人生の夜明けは50代から
カズキの死から数か月、暑い夏は過ぎ、寒い冬も過ぎた
膳「それでも世界は廻る。残酷に淡々と」
今日と明日は仕事が休みだ。カズキの死から数か月、驚くほど日常に変化はない
相変わらず煙草と飯は旨いし、ヤガラとの生活も悪くない
驚いているのは自分の適応力だ、俺は元来環境や人に合わせるのが苦手だ
なのに、カズキが居なくなってからというもの、外出が減るどころか増えた
ヤガラと蕎麦を食い、滝を見に行ったり、飛行機乗って遠出して、ご当地グルメを楽しんだり
今も大阪まで遠出して町を歩いている
ヤガラ「どうした膳、そんなうわの空で」
ヤガラが声を掛ける。
考え事してた。と素直に言う
膳「人生って・・何なんだろうなぁ・・ヤガラ」
串カツとソフトクリームを頬張りながらヤガラが言う
ヤガラ「そんなの、こうやって旨いものを食い、旨い酒に酔い、旨いタバコに心酔するためよ!」
むん!とガッツポーズを取り、自信満々に答えるヤガラ
膳「旨いもの・・ねぇ・・」
幼いころから家の為、存続の為、と散々言い聞かされてきた俺にとっちゃ、夢みたいな人生だ
まあ、現に今旨いホットドッグにかぶり付いているわけだが
ヤガラ「お前さんは親父殿の洗脳が酷かったからのう・・よう反発したもんじゃ」
ヤガラ様が懐かしそうに言う。そうかばあ様と喋ってたならその辺もある程度話してるのか
ヤガラ「それもあるが、ワシ、時々お主の家に様子見に言っておったからな、親父殿と母君は随分と
対立していたように見えたし、母君がお主に向ける勉強の期待も尋常ではなかったなぁ」
そう言われ嫌な記憶が蘇る。飯時も寝る前もひたすら二人は言い争っていた。やれ成績がどうの将来がどうの、小学生のガキだった自分には意味は分からなかったが。両親がつまらないことで勝手に俺に理想を押し付けていたとわかった。つまり正気に戻ったのは専門学校の為一人暮らしをしてからだ
いろんな人とコミュニケーションを取り、「我が家の異常さ」に気づいたのはこの時だった。
皆、俺の身の上話をすると血相を変える。当然だ。小学生のガキが、夜中叩き起こされて朝方まで勉強
させられ、間違えたら教科書の角で叩かれる。延々と周りは出来てるのに、それが普通なのになぜできないと。
今では簡単な話だ、両親とも「俺自身ではなく理想の息子」しか見ていなかったからだ
そりゃ思い通りになるわけないから齟齬が生まれる。両親はそれで怒る。当然幼い俺は何が何だかわからなくてひたすら痛みに耐え、泣く、それで親がまた癇癪を起し叩く、殴る。負の無限ループだ
だか転機が訪れた。二十歳になり俺の方が単純に力が強くなったのだ、体格もデカくなった
母は俺に怒らなくなった。父親は無関心になった。25歳になる頃、母親は俺に怯えるようになった
何故なら俺がされたことを、自分が息子にしたことを覚えていたからだ。いつ仕返しされるか分からなくて怖かったんだろう。ざまぁねぇ、そんな日が続いたある日、母親が難病になり、自分一人で生活できなくなった。てんかん発作が起き、救急車で運ばれた。運ばれている間うわ言の様に俺に謝り続けていた
その様子を見て、嗚呼ようやく理解したんだね、自分の息子がどんな化け物に育ってしまったか、と思った。ソレを機に、俺は酒を辞めた。なぜかって?死に目に会うためだ、両親の死に際によーく見えただろう。自分の育てた化け物の冷たい眼が
果たして両親の死に際に浮かんだ感情は絶望か、それとも他の何かか
母親からは謝罪されていたので普通に葬式をした。最後まで自分の非を認めなかった親父は直火葬(葬式を行わず軽い念仏と戒名を済ませてすぐ火葬するやり方)してやった。精々閻魔様に言い訳してればいい
ヤガラ「・・どうやら触れてはいかんことに触れた様だの・・すまぬ」
ヤガラが柄にもなく済まなそうな顔をして謝ってくる
膳「うるせぇ・・ただ思い出しただけだよ、俺の根底を」
ヤガラに言葉を吐き捨てる
ヤガラ「お主のそれは・・両親が消えても消えぬのだな・・・」
悲しそうに言うヤガラ
俺はヤガラにスイカ味の飴をやる。大阪は路上喫煙厳しいからな
カラコロと気持ちのいい音が聞こえてくる。ヤガラが飴をなめ始めたようだ
膳「忘れるものかよ・・どんなに気分のイイ事やったってぜってぇ忘れねぇ」
恨み恨んでもう30年余りだ。両親が死んだこれからも恨んでいくだろう
ヤガラ「お前さんのソレ、もはや単なる恨みではなく怨恨・・自分もまきこんだ一種の呪いじゃの」
ヤガラが俺の何かを見ながら真剣な顔つきで言う。なんだ?魂でも見てんのか?
ヤガラがほう!と声を上げる。
ヤガラ「ようわかったのう!そうじゃ、魂に食い込んだ怨恨、もはやワシの祟りと同類のソレじゃな」
膳「へぇ・・祟りと同類か、なら俺たちお似合いじゃないか?ん?」
皮肉を込めてヤガラに向かって言う。・・おい、なんで照れてんだよ
ヤガラ「やはは・・膳からそう言われると・・嬉しいのぅ」
はぁ?と思って思い出した。そうだった、ヤガラも祟り神じゃん
ヤガラ「も!!!・・・と!!!じゃ」
ヤガラが強調する。そんなに強調しなくても今更怖がったりしないから大丈夫だって
ヤガラ「わかっとる・・わかっとるよぅ」
やれやれ、全く可愛い嫁だよ
ヤガラ「まてぃ!?何故ワシが嫁なんじゃ!!嫁はお前さんじゃ!!ワシが婿じゃ!!」
激しい反論が返ってくる。譲れないのそこなのね!?
ふと、逞しい男性のヤガラを想像する・・あ、ヤガラならありかも
ヤガラがムフン!と腕を組みながら勝ち誇る。へいへい
逆に俺が花嫁姿を想像する・・ヤメときゃよかった
ヤガラ「肩幅ガンダム並みじゃの」
うっせぇ、水泳に空手に拳法を幼少からやってたらそりゃそうなるわい
ヤガラ「それにしても・・煙草屋も見当たらんのう・・自販機ばっかじゃ」
ヤガラがつまらなそうに言う
ヤガラ「あーあー!!どこかに煙草も吸えて茶でも飲める店でもあればのー」
膳「まったくだ・・それなら喫煙所にもなるだろうに・・」
ん?まてよ?俺たち今なんて言った?
ヤガラ「何て、煙草が吸えて茶でも飲める場所があればいいと・・」
ソレ・・それだよ!!
目の前が明るくなったような気がした
山形でも喫煙所の無い場所はある。何なら喫煙所がなくて困ってる場所があるって誰かが言ってたな
貯金はまぁまぁある。となるとあとは借りる場所か・・
ヤガラ「のぅ・・お主何を考えておる」
膳「楽しいことさ」
ああ・・面白い・・これからきっと面白くなるぞ・・
そう言いながら俺は方々(ほうぼう)に電話をかけ始める
ヤガラ「ふむ・・まあ膳が楽しそうならいいか」
膳「ヤガラにも手伝ってもらうぞ、な?か・み・さ・ま・?」
にっっこり笑顔でヤガラを見る
うわぁ・・って小さく言われた・・失礼な




