3.祖父との再会
祖父は車で湊たちを迎えに来ていた。
白髪交じりの短髪で、顔には深いシワが刻まれている。
腰が少し曲がってきてはいるが、ポロシャツから見える腕は太く、逞しい。
漁師をしている祖父の肌は真っ黒に日焼けしており、まさに海の男という感じだ。
祖父は優しく微笑んでいる。
「湊、久しぶりやの。元気やったか?」
眼鏡の奥の目は、穏やかで優しかった。
「……久しぶり」
久しぶりに会うからか、湊は少しだけ緊張していた。
車に荷物を積みながら母が言った。
「お父さん、腰は大丈夫?」
「おお、大丈夫よ。まだまだ現役で、漁にも出よるしの」
祖父は笑いながら言った。
「このまま病院に行くやろ?」
「おお、そうやの。その前に、ちょっと歩いて果物買いに行こうかの」
「どこに?」
「えびす通りよ」
「ええー、懐かしい。まだやってるんだ」
湊は歩くのが面倒だったが、「近いから」と言われ、しぶしぶ二人の後をついていった。
三人は車を離れて、駅前通りへ向かった。
歩きながら湊は、駅前の道路工事の様子を見ていた。
工事が終われば、今より道が広くなるらしい。
どんな感じになるのか、湊は想像していた。
工事現場から目を離し、左右の景色を眺める。
居酒屋が多い。
通りの右奥には繁華街が続いていた。スナックなどの看板が並んでいる。
大人は興味があるのだろうが、湊には楽しめそうな店は見当たらない。
「湊は普段なんして遊びよるんか?」
歩きながら振り向き、祖父が聞いてきた。
「……ゲーム」
「ゲームか。じいちゃんにはよう分からんが、今はみんなゲームしよるの」
「……楽しいから」
「そうか。楽しいんなら、まあええの」
「ちょっとは外で遊んだほうが健康的やけどね」
母が苦笑いしながら言った。
「楽しいならなんでもええの、湊」
祖父はそう言って、湊に笑いかけた。
何気ない会話をしているうちに、左側にアーケードが見えた。
見上げると、看板には
『えびす通り』
ここが目的地らしい。
昔から地元の人たちに愛されてきたアーケード商店街だが、今では人通りも少なく、どこか寂しい静かな空気が漂っている。
閉まったシャッターが目立つ。
それでも、ぽつぽつと開いている店がある。
その中に、青果店があった。
店の前には、赤い帽子に紺色のエプロンを身に付けた店主が立っている。
祖父と同じくらいの年齢だろうか。
「おう」
祖父が片手をあげて、店主に挨拶をした。
店主も同じように手をあげて、にこやかに返す。
「おう。いらっしゃい」
二人は顔見知りだろうか。
「今日は娘と孫も一緒よ」
祖父は片手で母と湊を示しながら言った。
母と湊は軽く頭を下げた。
店主もにこやかに頷いた。
店の前には、人参やトマト、キャベツといった野菜と、りんご、桃、梨などの果物が並んでいる。
野菜や果物の前には、段ボールを切って作った札が置かれ、手書きで値段が書かれている。
「なん買おうかの、りんごがいいかの?」
祖父は湊のほうを向いて、聞いてきた。
「……うん」
お見舞いといえば、りんご。
そんなイメージが湊の頭に浮かんだ。
りんごを三つ買い、車に戻る。
エンジンをかけると、演歌が流れ出した。
湊には聞き慣れない音楽だった。
車で少し走ったところに、川が見えてきた。
夏の日差しを受け、川面がきらりと光っている。
「川だ」
湊は言った。
「今川よ。この時期はここで祭りがあるの」
母が懐かしむように答えた。
景色を眺めていた湊は、運転する祖父のほうに顔を向けて言った。
「……おばあちゃん、大丈夫なの?」
祖父は母と一瞬だけ目を合わせて
「大丈夫。ただ体調を崩しただけやけの」
ルームミラーで後部座席の湊をちらりと見て笑った。
車は病院へ向かって走り続ける。




