46話―― 旅路の果てに手にした『もの』は――。
◇◇◇
ここ掘れわんわんの如く、はしゃぎ出す2人の冒険者を遠巻きに見守りながら
俺はそっと息をついていた。
修羅場を何度も乗り越え指一本動かすのもつらいのに、充実感が半端じゃない。
まだ脳内麻薬がドバドバ溢れ出しているせいかもしれないが
これはあの時、勝つことを諦めていたら絶対に見られなかった景色だ。
「俺のスキルでも、役立つんだな」
今まで無能だの役立たずだの言われてきただけにこんなに嬉しいことはない。
そう達成感に浸っていると、穴を掘り疲れたのかアンジェリカが俺の隣に恭しく座ってみせた。
その視線は今も元気に邪竜の遺骸を掘り進めている二人の少女に向けられ、交わることはない。
なんとなくその感慨深げな横顔を見てはいけないような気がして慌てて視線を逸らすが、このまま無言というのもきまりが悪い。
という訳で――
「一緒に発掘作業に参加しなくていいのか?」
「そういうあなたは参加しなくていいの? あんなに素材の管理に口うるさかったのに」
「俺はほら、脚がこれだからな。あいつ等のハチャメチャぶりにはついていけないさ」
パンパンと今はもうなくなってしまった右脚を叩き、苦笑してみせる。
痛みはない。おそらく長い間放置しすぎて感覚自体が死んでしまったのだろう。
まぁこれも仲間を助けるための代償だと思えば大したことはないのだが、
「そうね。あなたが無事出本当によかったわ」
しばらく静かな沈黙が下り、
気づけば俺もさっきまで死んでいたとは思えないわんぱくぶりを見せるレオをジッと見つめていた。
「本当にとんでもないことをしてくれたわね。ダンジョンの管理権獲得もそうだけど、死者蘇生を果たすなんて」
「死者蘇生、か。聞こえはいいかもしれないが、俺はなにもそんな大層な偉業を成し遂げたかったわけじゃないよ
前にも言ったがただ目の前の宝をダンジョンに奪われるのが癪だっただけさ」
「それで、これからどうするの。ギルド協会に報告すればあなたは英雄よ?」
「ギルド協会にはこのことは公開しない。第10層は今まで通り、冒険者の憧れになってもらうよ」
そう、それが俺が結論付けた、考えだ。
この力がどれだけ凄まじいものだかは理解している。
ダンジョンの管理権限など個人で所有していいような代物ではない。
だが国に報告すれば間違いなく、俺を狙ってくるものが増えるだろう。
自分の実力が評価されるのは嬉しいことだが、その被害が周りに影響するのならそんなものはなかったことにする方が一番いい。
なにより――
「なんだかんだお前らの存在が、離れがたい要因になちゃったしなぁ。しばらくはギルドの雑用係から始めようと思う」
「あら? それってもしかして愛の告白かしら?
でも、もっと大手ギルドに行けばちやほやされるんじゃないの?」
「裏切られるのはもうこりごりだよ。元の古巣にもいい奴はいっぱいいたが、利用されるにしても、俺は利用されてよかったと思えるような居場所を自分で作りたいんだ」
そうだ。
なんだかんだ冒険者になれると強がりな夢を口にしていたが、俺は元々裏方の仕事が向いている。
それが今日、この日はっきりとわかった。
戦う力はない。仲間の足手まといになる。まったく散々なダンジョン生活だった。
でも――
「なぁ、こんな役立たずな俺だけどリーダーにまた冒険に連れて行ってもらえるよう頼んでもらえないか?」
「あら、その程度のこと自分で頼んだ方がいいんじゃないの? あのお人よしのフィーちゃんなら、なんだかんだ言って快諾してくれると思うけど?」
「そのお人よしだからこそお前に頼んでるんだよ」
……ダンジョンに潜って今日まで散々足手まといになったんだ。今更捨てないでくれなんて、そんな恥知らずなこと頼める義理は俺にはない。
「……まぁ俺みたいな非力な奴がお前たちの冒険で役に立つとは思えないけど、
本当にたまにでいいんだ。俺はお前たちと冒険する夢を諦めたくない。だから――」
「なにいってるんすかおにーさんッッ!! そんなの当たり前じゃないっすか!!」
「うおっと!? レオか。聞いてたのかよ」
「なにやら辛気臭い声が聞こえてきたんで、フィー姉ぇと一緒に切り上げてきました。
それより、せっかくダンジョン攻略を果たしたっていうのになにをしょぼくれたこと言ってるんっすか!!」
さすが獣人。あの距離でもしっかり俺とアンジェリカの会話を聞き分けていたのか。
先ほどまでの致命傷も感じさせない動きで俺の方に詰め寄ってきた
「おにーさんはもうレオ達の大切な仲間です。苦難を一緒に乗り超えたマブダチを追い出す薄情者なんてここにはいないっすよ!!」
「うーん。わたしのレオちゃんとおんなじ気持ちかな。
あなたの素材への知識は私たちには足りないものでした。そんな優秀な人をむざむざ手放すと本気で思うの?」
「つーわけだ。まぁ都合がいいのは承知してるけど実力を見せろつったのはあたしの方だしな。
だからその――、だな。これからも一緒にギルドを盛り立ててくれねぇか? 頼むこの通りだ」
若干ためらいがちに頬を掻いてみせるフィーネが唐突に頭を下げてみせた。
その時の感情をどう表現したらいいだろう
初めて、誰かに必要とされているような気がした。
「あれ? おにーさん泣いてるんすか? まさかレオみたくどこか怪我したんじゃ――」
「ち、ちげぇよ。これはただ、眠たくて――」
「はっ、そんなぼろぼっろの面でよくそんな言い訳ができるな」
拭っても拭っても止まらない。
今日だけでも本当にいろんなことがあった。
おそらく人生の中で最も濃密で充実した1日だっただろう。
でもその1日がまだ続くのかと思うと嬉しくて、恥ずかしくて――
「それよりなぁポンコツ。こいつどうすればいいと思う?」
そう言ってフィーネが指さしたのは地中半分に埋まったの遺骸そのものだった。
10年の月日を経て一頭の竜に一つあれ上等とされる『竜の涙』がおよそ十個埋まっている。
なんだかんだ討伐したブラックドラゴンといった死骸もあることだし、
このままマナへと還元してダンジョンの肥やしにしてしまうのは惜しい。
だけどそれを盗人みたくただこっそりと回収するのも気が引けるので――
「なぁ、俺に一つ提案があるんだけどいいか?」
そうして不思議そうな顔をする三人に相談すると、
彼女らは一様にして顔を見合わせ、名案だとばかりに顔をほころばせるのであった。
次号、最終章!!
憎きクソ野郎に至上最高のザマァ展開を用意していますので、もう少しお付き合いくださいヾ(≧▽≦)ノ




