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拝啓 死んでしまった悪役令嬢様  作者: 七月なのか


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9 悪役令嬢の告白

ああ、怖い顔をしているね。まあまあ、君の持ってきてくれた花を生けよう……もらい物の花なのかい? いいじゃないか。鈴蘭は好きだよ。可憐で……うん、匂いもいい。おお、同じことを言っている人がいた? うんうん、花に罪はない。水を……さすがに馬車には花瓶はないが、コップはあるからね。窓辺に生けておこう。花の命は短いが、長い旅の癒やしになると思うよ。


さて、世間では私は、死んでも仕方がない大変な悪い女として評価してもらっているようだね。せっかくだ。本人からも証言をしておこうじゃないか。聞いてくれるかい?


……そんなに気に入らない? しかしだね、どんな世界でも一番を取るのは難しいんだ。国で一番悪い女なんて、すごいことだよ。何て言ったって、人間は男と女しかいない。うん? 中間もいる? ……難しい話題になるから、話を進めてもいいかな? 今は私がどれほど悪い女なのかの話をしたいからね。では、私の証言を始めようか。


ええと、君が集めてくれた証言の中の親友……親友? しんゆう……親友……親友とはどういう定義で……まあ、いいか。彼女との付き合いが長いのは間違いないね。付き合いの長い者を親友と名付けるのであれば、それほど外れてはいないから、自称親友の話から始めようか。それに、彼女にはたくさん助けられた。


確かに彼女の言う通り、私は神を信じていない。君と泥だらけになって駆け回っていたころと何も変わらないよ。ああ、そうだね、はいはい。泥だらけに汚して執事には眉をひそめられ、お母様に叱られていたころから変わっていないよ? 安心していい。君が故郷に戻ってしまった後から交流が始まったんだ。彼女のことを君が知らないのは当たり前だよ。


うん、自称親友の彼女はね、私に大きな気づきを与えてくれた存在なんだ。そして神殿に行くきっかけもくれた。そのころ我が家は悲惨でね。毒殺の危険がいつもあったから、食事が恐ろしかった。両親が政敵から毒を盛られて倒れていたし、どこに毒の危険があるかもわからなかった。でもまあ、彼女があんまり執拗に教会に行こうと言ってくるものでね。彼女と一緒に教会へ行ったんだよ。


そしたら、そこには天啓があったんだ。神っていうものを称えてもいいと思ったね。そう、神が私に恵みをくださったんだよ。なんだい、その目は。本当だよ。神は私にお恵みをくださったんだ。たくさんね。お土産付きで!


ふふ、王都の教会はすごいんだよ。お供え物に事欠かないし、量も種類も様々。みんな見栄っ張りな貴族が多いからね、どれも新鮮だったりして素晴らしかった。神へのお供え物に毒を盛るとは思わないじゃないか。これは本当にすごい思いつきだと思ったね。供物を捧げる貴族はね、みんな神殺しの罪は怖い様子だったよ。まったく、人を殺そうとすることに戸惑いはないのだから、不思議だね。


それからというもの、人の少ない時には教会に通って、つまみ食いは随分とさせてもらったよ。うっ……そんな目で見るんじゃない。仕方がないじゃないか。死にたくなかったんだよ。ちゃんと食べるものは選んだんだ。小分けにされているやつとか……スカートに入れても潰れないようなものとか。はいはい、ありがとう。これからはそんな心配がない人生を約束してくれるんだろう?


そうだ! 知ってる? 君。神殿がどれほど神を信じていないか。いや、神を信じるほど、自分の行いが認められると思っているかを。まあ、人の悪行がこれでもかと繰り広げられてね。私の行っていた……まあ、食事処と呼んでいた告解室では、子供の声が聞こえるんだよ。


やだ、ホラーな話だと思っている? 心霊現象? くくっ、君ってば怖い話をしてトイレに行けなくなるような可愛い子供だったものね。今でも? ふふ……ああ、ごめん、笑って。いやあ、可愛い子だな。はいはい、まあ現実の方が怖いよ。心霊現象は人のつくりものだけど、こっちは現実。聞こえてくるのはいけにえにされる声だよ。信じられるかい? 実に面白い。それに、昔の人が作った建築物というのは抜け穴がたくさんあってね。声もいろいろな響きで伝わってくるんだろうね。今回、私が逃げることに成功したのも、そのおかげだ。


それにね、自称親友の彼女には長所もある。彼女自身というよりは、家の特徴かもしれないが……人付き合いの広さというか、人のことをよく知っているというか……本当にすごいよ。メイドの恋愛事情まで知っている。家系的なものもあるかもしれないが。まあ、噂好きなのかな。下世話なご趣味? まあ、そういう取り方もあるがね。それを生かして揺すったりはしないところが、彼女の美点でもあるが……うん? 私はしっかり活用するに決まっているじゃないか。得た情報は生かすよ。どこの男爵がメイドに手を出したのかなんて知っていれば、それはもう、その男爵におねだりし放題! いやはや、助かるに尽きる。いやあ、本当に随分、皇太子殿下の婚約者をやっているときは助けられたよ。


情報収集のために自然とお茶会が多くなってね。おっと、眉間にしわが寄っているよ。憂い顔も悪くないがね……ほら、伸ばして伸ばして。しわは癖になるとお茶会で聞いたよ。マダムたちはみんな表情が同じだろう? きっと、しわを作らないために気を使っているんだよ。


川に落ちた日のこと? 教会に行ったときに挨拶したかって? ああ。会ったよ。彼女と会って挨拶で終わるわけないだろう。どれほど話し好きで噂好きなのか。一度会うとなかなか話が終わらないんだよ……。だから一緒にいたさ。教会の尖塔から夕陽を見ましょうと誘われてね。


……そこで何があったか? ううん……それが、あんまりちゃんと覚えていないのだけど、何か言っていたね……。ええっと……「私たち親友ですよね?」……だったか。そのあたりから話の雲行きが怪しくなっていってね。それまでは彼女は熱く尖塔でのロマンスについて話していた気がしたんだがね。


まあ、彼女のおかげで今ここにいるわけだし、自称親友ではなく親友を名乗ってもらってもいいかもしれないね。私が真に望んでいたことを実現してくれたのだからね。


え? 尖塔での話は……いや、ちゃんと話していたはずなんだがね……。どうでもいい話はちょっと……。たしか、返事をしたんだよ。え? なんて答えたか……? たしか……「私たち親友ですよね?」に対して、「そうだったっけ」みたいな感じで返事したんだ。はっきりと「違う」みたいな言い方はしなかったよ。そんな言い方をしたら悲しませてしまうと、私だってわかっている。だから濁したんだがね。何がいけなかったのか聞き返したら、教会の塔から落ちてしまっていてね……下に川が流れているのは知っていたんだ。そんなに怖い顔をしないでくれ。私の運動神経は知っているだろう?


まあ、普通に泳げないしね。貴婦人のスカートがどれほど重いか知っているだろう? 運動神経の問題は横に置いてくれ。あのスカートは運動には適さないし、まあ、それなら仮死状態にしておいて、運よく助かればいいかなと思って次作の魔法薬を飲んだんだ。先見の明があると褒めてくれてもいいよ。ね? だから無事だろう?


ああ、そうだよ。愛の結晶のおかげさ。私はいつの間にか子持ちになっていたんだよ。彼の話も聞いたんだね? 彼は優秀だが、言動に品位が欠けるのが難点だとは思わない? 彼の家は流通に特化していてね。欲しいものは何でも取り寄せてくれて助かるんだ! ん? まあ確かに二人で出かけたりはしたな。その方が手っ取り早かったし。はいはい。もう関わらないようにすればいいんだろう。わかっている。まったく、お母様よりうるさいな、君は。おっと、言いつけるなんて酷いことを言わないでくれ。君は私の大切な幼馴染だよ。機嫌を直してくれ。


お母様は心労なんだ、メイドが言っていただろう? は? この際だから全部ぶちまける? やめてくれ、私が家に監禁される。お母様に今回の計画を夕食会で話したんだが、その場で執事に指示をして私の食事に睡眠薬を仕込もうとしたんだ。気が付いたからよかったものの。毒を盛られた経験がある人間は、人に薬を盛ることに何のためらいもなくて困ると言ったら、怒り狂っていたよ。自分に非があることを認められないのは、恥ずべきことだと思わない? お母様ったら、私のことを生まれたときから反抗期だと思っているんだ。


はあ……うん、あ、ちょ! だめったらだめだって、ちょ、やめてくれ! いくない、いくない。扉を開けようとするんじゃない! 馬車から出ないで二人でいよう、ね!? ちょうど家族そろって墓にいるからちょうどいい!? いいわけないだろう、義理姉さまなんてびっくりするくらいにいい人なんだ。兄にはもったいないくらいの人なんだぞ!? そんな話をしてみろ、倒れてしまう。申し訳なくて家にいられません、くらいのことは言う! そうなったら兄を支えられる人がいなくなるだろ! 実質、侯爵家が終わってしまう! 真実だからなんでも言っていいわけじゃないんだからな。おい! 力が強いな、くそ……! ああもう、言うことを聞くから!


はあ、はあ、このっ……筋肉がすごい……君は恐ろしいな……。私の小さくて可愛かった幼馴染はどこへ……? ええと、次は誰の話だったかな。


そう、孤児院、孤児院ね。あそこは本当に面白い、興味深い所だよ。神父様は何ておっしゃっていらした? ふふふ、施しか。不幸で可哀そうな子供たちが幸せになれるように施しをされている? 大変結構なことだね。汝、隣人を愛せ。神の教えを守っていらっしゃる。隣人が誰かによるがね。愛し方もまあ、人それぞれ。まったく、信心深くいらっしゃる。涙が出るね。皆で助け合い? ああ、最高の教えだ。素晴らしい。ひとりはみんなのために、みんなはひとりのためにって、幼年学校でも言われたっけ……ふふ。


人を人とも思っていないんだよ。そもそも、お義理姉さまが教会に目をつけられたから、私が王子の婚約者になったんだから。さすがに、未来の皇太子殿下の妹であり、侯爵家の跡取りの婚約者には手を出すのは、自己保身のためにもよくないって、馬鹿どもにもわかるだろう? まあ、おかげでお兄様は私の言うことには何でもイエスと返してくれる、大変頼りになる人になったんだけどね。


ふふ、面白い話をしようか。教会での晩餐会、何が出ると思う? もちろん、とっても特別な、選ばれた人しか行けない晩餐会だけど。高額な献金。なんのために支払われると思う? 司法には手が届かない。何を守っていると思う? くそくらえだよ。


どういう意味か? そのまんまさ。生理的にも、性的にも、あまりにもおぞましいから私の口からは言えないかな。だって私は由緒正しいご令嬢だからね。おお、さすがに察しがいい。その通りだよ。趣味が悪いよね。教会で耳にした時は驚き、嫌悪したよ。


リリーベルが神聖力を持っていた理由だって、そこにある。供物として子供を使うんだよ。適性があれば教会の権威のために使う。適性がなければ、文字通りに食われる。


神聖力って、いい響きだね。神々しい。私からしたら、悪魔への供物にしか思えないが。


まあ、ただ、神に仕える我々は、神に守られているから何をしてもいい。そう教会のやつらは考えているんじゃないかな。


そう、私の愛しの元婚約者様。彼が婚約した聖女様は、本当の聖女様だよ。ちゃんと神聖力もある。本物さ。おとぎ話じゃないよ。神聖力って何をもって神聖というのかは私には定義できないが、教会が認める歴代最高の力さ。彼女は嫌っていたようだし、私と一緒にいたころは、私が使ったと勘違いした級友たちが呪いの力だと言っていたね。


でも不思議だよね。彼女の両親はまったく魔力もないような、身分しかないような人間なのにね。ああ、聖女様からはほとんど話を聞けなかった? まったく、優等生だね。言いたいことなんて山ほどあるだろうに。


聖女っていうのは素晴らしい。便利な肩書きだ。資金洗浄って知っている? お金を別の場所に通して、別のものに見せるんだ。私と彼女が出会ったのは教会の中。それと同じことが、身分社会でも行われたっていうだけさ。これがヒントだよ。ほぼ答えみたいなものかもね。


おや、君もそれを買ったのかい? 売れないと評判だったのに。まあ、私の家族はみんな持っているのだけどね……ああ、恥ずかしい。平民向けに作成したはずなのに、カメオなんかで作るから単価が高くてね。全く……考えが足りていないな。さ、それは渡し給え。まさか道中ずっと見えるところに? 剣が振りにくいのでは? もっと私から見えないところにつけるとか、配慮をしてもいいのでは? なんだ、その笑顔……君、性格が悪くなったと言われないかい?


は? なんて言った? 王子は私を馬鹿だと言ったのか? おお……まったく……言葉が出ない……ひどい屈辱だ。あのバカ王子が本当に? そんなことを? バカはお前だと言ってやりたいが……何を言っても駄目だな。


私は婚約者として彼から学んだんだ。馬鹿には何を言っても伝わらない……馬鹿に付ける薬はないんだよ……。


おお……なにを……は? 条約? 私の準備していたあれを馬鹿だと? 隣国の鉱山開発に自国資金を出すことに何が不満が? 採掘技術・販売網を共同化し、利益を得るよう条文に入れればいい話だし、隣国の技術者を自国で教育することだって、将来の交易・技術交流を考えると今後必要だ。国は我が国と隣国だけではないのだぞ? 隣国の借金返済を十年猶予……何がいけない? 待ってやれば難民も来ないし、いいことずくめでは?


……どれも自国の将来の利益につながる最良の案じゃないか。初期投資はまあ……確かにかかるが、十分に回収可能な範囲ではあったし、今の財政で困ることもない。将来の利益を考えると、何も問題ないのでは? は? はあ? 代案?


…………港の優先使用? それだけ? たったの?


隣国が海洋国家だと知ってる? 地理の勉強が足りないのでは? 別の航路が見つかったら……というか、絶対に見つかるが、そうなった後は?


開いた口が塞がらない。馬鹿は幸せでいいな……何も考えなくて。バカ王子の周りは何か言わないのか……言わないな。周りは腐った豚ばかりだったな。


はあ…………。


もう何も話したくないかな……最後……? ああ……そうさ。リリーベルが神聖力に目覚めた、あの日、あの場所で私が刺されたのは、全くの事故だよ。孤児院でちょうど一人、捧げられる子が決まったとわかったからね。ちょっとちょっかいをかけに行こうとしたら、教会の入り口でリリーベルとそのファンに出くわしたんだよ。厄介なファンだったみたいで、獲物を持っていた。私はそんな馬鹿者の相手をしていられないから中に行こうとしたら、ちょうど二人の間を通ることになって、勘違いしたファンが私を刺したっていうだけだよ。実にくだらないだろう? リリーベルと私の何を勘違いするというんだか。見たいものしか見えていない奴らが多すぎるのも、考え物だと思わないかい?


まったく……ああ、時間だね。うん、私の窓からも見えるよ。棺を燃やしに行くようだね。……空なのに燃やす必要ってあるのかな……。


……少し喉が渇いたな。君も水を飲むかい? ああ、鈴蘭の水は飲んではいけないよ。毒があるんだ。いくら君が筋肉で武装していても、死んでしまうことだってあるような毒だよ。はい、私が飲んだもので悪いが、水筒から飲むといいよ。


……おお? プレゼント? 手紙じゃないか。さては棺の中から取り出したな? 悪い子だな。ふふ。これは道中のお楽しみになりそうだ。気が利くな。なんだい、随分分厚い手紙があるな。ふふ、ラブレターだったりしないかな? いいじゃないか。一度くらい受け取ってみたいと思っていたんだ。分厚い手紙と言えば、仕事に関するものばかり。まあ、意見の陳述みたいなものもあったが、これは最後のお楽しみにとっておこうかな。


ううん? 宛名? リリーベルじゃないか。うーん、王子と熱愛しているらしいからね。この厚さからして、結構な内容だよ。死者に向ける手紙だ。内容は何だろうな……君は惚気か愚痴か、どっちだと思う? ええ? どちらでもない可能性もある? なるほど。まさか私と王子に嫉妬を? その場合は、リリーベルの目は節穴ということになるね。は? 私が節穴? 失礼な男だな、君は。まあいい。読めばわかる。


いいだろう。手紙の内容に関して賭けようじゃないか。私は、そうだな……リリーベルは聖女として名高い。死者にひどいことはしないだろうから、私は惚気が書いてあるほうにかけよう。君は?は?ラブレター?宛名は私宛だよ。王子宛じゃない。賭けにならないじゃないか。まあ君がいいならいいけどね。

負ければなんでもしてくれるのだろう?もちろん私も何でもしよう。 君の吠え面が楽しみだな! 賭けに勝った暁には、先程のカメオは私がもらおう。


さあ、新しい人生の幕開けだ。これだけ証拠があれば、新しい人生を得るのはそれほど難しいことじゃなかったね? みなさまそれぞれの思いを受け止められたのは、君のおかげさ。ありがとう。これで未練はなくなるかな。ふふ。みんなのところへ救いの神は現れることを祈るばかりだ。


一緒に来てくれるね? エスコートをお願いしても?


――――――馬車が動き出す。


向かうは、自由。

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