表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/52

36話―― 託された使命。


 竜の巣の構造上。図体のデカい竜種は空を飛ぶしかない。

 まるで上の方の殻が大きく欠けたタマゴのような造り。


 そこが俺たちにとって生きるか死ぬかを決定づける最後の分岐点だった。


 一つ一つの覚悟を胸に、俺はひたすら上を目指す。

 息を切らし、痺れる肺に酸素を送る。

 かすむ視界は役に立たず

 手足は完全にエンシェントドラゴンのプレッシャーでやられている。


 でも――


「ここで立ち止まる訳にはいかないんだよ!!」

 

 吐き捨てる血反吐と共に歯を食いしばれば、体内の魔力を無理矢理暴走させる。


 魔力暴走による疑似的な肉体強化。


(そう長くは続かない。これが切れたときが……)


 俺の死だ……。


 助けてくれる仲間はここにはいない。

 だからこそ、俺は俺自身を守り通さなくてはならない。


 そう、全ては彼女たちの期待に応えるため!!


 それこそ力のない冒険者が『仲間』とはぐれることはすなわち死を意味する。


 それがわかっていて無茶できるのは俺の魂そのものが彼女たちを信頼しているからに他ならない。

 だからーー


(出し惜しみは無しだッッ!!)


 すると空気全体。いやマナそのものを震わせる咆哮が轟いた。


(ーーっ!? 始まった!!)


 息を飲み、爆風に煽られる身体を解体用ナイフで強引に縫い留める。

 

 痛みに歯を食いしばり、ふと視線を下に落とせば、


 レオを先頭に臆せずエンシェントドラゴンに突貫していく仲間たちの姿が視界の端に映った。


 フィーネが指示を飛ばし、アンジェリカとレオが彼女の動きをサポートする。


 あらかじめどこに何があるのか、わかっているかのようにドラゴンたちの攻撃をかわしていくが、

 そんな神業、いつまでも続くわけがない。


 その気になれば竜種のブレス一つでここら一帯は焼け野原になるだろう。


 でも――


「うりゅあああああああああああああああ!!」


 ケモノの如き雄たけびを上げるレオが彼女に降りかかる一切のブレスをさばき始める。

 がむしゃらに防いでいるようで、その火球を逸らす形でドラゴンたちにぶつけていく腕前。


 竜種のブレスを何度もぶつけられて壊れない大盾もそうだが、なにより感嘆すべきはあの盾捌きだ。


 全てのヘイトを自分に集めて、フィーナの近距離支援という弓使いにあるまじき非常識な戦法を芸術なまでに昇華させていた。


「おらおらおら!! 隙だらけだぞコラ!! やる気あんのかクソトカゲ!!」

「GUGYAAAAAAAAAAA!!」


 ワイバーンの背に飛び移り、その一体一体を駆逐してはエンシェントドラゴンの注意を引き付けるフィーネ。


 体力増強剤に魔力活性剤。スタミナポーション。

 ありとあらゆる素材と調合技術を用いた最高傑作を用いた能力強化。


 寿命を削るような自殺行為だが、それでも彼女たちに躊躇いはなかった。


 惜しみなく使われる『術式付与』の数々。

 爆発が、魔石の破片が、まるで花火のように炸裂し、ドラゴンたちに少なくないダメージを与えていった。


 まさに命を懸けた時間稼ぎ。

 全ては俺の『秘策』が発動するための下準備だ。


 でも、それは彼女たちが残していった『秘策』を消費すれば消費するほど彼女らに残された時間がすり減っていくことを意味し、


 続くアンジェリカの振りかぶった大剣がブラックドラゴンの肩を砕き、昏倒させたときそれは起こった。


「ぐあっ!?」

「きゃぁ!!」

「うにぃぃいいいいいいいい!!」


 さすがのフィーネ達でも多勢に無勢。

 いくら連携の優れた非常識な力とはいえ、巨大な個として完成された災厄が振るわれればどうにもできない。


 尻尾そのものを使った薙ぎ払い。


 さすがのレオも質量そのものを抑えきれなかったのか。地面が抉れ、三人の身体が吹き飛ばされる。


「あたしらに構うな!! テメェはテメェの仕事をしろ!!」


 咄嗟に声を上げようとした所で飛んでくるフィーネの叱責。


 歯を食いしばり、固有スキル『自己管理』の下、最も安全なルートをひた走る。

 はやく。はやく走れ。

 あいつ等が取り返しのつかなく事態になる前に早く!!


 だが現実は甘くない。


 先ほどのエンシェントドラゴンの咆哮で命令系統を取り戻しつつあるのか。

 怒り狂ったワイバーンの群れが一直線に俺の下に殺到してくる。


「くっそたれ!! こういう時くらい融通利かせてくれてもいいだろ!!」


 あんな雑魚に構っている暇などない。


 素早くアイテムポーチからポーション爆弾を取り出すと、殺到する群れの中央。僅かに統率の『ほころび』の箇所にポーション爆弾を投げつけ、飛び込むように身を投げる。


 俺に冒険者としての実力はない。

 でもこれまで雑用係として培ってきた経験なら、信頼できる。


 ポーション爆弾の炸裂によって乱れた隊列。

 その隙間を潜るようにして転がり出れば、トドメトばかりに惜しみなく残りのポーション爆弾を後ろに投げつけてやる。


 生死の確認など後回しだ。

 一刻も早く頂上に昇らなければ。


 筋肉がブチ切れようと、指の皮膚がずる剥けようとひたすら早く――ッ!!


 そしてようやくたどり着いた竜の巣の頂上で俺は初めて戦場を見渡した。

 

 ブラックドラゴンを何とか足止めできたとはいえ、状況は最悪だ。

 いったいどれだけエンシェントドラゴン相手に時間稼ぎを徹していたのか、フィーネ達の身体も限界に近い。


 それでも俺は――


「≪死の灰≫を設置した。フィーネ例のものを!!」

「あいよ!!」


 生きるか死ぬかという瀬戸際だというのに、僅かにできた一瞬の隙を見計らって各々が各々の判断で動き出す。


 レオがエンシェントドラゴンの射線に入り、火球を押し留め、アンジェリカの大剣が遠慮なくフィーネの周りに群がり始める魔物を掃討していく。


 そして命を懸けて創り出した隙間を縫うようにして、フィーネの黄玉の瞳が無言で俺を射抜く。


(タイミングは、いまッッ!!)

 

 まさに阿吽の呼吸。


 タイミングよく、アイテムポーチから取り出した『銀色の肉袋』を投げつければ、

 神業ともいえる弓術がワイバーンとワイバーンの隙間を縫い、『とある術式』の施された矢が『肉袋』を貫き、竜の巣より高く、高く打ち上げられた。


 そして銀色の輝きと共に、大空に銀色の魔法陣が打ちあがり――


 天幕のように強力な結界が張られる。


 いまもダンジョンに降りしきる『死の灰』を触媒に利用した高純度の魔力結界。


「固有スキルがへぼくたって、ここならこれくらいは作れるんだよバカ野郎」


 あのクソギルド長に見せてやれるもんなら見せてやりたい。


 技術は時にスキルを超えるのだ。


 ドラゴン側にとっては非常事態だろう。

 なにせ自分たちに命令を送っているエンシェントドラゴン(天空の覇者)の魔力で作られた結界なのだ。

 そのダンジョンを半壊させるまでに至った強度はすでに実証済みだ。


 これでもう二度と援軍が来ることはない。

 つまり――


「こいつらを片付ければぜんぶ終いだ。やっちまえフィーネ!!」

「おうよ!!」

 

 柄にもなく全力で叫べば、任されたとばかりに顔を歪ませるフィーネの声が聞こえてくるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みくださりありがとうございます!

↑の評価欄の☆☆☆☆☆の評価欄のをタッチして

★★★★★☆1つでも応援していただけると嬉しいです★★★★★

またよろしければこちらの短編もどうぞ↓

『酔いどれ令嬢の婚約破棄。』

満足保障の異世界ラブコメ。

『合コン会場で酔いに酔っぱらった令嬢の恋の物語』となります

気に入っていただけた方は ブックマーク評価感想 をいただけると嬉しいです
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ