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拝啓 死んでしまった悪役令嬢様  作者: 七月なのか


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4 僕は彼女のすべてを知っていますよ

おや……? こちらへ呼ばれたと聞いていたのですが……お二人は? ああ、なるほど。大丈夫ですよ、万事心得ております。ふむ、シャルロッテ様のお話をされていたのですか? 美しい方。噂がお好きなのは女性だけではないのですね。女性のようにお美しい顔をされていらっしゃるので……ああ、失礼いたしました。


初めてお会いする記念に、一杯いかがですか? おい、こちらの方にも一杯・・・。


……貴女は隣国の方でしょう? その剣の意匠は隣国のものだと、シャルロッテ様から聞いたことがあります。


彼女の話をされる方は、みんな悪意がある。うまく隠しているふりをされる方もいますがね。まったく淑女とは名ばかりです。ですが、私はシャルロッテ様が、そんな噂のような悪女ではないと断言しますよ。期待されていたような悪意ある噂話ができなくて、申し訳ありませんね。


そもそも、あなたはなぜそんな彼女の話を……? ご存じかもしれませんが、最近亡くなられた方で、葬儀もまだです。あまりいい趣味とは言えないかと思いますが……?


なんと……幼少期にお会いしたことが……! そうでしたか。


隣国の戦時は大変な混乱だったと聞きましたが……さすがシャルロッテ様。幼少期から、そのような慈愛のお心をお持ちだったのですね。


それはあまりある悲しみが……そうでしたか。戦いが終わり、挨拶にいらしたと……それは気の毒なことです。


ええ、かまいませんとも。私がお伝えできる思い出のお話でしたら、いくらでもいたしましょう。

といっても私は学院に入ってからの交流なのですが・・・幼少期のころから大きく時間がたっておりますから変化が眩しいかもしれませんね。

まあそれでも私がお伝えできる最大限お話しできたらと思いますよ。

そうですね・・・どこからお伝えしたらいいかと迷うところではありますが彼女は博識で、新しい知識を得ることに大きな喜びを持っていた。新しいもの好きで姦しい、先ほどのお二人とは違います。そうですね……はっきり言うと彼女は自分の知識の追求が好きだったのですよ。そして、世界を愛していた。自分の知らないことを知ることが、彼女にとって一番の喜びだったのです。

そうですか、そうですか。やはり幼少期から、その片鱗があったのですね。


おお! 幼少期には、すでにその本を読まれていたのですね。道理で!


はじめてシャルロッテ様と話したのも、図書室でのことでした。

そうです。令嬢が随分と分厚いそのような図鑑を持っているので、てっきり鈍器にでもするのかと私は勘違いしてしまいましてね。


いやはや、恥ずかしかった。


そのころの私は、同年代の誰よりも見聞が広いと勘違いをしていたもので……いやあ、本では殴られたりはしませんでしたが、知識で横っ面を殴られたようなものです。今となっては、とても美しい思い出となっておりますよ。


私がシャルロッテ様の何を知っているか?


そうですね……彼女のことは、ほとんどすべてを知っていると言えますよ。


僕と彼女は、心を通じ合わせていた。彼女には婚約者がいたから、大っぴらに言える関係ではなかったのですが……他の男には渡さなかった贈り物を、僕にはくれた。二人きりで会ったことも何度もありましたし、僕にだけ彼女の秘密を教えてくれた。


そう……僕と彼女は、たくさんの二人きりの秘密を作ったものです。


シャルロッテ様は僕に、たくさんのお願い事をしてくれました。時々、難しいものもあったけど、叶えてあげると少女のような無邪気な笑顔で笑いかけてくれる。それが嬉しくてね。


彼女は侯爵令嬢らしくすましていて、プライドが高くて、人のことを下に見ていると噂されていませんでしたか?


そんなことはないですよ。彼女は、単に興味がなかっただけです。


たぶん、先ほどの彼女たちのことなんて歯牙にもかけていないと思います。周りがどう思っていても、別にどうでもいいんですよ。


賢い方なので、お名前や人柄、家格など、社交に必要なものはきちんと覚えていらっしゃったと思います。でも、それだけです。


彼女は、自分へ向けられる感情に興味がなかった。


はい、はい。そうですね。彼女が夢中になっていたものですか?


それは僕との時間かな。


……まあ、冗談ですよ。いや、半分は本気かな。


彼女が好きだったのは、魔法薬の研究です。


ええ、学校でも魔法薬について学ぶ機会はありますが、貴族が使う魔法ではないのはわかっていますよ。使用人にやらせるのが普通ですよね。地味ですし。貴族の魔法と言えば、攻撃魔法とか召喚魔法とか、そういう華やかなものを皆さまお使いになりますしね。傷薬なんかも、使用人に作らせる人がほとんどでしょう。


だから彼女も、魔法薬を作っていることをあまり大っぴらにしなかったんじゃないかな。


新しい配合を試してみては、失敗しても成功しても楽しんでいる様子でした。一緒に素材を探しに冒険したこともありますよ。

私の家が商会とつながりが深いのでね、その繋がりで品物をおねだりされたこともあります。

ええ、そうです。品物を受け取りに二人きりで街まで変装をして、買いに行ったこともあります。


そう。二人で逢瀬を楽しんでいましたよ。


彼女、意外と活発なんです。意外でしょう?


二人きりの秘密の実験室で彼女と過ごす時間は、僕にとってかけがえのないものでした。本当に、彼女との研究は楽しかった。


作り上げた魔法薬は、僕たち二人の愛の結晶です。


ああ、二人で夢中になった思い出だから、そう呼んでいるだけですよ。もちろん。僕たちには立場がありますからね。


……ああ、どうして死んでしまったのだろう。


私はね、疑っているんですよ。

あの素晴らしいシャルロッテ様が、どんな噂をされても、自分を損なわない彼女が。

自殺なんてね、するはずないってね。


……隣国の方、どうして笑うのです?


もちろん知っていますとも。川から上がらなかったら悪人だと言うのでしょう?


まったく、くだらない。


降水量で、そんなものはいくらでも変わるでしょうが。先日まで雨が多かった。それが答えです。


私は教会の教えなんて信じていません。

ですが、彼女のことは信じていますよ。


ああ……死んでしまった彼女に、幸あらんことを。

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