鬼火レース
火車
近世初期・江戸初・中期頃の説話や絵画ではまだ、火車は鬼神の乗物であったり、雷神の鬼姿だったりしたが、火車と死体をさらう猫又伝承との習合が起こり17世紀末頃に猫型の火車が確立した。
鳥山石燕が絵画で猫姿の火車を描いている
職場が決まってから初出勤の日、ヤガラが珍しく心配だからワシも行く!と言ってきかないので
俺たち二人で出勤することになった。もちろんヤガラは他に人には見えないはずなので、堂々とついてきてもらっている。
受付で挨拶を済ませ、早々にお骨堂に案内される。そこには驚くべき光景が広がった
何と、いくつかのお骨から立ち上る黒いもやのようなものと、白い霧のようなものが自分に見えたのだ
おいおい・・なんで俺がこんなにはっきりと視えるんだよ・・
ヤガラ「そりゃ・・ワシと交わっとるからじゃ、もしやと思ったがやっぱりか・・」
これどーすりゃいいのよ、俺、除霊とかできないぞ?
ヤガラ「なに、黒いのはワシに任せとけ、お主は白いモノの世話をしてればいい」
膳「世話とは?」
いやホント、世話って何?掃除と線香あげるとか?
ヤガラ「そうじゃ、拝むのも忘れるなよ」
Oh・・・マジすか
それから俺の仕事は単なる受付と掃除、来客の案内から密かに、白いモノの供養という雑務が付いた
納骨堂を綺麗にモップで掃除しながら綺麗な布で骨壺を磨く、綺麗にした後は水と線香を供え、お疲れ様でした。と心の中で拝む、ヤガラはというと、何やら黒いモノ達と延々と会話していた。なんか未練がどうとか聞こえたが怖くて聞けん
――1週間後の夜勤――
なんだかんだで一週間勤まった。夜勤でもヤガラは相変わらず黒いもやたちと話していた
ここ最近変わったことと言えば、ヤガラが自転車を欲しがり、安い中古の折りたたみ自転車を買ったくらいだ
膳「今日も終わったおわった~さて・・帰るか」
車のキーを持ち、エンジンをかけ・・・かからない
え?いよいよ寿命?まいったなあ、故障の兆候なかったんだけど・・しかも夜だからロードサービスいけるかなぁ
車の突然のトラブルに困っているとヤガラからツンツンと肩をつつかれたので振り向く
ぷに、
振り向いた頬にヤガラの指が刺さる。・・・オイ、ふざけてる場合か
ヤガラ「や、スマンつい」
真顔で謝ってくるヤガラ、ホントにもう
ヤガラ「ん~~、惜しいの、もう少しで付喪神になれるんじゃがなこの車」
あ、そうなの?でも動かないんじゃなぁ・・
そこでヤガラが何やら納骨堂の方へコイコイと手招きし、例の黒い何かがぞろぞろ出てくる
ヤガラはそれに何かを言い車を指さす。黒いもやが車に吸い込まれていく
膳「ちょ!?なにする!!」
思わず声を上げる俺、当然だ、大事な愛車だからな
ヤガラ「まあ、見とけ」
次の瞬間愛車が青い炎に包まれる。思わず駆け寄りそうになるのをヤガラに止められる
膳「はなせヤガラ!!車が!!」
ヤガラ「まぁまぁまぁ」
くっそ、やっぱ力つええ
羽交い絞めにされながら燃える車を見る。するとけたたましいエンジン音が鳴る
は???動いた?
青い炎がライト部分に収まる。次に車のトランクがバン!と開き、折りたたみ式のマウンテンバイクが炎に包まれて出てくる
またもけたたましい排気音が鳴り響き、俺とヤガラの前でそれぞれ止まる。
運転者もいないのに車は空ぶかしを続け、マウンテンバイクに至ってはちゃんとしたごついバイクに変わる。オイ、何したんだよマジで
ヤガラ「うむ、上手くいったの、付喪神なりかけ+走り屋?とかいう未練をまぜまぜした妖怪じゃ」
膳「はぁあああ!?」
なん・・もうなん・・
ま、これで車は走るしバイク?とやらはワシが乗ろう
ヤガラがメラメラと青く燃えるバイクにまたがる
ヤガラ「ホレ、お前も愛車に乗れ、ベルトはしっかりな」
恐る恐る自分の車に近づき恐る恐る乗る。アクセル踏んでないのに力強い空ぶかしが鳴る
膳「おお・・俺の愛車・・まだ走ってくれるのか・・」
俺の言葉に答えるように力強い空ぶかしがまた帰ってくる。ああ、まだ一緒に走れるのか
シートベルトを締めて前を見る。大量の青い火の玉
ヤガラ「火の玉とはちょっと違う、こいつらはもう妖怪じゃ、だから鬼火が正解じゃの」
ヤガラが開いてる窓から言う、こんなん・・ありなんすか・・
ヤガラ「ほんじゃ行くぞ~、舌噛むなよ?」
膳「は?舌って・・ぐっ!?」
理由を聞こうとして分かった・車のアクセルが盛大に踏み込まれ、タイヤがギャリギャリと地面を削る
次に目を開いたときにはもう道路を猛スピードで走っていた
はっっや!?!?
目の前を大量の鬼火とヤガラのバイク、元マウンテンバイクが走っている。
俺はただただ見てるしかなかった。何かが見事なハンドルとブレーキ加減でカーブを曲がる
そこで猛烈に年甲斐もなくハンドルを握りたくなる。俺は迷わず握り、先ほどのような運転をする
どうやればどう曲がれるかわかる。信号は鬼火が被ると青になりノンストップで自宅へ向かう
ああ。なんか・・・なんか楽しい!!
車の運転がこんなに楽しいのはいつ以来か、俺は大満足で自宅に着き車を車庫に入れる。ヤガラのバイクはどういう訳か元の古びたマウンテンバイクに戻ってしまった
俺は車からおりながらヤガラに聞く
ヤガラ「こいつらは満足したから元に戻ったのじゃ」
ヤガラは静かに手を合わせる。俺も合わせて手を合わせる
そこに控えめな空ぶかしが鳴る
ヤガラ「お前の車と車に憑いたものたちはまだまだ食い足りんようじゃな」
ヤガラが笑う
しばらくあの楽しい帰り道が体験できるのか・・悪くない
ヤガラ「どうする?今夜はまだ走りたいみたいじゃぞ」
俺は煙草を咥えながら言う
膳「じゃあ今度は二人乗りだ、いいかな?愛車のFIT‐GK4君」
ガオオン!!と以前のフィットからは絶対聞こえない歓喜の咆哮のような空ぶかしが聞こえる
膳「ヤガラ、良かったら乗ってくれ」
俺は煙草を咥えたままヤガラに向き直る
ヤガラ「喜んで」
ヤガラも煙草に火を付けながらいい笑顔で笑う
俺たちはそのまま車に乗りアクセルを踏みハンドルを切る
細い道を今度はいつもの速度で走る。鬼火たちが車の周りを飛び回る。なんかあれだ・・昔アニメでみた
ヤガラ&膳「百鬼夜行」
俺とヤガラの言葉が重なる
ヤガラ「ま。百には程遠いがな」
まるで懐かしむようにヤガラが言う
俺は煙草を吸いながら運転の感触を楽しむ。これ、ライトがずっと鬼火なんだが大丈夫なんか?
あと降りたときタイヤも燃えてたぞ
ヤガラ「他の人間から見たらただの速い車じゃ、安心せい」
なら良かった。夜な夜な青い炎纏った車が猛スピードで走る噂とかホラーだからな
ヤガラ「ま、なんにせよ、これで一つ楽しみが増えたし、通勤も楽じゃろ」
ニカッとヤガラが笑う。どうやらヤガラなりの励ましだったようだ
膳「ありがとう」
素直に言葉が出た。ヤガラが何も言わず目を瞑りながら笑い煙草をふかす
俺も煙草をふかしながら運転を楽しむ
そんな二人の様子に嬉しそうな愛車のエンジン音が深夜に響いた




