51話―― 大団円のその前に。
ラスト・最終話は夜6時、更新予定です!! お楽しみにヾ(≧▽≦)ノ!!
◇◇◇
そんな訳でようやく面倒な因縁もひと段落。
これでようやく肩の荷が下りたかと思えば――俺の穏やかな日常が返ってくることはなかった。
王国の衛兵団から「こっちに竜種が飛んで来たんだけど何事!?」と問い詰められ手からはや十日。
無事に闇ギルドである『盗賊旅団』を一網打尽にしたはずなのに
おんぼろE級ギルドで有名な『夜明けの日差し』は死屍累々の戦場と化していた。
「相変わらず喧しいな、この街は……」
そう言って裏庭でドッタンバッタン繰り広げられる竜退治の音を聞きながら、
ジュウジュウと香ばしく漂う肉の塊を焼いていけば、俺は一度黄昏るように大空を見上げ大きなため息を一つ吐いていた。
聞こえてくるのは、ほぼ日常となりつつある挑戦者の雄叫び。
まぁ100%返り討ちが確定している茶番劇に過ぎないが、
ここが貧民街の裏庭であるにもかかわらず繰り広げられる激闘は、貧民街の一大興行イベントに発展するまで盛り上がっていた。
ふと視線を逸らせば、誰が掲げたのか高々と風に煽られる『挑戦者、求ム』の旗印の文字が。
借金をしてまで土地を大量購入したかと思えば、何をやっとるんだうちのギルマスは!!
そもそも――
「これって俺の雑用就任祝いのパーティじゃなかったっけ? どうしてこうなった……?」
そう言って肉を焼く手を止めれば、隣から頭に鉢巻を巻いたチビッ子から叱咤の声が飛んでくる。
「はいはいそこ手を止めない!! 次のお客さんが待ってるよー!! じゃんじゃん捌かないと間に合わないよ!!」
「いろいろ言いたいことあるが、祝われる側の俺が依然として肉焼き係に任命されているところから話し合おうか」
まるで露天商のおっちゃんの如くせっせと肉を切り分けては、腹をすかせた冒険者に肉焼きサンドを配る我らがギルドマスター・シャロン。
商売魂全開で魔獣ステーキサンドを売るのは一向にかまわないが、頼むからとりあえず説明してくれ。
「いやーだって仕方ないでしょ。
いくらダンジョンを攻略したと言ってもわたし達のギルドにお金ないのは変わらないし。
ワタルくんのワインちゃんを見てビビッと来ちゃったんだもん。
このビックウェーブに乗らずして何がギャンブラーさ!!」
「うるせぇ!! そう言うのはもっと有名になってからやるもんなんだよ!!
足元固めず夢ばっかり見てもお腹は膨れないって何度言ったらわかるんだ!!」
あと金がないのははお前がまた『鉄花の盃』から借金した所為でしょうがッッ!?
なにが俺の『ワイン』を見て「これなら儲かる!!」だ。
お前を信じて邪竜の素材を預けた俺が馬鹿だったよ!! そもそも――
「周りがいいっていうならいいんだけど、相手は天下のレッドドラゴンだよ?
それに立ち向かうイベントって馬鹿じゃねぇの?」
普通、こういう闘技場形式の賭け事ってもっと勝ち目のあるギリギリの戦いを演出しなきゃいけないんじゃなかったっけ?
『ピー助』も『ワイン』もノリノリで蹴散らしちゃってるけどいいの?
各方面のお偉いさんも『竜券』片手に何故かそろい踏みでヤジ飛ばしてるし、
まったく冒険者の宴にしたって限度があるだろう。
つーか、
「やっぱり賭場の元締めはアンタらな訳ね」
「当たり前だろ、素人に鉄火場を任せられるわけがねぇだろうが!!」
そう言ってげんなりと重いため息を吐き出せばすれば、目の前の盛況ぶりを満足そう見つめるガンテツの姿が。
まったく、真っ先に美味そうな話を聞きつけてとびついてきたくせによく言うよ。
「まったく兄ちゃん。随分しけた顔してんなぁ。
せっかく俺がドーンとでっかい就任式開いてやったってのに、もっと嬉しそうな顔しろやコラ」
「無茶言うなよ。こっちはただでさえアホなギルマスで低一杯だってのに、アンタ等の面倒まで見なきゃなんねぇとか聞いてねぇよ」
「まぁまぁそう邪見にするもんじゃねぇぜ? 俺はこれでもテメェに一目置いてんだ。
同じダンジョン攻略者としてこれから長い付き合いになるだろうし、仲良くしようぜ!!」
そりゃいい金づるができたって意味ですかそうですか。
そう言ってドカッと丸太みたいなぶっとい腕を回して、親しげに笑いかけてくるリーゼント。
まったくこいつらに目をつけられたのが運の尽きだった。
まぁ街中の真昼間に竜種を召喚すれば、そりゃ騒ぎにもなるだろうとは思っていたがその騒動の元凶が俺だとバレたのは予想外だった。
なんでも例の襲撃騒動を『遠目』からたまたま見ていた冒険者がいたらしく。
竜種を従える俺を『とんでもない実力者』なんて勘違いしたらしい。
そこまでで話が終わったのならまだ噂話で済んだのに――この金勘定しか頭にない馬鹿どもときたら……
「まさか、お前らが結託してあることないこと触れ回るとはな。どうしてくれんだよこれ。
実力以上の噂が立って、すっごく生きづらくなったんですけど!?」
「そうか? 発案者のシャロンはけっこう乗り気だったぜ?」
そう――あの襲撃事件以来、『あのひょろい雑用係を倒せば名が上げるぜぃ』と勘違いした気合の入った挑戦者が連日、ギルドの門を叩いては俺に挑戦状をたたきつけるようになったのだ。
まぁ? ギルドが有名になるのは嬉しいし、
野蛮な冒険者たちの相手は軒並み『ピー助』と『ワイン』に任せているので問題ないが――、
「それにしたって後始末が面倒だから適当な噂流すのホントやめてほしいんだけど。
なんだよ『竜王』って。俺は表立って目立つような柄じゃねぇってのに」
「がっはっはっはーそりゃ無理ってもんだろ。
なにせお前らは、ダンジョン攻略っていう偉業を成し遂げたんだ。
国が隠そうと事実だけは曲げられねぇよ」
そう言ってバンバンと景気よく俺の肩を叩くとその黒いサングラスを押し上げてみせた。
「それに、その伝説のギルドに入れるかもしれねぇってんだったら、
例え命を落としてもステータス目当てにゴマ擦ろう馬鹿はゴマンといるだろうな」
「その所為で、必要以上にポーションの市場価格が爆上がりしてるんだがな」
冒険者として冒険に潜らないってどうなのよ。
たしかにガンテツの言う通りこの興行は一種のギルド加入試験も兼ねている。
ダンジョン攻略を成し遂げたとはいえウチがまだまだ弱小ギルドなことには変わりない。
人を増やそうにも応募者全員を雇う訳にはいかないのだ。
だからこうしてオーディション形式で実力を確かめている訳だが――
「そもそもここんとこ挑戦者の数が多すぎるんだよ。
王国に竜玉を献上した時もそうだったけど知名度の上がり方がめちゃくちゃな気がするんだが」
「ああん? そりゃお前に勝ったらもれなくギルド加入の権利と一緒に竜の血をプレゼントなんて言われたら挑戦しに来ない馬鹿はいねぇんじゃないの?」
「やたらしつこい挑戦者が多いと思ったらそういうことかよッッ!!!?」
道理でやたら気合の入った命知らずが多いわけだ。
だけど――
「竜の血プレゼントってのはどういうことだ?」
「あん? そりゃもちろんレッドドラゴンに勝利した際の景品に決まってんだろう?」
「ほうほう景品、ねぇ。ギルド加入させるだけで随分とまぁ豪勢な素材を放出する馬鹿がいるもんだな」
そう言えばこの前の各方面のギルドマスターが集まる査問会がやけに難航したって言ってたけど……
「シャーローン? まさかお前俺との約束を忘れて、あの面倒な老人共に邪竜討伐の武勇伝を話したんじゃないだろうなぁ? 邪竜討伐の件は面倒ごとになるから他のギルマスには秘密って俺、言ったもんな?」
「と、当然だとも。ギルドマスターであるわたしがそんな迂闊なうっかりをやらかすと思うのかい!!!? 邪竜討伐の件はちゃんと黙っていたさ」
「ほほぅなるほどなるほど。邪竜討伐の件『は』黙っていたわけだな」
そう言ってジロリと睨みつけるようにシャロンを見下ろせば、
その晴れやかな笑顔がゴルゴーンに睨まれたようにビシリと音を立てて固まった。
シャロンの視線が僅かに泳ぎ、その整った顔が「あ、やべ」と悪戯のバレた子供のように硬直し始める。
本人も調子に乗って口を滑らせた自覚があるのか、やけに冷たい汗が噴き出しているように見えるが――
「お前レッドドラゴンの件、全部マルッと喋りやがったな!?
あれは自然発生した竜種が勝手に起こした事件だって片を付けたばっかだろうが!! やっぱりお前が噂の元凶かッッ!!!!」
「うわーんごめーん!? だってみんな自分たちのギルメンがどれだけ優秀か自慢しあってて悔しかったんだもん!! わたしだって自慢したかったんだもん!!」
「それでこの騒ぎになったら世話ねぇわ!!」
見ろ、みんな竜の血が欲しくて目の色変えて参加してんじゃねぇか!?
なんで他所さまのS級冒険者まで参加してんのかなー、と思ったらそういうことかよッッ!!
「それで結局のところどこまで話したんだ?」
「えーと、そのー、ね? ワタルくんが竜の王様になっちゃったことまで話しちゃいました☆ っていたいいたいいたーい!! グリグリは反則!? 反則だってばぁああ~~ッッ!!!?」
身長縮むぅ!!!? と言って涙目で抗議してくるシャロン。
まったく夢はでっかく立派なくせに、なんでこう脇が甘いんだ。
「その噂が立って真っ先に狙われるのは俺じゃなくお前なんだぞ!! そこらへん本当にわかってんのか!?」
「まぁまぁ落ち着けよ兄ちゃん。俺もよそ様のギルドの問題に口出すつもりはねぇがそれくらいにしてやれよ。シャロンだって悪気があってやらかしたわけじゃねぇんだ」
「だとしても竜の血をただでやるってのは承服できないって。素材のタダ配りなんて
他の冒険者に舐められるようなもんだぞ」
「まっ、兄ちゃんの意見にも一理あるが
素材管理や秘密も大事だが、情報を閉ざしすぎるってのはよくねぇんだって」
そう言って言葉を区切るとニトロ草の煙草に火を点け、煙をふかすガンテツ。
「お前らがなにを抱え、これから何を目指していくのか知らねぇが、このおんぼろギルドを王国一までデカくするんだったらある程度のリスクは飲み込まなきゃやっていけねぇぞ」
つまりリスクを背負ってでも人材を取れと、ガンテツは言いたいのだろう。
その言葉の意味は分かる。でも――
(それで竜の血を使って宣伝活動ってのはやりすぎな気がするんだよなぁ……)
まぁ確かに討伐した竜種の素材のなかで『竜の血』は比較的安価なものだ。
自分の欲望に忠実でまだ見ぬ夢を目指す実力者なら真っ先にとびつく獲物と言ってもいいだろう。
「でも、お前はそれでいいのかシャロン。そんな大っぴらに素材配布の宣伝して、
どんな下心を持った奴が入ってくるかわからないんだぞ?」
今回は上手く対応できたからいいものを。
また今度みたいなことが起こったらどうするつもりだ。
「なぁにその時はみんなで考えることにするよ。
なにせウチには頼れるメンバーがたくさんいるからね。
彼女たちの目をかいくぐって悪さをしようする人たちなんてそうはいないでしょ」
「……はぁ、ったく。信頼してんだかいい加減なのかわかりゃしないな。
お前がそれでいいんならいいけど、十日前にあんな面倒な襲撃事件があって懲りないよなぁ」
誰も欠けることなく一件落着したとはいえ暗殺は暗殺だ。
普通、命を狙われたら誰だって外に出るのを警戒するものだ。
だというのにこの少女は「まぁここに住んでれば命を狙われるなんて日常茶飯事だしね」と言って次の日には一人でふらりとどこかへ出かけてしまうのだから頭が痛い。
でも――
「まったく説得力があるんだかないんだか。あいつ等が聞いたら怒るぞ、きっと」
「ふっふっふーなァに大丈夫だよ。なんたってわたしは君たちのギルマスだからね。
そんじゃそこいらの冒険者には遅れは取らないつもりさ――っと、噂をすれば帰って来たみたいだよ」
そうして重苦しいため息を吐き出し、在庫の低級ポーションの蓋を開けては瀕死の挑戦者たちにぶち撒いていると、
やけにハイテンションに浮足立った声が背中を叩いた。
「おーおー、また派手にやってんなぁポンコツ。何だこの楽しそうな催し物は!!」
「また誰かに絡まれたんすかね? なんかすごいことになってるんすけど」
「まったく彼に喧嘩を売るなんて命知らずはこの貧民街にはもういないと思っていたのにねぇ。ワインちゃん大暴れじゃない」
そうしてどこか懐かしい声に釣られ、反射的に背後を振り返れば、
「よっ、ただいま」
と何でもないように手を上げてみせるフィーネ達の姿があった。




