家族旅行
神便鬼毒酒 相手によって毒にも薬にもなる酒、人側には力が漲り、鬼が飲めば力をなくすと伝わっている酒、しかしその中身は注ぎ手の想いや考えによって効力が決まる酒である
それから、俺とヤガラ、茨木童子と共に離界に家族旅行に出かけている。こっちの世界だと体が若い頃になるので腰も楽だ、あれから色々身の回りの整理をした。八我羅屋も閉店し、今や仕事場と自宅を往復し
たまに煙草屋に出かけるのみとなった。意外にも八我羅屋は惜しまれて閉店となった。どうやら自分が思った以上に人気があったらしい、さて、めでたくヤガラとも家族になったことだし、ってことで家族旅行に来た。普通の家族旅行だと、俺以外見えてないので離界に家族旅行ということになったのだ。無論、今回は
愛車のフィットちゃんも一緒だ、離界に来て存分に走り回っている。月夜に照らされた草原を歩いていくと
いつか聞いた懐かしいお囃子が聞こえてきた。三人でそのお囃子に近づく、すると妖怪たちから熱烈な歓迎を受けた。獣肉料理の他に、酒、果物など様々な物を喰え食えと貢がれた。茨木は当然の様にぱくついている。ヤガラと俺は顔を見合わせ互いに笑う
「今宵はヤガラ様と人間の婚礼じゃー!!」と妖怪たちが口々に言う。俺はいつものようにヤガラの胡坐の中心に座り、煙草をふかす。ヤガラも煙草をふかしながらぐびぐびと酒を飲む
酒くさぁい
茨木童子が今宵は無礼講ぞ!!と宣言すると、より一層妖怪たちが盛り上がる。いつかの様に屋敷の中から
百鬼夜行を眺める茨木童子はもういない、皆茨木童子を慕い、誰もかれも関係なく踊っている
いつの間にかフィットまで鬼火を纏い百鬼夜行の輪の中に加わっている。珍妙な光景である
膳「なあヤガラ、ちなみにフィットも幽世に連れていけるんか?」
俺はふと愛車の事を聞いてみる。
ヤガラ「無論、というかあそこまで物の怪にしといて現世に残すのは可愛そうじゃろ」
確かにそうである。よくよく考えてみればフィットももう妖怪みたいなものか
身体をくねらせ、鬼火を纏い楽しそうに踊る愛車を眺める。もう普通の車としての面影はほぼなかった
俺は妖怪たちからもらった酒をチビリとやる。透き通ったいい味だった。
江鬼「やあ、膳」
江季公「よぉ旦那」
両隣の何もないところからゆっくりと二人の鬼が姿を現す。江鬼と江季公だ二人ともそれぞれ盃を持っている
江鬼「ずるいじゃないか、ヤガラ様と先に三種の儀やっちゃうなんて」
江鬼が少し拗ねたような顔をする。いやぁすまない
江季公「そうだぞ、俺たちともやれ」
そう言いながらズイと盃をそれぞれ渡される俺、ヤガラを見ると優しそうに笑っていた
俺は躊躇なく二人の盃にある酒を飲む。やはり二人とも嬉しそうにする。妖怪たちにとっても重要なことのようだ。そこへ、珍しく緊張した面持ちで茨木童子が現れる
茨木童子「とと様!!俺とも頼む!!」
そう言い、とある徳利から並々と酒を注ぎ、グイと目の前に出される
今までにない緊張と怯えが茨木童子の眼に宿っている。俺は頂きますとだけ言ってその酒を飲み干す
なんとまあ甘い酒な事か、俺は思わず顔がほころぶ。その様子を見て茨木童子が嬉しそうな泣きそうなよくわからない顔をする。続いて、茨木童子が俺に徳利を差し出してくる
茨木童子「とと様・・俺にも酒を注いでくれ」
何を?と思ったが、頼む、といういつになく真剣な声に俺は酒を盃に注ごうとする
ヤガラ「茨木様の事を想って注ぐがいい」
そうヤガラから助言をもらった。俺は今までの茨木との思い出を思い返し、また、こんな風に育って欲しい、と親心ながら想いを込め、酒をゆっくりと注ぐ、すると、先ほどとは違った琥珀色の酒が器に満たされる。それを見て茨木童子が緊張した様子で息を飲む
盃を持った両手が震えている。どういうことだ?と思っていたら、茨木童子が意を決したようにその酒を飲み干す。しばし盃を傾けたまま固まった茨木童子、皆もいつの間にか静まり返り、その様子を見守る
茨木童子「ぐっ!?」
その場に急に這いつくばり、苦しみ出す茨木童子
膳「茨木!?」
思わず皆駆け寄る。妖怪たちも心配そうに見つめている
メキメキという音と共に茨木童子の身体が急成長する。皆固唾を飲んで見守っていた
茨木童子「戻った・・」
地面に両手を付きながら静かに言う茨木童子、次の瞬間、戻ったぞおおおおお!!と大きな声を出し、
のけ反る茨木童子、バキバキの腹筋に、たゆんと立派な物が揺れる
茨木童子「フハハハハハ!!流石・・流石父上!!よもや全盛期に戻れるとは!!」
周りの妖怪たちから歓声が上がる。一体何がどうなってるんだ?
ヤガラ「膳、お前、神便鬼毒酒を知らんか?」
それぐらい知ってるわい、酒吞童子と茨木童子らを倒すために使われた不思議な酒だろ?
そこまで思ってまさかと思う
膳「まさか・・今飲んだの・・神便鬼毒酒?」
茨木童子「フフフ、察しが良いな、人間側にはどう伝わっているかは知らんが、神便鬼毒酒とは、注ぎ手の想いや考えによって効果を変える酒よ、」
つまり?俺がヤガラの言う通り、茨木童子の事を想って注いだから薬になったと?
茨木童子「正解!!しかもこんなに色っぽく父上好みの姿になれた!!行幸行幸!!」
そういいバキバキの腹筋と鎖骨をこれ見よがしに見せてくる茨木童子、嗚呼、ありがたやー
なんかみんなの視線が痛いが知らん、イイ腹筋と鎖骨に罪はない、
ヤガラ「やれやれ・・こやつのこの癖だけはどうにもならんの」
ヤガラが呆れ気味に言う。だまらっしゃい、いいんだよそれが俺なんだから
茨木童子「父上!!此度の契り、誠に感謝する!さあ、寝所に行こうぞ!!」
湧き上がる嬉しさを抑えられぬままに俺の服を引っ張り、寝床に連れて行こうとする茨木童子
膳「だーもー!!なんでお前らってすぐしたがるの!?俺腰がヤバいんだってば!!」
江季公「いや、今の姿なら大丈夫だろ、若いし」
江季公がとんでもない爆弾発言をサラッとしやがった、江季公ォォォォ!!!
皆の眼の色が変わる。
膳「いや・・お前ら・・待て・・な?せめて一人ずつ」
全員が我先に俺の服を脱がしにかかる。
膳「い・・イヤァァァァァ!?」
膳の悲しい悲鳴が木霊する。それをまるで祝うようにお囃子が流れ続けた




