19話―― 『行い』こそ信頼の証……
「あいつ等のために全力を尽くせるのってのは、こんなにうれしいもんなんだな」
そう言ってを思い返すように一人ごちれば、剥ぎ取り中の手をふと止めてみせた。
ふと手元から視線を外せば、そこには常識はずれでけれども頼もしい『仲間』たちが。
第10層だというのに、まるで我が家にいるかのような落ち着きっぷり。
ようやくこのマイペースな雰囲気に慣れてきた俺だが、
それこそ初めて彼女たちのダンジョン探索の仕方を見たときは最悪だった。
先人が残した『ベースキャンプ』も使わず、眠たくなったら寝る。
腹が減ったら狩りをするの繰り返しだ。
風呂に入れないからと言って湖を見つけては、魔物がいるかも確認せずそのまま突撃していったときはホントに驚いたものだ。
荒々しいし、わがままだし。言ってみれば本能的に狩りをしているように見えた。
でもそれは表面的なもので、十日間もいっしょに過ごせば彼女たちの本質が見えてくる。
(不器用なだけなんだよな、彼女たちは)
おっとりしているようで、迷った時のパーティーの引き締め役であるアンジェリカ。
どこまでも前向きでひたむきなムードメイカーのレオ。
そしてその荒々しい言動と性分のせいで勘違いされやすいが、その実、自分のことを後回しにしてパーティー全体にいつも気を配っている世話焼きのリーダー。
誰かのために自分の『全て』を使いたいだなんて思えるようになったのは久しぶりだ。
「だから俺も惜しまず全力を尽くせるんだろうな」
気付けば自分の命の保身などどうでもよくなっていた。
すべきことは、どう彼女たちのパフォーマンスを最大限に上げてやるか。
どう彼女たちの魅力を活かしてあげるか、そのことに尽きる。
だからどんな状況だろうと些細な変化は見逃さないようになっていた。
すると背後から木々を踏みしめる音が聞こえてきて、後を追うようにおっとりした声が飛んできた。
「そろそろ休憩を終わりにしたいってフィーちゃんが言ってるけど、もう少しかかりそう?」
「あーすまない。少しボーっとしてた。もう少し待っててほしいと伝えておいてくないか」
「別に焦らなくても大丈夫よ? どうせいつもの気まぐれだろうから」
だろうと思った。
だけど第10層ともなれば『彼女たち』が浮足立つのもわかる。
なにせ俺達は『ここ』に用があってダンジョンに挑戦しているのだから。
そう言って「じゃあフィーちゃんに報告してくるわね」と言って去って行こうとするアンジェリカを慌てて呼び止める。
「ああ、そうだ。これ、スタミナポーション。今のうちに飲んでおいてくれ」
「あらいいの? ここで使っちゃって昨日夜遅くまで一生懸命に作ってたのに」
「バレていたのか……」
「まぁあれだけ夜遅くまでやっていたらさすがにね」
そう言って苦笑して見せるアンジェリカ。
まさか夜一人でこっそりやっていた『内職』に気づかれていたとは、なんとも恥ずかしい。
「フィーちゃんのポンコツって呼び方を気にしてるのなら、あんまり深く考えないでいいんだからね? ただ男の人にあんまり免疫がないだけで、ワタくんの実力はちゃんと認めていると思うから」
「アンジェリカにそう言ってもらえるのなら俺もこれまで頑張った甲斐があるけど……俺は別に強制されてるとか、役に立たなきゃとかそういう強迫観念で動いている訳じゃないさ。これは俺がやりたいことなんだ」
「そうなの? でもスタミナポーションって作るのにも時間が掛かる高級品だって聞いたけど」
「それなら経費はほとんどゼロだから気にしないでいいよ。他の冒険者の話だとここら一帯は竜種のテリトリーらしいから、一応念のためにな」
「三本しかないけど、ワタくんは飲まないの?」
「残念ながら素材の関係上、それで全部なんだ」
スタミナポーションは読んで字のごとく、体力増強剤だ。
飲めば少なくとも3日間は休憩いらずという破格の効果を持つ代物だ。
命がけのダンジョンではまさに冒険者が喉から手が出るほど欲しがる必需品と言えよう。
「でもそれじゃあワタくんが……」
俺は固有スキル『自己管理』があるので例え30連勤であろうと1時間も休めれば身体は万全な状態に戻るから問題ないよ。
それにだ――
「俺はいつも頑張ってる君たちに飲んでほしい」
「まぁ最初見た頃より頼もしくなっちゃって。初めての夜はあんなに慌ててたくせに」
からかうのはやめてくれ。
俺だって俺らしくないと自覚してるんだから。
「わかったわ。それで素材の下処理にはどのくらいかかるかしら」
「約30分ってところだな。ああ、あと武器のメンテとかできるから、何か違和感とかあれば気軽に言ってくれ。切れ味を戻すくらいならできるから」
そう言ってなにげなしに近づいてきたアンジェリカの大剣を指摘してやれば
彼女の瞳が大きく見開かれた。
「よくわかったわね。そろそろ補修が必要だって」
「手ごたえが少し不満そうだったからな。いくら固有スキルがあるとはいえ、武器に補助が掛からない場合だってあるからな。手の空いてるときに軽く見ておくよ」
「それじゃあお願いするわ。ここ最近切れ味が落ちてきてると思ってたのよ」
「任された。あ、あとフィーネの矢じりに必要な魔石がいくつ欲しいか聞いてきてくれるか? 一応こっちで勝手に用意させてもらってるけど、無属性の魔石を使って加工できるから補充が必要なら言って欲しい。また作っておくからって」
そう言ってずっしりと重い大剣を受け取り、ふと視線を外す。
視線の先にはゆったりと木の上でくつろいでいるようで、周囲の警戒を怠らないフィーネの姿があった。
あれで休憩しているつもりなのだろうか。
本当にわかりにくい奴だ。
「ほんとワタくんって何でもできるのね」
「なんでもはさすがに無理だけど、武器の補修や道具制作は雑用の俺の仕事だからな。これくらいは役に立たないと」
そう言って喋りながら手早くゴブリンの魔石の『加工』を進めていく。
ゴブリンはあまり活用できる素材はないので、魔石だけ摘出する簡単なお仕事だがこの管理の仕方が難しい。
なに低品質だからこそゴブリンの魔石は劣化しやすいのだ。
市場に持って帰ってもどうせ二束三文にしかならない。
だったらさっさとフィーネの『矢じり』に加工して使ってもらった方が有効的に活用できるだろう。
なにせフィーネはこのパーティーの生命線と言っても過言ではないのだから
「フィーネは何か言ってたか。その――俺が作った弓矢について」
「だいぶ威力が上がってたって驚いていたわよ。あたしや武器屋の親父が作ったやつよりすげぇって」
「そうか。それはよかった」
自然と安堵の息が口から洩れる。
差し出がましい提案だったが、夜こっそり補充しておいた弓矢は意外と好評だったようだ。
余計なことをするなと罵倒されることを覚悟していただけに、その真実はかなり嬉しい。
「改めてみるとフィーネの弓の腕ってのはすごいな」
「それはもう天眼持ちですからね」
「天眼!? 道理ですごいわけだ」
天眼と言えば文字通り、目に作用するスキルの『総称』だ。
遠くを見渡すことのできる『鷹の目』。相手の弱点が見える『弱点検索』など様々だが、
なかには過去視など時間軸に干渉できるスキルもあると言われているほど貴重な固有スキルだ。
それこそ、その固有スキルを持つ者は一生、食うに困らないと言われているほどで、全線で活躍する勇者パーティーの弓使いも『天眼』持ちだと言われている。
「わかっちゃいたけどフィーネってすごい奴だったんだな」
「そうよー。私たちの自慢のリーダーだもの。ちなみに私は『一撃破壊』。レオちゃんは『物理反射』ね」
「……いいのか俺みたいなよそ者に自分の固有スキルを人にばらして」
「そんなの今更じゃない。司令塔のあなたが私たちのスキルを把握してないと色々と大変でしょ? あなたが周りを見てくれるようになってから私の役割がずいぶんと楽になったのよ?」
そう言って照れくさそうに頬を掻いてみせるアンジェリカ。
その視線は我らがリーダの方に向けられており――
「フィーちゃんはあまり自分の過去を語りたがらないけど、すごい努力家なの。
だからいつも周りに気を配っていてトゲトゲした言い方になっちゃうの。
でも今回、ワタくんを連れてきたからあの子、あれで結構あなたのことを気にしているのよ」
「俺を?」
「いつもは自分で突撃して成果を上げようと色々無茶をしていたから
あれでも結構、抑え気味って言ったらどうします?」
「いやどうするもなにも――」
まじか、あれで抑え気味なのか。
するといい加減待ちきれなくなったのか
背後からフィーネの苛立ちを含んだ声が飛んできた。
「おーい、まだチンタラしてんのか。さっさと仕上げねぇと置いてくぞ」
「もうちょっとでした処理終わるから待てって。アンジェリカ。急だったから応急処置くらいのことしかできなかったけどこんなもんでいいか?」
「ええ、十分だわ。これなら思う存分『肉』を両断できそうね」
「そりゃよかった」
そうして満足そうに笑みを浮かべるアンジェリカが鞘に大剣を収めるのを見届けると
俺は必要な下処理を終えた素材の数々をマジックバックに収納し、後ろを振り返るフィーネたちのもとに走っていくのだった。




