第82話 総力戦13 虹帝達最速
カジノのような世界から脱し、嵐紗さんと閃邪が戦っている。俺も加勢しなければ…。
そう思っていると俺の背後に気配があった。だが邪悪なものではなく、馴染みのあるやわらかい雰囲気だ。
翠花「ねえ真くん。さっきのルーレットさ、何を没収されたの?」
翠花姉だった。そして質問の内容だが…俺にも答えることはできない。何が没収されたのか。それがわかっていないのだから。
真「ごめん翠花姉。自分でもわからないんだ」
翠花「そっか…。外見的な没収は特になさそうだけど…内側の何かが没収されているのかも…。脳のマークだったから…例えば右脳や左脳の機能が劣化してしまっているとか。もしかしたら脳に繋がる神経系の劣化なんかも…」
翠花姉めっちゃびびらせてきますやん…。まあ心配になる気持ちはわかるけどビビらせろとは言ってないんだよな。
真「こ、怖いこと言わないでよ翠花姉…」
翠花「もしもの可能性ってだけ。でも…何かあったらと思うと怖いな…」
それはこっちのセリフなんですが?実際翠花姉は没収がないからそんなこと言えるけど、俺からしたらだいぶ怖いことされてるんだからな?
翠花「何が没収されたかはわからないけど、とりあえずあいつを倒せば…万事オッケーなはずだよ」
真「そ、そうだね。でも…」
翠花「なに?」
真「今の自分に何ができるのかな…」
はっきり言って…嵐紗さんでさえ対等に戦えているのかがわからない今、あいつが作った空間で俺たちで遊び、好き勝手をされた俺が…なにかをできるとは思えないんだ…。
翠花「つまり今の真くんではあいつに太刀打ちできるかさえ怪しい…ってことでしょ?」
真「うん…」
翠花「大丈夫。今の真くんでもあいつに太刀打ちをすることは可能だよ」
それはなぜだ?あそこまで無茶苦茶され…俺に関しては没収も食らってるんだぞ…。
真「なんで?」
翠花「はっきり言うよ。神気量で言えばこの場にいる誰よりも少ない。私や翠帝、嵐紗さんに比べて桁が2個くらい違う。そんな君ができるのは、圧倒的弱者だからこそできる、不意の一撃。それが決定打となれば絶対に嵐紗さんや翠帝がとどめを刺してくれる。だから真くんでも太刀打ちをすることが出来ると私は言ったの」
弱い人間には警戒をする必要はない。その油断を逆手に取り、あいつに勝つことが出来るということか。確かに俺が出す攻撃なんて閃邪からしたら虫が止まったくらいの認識だろう。そこで俺が予期せぬほどの火力を出し奴の体勢を崩せさえすればいい。大丈夫だ。ここにいる人間は…はっきり言おう。すごい人間しかいない。いつもなら勝てる自信なんてないが、虹帝達が2人、虹帝達と同等レベルの神気を出せる人間もいる。可能性は…大いにある…!
真「翠花姉、どんな攻撃なら通じるかな?」
翠花「それはわかんない。だから、私やお二人が戦って探る。真くんは競り合いの中にある隙を絶対に逃がしちゃダメ。前線に出ている人間は一挙手一投足が全て命取りとなる。そこでミスをして、かえって劣勢となったらそれは真くんのせいになってしまう。だからミスは許されないよ」
厳しい言葉だが、それはごもっともだ。命の取り合いの最前線に出ている人に比べ俺は安全地帯から攻撃をできる。だからこそ、必殺必中の一撃をあいつにぶち込まなければ。
真「わかった。僕が打てる最高の一撃をあいつに当てる。だから翠花姉も頑張って」
翠花「任せて」
ミスの許される戦闘ではない。女性の司教や玲音、羅弾とは比べ物にならない強さを持つんだ。俺は全身全霊の一撃をあいつにお見舞いしてやる…!
翠花姉が俺の顔を見て、微笑みを浮かべながら閃邪の元に向かって行った。
嵐紗と仁の元に翠花がたどり着く。
嵐紗「翠花ちゃん、あの空間ではなにがあったの?」
翠花「賭博場のような空間で、…ブラックジャック?と呼ばれる遊戯をしました」
仁「ブラックジャックか。だがあいつのことだ。なにかをされたんだろう?」
翠花「真くんがブラックジャックで負け、何かを没収されてしまったんです。外見的な特徴はなくとも身体に影響するなにかが没収されてしまった可能性があります」
仁「その没収を真は体感していたのか?」
翠花「いえ、特には…」
3人の会話を閃邪が遮るようにエネルギー玉を放つ。
閃邪「おいおい、俺のことは無視か?ひでえもんじゃねえか」
嵐紗「ねえ、あなたは真くんの何を奪ったの?」
閃邪「少なくとも戦闘中に聞くことではない。お前らに不利益を及ぼすこともねえよ」
翠花「不利益云々ではない、真くんは成し遂げたいものがある。その中で没収されたものが影響をするのなら、それは私たちの不利益。教えて、何を没収した?」
閃邪はため息をつき、口を開く。
閃邪「なあ、緑髪のねーちゃんよ。なんで俺がいかさまをしてまであいつに焦点を当てて没収をしたかわかるか?」
翠花「私に対しては…って、いかさまをあなたはしたの?」
閃邪「そうだ。俺はいかさまは好きじゃない。面白くないからだ。そんな俺がなぜあいつにだけ焦点を絞るのか。なぜお前を安全地帯に置き、あいつだけを潰す行為をしたのか。それがお前にはわかるか?」
翠花「私を安全地帯に置いた?どういうこと?それに真くんを潰したい理由は何?今の真くんがあなたにとって障害となる可能性はないに等しいはず。それなのになぜ?」
閃邪「俺が言う安全地帯ってのは、お前の手札が合計21となるようにすでに仕組んでいた。そして俺も。どういう意味かわかるか?」
仁「お前と翠花は21を作り、真は絶対に勝てないように手札をいじったと?」
閃邪「そうだ。俺はあいつに9を配った。そしてすでに10以上の数字があいつに行くように仕込んである。あいつの運がやばければAか2を引いてたんだろうが、あいつは3以上を引いた。そして10を引かせればバースト。簡単だろ?」
それを聞いた嵐紗と翠花は疑いの目を向ける。
翠花「ならなんで私にも21を作らせたの?偶然でも私がバーストする可能性だって…」
仁「簡単な話だ翠花。確率を減らすんだよ。Aか2を引く可能性を。君とあいつはおそらく2枚でブラックジャックとなるようになっていた。8枚ある中で2枚が消えていた。54枚ある中で8枚を引く確率と52枚ある中で6枚を引くのでは後者の方がいい。おそらくあいつはそれを起こすために自分と翠花にはもうAを配り、真がAか2を引く確率を下げたんだ。それを引けなかった真はバースト。翠花は絵柄を引き、スタンドをする。そうすることで仕込みをほぼ強制的に真となるようにした。あいつはそれを、おそらく我々と戦っている中でやってのけたんだ」
閃邪は笑顔で答える。
閃邪「ようわかってんじゃねえか。その通りすぎて説明をする必要もない。翠花が上がれば必然的に真のみがカードを引く。そうなれば仕込んでいるカードすべてがあいつのもとだ。苦労したぜ?虹帝達2人を相手にそれをやるのはよ。傷は負ったが、それ以上のものをあいつから奪うことができた。万々歳と言える」
嵐紗「そこまで言うのなら教えてよ。真くんの何を奪った?」
閃邪「言えと言って素直に言うやつがいるか?俺を下してから言えよ」
嵐紗「そうさせてもらおうか。おいで、『ルー』」
嵐紗の目が光り輝き、手には槍が現れる。
嵐紗「死ねば能力は消える。そうすれば没収も終わるでしょ」
閃邪「やってみろよ。俺を殺すなんざ不可能だ」
仁「俺も翠花もいる。いくらお前でもどうこうできるレベルではないぞ?」
閃邪「そうだな。だから工夫してみるとしよう」
翠花「頑張るとしますか…」
閃邪「界魔将団第32席、司教内での実力No.1、業座閃邪参る」
閃邪が異次元から槍を召喚し、それを手に取る。
閃邪は持つ槍を地面に突き刺す。それは…
閃邪「ドーア。お前のマグマはどれほどの温度か知らぬが、使わせてもらうぞ」
先の戦いで起こしたドーアが出したマグマは冷えて固まっていた。だが…それを閃邪は強烈な熱を加えて再び流動性のあるマグマにした…。そして持っている槍はマグマを動かす…。
閃邪「さあいくぞ」
上空から降り注ぐは宝の雨、地上はドーア以上の温度を湛えるマグマ。そして…それら全てを操り、3人に向けて放つ。
嵐紗「はあ…」
仁「ち…」
翠花「…」
3人はそれぞれ別の方向に避ける。閃邪がマグマを爆発させ、それの一部は翠花の上空に降り注ぐ。
翠花「『覇王流【龍閃】」
降り注ぐマグマの一部を斬り、抜け道を作る翠花、だが上空には空を埋め尽くすほどの宝の山。
翠花「これならまだ…」
閃邪「金は溶ける」
翠花が斬ったマグマが宝の山に触れる。金が溶け、一帯全てが金が溶けた高温の金属、マグマが混じった液体すべてが翠花に降り注ぐ。
翠花「避けるが最善だったか…」
翠花は手から青白く輝く球体を出し、マグマの届かない範囲に球体を出現させる。球体が光り輝くと同時、翠花は球体のあった場所まで瞬間移動をした。
だが…
閃邪「瞬間移動か。すげえな」
閃邪が移動をした翠花の顔面を掴む…。
翠花「ぐ…」
閃邪は翠花を持ちながら仁を視界に入れ、そして仁に向かって飛ぶ。
仁はすでに構えており、大きな刀を閃邪に向かって振るう。だが…それは避けられ、仁の首根っこを掴む…。
両手に翠花と仁を持つ閃邪は2人の頭がぶつかるように両手を近づける…。
仁「翠花にはさせんぞ…!『ヘルメス』!!」
勢いのついた2人は互いに頭で衝突する…かのように見えた。しかしぶつかったのは…
閃邪「ち…いってえな…石頭かよ…」
仁「俺は頭が固いことで有名なんでね」
翠花ではなく、仁と閃邪の2人が頭突きをしたのだ…。
閃邪「『ヘルメス』か。『オリュンポス』の一人が出てくるとは珍しいやつだ」
仁「俺もある程度は使えるんでね。真価かどうかは怪しいがな」
閃邪「にしても…」
翠花は離れた位置から再び刀を構え、刀を振るう。飛ぶ斬撃は閃邪の顔面に向かって飛ぶが…それを軽く受け止める閃邪。
閃邪「これはひでえな?俺らが会話をしてんのによ。それを…」
「キイイイイン!!!!」
上空から猛スピードで突っ込むものがあった。
「ドン!!」
閃邪「が…蜂明をやった技か…」
それは閃邪の腹に強烈に突き刺さり、閃邪を地面に吹き飛ばす。だが、閃邪はマグマを動かし、粘性のあるマグマを自身の背後に来るようにし、衝撃を完全に吸収した。
嵐紗「あれでも対応してくるんだ。めんどくさいやつ」
嵐紗の体が光り輝き、想像しえない力を纏う嵐紗に閃邪は驚きの顔を見せる。
閃邪「星の力か。それも結構でかいやつだな。何の力だ?」
嵐紗「木星。太陽系でも屈指の大きさを誇る星だよ。その力をこの私の体に凝縮している。それを受けても立っているあなたはまじで何なの?」
閃邪「失礼なやつだ。お前は俺を怪物だとても言いたいのか?」
嵐紗「そう思わないと納得できないことをあんたはやっている。自覚ないの?」
閃邪「い~や?お前クラスがそう思うってことは俺は怪物なんだろうな。こんだけ生きてりゃ感覚も鈍るか。まあ悪魔に魂売った時点で年なんて概念は消えたがな」
仁「悪魔に魂を売ったか。それをして得た力がそれか?」
閃邪「お前ら3人と対等に戦うレベルにはいけてんだろ?この体に不自由はない。すべてを思うがままにできる」
翠花「その力で一体どれだけの人を…」
閃邪「数えることも億劫。それだけだ。一個提案がある。お前らが数える人数の一つにならないいい提案だ」
それを聞いた3人は目を細める。
閃邪「俺を見逃すという手はないか?代償は求めない。今回で司教が多く死んだ。そいつらを弔わなければな」
嵐紗「見逃すとでも?あんたはこの学校の職員をたくさん殺した。そんな人間を見逃すなんて私の辞書にはない」
仁「同感だ。それに職員は可愛がってきた俺の大事な部下だ。そいつらの無念を晴らさねば」
閃邪「そうか。お前らなら正しい回答ができると期待していたが…残念だ」
それを聞いた嵐紗が一息をつく。
嵐紗「私らがあんたと同じ思考なんてするわけもない。そして2人が私と同じ思考をすることもありえない。差異が必ず生じる。でもね、共通するところもある」
閃邪「へえ?そりゃあなんだ?」
嵐紗「あんたに勝つってとこ!!」
そう言い指を鳴らす嵐紗。それと同時…宇宙のような世界が展開される…!
閃邪「まじか…ここでやってくるのか」
仁{嵐紗の覇天の我界…!これほどまで…}
翠花{これが虹帝達の覇天の我界…!今の私でもできない、能力という面でも、神気量という面でも極致に達した者だけができる奥義…!}
嵐紗「広いからね。この世界は。抑えていたスピードも遠慮なくできる。んで2人共。この世界では重力がなくて、摩擦もない。だから常に動いていると考えて」
翠花「は、はい!」
それを聞いた嵐紗は槍を閃邪に向けて構える。
嵐紗「『裂駆音逸突』」
突きを放つと同時、翠花と仁の視界から嵐紗と閃邪の姿はすでに消えていた。
翠花「早すぎる…!」
仁「サポートにすら回れんぞ…!」
その時、巨大な星が2人のそばを猛スピードで過ぎ去ろうとしている。
翠花「あれに捕まれば…!」
仁「やるしかないな!」
2人はそれぞれの方法でその星に近づき、出っ張っている部分を掴んだ。星はとてつもないスピードで進む。だが…どれだけ進んでも嵐紗と閃邪の姿は見えなかった。
翠花「嵐紗さん…どれだけいったんだろう…」
仁「あいつは虹帝達最速だ。ぶっちぎりでな。リーダーである虹帝ですら彼女の記録の3分の1だ。それだけあいつは別格のスピードを誇る」
翠花「やっぱり虹帝達はすごい人しかいないんだな…」
仁「おいおい、俺も一応虹帝達なんだが?」
翠花「仁さんは…医療だから…戦闘面で言うと剣術がすごいくらいにしか…」
仁「そうか。ならこの戦闘で教えてやる」
翠花「なにを?」
仁「医療というのはな、人間の命を握っていると思え。それは救うことも、殺すこともできる」
翠花「…」
仁「翠花。君は医者になるんだろう?ならば知っておくといい。医者で戦闘ができる人間は普通の戦闘者とは違う恐ろしさを持ち合わせることをな」
翠花「…はい」
星に乗りながら、2人は嵐紗たちのいるところを目指す__




