々に縁切った
ほうが今より幸せなんじゃ…
あいつの幸せそうな笑顔が俺を不幸にしていると思うと少し恨みやらも出てきてしまう。でもあいつだって一時俺が想像できないぐらいの悲しみを背負っていたと思えば…まぁ…でも…
「………」
……考えないようにしていても考えてしまう。
それほどまでにここは面倒な場所ということである。
ましてや悩みが悩みだから周りに聞いてもは?って返されるだけだろうし。
………
本当に…
「おーい!灯~!」
矢波先輩が曲がっていった廊下と同じ所から来た新崎が俺を見つけると大声で呼んでくる。そしてその後ろには華やかなドレスを着た城戸さん達が付いてきている。
矢波先輩はもちろんいない。
…俺はそっちに行っていいんだろうか。




