ヤガラ様が見てる
今日はぎっくり腰も良くなり、久しぶりの出勤・・・なのに
膳「あれー?ヤガラ~!俺仕事行くからね~!!火の始末だけ気をつけてくれよ~?」
・・・・
居ないのか?起きたときは居たから居るはずなんだが・・本殿にでも行ってるのか?
あ、そだ、書置きしとこ
膳は火の始末だけ気を付けて、と書置きを残し、家を出た
――職場――
膳「(ひえ~、相変わらず客が一杯・・こりゃ大変になりそうだ)」
そう思い仕事に取り掛かる膳を見る影が一つ
ヤガラ「じーーー」
ヤガラ様、その人である。そう、何を隠そう今回、膳が職場復帰したタイミングで後をつけてきたのだ
というか隣に乗っていた
何故膳が気づかないかって?
ヤガラ「フフフ、超隠密形態・・気配を極限まで薄くすればこの通りじゃ」
そう、ヤガラ様には超ステルス機能があるのだ、これでどんなに霊感や霊視の力がある人でも見えなくなる
ヤガラ「さーて、膳よ・・あれだけ真顔で言い切ったんじゃ、潔白を証明してもらうぞ・・そうこれは」
目をくわっとかっぴらき自信満々に言う
ヤガラ「浮気調査!!!」
大体あってる
まあ、ワシという老いも病みもせぬ女が居るんじゃし、浮気なぞしないと思うが
一人で自問自答し自己完結するヤガラ様
ヤガラ「一応じゃ、疑いや自分に自信がないわけではない・・ないぞ!」
ブツブツ独り言を言うヤガラ様
ふむ・・これが噂に聞くげーむせんたーというやつか
よくわからぬ機械がゴチヤゴチャでよくわからない音楽を奏でている
ヤガラ「耳には良くないところじゃのう」
気配を消しているので堂々と歩くヤガラ様
カウンターの前で膳と向き合う
ヤガラ「こやつ・・」
微動だにせぬ、なんか顔の表情も気持ち悪い、
ヤガラ「普段からこんな顔で接客しとるのか」
マジマジと見る。わしと交わってるおかげか生来か、年齢に対して白髪がない、それに煙草の匂いもしない
ヤガラ「普段、あれだけパカパカ吸っとるのに・・ちぃとも匂いがせん」
スンスンと匂いを嗅ぐ、僅かに体臭
ヤガラ「不思議じゃ」
そうこうしている間に、膳の身体が動く、掃除を始めた。あの気持ち悪い表情のままで
膳の仕事は実に淡々としたものだった。品物を補充し、トラブルがあったらすぐ駆け足、また掃除
そこで気づく、
ヤガラ「こ・・こやつ・・」
目が全く笑っていないのだ、接客していても、電話をしていても、同僚と笑いながら会話していても
ヤガラは膳が少し怖くなった。どこをどうしたらこうなったのか、何がどうなってここまで壊れたのか
ヤガラを後目に、膳が同僚らしき人と笑いながら話している。声は確かに笑っている。動作も笑いのソレだ。しかし、目が完全に笑っていない
ヤガラはよく知っていた。これは虚無だ、膳は今真に虚無状態にいる
電話がかかる。善が元気よく店名を言いながら応対する。声は間違いなく優しい、とても丁寧だ・・
だが目が、目の奥が一切笑っていない
先輩らしき人が膳に仕事を教えている。それに元気よく答え、はきはきと返事をしている後ろ姿。だが
表に回ってみれば、より一層濃い虚無を抱えた瞳がヤガラの眼に映る
ヤガラ「働くとは・・ここまでしなければいかんのか・・」
自然と言葉が零れる。人とはここまで虚無になれるのかとも思った。
気づけばあっという間に退勤時間になっていた。
相変わらずの表情と眼差しで先に帰ることを伝え深々とお辞儀をし、車に向かっていく
ヤガラも後を追った
車が走る。ただただ、あの家に
ヤガラ「・・・」
無言で姿を現すヤガラ
膳「うぉ!?居たの!?」
驚く膳
ヤガラ「・・今日一日・・見ておった」
ヤガラが重そうに言葉を放つ
膳「・・どう?証拠になった?」
膳は前を見たまま二カリと笑う。もうその瞳に虚無の色は無かった。いつもの膳だ
ヤガラ「なったとも・・ようわかった」
膳「そう・・」
恐らく意図を組み取ったのだろう、膳が音楽を流しながら短く答えた
膳「俺はね・・ヤガラ」
膳が独り言のように言い始めた
膳「人間に希望が持てなくなったんだ」
黙りながら続きを静かに待つヤガラ
膳「あ、と言っても限られた友人とかは別だよ?カズキとかね」
懐かしいような顔をしながら言う膳
そういえばカズキに対してあのような虚無の眼差しは一度もなかった
膳「カズキは別さ、お互い期待してない腐れ縁だったからね」
いつものようにはにかみながら言う膳
ヤガラ「お前は・・膳は・・本当の膳としての存在は何処にいる」
絞り出すように問うヤガラ
膳「今はヤガラの隣かな」
間髪入れずに答えを貰う。ホッとした自分が居た
ヤガラ「お前はずっとあんな感じなのか」
膳「生きてる限りはそうだろうね、もう・・仮面被るのも騙すのも慣れたよ」
膳の方を見る。瞳に微かな、それでいてどろりとした濁った虚無が見えた
赤信号、車が止まり沈黙が続く・・ただ場を取り持つように音楽が流れていた
ヤガラ「わしは・・何も知らなかったんじゃな」
俯くヤガラ
膳「嫌いになった?」
ヤガラ「それは無い!!断じてないぞ!!」
思わず声を荒げて膳の顔を見る
ヤガラ「いいか!!例えどれだけお前が人間に絶望しようが!!最後はワシに娶られるんじゃからな!?
覚えとけよ!!!」
喰いかからんばかりに膳に言う
膳はポカンとした表情の後にこう言った
膳「お願いします」
よっし!!言ってやった!!どうじゃ膳め!!
車が発進する。また沈黙が続くかと思われたが
膳「結婚かぁ~~」
柄にもなく恥ずかしそうに頭を掻く膳
自分の言ったことの意味を思い返し我に返るヤガラ、何かを言いかけ
膳「おっと、取り消しは無しな~?」
膳が遮る・・おのれ
窓を開け膳が煙草を咥える
膳「ヤガラ・・火、付けて」
ヤガラ「あ、ああ」
ポッと膳の煙草に火が灯る
膳が煙草を吸い、煙を吐く
膳「また自分の為に頑張れそうだよ・・ありがとう」
ヤガラ「そうか・・膳・・火くれ」
ヤガラが煙草を咥える
片手で愛用のジッポライターに火を付ける
ヤガラの煙草に火が付き煙草を吸う
二人同時に煙を吐く
長く長く煙が出なくなっても息を吐く、そして同時に言った
ヤガラ&膳「帰ろうか」
車は音楽を奏でながら二人の家へ向かって走る。
両方の窓からそれぞれ煙草の煙を出しながら




