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15話―― 雑用。解体技術を伝授する。

◇◇◇


 そんな訳で――


 怒涛ともいえるドタバタ☆ギルド『新人』加入騒動から約半日。


 味方の誤爆もとおい誤射によるアイキャンフライから無事生還した俺は、

 現在、薬草の水に浸した冷たい布を額に当て、ベースキャンプとした草むらの上にぶっ倒れていた。


 もちろん理由は簡単で、


 一時間にわたる決死のダンジョンソロ活動による精神疲労と過労のせいが溜まって動けなくなってしまったのだ。


 救出に来てくれたフィーネ達からは「情けねー」という心無いお言葉を頂戴したが

 文句は言わせん!!

 だって――


「味方に殺されるとか、マジ笑えねぇ」


「まぁだぶつくさ文句言ってんのかよ。ちゃんとあやまったろうが。まだ根に持ってんのかよ」


 ああ俺だって許したかったよ

 その謝罪の言葉が、わりぃポンコツじゃなかったらな!!


 だが怒る気力は俺には残っていない。


 唯一俺のなかで残っている感情といえば大地があるのは素晴らしい!! という喝采だけだった。


 ぐったりと額に手を当て大きく深呼吸をすれば

 ヒポクテ草の滋養効果が全身にしみわたる。


 一応、ギルドを追放された身だけど、

 ダンジョン探索の死因が味方からの支援誤爆とかいくらなんでも笑えない。


 無理をして足手まといを連れて歩くくらいなら、少しは休憩した方がいいだろうというレオ達の優しさにもう少し甘えることにしよう。


 と、言う訳で――


「そろそろ解体し終わったかフィーネ」


「ああもう焦らせるんじゃねぇよ!! そう簡単に解体作業が終わる訳ねぇだろ!!」


 と額に乗せた布を取り、右隣に視線を投げかければ、

 解体用のナイフを片手にブツブツ文句を言いながら解体作業を続けているフィーナの姿があった。


 一応、大人しく黙々と解体作業を続けていたようだが、上手くいかなかったのか

 我慢できないといった感じ荒々しくその黒髪を掻き毟ってみせる姿は実に彼女の性格をよく表している。


 なんであれだけ戦いが上手いのに、こういうチマチマした作業が苦手なのかわからない。

 一応、弓使いでしょうあなた?

 なんで剥ぎ取り一つスムーズにできんのだ


「だああああぁめんどくせぇ!! そもそもなんでこのあたしがレッドベアの解体なんかしなきゃいけないんだよ」


「それがお前の罰だからだよ!!」


 恨みというほどではないがそれでもそれなりの罰がなければ腹の虫は収まらん。


 なにせ一時間。一時間だ。


 ほぼ丸腰でダンジョンに一人孤立する俺の気持ちを考えてみろ!!


 フィーネの『爆裂弓術』の爆風に巻き込まれて、コメディチックに吹っ飛ばされた俺だが

 その実、マジで冗談で済まされないほど絶体絶命のピンチに陥っていた。


 『固有スキル』の危機管理スキルがなければ六回くらい色んな魔物にモグモグされていただろう窮地の数々。

 いま思い出しただけでもチビりそうだ。


 ドキドキわくわくのダンジョン探索も、ドキドキの意味が変わるとマジで怖いんだね!?


 初めて知ったよ。

 そしてそんなTHE・無能な俺がこうして五体満足に生き残れた理由と言えば


「とりあえず、獣人のレオが俺の身体に染みついた独特な匂いを覚えてくれてたから助かったもののあと一秒遅かったら、俺はレッドベアーの昼ご飯になっていたんだぞ!? 

 お前マジでわかってるのか!?」


「だけどよそれ助けたのアタシじゃん。なんでテメェに恨まれなきゃなんねぇんだよ」


「その俺を吹っ飛ばした原因を作ったのはお前のお茶目でしょうが!?」


 あとでアンジェリカに聞いたら、フィーちゃんがごめんねって謝ってきたんだからな!?

 あの時の俺のやりどころのない怒りを今思い知れ!! 


「だから役立たずのポンコツの代わりに、こうしてあたしが解体作業を手伝ってんだろうが。

 いい加減機嫌なおせってめんどうくせぇ」


「ついに本音が漏れたなこのヤロウ!? 

 つか獲物と一緒に爆散させられてどうやって機嫌を直せと!?」


 お前、爆発の瞬間に足元がひゅっっとなる恐ろしさがお前にわかるか!? 

 あれめっちゃ怖いんだからな!!


「そうか? あたしがやった時はけっこう楽しかったけど」


 ……うん。お前に聞いた俺が馬鹿だったよ。


「なぁーもう回復してんだろ? てめぇごと吹っ飛ばした悪かったって謝ったんだからいい加減不貞腐れてねぇで剥ぎ取り手伝えよ。めんどくさくて仕方がねぇ」


「ならん。せめてダンジョン探索に出かけてるレオとアンジェリカが帰ってくるまでは絶対に許さんからな。

 それにこれはレオとアンジェリカから素材の剥ぎ取り方を教えてやってくれって頼まれてるし、今日はミッチリ行くぞ」


「うげぇー」


 というわけで罰としてお隣に見るも無残な姿で横たわるレッドベアーの死体の解体処理させている訳だが――逆に聞くけど、なんでこんな基礎の基礎の知らないの?

 馬鹿なの? 死ぬの?


「というか何度もダンジョンに潜ったことあるんだろ? 何回か魔物の解体は経験して事あるだろう? なんでできないんだよ」


「そういうのはアンジェリカとレオの仕事だっつーの。あたしは主に殲滅担当。こういうチマチマしたのは柄じゃねぇの」


 なるほど、やけにアンジェリカが俺に「お願いね!」と念押ししてきたわけである。


 まさかこんなダンジョンの奥底でこんな初歩の初歩を教えることになるとは。

 人生何が起きるかわからないな。


 初めて彼女の荒々しい『解体技術』を見せつけられた時には思わず悲鳴を上げたが、あれは間違いじゃなかったらしい。


(まさか探索初日でこんな濃密な生き死にを経験する日が来ようと思わなかったな。

 いくらなんでも不幸すぎるだろ、俺)


 とりあえずこんなバカ騒ぎをしているが、ここがダンジョンであることには変わらない。


 あたりを見渡せば思いのほか和やかな森のなかだが、

 そのじつ。様々な脅威が今か今かと俺達の隙を窺っていた。


 ダンジョン『バベル』の第五層攻略の中間地点。

 それがいまいる俺達の現在位置だ。


 急造のパーティーの為。現在俺は荷物持ちという形でパーティーに参加している形だが

 ここまで半日。

 彼女たちの戦い方を見て思ったことは、

 フィーネたち『夜明けの日差し』は相当特殊なパーティーであるということだ。


 大盾持ちのレオに大剣使いのアンジェリカ。

 そして『近距離弓術士』にしてリーダーであるフィーネ。


 パーティメンバーは前衛、中衛、後衛とバランスがいいのだが


 なにせ狩りの仕方に癖があり過ぎるのだ。


 正直『近距離弓術士』という二つ名の意味を知ったときは正真正銘度肝をぬかれたものだ。


(まぁそれでパーティーが機能してるからすごいんだけど、なにぶんそれ以外のスキルがなぁ)


 弓使いが前に出るなんて聞いたことがない。

 普通は『あんな戦い方』は絶対にしない。いや、無謀すぎてできないだろう。


 だからこそ予想外の動きに取り残された俺一人が

 魔物の群れの中にポツンと取り残される大事件が発生してしまったわけだが――


「なぁこのくらいでいいか?」


「ん? 悪い聞いてなかった。なにか疑問点でもあったか?」


「だーかーら、魔石の処理はこのくらいでいいのかっていってんの!」


「あーそうだな。ギルドに納品するんだったらまだ肉の解体が雑だな。もっと魔石と肉の間を丁寧に剝ぎ取らないと魔石自体に『濁り』が出るぞ」


「ちっ、こまけぇな。こんなのはだいたいでいいじゃねぇか」


 そう言ってはぎ取ったレッドベアーの魔石を手の中で器用に回せば、

 うんざりと言った様子で無残になり果てた『お肉』の解体を続けるフィーナ。


 どうやら性格はともかく根はまじめらしい。

 その拙い解体作業を見て、元・雑用係として口を出したいところではあるが


(ここは我慢)


 これも全てはフィーネの為、俺のダンジョン生還のためだ。

 教えることは山のようにあるが、荒事じゃない分やりやすい。


「でもよぉ、なんでレッドベアーの解体なんかしなきゃなんねぇんだよ。

 こいつの肉は固くて売りもんにならなくて有名だろ? 

 こいつじゃなくあたしが狩ったウルフドッグの肉の方が楽なんじゃねぇの?」


「ん? そりゃレッドベアが一番剥ぎ取りの練習に向いてるからに決まってるだろ。

 肉が硬ければ皮をはがしやすいし、特殊な毒もない。

 魔石だって小さいから探す練習にもなるから結構、大手ギルドでは

 新人の育成試験として重宝されてるんだぞ」


 あとは今日の昼めしにもなる、という理由もあるがこれは言わない方がいいだろう。

 なにせレッドベアーの肉はめちゃくちゃ不味いことで有名だし。


「うげーめんどくせぇ」


「めんどくさくてもやるの。それがお前の冒険者スキルを上げる唯一の手なんだから。

 罰だと思ってレオ達が返ってくるまで大人しく剝ぎ取ってしなさい」


「ちぇ、なんであいつ等だけ罰免除なんだよ。

 あーあ。ったく雑用のポンコツの癖にほんと言うことだけはいっちょまえだよなテメェ」


 だまらっしゃい!!

 それとこれとは話が別です!!


 そうしてめんどくさそうにぶつくさ言いながらも続く素材剥ぎ取り研修は

 探索からレオとアンジェリカが帰ってくるまでミッチリ続くのであった。


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