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あの夏、僕は病室を抜け出した君と歩いた  作者: よっぴぃ
第2章 鈴

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6.ミナトマン

何度か挑戦しているうちに、湊は少しずつコツを掴んでいた。


まだふらつきはするものの、転けることはなくなっていた。


「だいぶ上手くなったし、このまま商店まで行ってみようや!」


鈴はそう言って、自分の竹馬に乗った。


ぎこちない湊の横へ行き、同じペースに合わせて進む。


やがて商店に着くと、鈴は「ゴール!」と言って竹馬から飛び降りた。


湊も降りようとしたが、よろけて転けそうになった。


「わっ!」


「おっと!」


咄嗟に鈴が手を差し伸べて湊を支えた。


「ありがとう」


「ちゃんとここまで来れてすごいよ、湊!」


「うん……でも、最後の最後で転けそうになった」


「そんなん気にせんでいいよー!最後まで投げ出さんやったけ偉いよ!」


「偉い偉い」と繰り返しながら、湊の頭をくしゃくしゃと撫でた。


鈴の手は温かくて、どこか懐かしかった。


――『偉い偉い』


頭の奥で誰かの声が聞こえた気がした。


「へへっ」


湊は口元を緩めて、照れくさそうに頭を掻いた。


すると、商店の扉が開いて、店主が顔を覗かせた。


両手を腰の後ろに回し、微笑みながら二人のもとへ近づいてきた。


「おや、竹馬かね。懐かしいねぇ」


「この子、何回も転けたけど、諦めずに頑張ったんよ!」


鈴は湊の背中をポンと叩いて、店主に言った。


「そうかね。それはよく頑張ったねぇ」


店主は優しい眼差しで、何度も頷いた。


「でも、いっぱいケガしたよ……」


湊は肩をすくめて言った。


「それは、いっぱい頑張った証拠なんよ!」


鈴は湊に向けて、親指を立てた。


店主は、そんな二人のやり取りを嬉しそうに見守った。


「そうだ!湊、これしよう!」


急に何かを思いついたかのように鈴が言って、ポシェットの中をあさりだした。


取り出したのは何枚かの四角い厚紙だった。


「男の子なら喜ぶと思って、持ってきたんよ!」


少し色褪せていて、昔のヒーローや怪獣の絵が印刷されている。

どこか絵柄も古く感じられた。


「カードゲーム?攻撃力や守備力は?」


その中の一枚を手に取って、湊は言った。


「攻撃力?守備力?なんそれ?」


鈴は厚紙を地面に並べながら、首を傾げた。


「これ、めんこよ!こうやって遊ぶんよ!」


鈴は手に持った一枚を、地面に並んだめんこに勢いよく叩きつけた。


地面のめんこは、その衝撃でひっくり返った。


「裏返しにできたら、そのめんこを奪えるんよ!」


「えっ、頭脳戦じゃなくて力技!?」


湊は予想と違った遊びに驚いた。


「十二枚あるけ、半分ずつ分けよう!湊、好きなの選んでいいよ!」


湊は手渡されためんこの束を一枚ずつ品定めするように見比べた。


悩んだ末、六枚ともヒーローを選んだ。


「私から攻めるね!湊、一枚地面に置いて!」


言われた通り、湊は自分の手元にあるヒーローのめんこを地面に置いた。


「いくぞー!がおぉー!」


鈴は雄叫びをあげて、怪獣のめんこを叩きつけた。


パチンッ!


力強い音とともに、湊のメンコは裏返しになった。


「がおぉー!」


鈴は怪獣のように両手の爪を立てて、咆哮をあげた。


「はっはっは!めんこは頂くぞー!」


すっかり悪者になりきった鈴は、湊のめんこを奪い取り、自分のめんこを地面に残した。


「次は僕の番だね。いくよー」


湊が構えると、鈴が「待った!」と言って片手を突き出した。


「ちゃんと、シュワッチ!ち言わんとダメけね!」


「……なにそれ?」


「ヒーローになりきるんよ!」


そう言って、顔の前で両腕を十字に組んだ。


「そんなルールなの!?」


「鈴ルール!」


鈴は両手を腰に当てて、誇らしげに胸を張った。


「そんなの聞いてないよ……」


湊は戸惑いながらも、再びめんこを構えた。


「シュ……シュワッチ」


ぼそっとヒーローの台詞を口にしながら、めんこを叩きつけた。


しかし、恥ずかしさで思い切りできなかった。


ペタッ。


鈴とは違い、弱々しい音がして怪獣のめんこはびくともしなかった。


「はっはっは!そんなんじゃ吾輩を倒せんぞー!」


悪役になりきったままの鈴は、腕を組んで高笑いをした。


「だって……恥ずかしいもん」


「恥ずかしがったら勝てんよ!ヒーローになりきるんよ!スーパーヒーローミナトマン!」


鈴は何かの変身ポーズをしてみせた。


スーパーヒーロー。


ミナトマン。


湊の頭の中では、ヒーローの自分が怪獣と戦っていた。


やはり男の子。テレビのヒーローに憧れがあった。


「次はこいつの番だな!覚悟しろ、ミナトマン!」


鈴は手元の新しいめんこを顔の前に掲げた。


怪獣の次は人型の宇宙人が描かれている。


「いけー!鈴星人!」


思いつきで名前を叫びながら、地面に叩きつけた。


パチンッ!


大きな音がしたが、当たって裏返しになったのはヒーローではなく怪獣だった。


「鈴、自分のめんこに当たってるよ。」


湊は腕で口元を隠しながら、小さく肩を揺らした。


「吾輩としたことがー!」


鈴は両手で頭を抱え、左右に何度も振った。


「この場合はどうなるの?」


「んー、鈴ルールやけ湊の獲得にしよう!」


そう言って鈴は、ひっくり返った怪獣のめんこを湊に渡した。


「次、湊の番やね!」


湊は新しいヒーローのめんこを選んで構えた。


「さあ、正義のヒーローよ、貴様の本気を見せてみろー!」


鈴の言葉に、湊の中でミナトマンがよぎった。


「いくぞー、シュワッチ!」


限界まで体を捻り、力を溜めて腕を振り下ろした。


バチンッ!


力強い湊のめんこで地面から浮いた宇宙人のめんこは、半回転して裏返った。


「おおー!」


その様子に鈴は目を見開いた。


そんな鈴に向かって湊はニカッと笑い、腕を十字に組んだ。


「ウルトラミナトビーム!」


鈴は「えっ!」と驚いたが、すぐに悪役に戻った。


「ぐわー!や・ら・れ・たー!」


片手で胸を抑えて、大げさなリアクションを取った。


二人とも完全にミナトマンの世界に入り込んでいた。

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