煙所八我羅屋開店
それから地元に帰った俺たちは大忙しだった。空いてるテナントを巡り良さそうな場所を探し、駆けずり回り、必要な材料を探し、まさにバタバタとした日常だった。
膳「ふい~、どうにか開店までこぎつけたぞ・・ああ、腰に響く」
重いモノを持ち、チクチクとした腰の痛みに耐え、どうにか看板をOPENにする
そう、俺が考えたのは、喫煙できる場所を作ることだった。あれから地元に帰り色々聞き取り調査をしたところ、やはり、コンビニはあるが喫煙所は無く、煙草協会と県が揉めてる地域があった。その地域で喫煙可能な空テナントを借り、喫煙所兼コーヒー兼バーを作ったのである。まあ最も、そんな収入の見込みはなさそうと考え、今の仕事の休みの日に開店する場所なのだが
効果は思った以上にあった。特に週末と土日夜だ、二次会やちょっとした飲みにのお供に煙草を吸いながら一杯やりたい、煙草とコーヒーを楽しみたい、静かに一人飲みしたい、理由は様々だ
そんなお客さんたちにちょっとした噂が流れている。なんでもそこの店には神棚があり、酒に酔った時や
煙草を吸ったときに、ひとりでに供えられた酒が減っていたり、カウンターの灰皿に置かれた煙草に火が灯っていたりするのだという
またそこの店長も変わった人で、年中アロハやラフな格好をしていて、いつの間にか煙草を吸っており、誰も火を灯した瞬間を見た人が居ないという
ヤガラ「しっかし・・ようかんがえたのぅ・・おまけにワシの名前まで使いよって」
若干呆れたように煙草をカウンターでふかすヤガラ・・いや、ヤガラ様
ヤガラ「おいおい、せっかく様が外れたのにまた付けんでくれんか?ヤガラで良いわい」
他の人に見えないのをいいことに小突いてくるヤガラ、痛い・・主に腰が
膳「おいおい、お客さんがいるんだから、少しは加減してくれ・・声が漏れる」
ヤガラ「や~~じゃ~~~、お前さんがワシを利用した代金じゃよこれは、うり!・・うり!」
ええい、お客はコーヒーと自分の空間に夢中だから・・今だ!
ヤガラ「あっ・・!?」
隙を見てヤガラの吸っていた煙草を奪い取り、咥える。どうじゃ・・??
ヤガラ「・・間接・・キスゥ・・・」
ヤガラが消え入りそうな声で言う。あれだけヤルことやってんのに今更っすか・・可愛いね
ヤガラ「お主・・今夜覚えておれよ・・」
んん~~~??なんか・・やばそう?
客「すいませ~ん!会計お願いしまーす」
膳「はーい!ただいま~!」
俺はちょっとヤバそうな視線を背中に受けながら業務をこなす
やがて夜になった。
膳「今日は客こねぇ~~~~」
カウンターに肘を付き煙草を吸う膳
ヤガラ「まあまあ、まだ試運転じゃし、そんなに賑わっても困るじゃろ」
同じくスイカ味の煙草を吸うヤガラ」
膳の隣で盛大に煙の煙を吐き出す
膳「そうなんだけどよ~?、暇になったらなったで売り上げの事が頭に浮かぶんだよ」
膳が厄介そうに頭をかきながら言う
ヤガラ「人間社会とは本当に厄介じゃのぅ、好きなことも金がなければできんのか」
いつの間にか膳の正面の席に座りながら今日のお神酒であるウイスキーの大喬を飲むヤガラ
ヤガラ「ふぅ・・酒にたばこ、ゆったりとした空間、居心地が良いのに何故みんな来ぬのじゃ」
不思議そうに言いながらまた煙草を吸うヤガラ
膳「世の中不景気だからね~、今の若者は、飲まない、吸わない、外でないって言われてるくらいだからな」
まあ、どっちかというと若者だけじゃなくてみんな同じなんだけどね、それもこれも日本経済の不況が招いてることだ
ヤガラ「う~む、ままならんのう」
ウイスキーを飲み、いつの間にかお通しの柿の種をポリポリ食ってるヤガラ、おい、勝手に食うな
膳「まあ、気長にやるさ」
カランカラン、と入り口の呼び鈴が鳴る
膳「いらっしゃいませー」
すかさず姿勢を正し、挨拶をする膳
男は酔っているらしく、よろよろとヤガラの隣に座る。
男「てんちょー、ウイスキーロックでくれぇ」
膳「あいよー、銘柄は?」
男「なんでもいい~」
相当よってんな、
ウイスキーのロックを渡しながら膳が思う
男「ども・・ングッ・・ングッ・・ぷはぁ~~」
ウイスキーを煽るように飲み、ガックリとうなだれる
膳「どうしたんです?お客さん?ずいぶん飛ばしますね」
すかさず前がカウンターにあらかじめ用意されてる席に座り、お客さんに話しかける
男「いやぁ~~、会社でヘマしちゃって・・怒られたんでやけ酒です・・」
あらま、会社員も大変だねぇ・・
膳「そりゃ~災難でしたね・・コレどぞ、お通しです」
コトリ、乾きもの、いわゆるつまみを置く膳
男「あざっす・・ポリポリ・・旨い」
そりゃよかった。なんたってウチの神様御用達のナッツ類だ
ヤガラ「・・・じー」
ヤガラが自分にも欲しそうな目で見つめてる。はいはい
男「?誰もいないのにつまみと酒と・・たばこ?」
男が不思議そうに隣の席を見る。そりゃそうだ
膳「ウチには神様が居るっていったら・・信じますかい?」
男に冗談めいた口調で膳が言う
男「神様ぁ?そんな・・冗談でしょ?」
男がケラケラと笑う、まー、そーですよねー
膳「いやぁ、昔からウチにはえらく煙草と酒が好きな神様が居ましてね?んで、せっかくだから店にも
ゲン担ぎに祀ってるんですわ」
笑いながら膳が話を続ける。ヤガラは少々不満気味に煙草の煙をふかしながらウイスキーを飲む
男「・・あれ?ウイスキー・・そんなに減ってたっけ??」
男が目をこすりながらヤガラの席のウイスキーを見る。なるほど、他の人にはそう見えるんか
膳「ね?いるでしょ」
俺はウイスキーを注ぎ、煙草に火を付けてやる
ヤガラが煙草を吸うと、灰皿に置かれた煙草がみるみるうちに短くなる
男「はぇ!?・・・え!?」
客は目をぱちくりし、カタカタと震えだす
いかん、怖がらせたか?
膳が男をカバーしようとした矢先、男がとんでもないことを口にする
男「か・・神様!!お願いします!ここんとこ不運続きで大変なんです!!なんか悪いの憑いてたら払ってください!!お願いします!!」
俺は唖然とした。見えていないはずのヤガラに向かってお願い事をし始めたのだ
ヤガラ「承った」
ヤガラが立ち上がるとずぼっと男の体に手を入れる。そして黒い何かをズルリと引きずり出し、ぐしゃりと握りつぶしたのだ
おいおいおいおい!!!何やった!?
ヤガラ「騒ぐな、こやつの厄を散らしてやっただけよ」
厄を・・散らす?病魔とは別か
ヤガラ「いうなればゴミ掃除じゃの」
なるほどな
男「願い・・聞き入れられましたかね?」
膳に男が話しかけてくる。するとヤガラの席のウイスキーが減っていく、ヤガラが飲んでいるのだ
男「おお!!今度は見間違い無いぞ!!減った!!減りましたよね!?」
男が俺に熱心に話しかけてくる
膳「どうやら・・聞き入れられたようで・・」
俺は当たり障りのない答えを返す
男「ありがたい・・!!よろしくお願いします!」
男は残りのウイスキーを飲み、煙草をふかし始める
男「神様って・・いるんだなぁ」
ポツリと男がいう。そう、いるんですよ
その後、男はヤガラの席の酒やたばこが減るのを面白がり、自分の金で酒を追加してくれたりした
おかげで結構な売り上げになった。
男「それじゃ、また来ます~!」
元気に笑顔で帰ってく男をヤガラと俺とで見送りようやくヤガラに向かってしゃべる
膳「良かったな」
満足そうに酔っぱらってるヤガラを見ながら声を掛ける
ヤガラ「ふひゃひゃ、あの人間なかなか気前良いのう!煙草までくれるとは!」
あ~、こりゃ完全に酔っぱらってやがる。全く調子のいい
その後、どこから噂が流れたのか、あの店には神様が居て、酒やたばこを対価に願いを叶えてくれるというような噂が広まり、店はそれなりに繁盛した
客「店長!おれも神様に酒!!」
客2「私は煙草!メンソでも大丈夫~?」
次々にヤガラに注文(供え物)が入る。まあ予想とは違ったが、これはこれでいいか
隣でヤガラがめんどくさそうに願いを聞いている。そしてときたま、客の身体に手を突っ込み厄や病魔を握りつぶす。正直、どっちが厄で病魔なのかあまり区別がついていない
ヤガラ「黒いどろっとしたものが病魔で霧のようなものが厄じゃ」
厄?を握りつぶしながらヤガラが答える。はぁん、なるほど?
今日もそれなりに繁盛した。大半がヤガラへの供え物だが
レジ金を管理しながらヤガラにつまみの残り物と酒を出す。今日は26000円か、すげえな
膳「ヤガラ、疲れたりしてないか?」
俺はレジ金をしまいながらヤガラに声を掛ける
ヤガラ「いや?特に、大体願ってくる人間に厄は憑いとらんし、大体本人の性格の問題じゃのー」
あらま、やっぱり世の中性格なのね
ヤガラ「そうじゃ、大体中には復縁できますようにとか、好きなあの子と付き合えますように、とか
失脚しますようにとか、誰かを蹴落とす物騒な願いもあったぞい」
ひぇ・・真に悪魔は人間か、肝に銘じとこう
ヤガラ「いつの世も変わらんものじゃ、人間の欲というものは」
供え物の煙草をぷかりとふかしながらヤガラ様が言う
膳「みんな良い生活がしたいんだよ」
俺はフォローのつもりで言う
ヤガラが若干呆れたように言う
ヤガラ「なら、なおの事、今より良い生活がしたいと願えばいいだけじゃろ?それを誰かを別れさせたり失脚させたいなどと願う、まさに愚の骨頂よ」
まあ、確かに?いい暮らししたいなら働いて貯金するしかないし、行動しなきゃ始まらん
ヤガラ「じゃろ?危険無くして実り無しじゃ、毎日同じ生活、同じ出費をしてて、ただただいい生活がしたいなどと、狂気の沙汰じゃよ」
確かに、同じ行動をしてて、それが積み重なるなら変わるだろうが、消費も同じじゃ動いてないのと一緒だわな」
そう!!というように指をさされた。
ヤガラ「変わりたいなら金を少しづつでも貯め、賭けに出るんじゃ、そうして初めて違う景色が見える」
流石神様、説得力ある
満足そうにカウンターに肘を付きながら煙草をふかし、こちらを見る
ヤガラ「ワシら神に出来るのは背中を押すだけよ。今回の件はたまたまだがな」
俺はお礼のつもりでスイカ味の煙草を渡す
わぁ♪というように口の中に煙でハートを作り意気揚々と包装紙を破り、煙草をふかし始めるヤガラ
俺もハイライトを取り出し咥える
ヤガラ「ん」
ヤガラがいつかの頃みたいに指先に火を灯して火を付けてくれる
お互いに自然と笑みがこぼれる。ああ、今日も良いタバコだった・・




