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20話―― 『竜の住処』のそのアギト


 そして予想通り、3回目の休憩以降。俺達は戦いっぱなしの状況が続いていた。

 ダンジョン10層『翼をもつ者の楽園』


 ごつごつした岩場と草原の目立つエリアだが、殊の外マナ含有量の多いこの土地では多くの魔物が冒険者の行く手を阻んでいくる。


 ふと頭痛にも似た痛みを感じて顔をしかめれば、いま物陰から三体のゴブリンがフィーネに襲い掛かろうとしている最中だった。


「フィーネ、そっち三体行ったぞ!!」

「あいよ!!」


 俺の忠告にすぐさま反応して見せるフィーネ。

 引き絞った三本の矢があやまたずその眉間を捉え、次々とホブゴブリンを沈黙させていくが


「数が多い!!」


 冒険者界隈では「危険度だけバカ高くて旨味のない訓練所」として有名な階層なのだが、まさかここまで魔物が活性化していようとは思いもしなかった。


 無限湧きするが如く襲い掛かる魔物の群れに嬉々として相手するフィーネ達。


 どうやら戦闘狂の集まりである彼女たちには性に合っているらしい。

 こっちは指示を出すだけでへとへとだというのに元気なものであるが――


「いい加減しつこい!!」


 湧き上がるゴブリンの群れにうんざりする。


 あの時、ゴブリンの残党を見逃したのが仇になったのか。

 まるで自分の生存を度外視して何かを守ろうとしている必死さだ。


 知性のないゴブリンどもに合わない異常行動ではあるが――


「アンジェリカ! これでラストだ」

「ええ、任せてちょうだい! レオちゃん!!」

「はいっす!!」


 一目散にレオの下に駆け出したかと思えば、即座にとびつき、小柄な少女の大盾を踏みこんだかと思えば、


「いっけええええええええっ!!」


 レオの雄叫びと共に彼女の固有スキル『物理反射』が発動し、アンジェリカの巨体が砲弾の如き勢いで吹き飛ばされた。

 その勢いはシールドバッシュならぬ、投擲のそれだ。

 まっすぐ直線に進んでいくアンジェリカ。


 雄たけびを上げ大剣をきらめかせれば、逃げ惑うキングゴブリンの背中を両断して見せた。


 ドシュッという肉を断ち切る音と共に無残に散らばる小鬼の王の死骸。


 彼女の固有スキル『一撃破壊』が発動したのだろう。

 非常にもったいない気がするがとりあえず――


「……戦闘終了。みんなお疲れ様」


「だあああああああ、疲れた!!」


 周囲に伏兵がいないかを確認して緊張を解けば、まっさきに弓をつがえて周囲を窺うフィーネがゴロンと地面に転がってみせた。

 なにせ15連続戦闘だ。

 今まで持ってた方がおかしい。


「お疲れフィーネ。今回も暴れまわって疲れたろ。ほい、ポーション」


「ん、サンキュ」


 そう言ってポーションの蓋を外し、一息で飲み干してみせたフィーネ。

 相当疲労がたまっていたのか

 青い蛍光色の液体が瞬く間に消え、後から満足そうな息づかいが聞こえてきた。


「んっ、かぁああ!! 相変わらずうめぇなこのポーション」


「そう言ってもらえるなら調合してる甲斐があるよ」


「あん、別にテメェを褒めたつもりはねぇんだけど」


「そうか? だとしてもお前が満足してくれるのなら俺は普通に嬉しいんだがな


「ふん、なんだよそればっかじゃねぇの」


 そう言ってフィーネの言葉に偽りのない笑顔で返してやれば、罰の悪そうに顔をしかめてみせるフィーネ。

 戦いの高揚感で油断していたのだろう。

 すぐにバツの悪そうな顔になると


「はん。ポーションづくりが上手くうまくたって狩りが全然じゃ意味がねェんだから自分が優秀だなんて勘違いすんじゃねぇぞ」


 と悪態をつくようにぶっきらぼうに言ってみせた。

 今度は自分のアイテムポーチから二本目の濁ったポーションを飲んでいくと、その顔が明らかに不機嫌に彩られていく。


 昨日作り方のコツを教えたがまだまだ納得できるものじゃなかったのだろう。


「もう一本飲むか?」と問いかければ、無言の右手が催促するように俺の方に伸びた。


 相当気に入ってくれたらしい。

 夜遅くまで作りまくった甲斐があるというものだ。


「しかしなんだってこんな足手まとい連れてかなきゃなんないんだか。

 少しはまともだと期待してたのに雑事以外ぜんぜん役に立たねぇじゃねぇか」


「まぁまぁそう言わないのフィーちゃん。ワタくんがいるおかげでダンジョン探索が楽になっているのも事実なんだからこれも立派な役割分担よ」


「冒険者が炊事洗濯で満足してちゃ意味がねぇって言いたいんだよあたしは」


 そう言ってアイテムポーチから俺特製のジャーキーをかじってみせるフィーネ。

 アンジェリカはヤレヤレと首を振っているようだが、フィーネの言葉には一理ある。


 なにせ、第10層に来るまでずっと彼女たちのチカラに頼りっぱなしなのだ。

 

 いくら料理が上手く調合技術が高いくらいでも実際、現場で活躍しているのはフィーネ達なので彼女の不満も納得できる。


 といっても本気で言っていない事は言葉のニュアンスでなんとなくわかるので

 じゃれ合い程度の悪態なのだろう。


 まぁこの量の魔物を相手すれば悪態の一つもつきたくなるものだが


「それで、例のルートは本当にこっちであってるんだろうな」


「通りがかった冒険者がこっちに竜種が飛んでいったと言っていたからおそらく間違いないと思うんだけど、レオ的にはどう思う?」


「レオっすか? 確かになんかつよそーな感じはビンビン感じるっすけど――」


「それにしちゃ飛竜の一匹見当たらねぇよな?」


 レオの困惑顔を引き継ぐようにこちらに視線を向けてくるフィーネの言葉に思わず言葉が詰まる。


 ダンジョン10層到着後、これと言った成果が得られていないのは確かに不安しかなかった。

 なにせダンジョン探索に置いて、冒険者の目的は多岐に存在する。

 魔物の討伐。護衛依頼。採取クエスト。未開拓ルートの発見。

 

 その中で俺達が今回標的とする『獲物』は生半可な覚悟では討伐できないのだ。


 いつもなら薬草や魔物の採取だけで満足する彼女たちも、今回ばかりは焦りの様子が浮かんでいるように見えた。


 俺もこのまま消耗戦だけを繰り返すのは避けたいところなんだが、なにせヒントと言ったものが見つからないのはかなり痛い。


「そもそも本当に情報が正しいかも怪しいもんだな。

 連中、アタシらが弱小ギルドだってわかってた風があったぜ? 適当な情報を流して無駄足ふませる気なんじゃねぇのか」


「だとしても彼らにメリットがなさすぎるんじゃないか? 竜種なんてそれこそここで探索する冒険者なら真っ先に回避したい存在だろ? もし妨害目的なら素直に竜種の居場所を教えた方が効率がいいはずなのに……」


 なにせ目指す『場所』が『場所』だ。

 俺みたいな無能ならともかくフィーネみたいに戦い慣れてるやつを罠にはめてもメリットはないと思うのだが


「とりあえず俺はもう少し進んでみてダメならいったん引いて体勢を立て直したいと考えてるんだが、どうする? 他に何か案があるなら俺は素直にその方針に従うが」


「うーん、私はもうちょっと進んでみてもいいと思うわ。『目的地』にたどり着く前に竜種に会えるのならめっけものだと思うし、レオちゃんはどう思うかしら」


「レオっすか? うーん、そうっすねぇ。とりあえず当たって砕けろでいいんじゃないっすかね」


 いや砕けちゃダメなんだって。

 まぁ本当に砕かれかねない相手なので笑いごとにもならないのだが――、


「それでフィーネはどう思う。このパーティーのリーダーはお前だからお前が危険だと思えば別の探索ルートを模索してみるが……」


 順繰り二人の意見を聞き、フィーネの方に視線を投げかけてやれば

 瞑目したフィーネがおもむろに立ち上がり大きなため息をついてみせた。


「はぁーまったく。手掛かりゼロとか。うちのギルマスはなんだってこんなに無謀なのかねぇ。

 よりにもよって『あの』依頼をギルド加入試験にするなんて」


「それについては同感だな」


 そう言って深く同意してやれば、

 ガリガリと黒髪を掻き揚げ、深くため息を吐いてみせるフィーネ。


 本来の彼女なら構わずめんどくさいという場面だが、ここはダンジョンだ。

 適当に判断を誤ってパーティーを危険にさらすわけにはいかない。


 撤退か前進か。


 悩みどころではだが、命あっての物種ともいうし、補給できる素材もここのエリアには少ない。となると残された選択は――



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