18話―― 雑用。自分の役割を見つける。
やれることは全部やる。
それは今まで不貞腐れ、自分の夢を諦めかけていた『ダンジョン』への初めての抵抗だった。
ダンジョン探索に乗り出してからはや十日。
初めはギクシャクしていたパーティーメンバーとの交流も何度か食事を重ねることでいい加減その特徴も把握できるようになっていた。
索敵、とまではいかないが
俺の固有スキル『自己管理』が思いのほか役に立つらしい。
ダンジョンに潜ってからというもの、俺の固有スキルがいつの間にか『技術』として目覚ましい進化を遂げていることに気がついた。
ただ自分の体調を管理するだけしか能のない固有スキルがダンジョンに適応するが如く
冒険者向きへと『調整』されていく感覚、といえばいいのだろうか。
(この感覚――前にも一度どこかで)
思い出せないほど過去の体験だがあながち思い違いではないようだ。
現に過去の実体験が『経験』となって成果に現れ始めていた。
「フィーネ! 右前方位置に俺達を狙っている獣がいるぞ迎撃準備!!」
「あいよ」
「レオ、敵の数に気を付けて押さえつけろ」
「了解っす!!」
「アンジェリカ。レオの討ち洩らしをカバー」
「はーい」
間延びした声と共にゴブリンの断末魔が聞こえてくる。
周囲の状況を大まかに把握し、『彼女』たちから一歩離れた視点で状況を俯瞰し、指示を飛ばす。
それがいま俺ができる最良の選択であり、役割だった。
(思いのほかしっくり来ている自分自身に驚いてるところだけど、感動するのはこれが終わってから――ッ!!)
各々が各々、必要な役割をこなしていけば自然とパーティーとしての役割が定まっていけばもう彼女たちの前に敵はいない。
即座に弓をつがえたフィーネの弓矢が草藪の中に消えたかと思えば物陰に隠れていたゴブリンを釣りだし、
大盾を振り回してヘイトを稼ぐレオが豪快にゴブリンを打ち上げる。
ゴブリンとはいえ、第十層の魔物となれば油断ならない。
現に後ろに控えていたであろうゴブリンウィザードがこちらに向けて魔法の炎症を始めているが
トドメとばかりに大胆に振り回されるアンジェリカの大剣が空中に舞った『障害』もろとも両断して見せた。
短い悲鳴を漏らしてはバッタバッタと沈黙していくゴブリンたち。
「まだまだレオ達のチカラはこんなものじゃないっすよー!!」
「深追いは禁物だからな!!」
「了解っす!!」
そう言って獣人の華奢で小柄な身体には不釣り合いな禍々しい盾を両手に構えてみせるレオ。
彼女の言うように、このパーティは想像以上にハイレベルの連携を見せていた。
リーダーの弓使いであるフィーナが軽やかに周囲を索敵し、メイン盾のレオが迫りくるモンスターを押しとどめ、大剣持ちのアンジェリカが一刀両断する。
基本的にこれが彼女らの連携攻撃なのだろう。
一見豪快に見えてそれぞれがそれぞれの端緒を的確に補っている。
そして一歩後ろで彼女らの活躍を見守っている俺と言えば――なぜか司令塔の役目を押し付けられていた。
というのもリーダーであるフィーネの戦闘スタイルのせいなのだが――
「ああったく、ここまで鮮やかだと逆に感心するなぁちくしょう!!」
まったく、つくづく型に嵌らない常識知らずのパーティーだ。
『近距離弓術士』
読んで字のごとく超至近距離から弓矢を放つ、弓という遠距離武器の利点を潰し
確実に急所を射抜くという矛盾した戦い方だ。
軽やかに身体能力で地形を利用し相手を撹乱し、相手の死角外でとどめを刺す。
明らかに近距離武器を使った方が確実なのに、彼女の動きはまるで相手の動きがあらかじめわかっているかのように洗練されていて美しかった。
憧れを捨てられず、やけっぱちで挑戦した少年時代を想えば、
当時の俺と同じ年頃の子供たちとは思えない練度で仕上がっていた。
「しかもお荷物の俺を連れて十層到達とか、やばすぎだろう」
『ここ』までくるのに色々なトラブルがあったが
それでも無傷で来れたのが奇蹟なくらい冗談じみた成果だ。
てっきり道中の撤退を余儀なくされるもんだと思ったが、問題なく到着してしまった。
(道理でギルドマスターのシャロンが太鼓判を押していたわけだ。明らかにそこら辺の冒険者の実力の頭一つ抜けてるな)
現に十日かけてようやくダンジョン10層『翼をもつ者の楽園』にまでたどり着けていたのがいい証拠だろう。
よほど環境に恵まれなかったのか、これなら即A級と言われても不思議じゃない。
「ふぃー。戦闘終了ッと。ゴブリンの軍勢ってのなかなか面倒だな。もしかしたらこの近くにキングがいるかもしれないねぇな」
「ええ、どうやら草陰に待機していたゴブリンたちも恐れをなして逃げていったみたいだし知恵の回る個体がいるのは間違いないようね」
「ふふん! いまのレオ達にかかればゴブリンキングなんて楽勝っすよ!」
そう言って嬉しそうに飛び跳ねてみせるレオ。
戦闘を終えたばかりなのにみんな元気だ。
それにしても――
(短く大まかな指示を出しただけでここまで変わるものなのか。動きが最初の頃と全然違うじゃないか)
即座に俺の指示に反応してみせるフィーネの弓の腕もすごいが
どうやってあの暗がりから敵の位置を補足しているのだろうか未だなぞだ。
草藪を覗いてみればその弓矢は寸分たがわず獲物の眉間を捉えていた。
「すごいな。急所ど真ん中じゃないか」
「ふん、まぁそれほど騒ぐことじゃねぇよ。こんなのあたしみてぇ―な冒険者なら誰にだってできらぁ」
「そうか? 大まかな指示だったとはいえ、敵の急所を正確に射抜くなんて誰にでもできることじゃないぞ。しかもこんなアルマラビットの眉間を射抜くなんて」
「あら? それを言うのならワタくんの能力もすごいじゃない。
危機察知系なのかしら。襲われる前に即反応できるなんて探索が楽で助かるわ」
「まぁレオ的にはちょっとだけ物足りないっすけどね」
そう言ってはゴブリンの胸をかっぴらき、大量の魔石を抱えて戻ってくるレオとアンジェリカ。
まだまだ拙いところはあるとはいえ、その手際は十日前と比べるとずいぶんスムーズ見えた。
「それじゃあいつも通り、剥ぎ取りの方よろしくね。センセ」
「よし、任された」
ここでも雑用の仕事をしているが、それは俺の方から申し出たことだった。
炊事、剥ぎ取り、パーティーメンバーの状態管理。
この十日間。己の役割を見つめ直した結果。
俺は俺にできる役割を徐々に確立していた。
冒険者単体としては活躍できないかもしれないが、
それでも俺には十年間ギルドという一つの生き物を管理してきたという自負があった。
いくら肉体が強くても、体調が悪くて本領を発揮できないことなどざらにある。
それこそ、ここは前人未踏ともいえる規模のダンジョンなのだ。
回復魔法が使える魔法使いがいればまだ話は違うかもしれないが、ここに治療院もなければ教会もない未開拓の地。
(ダンジョン攻略において体調管理は『外』の数十倍は難しい、と言われている。そしてこと『体調管理』に関しては俺の右に出るものはいない、か)
まさかこんな形で自分の力が貢献できるとは思わなかった。
冒険者ギルドに尽くして十年間の雑事の日々は無駄ではなかったらしい。
フィーネ達が自分たちの健康状態を気にせず遠慮なく暴れまわれるようになったからか。
そのパフォーマンスは初日の動きとは比べ物にならないほど冴えわたっていた。
なにより――




