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31話―― 開戦の花火

◇◇◇


 気持ちのいい朝だった。

 こんなに熟睡できたのはいつぶりだろう。


 ふと空を見上げれば、微かに輝く日の光が。

 こんな谷底にも届くのか、まるでこれから為すべき偉業を世界が祝福しているように見えた。


 まぁそれも全て都合のいい思い込みなのだろうが、あながちウソでもないだろう。

 ゆっくりと後ろを振り返り、『仲間』の顔を見れば、どれもみんないい顔をしている。


「さて、それじゃあ行くか竜狩りに」


◇◇◇


 約1週間、俺達のダンジョン生活はそれこそ困難を極めた。


 ろくな補給物資もない中、エンシェントドラゴンのブレスによって汚染された地上の探索。

 

 それこそワイバーンの素材を使って防護マスクを作るところから始まったダンジョン生活は地獄だった。


 いつダンジョンに巣食う化け物に命を狙われるかわからない日々。

 何度も何度も導かれるようにドラゴンと会敵しても逃げ回り、素材を集める毎日はフィーネにとって屈辱というほかないだろう。


 ストレスと緊張感の戦いは想像以上に彼女たちの身体を蝕んでいた。


 それでも彼女たちが折れずここまでこれたのは、冒険者としての『未知への好奇心』があったからに他ならない。

 

 まさしく執念の傑物。

 冒険者の姿に相応しい姿を見せつけられて燃えないやつなんていない。


 だから俺も()()()()()()全ての『知識』全ての『技術』を総動員して準備した。


 最高品質のポーションの作成。

 魔石を用いた護符や護石の作成。

 彼女たちの『体調管理』。

 並行してフィーネ達の武器の強化や補強も全て任せてもらった。


 そして今日――俺達はこの階層の深部へと足を踏み入れる。


「まさか本当に間に合わせるとは……結構無茶な注文したつもりだったんだけどな」


「当たり前だっての。むしろこのくらいあたしにとっては朝飯前なんだよ」


「まったく本調子には程遠い状態()()()にも関わらずよくやるよ。

 ……それで、身体の調子はどうだ?」


「おかげさまで過去イチってくらいの出来だ。絶好調だよ」


 そうだろう。

 俺だってもう自分のことのように彼女たちの状態を理解できる。


 一目見ただけで彼女の身体はつま先から毛先の一本まで『最高品質』に保たれている。

 それこそ地上で生活していた時以上の出来だ。

 これならどんな化け物相手でも負けないだろう。


「んで、そっちの方はどうなんだよ。肝心の竜の巣への道のりは捕捉できたのか?」


「レオにギリギリのところまで探索してもらった。そのおかげで得るものは多かったよ」


「いやーまさかこの谷底から竜の巣に繋がってるのは盲点でしたっスね。初めて聞かされた時はまさかって思ったっすけど……」


「なるほど、その様子だとやっぱビンゴだったって訳か」


「はいっす」


 元気いっぱいに腕を持ち上げ返事を返すレオ。


 探索中は主に俺の護衛につくことが多かったから役に立てたのが嬉しいのだろう。


 しかし、竜の巣への道のりが谷底に存在するとは。

 エンシェントドラゴンに喰わせた『香りづけ』がなければそれこそ手掛かりなしで一から探索することになっていただろう。


「道理でほとんどの冒険者がたどり着けなかったわけだ。

 もしかしたらあのワイバーンもこの先に続いている竜の巣から来たのかもしれないな」


「かもしれない、じゃなく十中八九そうでしょうね。

 ここまできてようやく感覚の鋭くない私でもプレッシャーを感じ取れるようになったわ。

 かなりの数の竜種がいるんじゃない? これ」


「といってもレオがいけたのは入口一歩手前までっす。それ以上は勘付かれそうで……」


「いや、それでいい。下手に近づいて怒らせたら今度こそ終わりだからな」


 狭いこの谷底でダンジョンそのものを半壊してみせたあのブレスが飛んできたらそれこそ終わりだ。

 ほぼ行き当たりばったりな作戦になるが、それでもある程度の方針は立てられた。

 あとは――


「どうやって竜の巣からダンジョンボス以外を怒らせるかよね……本当に竜の巣からドラゴンたちを追い出すなんて都合のいい手があるの?」


「ああ、まぁ賭けの要素が強い作戦だけどそこに関してはすでにフィーネと俺で対策済みだ」


「おう、バッチリ仕掛けておいたぜ。位置も全部把握済みだ」


「ちょっといつの間にそんな危ないことしていたの!?」


「ダンジョンの状況を確認したくてレオとアンジェリカに地底のルート確認に行ってもらってた時にちょろっとな」


「つっても道中はまったく非力で役に立たなかったけどなこのポンコツ。でも、まぁそれなりの下準備はできたんじゃねぇの?」


 アンジェリカが驚くのも無理はないがそれでも必要な検証だったのだ。

 大目に見てもらいたい。


 なにせ相手は第10層の支配者だ。

 やれるだけのことはやっておいて損はないだろう。


 武器の改造も装備の新調も、身体のメンテナンスに至るまでやれるところまで全部やった。

 あとは俺達の全部がどれだけ奴らに通じるかだ。


「覚悟はいいか。ここから先はもう後戻りできないぞ」

「はっ、ポンコツのテメェより前にとっくに覚悟なんざできてんだよ」

「ここまで来たらやるしかないわよね」

「うっす。全力で暴れまわってやるっすよ!!」


 よし、それじゃあ()()()()()()()()()


「おい、ヒポクテ草なんて使ってどうするんだよ」

「ああ説明してなかったな。これはこうするんだよ」


 ポーションの素材に使われるヒポクテ草を手頃な石で叩いて潰し、内臓の表面に張っていく。

 こうすることでベアウルフに内包されたマナがヒポクテ草を経由して一種の循環機関が形成され、素材が熟成され品質が上がるのだ。

 もちろんベアウルフのマナを浴びたヒポクテ草は効力が上がり、高値で取引される。という寸法なのだが――


「フィーネ。頼むぞ」

「――ああ、なるほど。それであの仕掛けをあんなところに」


 そう言って納得したように矢じりに突き立てた『導火線』を受け取ると、

 天に突き立てるように矢をつがえるフィーネ。


 その目標はあやまたず、俺の指示する一点に向けられており、


「そんじゃあ派手に討ち入りと行くか」


 ダンジョンの奈落の底。

 楽しげに唇を歪ませるフィーネの言葉と共に放たれた弓矢が、頭上高くに存在する『ポーション爆弾』に向けてまっすぐ伸び、大きな爆音をとどろかせるのだった。



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