障ると祟るの違い
今日は雨、八我羅屋の開店準備をしつつ、今日の客入りは少なそうだ、と一人思う
そんな中、ヤガラは珍しく煙草も吸わずしかめっ面で仁王立ちしている。
膳「どうした?ヤガラ、珍しいな」
いつもならさっさとカウンターに座り煙草をふかし始めるのに
ヤガラ「うーーむ、誰かが障りよった」
は?触った?え?見えないなんか居るの?
ヤガラ「そうではない、障る。つまりワシの境内で良くない事をした奴がいるのだ」
膳「ああ、障り、つまりご神木かなんかにまた悪戯した奴が居るのか」
ヤガラ「うむ、どうやらご神木の近くで丑の刻参りモドキをしてる馬鹿者が居るようじゃ」
どうやってわかるんだよ。見えてんのか?
ヤガラ「遠見という術を使う、さて、この大バカ者、どう祟ってくれようか」
おーおー物騒なこと言ってらっしゃる。てか、障りと祟りってどう違うんだ?
ヤガラ「良い質問じゃの、とりあえず待て、今呪詛返しを見舞ってから話してやろう」
ヤガラが何やら右手の指でクルクルと円を描き、梵字のようなものを次々書いていく
ヤガラ「よし、祟り完了」
満足そうにカウンター席に移動し、煙草をふかし始めるヤガラ、え?祟りってそんなもん?前と全然違うけど
俺は今日の品出しやらグラスやら諸々をセットし、カウンターに入る。
膳「さー、聞かせてもらいましょうか、障りと祟りの違いを」
しっかり特売で買ったスイカの切り分けとお酒も出す
ヤガラ「なんじゃ?情報料のつもりか?」
はいその通り、タダより怖いモノは無いからね
ヤガラ「ふむ、ワシとしてはスイカの時点で儲けものじゃな」
刺してあるつまようじでスイカを持ち、パクリと食べる
ヤガラ「あま~~~い♪」
どうやらお気に召したようだ
ヤガラ「まず障りとはの、その場で起こっている現象、わかりやすく言うなら瘴気に人が当てられることじゃ」
シャリシャリとスイカを食べながらヤガラが説明する
ヤガラ「瘴気は厄介での、元は良くない感情、つまり、怒りや苦しみ悲しみなど、負の感情から生まれる
人間一人の感情なら大したことはないが、それが獣の集団だったり森全体がその感情を抱くと、その感情が変化し、憎悪というより強い感情になる。それが長い年月をかけ、さらに変化したのが瘴気じゃ、
まあ、中には想いが強すぎて直接瘴気を生み出す存在もいたがな」
ススス、と無言で空になったスイカの器を前に出すヤガラ、はいはいお代わりね
ニコリとヤガラが笑う、うん、いい笑顔だ
膳「たまに狐狸の類やよく猫なんか憑りつくって言われてるが、そーゆーのも関係あるん?」
俺はスイカのお代わりを出しながら質問する
ヤガラ「まあ、あれは純粋な憎悪や霊格の少し高い狐狸とかがやるもんだな、憑り殺すというやつじゃ、
ほれ、人間にもあるじゃろ、怨霊になって自分を殺した相手に憑りつくとかな?アレはその目的が終われば収まるんじゃよ、どちらかというとそれは祟りだな、」
またスイカをシャリシャリ、煙草をぷかりとしながら言う
なーる程ねぇ、目的が達成すれば終わるのが祟りか
俺はグラスをキコキコと音を立てて拭きながら理解する
ヤガラ「そ、基本的に目的が達成すると静まるのが祟り、前に宗教勧誘を追い返すために雷落としたじゃろ?アレが祟りじゃ、んで、障りはそうもいかん」
客もいないので俺も煙草をふかしながらカウンターの折りたたみ椅子を広げ、座る
ヤガラ「障りはの、本人の意志もなんもかんも飲み込んで周りに広がり、ただただ、その領域に入った対象にひたすら害を成す。幾年も」
何処か遠いところを見るような顔でヤガラが話す
ヤガラ「障りは面倒じゃぞ~、近づけば体と精神に害があるし、対象者なら死にかねん、一番厄介なのは
障りを起こした本人が死んでもそれは残り、広がり続ける。という事じゃ、今回障った奴は丑の刻参りモドキを障った土地の木でやりよった。まあワシの住処なんじゃが、あそこには今も障り続けている大樹がある。しかも障りの対象は人間じゃ、」
ヤガラが吸い終わった煙草をもみ消し、新しいタバコを咥え、俺がすかさず火を付ける
ヤガラが片手で拝み手を作り、感謝の意を示す
ヤガラ「じゃからのう・・確かに丑の刻参りはそういう場所では成功しやすかろう、じゃが、儀式モドキとはいえ、儀式は儀式、その人間を一個の増幅器とし、呪いの成功率はどんどん上がるじゃろう。じゃが
それはいずれその術者も取り込み、憎悪と怨嗟、瘴気をまき散らすだろう。だから今回は祟っておいた」
煙を輪っか状にぽふぽふと出しながらヤガラが答える
ヤガラ「なるほどなぁ・・ん?どんな祟り方したんだ今回」
俺はヤガラのグラスに日本酒を注ぎながら聞く
ヤガラ「さっきも言ったが呪詛返しじゃよ、その者の呪いが相手に届くことが無いようにしたんじゃ、
よく言うじゃろ?呪わば穴2つじゃ、呪った本人も結局は報いを受けるのよ、代償はどうあれな」
ヤガラが冷えた日本酒に舌鼓を打ちつつ告げる
あれ?そうなると家族を恨んでる俺もそうならん??
ヤガラ「だからなっとじゃろ、人を信用できない環境、彼女も子供もできん環境に」
ピシと指をさされる。なるほどな、まあこれくらいなら別に報いとしてはいいか
ヤガラ「油断するなよ、お前さんの場合、人を嫌い、憎みすぎて己自身何が憎いかわからんとこまで来とる。そうなったものの末路は・・」
膳「末路は?」
ごくりと唾を飲み込み、答えを待つ
ヤガラ「ワシにもわからーーーん」
盛大にズッコケた・・・うん、やっぱヤガラだわ
ヤガラ「なんせ人に干渉なんぞろくにして来なかったからの~、いやあさっぱりわからん」
ケラケラとナッツをポリポリ、酒をグイ―と飲み干すヤガラ、ホントにもう
ヤガラ「まぁ・・なんにせよ・・」
ヤガラが途端に真面目な声のトーンになる
ヤガラ「お前はワシのじゃ・・他の何者にもくれてやらんわい・・」
ヤガラの瞳がどす黒く濁る。おーおー、愛されてんな俺
カランカラン
ちょうど話終えたところに来客を知らせるベルが鳴る
膳「いらっしゃいまー」
迷惑系「はーい!!こちら最近有名の神様が居る居酒屋にきましたーー!!おお?あそこが噂の席かな?」
膳「(おかえりください)せ」
男は俺に許可も取らずズカズカと席に近寄り撮影を始める
ヤガラ「・・・」
あ、やばい・・ヤガラの眼が据わってく・・
膳「はぁーーー・・お客さん、店内撮影禁止、それとその席に迷惑かけんの禁止、あと来たならご注文を」
迷惑系「おやー!?客に対する対応とは思えませんね?いいのかこれはァ!?」
大げさにポーズきめながら配信続けやがる・・この馬鹿
すかさずヤガラの席のお酒に目を付ける。
迷惑系「神様のお酒飲んじゃいまーーす!!」
ヤガラ「・・・ギリィッ」
ヤガラのグラスに迷惑系の男の手が届く瞬間
ガシッ
膳の左腕が男の腕を掴む
膳「・・オイ」
ギシィッ
男の腕がわずかに軋む
迷惑系「イタタタ!?ぼ、暴力だ!!」
男が慌てて手を振りほどき大声で言う
膳「なら、こっちは営業妨害だ」
膳が恐ろしく低い声のトーンで言う
ヤガラも立ち上がって・・ああ、メキメキと筋肉盛り上がってらっしゃる
迷惑系「な、なにかしたら、全ネットに生放送だからな!?」
男がカメラを構え抵抗する
膳「おお、良い広告になる。視聴者の皆様こんばんは、煙所八我羅屋の店長、膳です。さてこれからお見せしますのは、種も仕掛けもない、ウチにいる神様の祟りです。どうぞご覧あれ」
大げさに会釈し大きな声を上げ続ける
膳「さて、皆さま、当店にご来店の際はくれぐれもこのようなふるまいはご遠慮願います。では!ご覧あれ!」
ヤガラ「思いっきりやっていいのか??」
ヤガラが怒り心頭の声色で聞いてくる。どーぞどーぞ、やっちゃって
ヤガラ「ヌン‘‘!!!!」
ヤガラが力を込めると、ビデオカメラがボン!!!と大きな音を出して壊れた
迷惑系「うわっ!?!?なんだ!?」
ひゅー♪いい気味
膳「さて、頼みのカメラは壊れたなぁ・・まだやる?」
迷惑系「まだスマホがある!」
男がスマホを取り出しこちらに向ける
膳「ヤガラ」
とっさに名前を呼ぶ
ヤガラ「ほいっと」
ヤガラが何か文字を描く
迷惑系「な、なんだこれ???と、止まれ、とまれぇ!?!?」
男が慌てる。なーにやったんですかい?ヤガラ
ヤガラ「最近は電子まねー?だのくれじっとだの便利な金があるそうじゃの、そいつを適当な宗教団体に寄付してみた」
迷惑系「うわぁぁぁ!!?カード上限額!?なんだこれ・・なんだこれぇ!?」
男がそのまま店を飛び出す。ああ、理解した。ご愁傷様
ヤガラ「さて・・飲みなおすかの」
ヤガラはやれやれと伸びをし、カウンター席に戻る
俺は玄関に塩を撒いた
ヤガラ「何故に塩を撒く」
酒をチビチビ飲みながら素朴な疑問がヤガラから出る
こうすると嫌な客が来なくなるんだよ
ヤガラ「人間は変な風習をすぐ作るのう」
ヤガラが徳利からじか飲み・・いや?口に含んでこっちに来る
膳「まさか・・・スト!!」
瞬間、ブファーーー!!と霧状に撒かれる酒、ああ、やっぱり
キラキラと輝く飛沫、あとで掃除しなきゃ
ヤガラ「塩よりこっちじゃ」
さいですか・・はあ、煙草吸お
カウンターに戻り、煙草を咥える
ヤガラ「ん」
ヤガラが微笑みながら火を付けてくれる。ありがたい
煙を深く吸い込みハイライトに沁みついている豊かなラム酒の香りを楽しむ
膳「今日はもう店じまいかな」
ヤガラ「客も来んしな」
ゆらゆらと揺れる煙をヤガラと見ながら店じまいの支度を始める
ザーザーと降り続ける雨音、今夜は止みそうにないな




