24話―― 求めるべき『勝利』の方程式。
超々かっこいい主人公の活躍。
雑用ならではの輝かしい泥臭さをお楽しみくださいヾ(≧▽≦)ノ
さっと解体用ナイフを構え、小さく息を抜く。
敵は眼帯の男を含めて六人。
装備は重装。手負いの負った獲物を前に慢心していると来た。
それでもって――あの用意周到さ。
(……いける)
そうしてゆっくりと立ち上がり、『敵』を睨みつければ六人の賊徒のリーダー。
眼帯の男がまるで茶番だとでも言いたげな顔で鼻を鳴らしてみせた。
「おーおー立派な面構えになっちまって。よっぽどその餓鬼どもが大事なようだな。こりゃ目の前で犯してやればいい顔が見れそうだぜ」
「させるかよクソ野郎。まとめて潰してドラゴンの餌だ」
「はっ、テメェ一人で何ができる。S級ギルドから捨てられた雑用風情が」
「――っ。知っているのか」
衝撃の事実に僅かに身体が固まる。
まさかこの件に『蛟竜の顎』も関わっているのか。
「ああ、お前のギルドマスターが報酬を弾んでくれたよ。この街を離れて余生を過ごせばまだ見逃してやったのに、よりにもよって目障りなE級ギルドに入っちまうとはなってな」
「そうか」
あの男ならやりそうだ。
奴の目的はギルド全体のエリート化。
固有スキル至上主義の集まりである上位ギルドをそそのかすことくらい分けないだろう。
だけど――
「『お前ら』は、一つ。ミスを犯した。それを今から教えてやるよ」
即座にアイテムポーチから三つ分の小さな『玉』を引き抜き、地面にたたきつける。
途端、ボンという火薬臭い匂いと共に煙が巻きあがり、当たり全体を緑色に染め上げる。
緑色の煙に驚く賊徒共の声が木霊するが、全てを無視して走り出す。
それは俺なりの『逃走』。
実力がないとわかっているからこそ――
「正面からぶつかる馬鹿はいないんだよ!!」
「くっそ舐めた真似しやがって! なにやってる。追え、奴を追うんだ!! 二度目の失敗は許されねぇぞ!!」
「「「うっす」」」
腕を振るい、全力で走る。走るッ! 走るッッ!!
肺が潰れようと、筋肉が悲鳴を上げようととにかく全力で森の中を駆け巡る。
「テメェ、コラ逃げんじゃねぇ!」
「俺達、『トビの盗賊団』から逃げられると思ってんのか!!」
「ぶっ殺してやる!!」
背中から響くプレッシャー。怒りに彩られた罵声は俺に向けられたものなのだ。
あれだけの数だ。
普通挟み撃ちされるなり、固有スキルを使うなりなりで追い詰められるのが関の山だろう。
だけど――
(どこにどう逃げるべきか手に取るようにわかる!)
初めてのダンジョン探索のはずだ。
初めての第10層のはずだ。
なのに走り抜ける森の途中にニトロ草があり、ヒポクテ草の群生地があるのがわかる。
感情が爆発し『感覚』が尖っているせいだろうか。
今まで以上に『自分』の状態がよくわかる。
それに『この気配』は――
(賭けてみる価値はあるか)
アイテムポーチに手を突っ込み、目的のものを取り出した。
そして大きく息を吸い、覚悟を決めると――
「テメェ! これで勝った気でいるじゃねぇだろうな。ウチの頭目は残虐な御方だ。テメェみたいな無能、二度とダンジョンに潜れないくらい地獄を見せてやる」
「……地獄ならもう知ってるよ」
「なっ!?」
突然の方向転換。自分たちに向かって走ってくる俺に驚く三人の賊徒。
振りかぶった武器の全てを『感覚』に委ねて『避ける』覚悟を決める。
「死ねや!!」
「お前がな」
迫りくる刃を紙一重で躱し、
『ポーション』。それにゴブリンの魔石とニトロ草を瓶の中に投げ入れ、後ろに放り投げる。
『マナ暴走』――
希釈していない強すぎるポーションは時に素材の魔力を暴走させる。
それは、素材を管理するものなら誰しも知っている常識で。
閃光が光る。そして――耳をつんざくような爆音が森の中に轟いた。
「ぎゃっ」
「ぐぅ!?」
「びゃあっ!!」
爆風にあおられ体勢を崩す。
至近距離の大爆破。
ニトロ草で誘爆させた群生地がはげ山のようにぽっかりと大穴を開ける。
「あと、三人」
『爆薬』で吹っ飛ぶ姿を後ろで見届け、軋む膝に活を入れて立ち上がる。
まだ、終わりじゃない。
今の爆発を聞いて、何か異変があったと奴らは気付いたはずだ。
あの妙にプライドの低い奴らが万が一、人質作戦にでも出たら面倒だ。
そうなる前に何とかしないと。
「――っ、警告!?」
咄嗟にブレーキを踏めば、大樹が武器に抉れたような衝撃で倒れる。
攻撃。
それは紛れもなくお前を殺すという意思表示で……
「右ッ!!」
背筋に冷たい汗が吹き出し、肉を抉るようなすさまじい攻撃が飛んでくる。
視界の端で捉えた攻撃にギリギリのところで反応して見せるが――
「舐めんじゃねぇぞ雑魚が!!」
「ぐふっ!!」
ガードした右腕の上から強烈な蹴りが腹に叩き込まれる。
木々をなぎ倒す強力な一撃が打ち出され、衝撃が背中から抜ける。
蹴鞠のようにバウンドする身体が、廃墟の建物に突き刺さった。
「いっが――」
「ポンコツッッ!!」
フィーネの声。
つまりそれは眼帯の男の蹴りによって振り出しに戻されたことを意味し、
「まだ、無事だったか」
男二人に取り押さえられ、それでも必死に抗おうとするフィーネ達の姿があった。
まだだ。まだ終わっってはいけない。
期待に応えろ!!
視界がぐちゃぐちゃになる。
四肢は痙攣して、思い通り動かない。
だけど――
「まだ、やれる!!」
フィーネ達が俺を見ている。
今日くらい、カッコイイとこ見せてやらないと。
固有スキル『自己管理』の能力が俺の身体に地獄のような激痛を走らせる。
構わない。
まだやれるなら『この程度の痛み』いくらでも我慢できる。
「盗賊の右手ォォォ!!」
「――ッ!」
警告音が頭の中で鳴り響き、慌ててその場から飛び退ければ、俺がいた廃墟の壁が手のひら型に抉れる。
遠方では眼帯の男が怪しく、笑みを浮かべていた。
「へへへ、よく避けたな無能。テメェの古巣からは自分を管理することしかできねぇ雑魚って聞いてたんだが、聞き違いだったか?」
「遠距離からの、盗賊系スキル。触れずに盗むとか厄介だな」
僅かに腰を落とし、いつ、何が起きてもいいように『準備』する。
もう少し、もう少しなんだ。
(頼むぞ、俺の身体。もってくれよ)
痛みが走る。
文字通り、身体がむしられていく。
がむしゃらに飛び、避け、瓦礫の上を駆け巡る。
無様でも何でも俺のやるべきことは『時間を稼ぐこと』。
だから――
「どんなカラクリを使ったか知らねぇがそこそこやるようだなオイ。あいつ等が返り討ちにあうとは思いもしなかったぜ」
肩で息をする。
距離は約10メーテル。おそらくそれが奴の射程距離だ。
といっても俺に決定打となる武器は存在しない。
そもそも身体能力が違いすぎる。
いくら距離が離れていても慢心を消したコイツに決定打を与えることはできないだろう。
だけど――
「それで俺が弱いわけじゃない!!」
大音量でならされる警告音。
振り上げた拳。
軽く身をかわすだけで当然避けられる。でも――避けられるのは想定済みだ。
「かかった!!」
「なっ――!? てめっ」
本来は違う使い方なのだろうが、破壊に特化すればこれほどまで凶悪な武器になる。
咄嗟に指で弾いた『ポーション爆弾』。
自爆特攻なんて柄じゃないけど、奇策としては十分だ。
『青い』爆炎が眼帯の男の目の前で弾ける。
全身が焼ける一撃を歯をくいしばって耐える。
まだだ。この程度で行動不能にできるほど奴は弱くない。
案の定、飛んできた拳が頬を抉った。
「はぁはぁ、手間どらせやがって。無能の役立たずの分際で俺に傷を負わせる、意味。思い知らせてやるよ」
咄嗟に首をひねって衝撃を殺したが、それでもダメージは重篤だ。
身体も動かない。
一歩、二歩と近づいてくる眼帯の男。その片方の瞳には明らかな怒りがあり、その手にはいたぶるためではなく殺すためのナイフが握られていた。
「もう油断しねぇ。この世に生まれたことを後悔するくらいぐちゃぐちゃにしてやる」
「ああ、もう俺の秘策はもう終いだ。隠し玉はもう使いつくした」
だけど――
「これでチェックメイトだクソ野郎」
その瞬間、大空を支配する頂点の嘶きが大地を震わせのだった。




