第83話 総力戦14 降臨
嵐紗「『裂駆音逸突』」
嵐紗は持っている槍で閃邪に向けて突きを放っていた。それは閃邪の足を貫き、その勢いのまま翠花たちを置き去り進んでいた。
閃邪{なんてスピード…もうさっきのこいつではないな。覇天の我界で効果もあるんだろうが、このどこまでも先がない、この空間でこそ活かせるこいつのスピードか。つまり…虹帝達最速はあくまでこの空間でのスピードではない…ということか…}
{退屈せんな。170年ぶりにやってみるいい機会になり得るか?}
閃邪は不敵な笑みを浮かべる。それを見た嵐紗は槍を投げる。
嵐紗「なにわらってんの!」
勢いそのままに投げた槍は嵐紗のスピードも相まってとんでもないスピードで加速していた。
加速した槍が閃邪の足から消える。だがこの空間では摩擦が存在しないため閃邪はそのままのスピードで進んでいた。
閃邪「減速しない。そしてこの空間…ふむ、摩擦がないな。止まれないのか。ならば方向転換のやりかたを模索しなければ…」
嵐紗「ふ!」
閃邪が思考している間、嵐紗が閃邪の元へたどり着く。閃邪は能力で宝の山を大量に嵐紗に向けて放つ。
閃邪「『宝災私我』」
だがどれも嵐紗には当たらない。すべてを弾く。それどころか所々に混ざっている宝箱に目を付け、槍でそれを打つ。宝箱は閃邪の方へと向かって行く。
だが閃邪は近くに宝箱を出現させ、それを蹴ることで躱す。
閃邪「彩剣宇雨』」
嵐紗の上下左右に金色に輝く小さな剣が現れ、嵐紗に近づくように近づく。
嵐紗「『木星』」
嵐紗の周辺に木星を象る球体が出現し、金色の剣を全て凍らせる。
閃邪{あの中心は絶対零度か。瞬時に固まっていた。星の力を宿す…素晴らしい。では…これならどう対抗してくる?}
閃邪の体はどんどん消えていく…。体が透けるでもなく、完全に姿を消した。
嵐紗「消えた…。どこだ?」
そう考える嵐紗の頬に切り傷が現れる。次は左足、右腕、首筋、どんどん嵐紗の体に傷がついていく。
嵐紗{この力も無視して私に攻撃を…透明化だけではこれは為せない。何をしている?}
嵐紗はそう考えている間にもどんどん傷が増えていく…。足の裏、髪の一部、耳の軟骨に至るまで、細部までもが削られ始める…。
嵐紗「よし、勘」
嵐紗が槍を構える。そして、何も考えずに槍を前に放つ。それはなんと…。
閃邪「が…まじか、お前」
嵐紗「お、当たった~」
閃邪「ヤマ勘で当てる奴がいるか…。全く…」
嵐紗が放った槍はなんと閃邪の脇腹を深く抉っていた。
閃邪「だがそんなんでは俺は死ぬことはできんなぁ」
嵐紗「え~っとね、そろそろ面白いのが来るよ」
閃邪「なに?」
そう言い嵐紗は目を閉じる。目を閉じたとほぼ同時、嵐紗の横を光速を超えるスピードで抜ける一つの閃光。それは…
閃邪「ゴフ…」
閃邪の首を貫通していた。
嵐紗「やっぱりね。君ならやってくれると信じてた。真くん」
そう、今の攻撃を放ったのは…
真「手ごたえあり」
この俺だ。だが、なぜあの攻撃を当てることが出来たのか。それは単純だ。
嵐紗さんがこの世界を展開した時、俺も一緒に入っていた。そして偶然か必然か、俺がいる方向に嵐紗さんが突っ込んできた。これはチャンスだと思い、「焼弓極光」を構えた。嵐紗さんが槍であいつの体を突き刺して場所を固定してくれていたからこそできた芸当だ。
そして…大きな神気が二つ、それもえげつないスピードで近づいてきているのも今の俺にはわかる。
閃邪「ガキの…神気…この世界に入れていたのか…」
嵐紗「うん。まあその攻撃は私が当たるように場所を変えたんだけどね。真くんが当ててくれるような場所まで。結果的にあんたはそれほどまでに怪我をした。そうでしょ?」
閃邪「ああ…」
さらに…
閃邪「…まじか…」
閃邪は驚きの顔を見せる。それは…
翠花「やっと追いついた!」
仁「嵐紗。早すぎる。もう少し加減を知れ」
翠花と仁も戦場に追いついたからだ。
嵐紗「んじゃ…頑張ってね~」
嵐紗、翠花、仁が一気に攻める。
閃邪{狛野嵐紗、橘仁、源翠花…そして遠距離からは赫星真がいる。嵐紗が攻撃で俺を固定しているとはいえ、当てることが出来る命中精度…そして嵐紗の世界だ。これ以上の何かをしてくる可能性すらあり得る…。…やむを得んな}
「『色邪降臨』」
閃邪がそう言うと…閃邪の目は赤く光り、黒色の禍々しい球体が閃邪の体を包み込む…。
仁「なんだ?これは…」
翠花「なんか…嫌な予感がする…」
嵐紗「一旦離れるよ」
3人が距離をとる。その間にも球体はどんどん膨らみ、それを避けるように3人はさらに距離をとる。
膨らんだ球体が一気に人の形を成す…。
「こっちの世界に来たのは…170年ぶりね…。久々だわ」
そこに立っていたのは…閃邪とは全く別人の女性だった…。
だが…邪悪な神気が全てを埋め尽くす…。
「この世界は…あなたね。世界を作っているのは」
そう言うと同時、瞬間移動で嵐紗の首根っこを掴み、近くにある星に近づく…。そして頭をまるで雑巾がけでもするかのように、嵐紗の頭から出る血でサークルを描いた…。そしてその中心に向けて嵐紗の頭を叩きつける…。
「覇天の我界」
嵐紗の世界は壊れ…代わりに圧倒的な邪で埋め尽くす赤黒い世界が展開された…。
「『色喪堕業界』」
叩きつけられた嵐紗はその場から脱する…。仁と翠花のいるところへ移動する…。
翠花「嵐紗さん!大丈夫ですか!?」
嵐紗「ちょっと治療してくれると嬉しいかも…」
仁「俺がやろう…」
仁が嵐紗の後頭部から噴き出す血を能力を使用して止める。
そして…現れたその女性と対峙する…。
翠花「あなたは誰!?」
それを聞いた女性が口を開く。
溟莉「私の名前は業座溟莉。界魔将団の色欲大司教をしているわ」
嵐紗「はは、色欲大司教?うそでしょ?何年も出てきてなかった存在が…今私たちの目の前にいるの?」
溟莉「大司教は7人いるのよ。そのうちの一人が私。あなたたちはその一人と出会うことが出来た。その事実を知って去ぬことができる。とても幸福じゃない?」
仁「死ぬことが幸福?何を言っているかわからんな」
溟莉「当然わかるはずもない。あなたは死んだことはある?死んだときの幸福感。あれは何度体験してもいいものよ?経験した方がいいわ」
嵐紗「死んで幸福感を味わうとか、そんなんでしか得られないあんたは寂しいね」
それを聞いた溟莉からはさらに笑顔が出る。
溟莉「いいえ?私は人の幸福には無限ともいえる種類があるってことを言いたかったのよ。私なら死ぬことが、あなたたちなら私という存在を知ることが出来て幸福。ほら、一緒でしょう?」
翠花「頭のねじが外れているとしか思えない…」
溟莉「緑髪のあなたは何歳?だいぶ若いわよね」
翠花「私は13歳だけど?」
溟莉「そう。そうね、そうよ。あなたのような若い子はもっといい経験をするべきよ?愛しの彼に体をささげることも、信じていた彼が自分のことを捨てることも。それで人生が果てることも経験の一つ。聞くだけじゃわからないことも多いわ。そうね、体験してみるのはいかが?」
それを聞いた翠花は鼻で笑う。
翠花「するわけないでしょ。私は好きな人がいるわけでもないし、結婚願望があるわけでもない。夢を叶えてからそれを希望するかな?」
溟莉「夢…夢ねえ。叶えられるといいわね」
翠花「応援どうも」
溟莉「応援しているわけじゃないのだけれど、まあいいわ。今から私と戦って死ぬ。叶えたい夢も終わるのよ」
それを聞いた仁が神気を最大まで出す…。
仁「未来の希望を殺させるわけにはいかない。お前に勝つ」
溟莉「そう。なら勝ってみるといいわ」
そう言い、溟莉は周辺を見回す。
溟莉「う~ん…でもそうね、まずは神の匂いがする坊やからいこうかしら」
それを聞いた瞬間、嵐紗が全速力で真の元へ向かう。
嵐紗「真くんもこの世界に…!」
全力で走る嵐紗の横に溟莉が現れる…。
溟莉「そんなに慌ててどうしたのかしら?」
嵐紗「真くんをやらせるわけがないでしょ」
溟莉「そう、でももう間に合っていないわ。すでにあの子のもとに…私がいる」
そう言うと同時、溟莉が目の前から消える…。
俺はまるで何が起こっているのかがわからない。俺の攻撃で閃邪に対して決定打になったかと思ったが、閃邪が黒い球体となり、嵐紗さんの覇天の我界を壊し、現れたのは謎の女性。そしてそいつは色欲大司教と名乗り、嵐紗さんの世界を上書きしてこの世界を作った。
何が何だかわからない。ただわかるのは、この状況はまずいということだ。こんな世界で嵐紗さんや翠花姉がいないこの状況が。
「『黎閃』」
そう、俺の頭の中に響く声があった。だが、それは聞いたこともないような声で、少なくとも俺の知り合いにこんな声の人はいない。
そう思っていると…
嵐紗「真くん!!」
猛スピードで俺に近づく嵐紗さんの姿があった。だが…その顔は今までに見たことのないような、焦ったような顔をしていた。
真「嵐紗さん…」
俺がそう思う頃にはすでに嵐紗さんが俺の服の後ろの襟を引っ張っていて…。
俺があまりのスピードに目を閉じていると…
「ザシュ…」
俺の右目に切り傷のような痛みが走る…。
真「痛い…目…なにが…」
俺は右目に手を当てる。すると…生暖かい赤い液体が流れていた。これは紛れもなく、血だ。
嵐紗「くっそ…守れなかった…そこか!!」
嵐紗さんは俺を引っ張りながらエネルギー玉を放つ。それは黒いモヤに向かって放たれた。
溟莉「あらあら。気づくのが速いじゃない。でもいいわ。坊やの片目を奪うことができたし」
真「あんたがこれを…?」
溟莉「そうよ、坊や。その傷はね、この空間を抜け出しても消えない。止血は可能だけれど、傷跡は永久に残る。でも眼球までは届いていないのね。まぶたを傷つけただけのようね。残念だわ」
ってことは…失明ではないが、あまり触らない方がいいってことか…。
真「男の傷は名誉だよ。まあ痛いけど」
溟莉「ええそうよ。男にとって傷は名誉。かっこいいわよ」
真「どうも」
嵐紗「真くんをたぶらかさないでくんない?」
嵐紗さんが槍を放擲する。だがそれをいとも簡単に止めるあの女性…一体何者なんだ…?
溟莉「あら嫉妬?だめよ。嫉妬は肉体を滅ぼすわ。妬むのではなく、愛すの。そうすれば自然となんでもわかるようになるわ。愛こそが最も偉大なのよ」
真「そんなに言うのならあなたは結婚とかしてるんですか?」
俺が何気なく聞いた質問…。だがそれがまずかったのか、あの女性の顔から笑みが消える…。
溟莉「いいえ。捨てられた。愛していた彼は私を捨てた。結婚はしたわ。でも私よりも劣る女に恋心を抱き、私の金も持って消えた。でも愛していた。愛していたからこそわかった。彼がどんな場所にいるのかも、どんなふうに生活をしていたのかも。だから殺した。あの人の思いは今も伝わるわ」
「助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて…お母さん!!!」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!」
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね…死ね!!クソ女!!!!」
憎悪に満ちる声、救助を求める声、全てを否定する声の3つが俺の耳に入る…。頭がおかしくなりそうな…今にも発狂しそうなくらいだ…気持ち悪い…。
真「うぷ…」
溟莉「私が産んだ子ども、彼が浮気した女、そして彼。殺しても何も損がない人間たちだった。浮気なんて死んだ方がマシよ。絶望は殺意に変わり、こうして形となる。私はこの声を聞いてワインを嗜んでいるわ。最も愛した彼の、最も憎むべき女の断末魔は興奮材料として十分。他の誰かでは代替できないものなのよ」
浮気するのなら死ね。それに関しては…飛躍しすぎているが、許されないものだ。だが…死ぬほどのことなのか?断末魔を残し、それをつまみにワインを飲む?
俺は確信した。
この女は圧倒的な「邪」だ。
そして、愛に取りつかれ、悲しみが殺意となり具現化した存在なんだ。
こいつは色欲大司教だ。愛が人を狂わせる。七つの大罪の「色欲」に最も相応しい。
嵐紗「ならあなたはなぜまだ多くの人を殺すの?もう殺すべき人も殺した。なのにあんたは大司教として君臨している。それはなぜ?」
溟莉「人は暴力による死の直前に断末魔を上げることがあるのよ。それを聞くためよ。断末魔を上げることは彼を殺したことを思い出させてくれる。それを聞きながら飲むワインはたまらないわよ?」
嵐紗「意味わかんない。自分の快楽のために人を殺すことがたまらない?何言ってんだか」
溟莉「この世界には数多くの人間がいる。私が殺す数人よりも、今この時産声を上げる赤子の方が多い。なら人数調整で人を殺してもいいでしょう?人が増えるといろいろ面倒だもの。殺して誰が困るというのだか」
真「そんな理由で人を殺すのか?」
溟莉「あら坊や。何か言いたげな表情ね?」
そりゃこんな意味不明な理屈を聞いてたら顔も歪むってもんだろ。
真「あんたに殺された人たちには個性がある。世界でその人にしか出せない個性が。それをあんたは自身の快楽のために潰しているんだろ?」
溟莉「ええ。でも個性を潰すなんて失礼ね。私はちゃんと個性を尊重しているわ。断末魔。これはどれだけの人数を殺しても決して一緒ではない。人によって断末魔の違いがあるからこそ、私のために輝ける。死ぬ人間はそこで輝くことが出来る。本望だと思うわ」
まじで何を言ってるんだ?死ぬことで輝く?こんなやつのために死ぬことが本望?
ちがうな、理解しに行ってはだめだ。こいつは頭のねじが飛んでいる。俺のものさしでは測れない次元にいるんだ。頭が悪い方に。
真「喋らなければ、行動を起こさなければ美人だったのにな。あんた」
溟莉「そう?私は平凡な女よ。捨てられるような女だもの」
真「それは男がクズだった。でもクズを殺したあんたもクズだ。救いようがない。そして快楽を得るために人を殺すことはクズ以下だ。クズ以下は死んでも何も言う権利はない」
溟莉「寝言は寝て言いなさい?坊やは私に勝つ手段がるとでも言うの?」
真「通用するかわからないけどね、あるよ」
俺は見えている。あんたの後ろに迫る2人の姿がな。
溟莉「へえ?ぜひともやってほしいものだわ?」
真「ですって。2人共」
俺がそう言うと、後ろにいる2人が飛ぶ斬撃を放つ。
その斬撃は…女の両腕を斬った。完全に切断だ。
溟莉「…まさかこれがやり方だとでも言うの?」
真「その状態ではなにも…」
俺がそう言おうとするよりも前にため息を吐く女…。
溟莉「大司教ともあろうものが…なめられたものね」
ため息を吐き切ったと同時…なんと…
「ズズズズ…」
翠花「んな…」
嵐紗「え~…」
仁「神気も使わず…」
真「再生した…!」
女の腕が完全に…再生をしたのだ…。さっきと遜色ない、元通りだ…。
溟莉「腕を斬ったからどうにかなる?そんなわけがないでしょう。覚悟するといいわ」
これが色欲大司教…!今までの人生で間違いなくNo.1のやばさを誇るこの女との戦闘…勝てるのか…?




