14話―― 雑用。個性豊かな仲間を得る!?
そう、話は一昨日に巻き戻る。
鉄火のガンテツを無事に追い返すことに成功した俺とシャロン。
お互い抱き着くようにして喜びを分かち合っていた時にそれは起こった。
「いやああああ、よかったよおお」と泣いて抱き着いてくるシャロンを抱き上げ、柄にもなくテンションマックスでクルクルしていると
「このヘンタイヤローがああああああ」
と豪快なとび蹴りが俺の脇腹に炸裂したのだった。
せっかく無傷で解決したというのに突然の蛮行。
なにごとかと驚いたその時の俺の気持ちを理解してほしい。
固有スキル『自己管理』の警告もなしに突き刺さるとび蹴りに思わず「ひでぶ!?」と気持ち悪い叫びが漏れ、
そのままもんどりうって壊れかけのカウンターにまで吹っ飛ばされれば、
「動くなロリコン野郎。うちのギルマスになにしてやがる」
と弓矢をつがえその鋭い矢じりを俺の鼻先に向ける褐色の少女の姿があった。
その姿に目を奪われなかったと言えば嘘になるだろう。
赤みがかった褐色の肌に、紫紺の夜を溶かしたような艶のある黒髪。
まるで本人の気質を体現したかのように黒髪は後ろの方で乱暴にまとめられ、せっかく美しい黄玉の瞳を片方隠しているような格好だ。
服装も弓を使うからかまるで踊り子のような民族衣装に最低限の皮鎧をつけたような形だが、
「大丈夫かシャロン!! 何か変なことされてねぇだろうな」
その太陽のような色彩の瞳がさっと後ろで呆然と立ち尽くすシャロンの方に向けられた時。
俺はようやく自分が危機的状況にいることを思い出していた。
いくら衝撃的な出会いだからと言って見とれすぎだろう俺。
だがそんなことをお構いなしに褐色少女の弓矢は俺に向けられ、そのどことなく野蛮な顔がさらにきつくなって俺を睨みつける。
「ったくカチコミか。何だこの惨状は――あたしらがいないことをいいことに好き勝手しやがって。殺される覚悟はできてんだろうな、ああん!?」
「ちょ、ちょっと待て。俺は客だ。このギルドを襲ったのはもっと別の奴だ」
「客だぁ。嘘つくならもっとましなウソつきやがれ。こんなおんぼろギルドに依頼出そうなんて偏屈な野郎がいる訳ねぇだろ」
「うわーちょ、ちょっと待って、違うよ違うフィーナちゃん。この人は本当にお客さんだって。だからアスカロンしちゃダメだってば!?」
「あん? 客ぅ? こいつがかぁ? どう見ても不審者にしか見えねぇぞ」
「悪かったな小汚くて!!」
そう言って両手を上げたまま反論してやれば
シャロンの言葉にあからさまに狼狽えてみせる褐色少女――フィーネ。
彼女の反応からこのギルドの依頼のなさが窺い知れるが、それにしたって暴力的すぎる。
見た目以上に荒々しい性格のようだ。
まさか出会って一秒で殺されかけるとか予想外だ。
すると足音が増え、無残に壊れ果てた玄関から二人の女性が歩いてきた。
「ういーっす。ギルマスただいま戻りました―!!」
「もぉー、いきなり装備パージするから何事かと思ったけどなにも起きてないじゃない。じゃんけんで負けたのフィーナちゃんなのに荷物持ち私に押し付けるなんてひどいじゃない、――ってフィーナちゃんなにしてるの?」
そう言ってお気楽なノリから一転。
玄関からやってくるなり目の前のカオスな状況に目を点にする二人組の冒険者。
一言でいえば長身ボインの金髪美女に、犬耳生やした白髪少年少女? だろうか。
その表情から明らかに動揺しているのが窺い知れる。
「えっと、これはいったいどういう状況かしらギルマス。ちょっとダンジョンから帰ってこない間にずいぶんと物騒なことになってるのだけど」
「いつも通りフィーナちゃんの大暴走だよ」
「あん? あたしはただよくわからねぇ不審者がシャロンを押し倒してたのが『視えた』から何事かと思ってな割って入っただけだ。別に悪い事なんざ何もしてねぇぞ」
「だからって初対面の人に武器を向けるのはいくら何でもやり過ぎよ? そこの男の人もビックリしてるじゃない」
「しょーがねぇだろ。ここ最近物騒でまたあたしらのギルマスが狙われてんのかと思ったんだからよ」
そう言って「わりぃなポンコツ」と言って謝ってるのか罵っているのかわからない事を言ってみせるフィーナ。
そう思うのならまず、この目の前の矢じりを何とかしてもらいたいんですが……
「それならテメェが敵でないってことを証明してからだ。もしヘタな真似したらその眉間ぶち抜くぞ」
「えらく理不尽過ぎない!?」
「もぅ。フィーちゃん相変わらずなんだから。本当にお客様だったらどうするつもりなの? レオちゃんからも何か言ってあげてちょうだい」
「まぁ、言葉より先に手が出ちゃうのは愛情深いフィーナ姉ぇのいいところなんっすけどね」
「いや。どこが!? 黙って静観してないで止めてよ!?」
「「無理っす(よ)」」
やれやれと首を横に振ってみせる月の光を溶かしたような金髪の豊満な女性の言葉に、白い犬耳をはやした幼女? が面白おかしそうに首の後ろで腕を組んでみせるが、
「えっと、シャロン。彼女らは――」
「ああ、そういえば紹介がまだだったね。彼女らがさっきわたしが言ってた三人のギルドメンバーだよ」
そう言って俺の動揺を察したように説明するのはシャロンだった。
「右から順に大剣使いのアンジェリカと大盾使いのレオ。そして君に矢を突き付けてるのがウチの看板の近距離弓術士のフィーネだよ。みんないい子だから仲良くしてくれると嬉しいな」
えっと、仲良く? この状況で? 絶賛殺されそうになってるんですけど!?
その琥珀色の目玉は飾りか。
「まぁまぁ、そんな顔しないで。これから嫌でも仲良くしなきゃいけないんだから。ここはギルドマスターの顔を立てると思って。ね、お願い」
いや、お願いと言われても……なぜおれがアンタの顔を立てねばならぬのだろうか。
そうして恐る恐るこの弱小ギルド唯一のパーティーグループに視線を向ければ
「どうぞお見知りおきを」「よろしくっす」「ふん――」
という三者三様の返事が返ってきた。
長身のおっとりしたアンジェリカは丁寧だし、俺の身長の半分もないレオは身体全体を使って返事を返してくれるのでなかなか好意的なのがわかる。
(ただ問題は――)
このフィーネという子だ。
いったいどんな固有スキルを持っているのかは知らないが、やけに尊大だし、目つきが悪いしであまりいい印象を抱かけない。
最後の反応からわかる通り相当嫌われてるみたいなんですけど、なぜかしぶしぶといった感じで武器を下してみせるあたり、俺なにかしましたかね?
「――んで、このギルドの惨状はなんだよシャロン。いい加減説明しろ。四日前と比べるとずいぶんとひでぇありさまじゃねぇか。あたしらがいねぇあいだにいったい何があったんだ」
「例の筋肉だるまが来た」
「ん、把握した」
フィーネの状況説明の言葉ににシャロンが一言で返せば、何故かなッとくという空気がギルド内に漂い始める。
普通そこは怒り出すとかするものなのだが、
どうやらガンテツがこのギルドに訪れるのは思った以上に多いらしい。
たった一言で全てを把握するフィーネもそうだが、アンジェリカやレオと言った比較的おとなしそうな面々もいつも通りと言った反応を見せている。
(普段からアンナ暴れ方してるのか。あのおっさん)
ほんと理解不能なギルドだわーここ。
それにしても――俺の目をくぎ付けにするのは彼女らの特徴的な容姿もそうだが、あの武器だ。
(予想以上にしっかりした装備だな。防具は安物だけど、武器はどれも一点ものだ)
久しぶりに武器を弄りたくて両手がうずうずしだしている。
アンジェリカの大剣しかり、レオの大盾しかり。
フィーネの弓に至っては矢だけでなく何か他のアイテムも装填できるのか、弓を引くための弦がない上に、かなり特徴的な構造をしている。
「しっかしあのおっさんも暇だねぇ、いくらシャロンさんが欲しいからってやり方が露骨すぎなんだよなぁ」
「まぁギルマスのスキルを考えたら喉から手が欲しくなるのもわかるっすけどねー」
「それにしてはやり方が少々強引すぎないかしら? いえ、私たちもおじい様たちに良くしていただいているのであまり強く言える立場じゃないのはわかってますけど。ここまであからさまだと少々お仕置きしたくなってくるわ」
そう言ってなんだかよくわからない殺気がギルドに充満しだす。
どうやらこのシャロンというギルドマスターは思いのほかメンバーに大事にされているらしい。
まぁこの容姿とおっちょこちょいな性格だ。
保護欲を掻きたてるのはわかるけど――
「待て待てお前ら。あいつらの処遇は後にして、とりあえずコイツのことだ」
そう言ってリーダーらしく話をまとめてみせるフィーネの言葉に、皆の視線が俺に集まった。
「それでシャロン。この冴えねぇポンコツはいったいなんだ?」
「というと?」
「アンタの様子からして依頼人じゃないのはわかってる。うちみたいな弱小ギルドに依頼を回してくる依頼なんてそれこそ犬の散歩か薬草集めくらいだからな。だとするとまた性懲りもなくどっからかカネでも借りたってことになるけど――」
「違う違う。さすがのわたしもその辺はちゃんと考えてるから! フィーネちゃんにお説教されてからお金借りるのはやめてるから!? そんな目でわたしを見ないで!!」
「借金のクビが回らなくなるまで金借りてるの隠してたギルマスに言われてもなぁ」
「これ以上お金を借りちゃうとわたしの人生ホントに終わりってわかってるからもうその辺は大丈夫なの」
「いやもう手遅れな気がするんだけど……」
「ワタル君は黙ってて!!」
そう言ってコホンと咳ばらいを打つと、『我ら』がギルマスはそのない胸をぴんと張り
まるでもったいぶるかのようにそれぞれを見渡すと、
「ふっふっふ彼はね、今日からこのギルドで働いてくれるわたし達の大事なギルドメンバーさんなのです!!」
「「「はぁ!?」」」
まるで今度こそありえないと言いたげな声が被さり、遅れて驚きの声がギルド内に木霊するのであった。




