32話―― ひと狩り行こうぜッッ!!
炸裂したポーション爆弾が地上で次々と連鎖反応を起こして大地を大きく揺らす。
開幕の花火は上々。
あとは――
「走るぞ!!」
号令をかけ一気にレオが見つけたッ洞窟の中を走り抜ければ、後ろからアンジェリカの戸惑いの声が響いてきた。
反対されると思って最後まで隠していたことだが、
「ちょっと走るってどういうこと!? 作戦だと少し待ってから突入するはずでしょ!? まさかあなた達――」
「へへ、ポンコツのアイディアでな。エンシェントドラゴンの時と同じ要領で、各地の至る所に設置したフェロモンを誘爆させたんだよ」
「やっぱり!?」
悲鳴にも似た声が響き渡る。
今頃、地上はそれこそ地獄だろう。
もともと≪死の灰≫がいまも地上に蔓延しているし、防護マスクなしにこんな『外れ階層』に足を運ぶもの好きもいないので被害が広がる心配はないはずだ。
あとはどれだけの竜種が怒り狂ってくれるかだけど――
「そこはもう賭けだな。まったく我ながら運の要素が強すぎる作戦だと思うよ」
「だけどうまくいったみたいだぜ。見ろよこの揺れ。連中かなりお怒りみたいだぜ」
そう言ってフィーネが頭上を見上げると、複数の竜の咆哮が谷底まで轟き、地上が破壊される音が振動となって響き渡った。
おそらくこの『嫌がらせ』を仕掛けた不届き者に誅罰を降さんと暴れまわっているのだろう。
あとはあらかじめ用意した『作戦』がどれだけ上手く機能してくれるかにかかっているわけだが、そこはもう心配ないだろう。
なにせ俺の前には世界最強に諦めの悪い『挑戦者』が揃っているのだから。
(彼女たちはきっと俺が想像する以上のことをやらかしてくれる。だから――俺は俺ができることをやり切ってサポートする!!)
たとえその戦いで俺が死んでも一向に悔いはない。
そのために全ての可能性をシミュレートし、備えてきた。
使う機会がないのが一番だけど使わざる負えない機会がきっと来る。
その時は世界の常識をぶっ壊してでも≪再現≫してみせる。
「出口が見えてきた!! いよいよクソトカゲとの戦闘だ。気ぃ引き締めろよ、お前ら!!」
フィーネの声に我に返り、文字通り気を引き締める。
全てはこの作戦にかかっているのだ。
今は目の前のことに集中しなくては。
そうしてレオの案内の下、我先にと竜の巣の入口である洞窟を駆け抜ければ、そこには鋭い牙の生えそろった虚空が存在した。
赤い鱗をしたドラゴン。
待ち伏せの四文字が脳裏をかすめる。
まさか――こうなること自体、織り込み済みだったのか!?
あの誇り高いドラゴンがそんな不意打ちをしてくるとは到底思えないが――
「あぶねぇポンコツ!!」
僅かな硬直。
それこそフィーネに襟首をつかまれ後ろに引き戻されなかったら上半身が喰われていただろう。
咄嗟にレオとアンジェリカが勝ちあげるようにドラゴンの顎を真上にかちあげ、レッドドラゴンの巨体が僅かに後ろに吹き飛ばされる。でも――
「「浅い」」
咄嗟のことでインパクトをミスったのだろう。
二人の反撃で事なきを得たが――
「――っ。すまん助かった!!」
「油断してんじゃねぇぞポンコツ!! 今回の作戦の要はテメェなんだからな」
「だけどこれは――」
「ずいぶんとやばいメンツっすね。わかっちゃいましたけど、どれも伝説クラスの化物っすよ」
眼前に広がる絶望。
にじみ出る汗はすでに冷たく滴り落ちる。
指先が微かに震え始め、気を抜けば今にも歯の根がカチカチなってしまいそうな圧迫感。
これが竜種に挑むということか。
存在の格がすでに違いすぎる。
ひと睨みされただけで身体が硬直し、動かなくなっていくのがわかる。
きっと人間の覚悟なんて竜種の存在感に比べればちっぽけだ。
でも、それでも俺は冒険者の好奇心がその恐怖心を越えるのを知っているから
「――ッ!! アンジェリカ! レオ!!」
「わかってるわ!!」
「はいっす!!」
大口を開けブレスを放とうとしたレッドドラゴンに強烈な一撃を叩き込む。
フィーネの弓矢がドラゴンの急所である逆鱗を射抜き、レオが大盾を振り回し、アンジェリカが一刀のもとにレッドドラゴンの頭部を『破壊』する。
流れるような連携。
その一切無駄のない動きの数々は、油断なく俺達を見下ろしていた竜種の急所すべて潰し、文字通り度肝を抜いていく。
赤い血が飛び散り、断末魔も上げる暇もなく一頭の空の王者が地面に崩れ落ちた。
(ああまったく。こっちはついていくので精一杯だってのにこいつ等は)
ゾクゾクと背中が震え、高揚する心臓が抑えきれない。
唇が自然と持ち上がり、俺は思わず拳を強く握りしめていた。
俺達のチカラは通用する!!
作戦通りとはいえ、まさかこの土壇場で本当に成功させて見せるとは。
本当に頼もしい奴らだ。
まるで当然の結果とばかりに冷静に状況を分析する姿が、彼女たちの実力を証明している。
「ったく、待ち伏せって訳か。トカゲの癖にずいぶんと味な真似するじゃねぇか」
「だけど思ったよりスムーズに身体が動けたっす!! これなら――」
「もう、油断しちゃダメよフィーちゃん、レオちゃん。ここじゃあ危険度Aクラスのレッドドラゴンですら格下扱いなんだから」
「わーってるよ。でも思いのほか作戦はうまくいってるんじゃねぇのか? なぁポンコツ」
「……ああ、――想定以上だよ」
ふとフィーネの言葉につられて正面を睨みつければ、どうやら思いのほかずいぶんな数のドラゴンを地上に誘導できてたらしい。
予想していたよりドラゴンの数がずっと少ない。
だが相手は竜種。いくら数が少ないとはいえ本来なら人間が太刀打ちしていいような相手じゃない。
それこそ俺達が不利であることには変わりない。
現に固有スキルの『自己管理』は今も大音量で警告を発している。
でもそんなのは全部無視だ。
こんなときくらい自分の欲望に正直になったっていいだろう。
彼女たちを信じて全てをかけて本当によかった。
「目立った大物は三体ってとこか? どいつもこいつもふてぶてしい面してやがる」
「それでもどのみちやることは変わらないわ。ドラゴンが静観を決め込んでいる間に私たちはやることをやってしまいましょう」
「了解っす!!」
さぁ待ちに待った楽しい楽しい『狩り』の時間だ。
今まで培った全てを使って――
「最高に、存分に暴れまわるぞ、お前らッッ!!」
「「「おうッッ!!」」」




