第一話-2
雨が止むのを待って、ミストはブラザーズシティーからさらに北上する。
バルギアルから聞いた、魔王ドールの隠れ村へと移動中である。
港の廃倉庫郡の中を出歩くのは、実は非常に危険でもあった。何しろブラザーズシティーには、ファラーム軍の総司令であり、先代ファラーム王の実兄であるアルフレッド・ファラームがいる。この人物は尋常ならざる人物であり、戦略戦術の眼は異常な程よく見えている。以前ブラザーズシティーに潜入して、その時に気に入られたという経緯があり、目立つミストでは常に監視されている恐れさえあったのだ。
今のところそこまで暇では無いらしいので、そこまできつい監視を受けている訳ではない。しかしそれもファラームが安定していてこそであり、ミストやバルギアルはそれを乱す側である。乱れてきては、ここまで自由に動くどころか、港の廃倉庫群への出入りも出来なくなる可能性は極めて高い。
動くとすれば、バルギアルがまだ動くタイミングを図っているこの時しか無い。
もう一つの懸念があるとすれば、ファラーム最強の戦力である現女王、リリス・メイの存在である。
想像を絶すると言うものを体現するファラームの現女王は、現時点では限りなく人類最強に近い人物である。
ただ、その戦力だけであればミストも躱す事は出来るし、女王と言う立場を考えれば最強戦力であろうと人類最強であろうと、まったく問題にならない。
というのも、常識の範囲であれば、という前提条件がつくのだが、ファラームの現女王リリス・メイには通用しない。彼女は女王と言う身動きの取れない存在でありながら、単身で街に現れる謎の美女、伯爵夫人と言う仮面も持っている。
この自由に動ける伯爵夫人と言うのが、大問題なのである。
政戦両略において、ファラーム軍の総司令のアルフレッドと比べても何ら遜色のない。
実際に会ったので、ミストも分かる。かつて吸血鬼の集団がファラームを襲ってきた時、ファラームは力で跳ね除けた。その戦力を持っていると言う事を、しかもその戦力を持つ人間は神出鬼没に現れてファラームを守る戦いをする。
侵略者にとって悪夢としか言い様のない存在が、伯爵夫人という仮面なのだ。
魔王バルギアルは早くから警戒していた、ファラームで最優先で動向を警戒しなければならない人物は、女王と言う玉座に縛られる事なく自在に動く事が出来るというのが、想像を絶する脅威となっている。
魔王の居城だった沼地の城、クルーファ城をバルギアルから奪った魔人リャルドーの勢力は、その事を正しく理解していない。
バルギアルはその事を警戒し、次の手としてミストを北へと向かわせたのだった。




