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11話―― 雑用。面倒ごとに巻き込まれる。


 これまでの緊張感を全部吹き飛ばすようにファンキーリーゼントの叫びがギルド会館にとどろき、俺の口から腑抜けた声が漏れた。


 カネ、カエセ。つまり――


「借金の催促って訳か」


 それにしてはずいぶんと派手な取り立てもあったもんだ。


 黒いシンボルを揺らした冒険者の全力ダッシュの剣幕に、俺の腰にへばりついた小動物が唇を戦慄かせ、絹を裂くような悲鳴をあげるシャロン。


 まぁどういう経緯があって『鉄花の盃』の金をちょろまかしたのか知らないが、今回ばかりはどう見てもシャロンが悪い。


 よりにもよって『裏』ギルドに金を借りるとか命知らずにもほどがあるだろう。


 ということですぐさま俺を置いて逃げようとした薄情者をガッチリ捕獲したわけだが、


「うおおおおい、ボーっとしてないで早く逃げようよ!! 美少女のピンチなんだよ!! 逃げなきゃ骨の髄までしゃぶりつくされるよ!! というかわたしのために超逃げて!!」


 いや、助けてくれってどう見ても自業自得じゃん。

 たしかに玄関爆破はやりすぎかもしれないが、非力な俺にS級冒険者なみの実力者をどうにかしてくれと頼まれてもどうにかできるわけがない。

 現に――


「シャロンテメェ、この俺からカネがめといて逃げられると思ってんのかコラァァアアッ!!」


「いやあああああああ、痴漢。守護衛兵隊の人助けて。おかされーるー」


 シャロンの本気の悲鳴がギルド内に響き渡る。


 場所が貧民街ということもあり守護衛兵隊なんて助けに来るとは思えないが

 状況が状況なだけにシャレになっていないような気がするのでぜひやめてもらいたい。

 というか――


「誰がテメェみてぇな貧相な奴犯すか馬鹿野郎!! そんなことよりいい加減、金返せや!! お前延滞に次ぐ延滞でどれだけ利子が膨れ上がってんのかわかってんのか!? 今日こそはアジトの地下に叩き込んでやんぞこら!!」


「いーやーだー! そもそも借金の返済期限まだ先のはずでしょ。そんなかえせかえせ言われてもないものはないの!! いつもみたくガンテツが何とかすればいいじゃん!!」


「んなことできるかアホンダラ!!」


 そんなわけで、いい加減な債務者の下に駆け寄ったガンテツとシャロンの仁義なき攻防に巻き込まれることになったわけだが、これがS級冒険者とギルドマスターの会話なのか。


 正直言って度し難い。


 それに互いの主義主張を曲げる気がないのか。

 互いの欠点をののしり合うのは結構だが、俺を挟んで口論するのだけはやめて貰いたい。


(まぁこの様子だとき聞き入れてもらう事自体、難しいだろうな)


 まるで子供の喧嘩のようなやり取りを前にそっと肩を落とせば、頭を抱えて小さく唸る。


 ああほんと、俺はいったい何を見せられているのだろう。


 新しく人生を歩むため、輝かしい一歩を踏み出そうとしていたのになんでこんな面倒ごとに巻き込まれてんだ俺は。

 そもそも――


「なんで鉄華のガンテツがこんなところに……」


 『鉄火のガンテツ』と言えば『砲門攻略者』として有名な男だ。


 背中の黒光りする大砲はダンジョン5層で発見された『無限火薬』が使われた『攻略武器』なのだろう。


 噂では使えば使うほど爆破力が増し、際限なく仲間を支援できるとか。

 不可侵だった上層部へのルートの開拓を爆破でやってのけたとか。


 いろいろな伝説がある。


 ゆえに王国非公認。『裏』S級冒険者『鉄火』のガンテツと呼ばれ、冒険者界隈ではかなり有名だった気がする。


 噂に聞いていたがこんな男だとは思いもしなかったが――


「やっぱりダンジョン攻略者ってのは性格なんアリの奴が多いのかなー」


「ちょっとワタルくん!? なに一人黄昏ているのさ。君も彼に迷惑うけた口なんだから黙ってないでこの筋肉だるまに言ってやってよ。そんななりで硬派きどってるくせに変なとこまじめだから女にモテないんだって」


「あんだとこのクソ餓鬼!? 俺のイカしたファッションセンスにケチつけようってのか!?」


「当然じゃないか! こっちは君みたいな筋肉だるまが気軽に来て迷惑してるのさ!!」


 おーおー金借りてるくせになんて強気だ。

 さすがの俺でもここまでの開き直りはできない。


 だがギルドを壊されたことに相当おかんむりなのか。

 シャロンの開き直りは止まることを知らない。


「せっかく新しい仲間が増えるかもってタイミングで邪魔してくれちゃって。なにさその厭味なほど黒、くろ、クロ、で固めた服装は! いまどきの冒険者でもそんなファンキーなチャレンジャーなんていないよ! 損なんで外を練り歩いて見てるわたし達の方が恥ずかしいよ」


「あんだと!? 漢っぽくてカッコイイじゃねぇか!!」


「ふん、どこがさ。妙に気取っててちょーダサいぜ!! ってワタル君も言ってた!!」


「んだとテメェ!!」


「おいこらシャロンさま。頼むから俺を巻き込むのだけはやめてくれ……頼むから――」


 それに負けじと反論するシャロンの肝っ玉もさることながら、金を借りている立場なのにどうしてそう堂々とできるのか疑問だった。


「も―ドタマに来たぞこの野郎。意地でもアジトに連れてってやる」


「あーはいはいわかったわかった。それじゃあ今回は君が玄関を吹っ飛ばしたので今回の延滞料の件はチャラにしてあげるからとっとと帰ってよ! わたしだって貴方に構ってる時間はないんだからね」


「それはこっちのセリフだクソガキ! テメェ、俺がどんだけ方々のお偉いさんに頭下げて回ってるかわかってんのか!? ウチの親父がもう待てねぇっていい加減ブチ切れてるんだよ!! テメェが一晩親父の相手するか耳揃えて借金返すかしねぇとおさまりが付かなんだって」


「うるさい。その金貸しギャンブルでわたしに盛大に負けた癖にウジウジ男らしくないんだよ君たちは!! 別にお金返さないとは言ってないし、もうちょっとでお金のめどが立つから大人しく待ってろって言ってるでしょ!!」


「それ先月も聞いたはボケ! いい加減、こんなしみったれたギルドなんざもう畳んで俺達のところ来いっつってんだよ。あっちこっちおんなじ条件で金借りやがってこの尻軽が!!」


「まだ前も後ろも売ってないもん!!」


「あーもう待て待て、お前らの言い争いに俺を巻き込むな!」


 ようやく俺のことを認識したのか。

 厳ついリーゼント冒険者ガンテツがその黒いサングラスを押し上げ俺を見た。


「ああんなんだ兄ちゃん。そういやテメェここらじゃ見ない顔だな。まさかこいつの客か?」


「いや関係者というか絶賛巻き込まれ中の赤の他人というか」


「そうか、すまねぇな騒がしくしちまって。もう帰っていいぞ」


「それじゃあ遠慮なく――」


「ちょっとワタルくぅううううん!! 見捨てないでよぉぉぉぉおお。わたしと君の仲じゃないかああああああああ」


 それが初対面で堂々と俺を巻き込んでくれた奴のいうセリフか。


 つくづく図々しいというか、清々しいというか。

 これでギルドマスターとかホント情けなくて泣けてくる。


 なんか目の前のガンテツにまで同情されているように見えるのは気のせいだろうか。


 ガシッと俺の腰にしがみつき、その琥珀色の瞳を潤ませてくるシャロンの視線に大きくため息をつけば、不審な表情で俺を睨んでくるガンテツと目が合った。


 問答無用で連行しないところを見ると、悪いやつじゃないんだろう。

 ただどうしても、理性的に話に応じてくれるタイプだとは思えない。


 どうしようかと考え、ガリガリと頭を掻き揚手覚悟を決めれば、改めて俺は改めてガンテツと向きなおることに決めた。

 まぁダンジョン道連れ、世は情け。


 別に同情とか絆されたわけではない。

 ここで見捨てたら後味が悪いから立ち会うだけだ。


 だからそんな目で俺を見るんじゃない。俺は断じてロリコンじゃない。


「あーそれで、話を聞く限りアンタはコイツの借金を取り立てに来たみたいだが、アンタとコイツはどういう関係か聞いてもいいか?」


「ああん!? なんでテメェにそんな事はなさなきゃなんねぇんだ」


「時と場合によっては憲兵に連絡しなきゃなんないからだよ。アンタだってこのダンジョン都市にいるなら『ルール』を知らないわけじゃないだろ?」


 そう言って肩をすくめてみせればあからさまに肩をすくめてみせるガンテツの姿が。


 世界最大規模のダンジョンを国内に持つディスタニア王国にとってダンジョン都市は神聖な場所だ。

 彼が冒険者として生計を立てているのであれば知らないはずがないだろう。


 なにせ、貴族だけでなく王族の王位継承権をかけた試練場に使われたりする場所でもあるのだ。

 当然、その試練の為に外から王侯貴族なんかも出入りするから『表向き』は綺麗でなくてはならない。


「アンタの親玉が誰なのか知らないが、人買い、奴隷はこの国じゃご法度だ。

 まぁアンタんとこはそういうあくどいことはしなさそうだろうけど、金貸しだってギルドを通さなきゃ違法行為には他ならない。だろ?」


「……テメェ、チクる気か」


「いいや。俺だって今日ばったり会った他人のために命張るつもりはないよ。ただアンタの所がだって妙な言いがかりで守護憲兵に家宅捜査なんてことはごめんだろうなと思っただけさ」


「ちっ――テメェ、ギルドのもんか」


「元、だけどな」


 と言って肩をすくめてやればその筋肉の鎧からあからさまなほど警戒するような雰囲気を漂わせ始めた。

 どうやらガンテツがギルド嫌いという噂は本当のようだ。


「それでコイツとアンタの関係は?」


「俺とコイツはただの博打仲間だよ。テメェが想像するようなやましい関係じゃねぇ。まぁそれも今後次第じゃどうなるかわからねぇけどな……」


 そう言ってあくどい笑みを浮かべれば、俺の腰に張り付いていたシャロンが俺の背中から堂々とあっかんべーをしてみせた。

 どうやらそこまで警戒するような関係ではないらしい。


 ただどうしたって『成果』が絡むと冒険者は変わりやすいことを知っている。

 なので――


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