第79話 総力戦10 二つ
地獄のような世界で、悪魔の容貌をする羅弾と対峙する俺と翠花姉と颯治さん。
普段の俺なら絶対に逃げ出している。だが今は翠花姉と颯治さんがいる。恐怖はもちろんある。だが、それ以上の自信が恐怖を埋め尽くす。
羅弾「『魔極醍蓮剣』」
羅弾が刀を大きく振りかぶる。それを俺たちはそれぞれの方向に飛んで避ける。颯治さんが羅弾に向かって飛び、蹴りを放つ。
颯治「『覇王流【麒麟雷絶】』」
羅弾「『魔閃』」
羅弾が颯治さんの足に刀を振るう…!颯治さんの威力が高いのか、羅弾の刀が震える…。
羅弾「さっきの蹴りの威力のそれじゃねえな?それにお前も翠花も顔が変わった。なにがあった?」
颯治「我が一族の使命を果たすときが来た。そこにあなたの居場所はない」
羅弾「言うねえ。使命?スサノオを能力として持ってるあいつを守るってんだろ?それをしてなんになる?お前になんのメリットがある?」
それを聞いた颯治さんが笑顔でこう言った。
颯治「兄として、一族の当主として、前例のない掟を表す彼の存在を守ることを使命を果たさんとしている我が妹をサポートすることが出来る。理由なんてそれで十分だ」
羅弾「妹を守るために命をかけるのかよ!そんなんできる自信ねえわ!」
それを聞いた颯治さんは右腕に神気を集中させた…!
颯治「可愛い妹を侮辱するな。世界でたった一人の、俺だけの妹だ。それを侮蔑するやつは誰であれ許す気はない。『麒麟神聖【轟星・地球】」
颯治さんの右手が雷と土を帯び、羅弾に向けて一閃。それは…
「パキン!!」
羅弾の持っている刀を折ったのだ。
羅弾「あれだけの神気を纏った刀が折れるか…」
だが…地面から刀が生える…。
羅弾「ま、刀なんて何度でも作ればいいって話だけどな」
そしてそれを手に取り、肩に刀を置く羅弾。
羅弾「俺相手に刀を折るっつう選択肢は無意味だ。それを確かめる…」
羅弾がしゃべっている中…
羅弾「いい機会に…」
一つの銀閃が走る…!それは…
羅弾「が…」
羅弾の腰を両断するとんでも威力だった…!
颯治「翠花、やっぱり威力を調整した方がいいよ。僕も避ける羽目になったじゃないか」
そう言いながら颯治さんは視線を移す。翠花姉が刀を持ちながら颯治に近寄る。
翠花「まあお兄ちゃんなら大丈夫かなって」
颯治「こんなことさっきも言ったような気もするな…そうだ、彼は?」
翠花姉が俺のことを指差す。
翠花「あそこ」
俺は高台に移動していた。だから颯治さんの動向や翠花姉が刀を振ったことも確認出来ている。弓を構えていたが、2人の力で俺が手を出すよりも先に羅弾を斬ったのだ。
俺が高台から降りようとしたその時…
「全く…勝った気でいんだろ?お前ら…」
羅弾の声がその世界に響き渡り…地面は大きく揺れている…。
真「く…」
立っていることすらできないほどの揺れ。そして…なんだ…この感じ…でかいなにかが…こっちに近づいてきている…?
その時…
「バゴン!!」
強烈な音と共に飛び出したのは…
真「なんだこれ…」
剣を持った…まるで悪魔のような巨像が俺たちの目の前に飛び出した…。
高台にいるからこそわかる…この像の大きさがやばいことに…。
それは翠花姉たちにも伝わっていた…。
翠花「でかい…」
颯治「羅弾…ここまで手に染めていたか…もうあなたは…いや、お前はもう後戻りはできないぞ…」
「その必要はない。魂を悪魔に打ってる身だ。後戻りをする気もない」
その時…像の上の方から声がした…。それは…
羅弾「この像が出るほどの俺の殺意…お前らに凌げるとは思えないな」
翠花姉が斬ったはずの…羅弾の姿だった…。体が完全に戻っているし…神気の減りもない…。
羅弾「一人のお前をやろうか」
羅弾が頂上から飛び降りる…。狙っているのは…完全に俺だ…。俺は右手に天叢雲を持ち、左手に八咫鏡を持つ。そして朱雀の尾に「不壊の誓い」を付与した。なにがあってもいいように…
翠花「真くん…」
翠花姉が俺の方向に走る。翠花姉は羅弾のことを気にしながら走る。
だがその時…
羅弾「アンドラス、お前も来い」
羅弾がそう言った…それと同時…
「ううん…」
何者かが翠花姉の目の前に現れるが…翠花姉は羅弾の方を見ていてそいつに気づいていない…。
真「翠花姉!来ちゃダメ!!」
翠花「え?」
俺の注意が遅かった…。すでにそいつは翠花姉に向かって手を構えている…。そして…翠花姉に向かって衝撃波を出した…。
翠花「か…」
それを完全に受けた翠花姉は…意識が完全に絶たれた…。そりゃそうだ…あんな至近距離で衝撃波を受けたら誰だってそうなる…。
「おまえ…まぶしいな…神か?お前…」
俺の後ろから…羅弾じゃない、誰かの声が聞こえた…。
「ガキン!!」
俺の左手に衝撃が走る…。だが…威力が高すぎて俺が吹き飛ばされてしまった…。
そして吹き飛ばされた先で俺を攻撃してきたやつを見た。それは…馬に跨る騎士のような風貌をした狼頭の悪魔だった…。
真「あんた…誰だ?」
「ああ?神風情がこの俺様に向かって何言ってんだ?」
真「神以上の存在は自己紹介すらしてくれないのか。悪魔にも礼儀ってものはないの?」
「礼儀ぃ?んなもん知らねえよ。だが、羅弾が言ってたな。俺の名前」
真「ならそれを教えてくれよ」
アンドラス「アンドラスって言ってたな。それが俺の名か?どうでもいい。さてと…」
「死ね」
突然目の前から拳が飛んできた…。それを俺はまるで背景のように見ていた…いや、背景に完全に同化していて視認することが出来なかったんだ…。
俺は奴の拳を完全に受け、そのまま吹き飛ばされた…。
アンドラス「ううん…お前…硬えなぁ…」
「不壊の誓い」がなかったら…死んでいたかもしれない。そう思うほどに…威力が高かった。初めてだ…「不壊の誓い」を効果として付与していたのに…鼻血が噴き出した…。
真「はあ…はあ…いったいな…」
アンドラス「お前…なんつうか…臭いな…」
真「ちゃんと風呂入ってるんだけどな…」
アンドラス「神臭いんだよお前。心が綺麗なんだよ。広すぎて逆にきついんだよ…」
俺の心が綺麗?広い?こいつは何を言っているんだ?
真「何を言ってるか知らないけど…」
アンドラス「だろうなぁ。お前は人間、俺様は悪魔。ものさしがちげえんだよ」
真「それもそうか。それで…なんで俺のところに来た?俺以上に危険な人がこの空間にはいるだろ?」
アンドラス「誰を狙おうが俺様の勝手だぁ」
その時…飛び出した巨像が動き出し…右手に持っている巨大な剣が…光り輝き、そして…
アンドラス「お前がまぶしい。だからお前を殺す」
巨像が俺とこの悪魔のいる方向に向かって剣を構えた…!?
真「んな!?」
アンドラス「抵抗しねえほうが身のためだぁ」
あの巨像…まさか…
「ブン!!!」
真「やってきやがった!!」
あの巨像が持つ剣を…俺の方向に投げてきやがった…!避けるしか…生きる道はない…!!
俺は投げてきたあの剣を避けるように、朱雀の翼で宙を飛び、地面に斥力をつけて一気に加速をした。
「バゴン!!」
大きな音を立て、地面を抉りながら進む大きな剣を俺は避けることが出来た…。
こんなの直撃しようものなら即お陀仏だぞ…。
アンドラス「ふうむ…避けるか…まあいい。本来の意図は俺様が剣を手にするためだしなぁ」
悪魔が巨大な剣に手をかざす…すると大きな剣はみるみる収縮し、あの悪魔が握れるくらいのちょうどいい大きさにまでなった。
真「剣を手に取った…ってことは…ここからが本番か…」
アンドラス「いっちょいくかぁ」
悪魔が持っている剣を振り下ろすが…それなりに距離は…
スサノオ「真!!構えろ!!」
スサノオがそう言ったんだ…。俺は反射的に天叢雲を構えた。奴が上から振り下ろしているのなら…こうだろ!
「ガキン!!」
構えたとほぼ同時…刀が押される…。そして…この剣…やばいぞ…。目測15mはあるこの距離でも平気で届くほどのリーチ…。だがさっき見た時は長さは1mから2mくらいだった…。つまりこの剣は…
真「伸縮が可能…」
アンドラス「ほお。俺様の剣の特性をもう理解したか。まあそれがわかったところでどうにかなる話か?」
悪魔が…持っている剣を落とした…?
剣の持つ部分に左足を置いて…
スサノオ「来るぞ!!真!!」
この状況から何が来るのかわからないが…スサノオの勘なんだろう…俺は何もわからず、今の体勢を維持した。今も刀で剣を抑えているが…そう思った時…!
アンドラス「あまちゃんにこれが耐えられるか…ねえ!!!」
剣の刃の部分を…強烈に踏み抜いた…!?それは…!!
真「ぐ!!」
抑えているこの剣が一気に沈み…圧倒的な一撃が刀に、そして俺の体に大きな衝撃を与えた…。
アンドラス「へえ、これも耐えんのか。意外とガッツあるじゃねえの!」
奴はずっとこの状態を維持するつもりか…そりゃそうか。俺が根負けして刀を握る力を緩めればそのまま剣は振り下ろされ、あいつが根負けしてもあいつに攻撃できる手段がない。やり得なんだよな…。
それを崩さなければどうしようもない…。この状況でこれを防ぎながらあいつに攻撃できる自信はないが…やらなければ負けるのは俺だ。やってやる…!
真「頭の中でイメージをしろ…」
俺は朱雀の弓をあいつから見られないような角度で取り出した。そして尾を3本取り出し、そのうちの1本に帯電効果を付与し、それを矢として構えた。そして…ここからは俺の能力の器用さだぞ…。
まずは1本の尾で弓を持つんだ。
真「尾よ…この弓に巻き付け…」
尾が弓の持ち手の部分に巻き付く。尾が俺の体から飛び出ないように、でも長さは限界まで出す。飛び出たらバレるかもしれない。そのギリギリを攻める…!
攻めた結果…弓は完全にまっすぐに構えることに成功した。
真「はあ…はあ…」
次に…もう一本の尾で弓の弦を弾くんだ…。すでに帯電効果を付与した尾はある。だが…巻きつけという指示をこの尾は「俺の言葉の指示を聞く」という指示としたんだろう…。もう効果を付与できないことが…判明した…。
真「…」
なら…俺の度胸試しだ。ついさっき能力として得た「スサノオ」を操れる自信なんてない。だが…やらなければ死ぬのは俺だ。やってやる…!!
俺の首にある八尺瓊勾玉の能力で…引力と斥力で…この尾を動かして…
「バゴン!!」
真「ぐ!!」
あの野郎…俺が器用なことをしようとしてんのに邪魔すんじゃねえよバカタレ…!!
アンドラス「もうこのまま潰れるかぁ?楽になった方がいいぜぇ?」
一気に強い力が刀に、そして俺にのしかかる…。だが…冷静になれ。もう博打するところまで来ているんだ。
まずは斥力で尾を弦にかけて…
「シュル」
できた。後は…かかった尾を重力で俺の方にめっちゃ引っ張って…それを一気に解放だ!!!
「ドン!!」
俺が放った弓矢は…
アンドラス「…ガ…」
あの悪魔の…右腕を完全に断絶した…!
スサノオ「なんと…見事…!!」
朱雀「なんという男じゃ…!これをこの状況でやってのけるとは…!!」
矢を放ってから、剣の圧力が一気になくなった。俺は剣をどかし、あいつとの距離をとった。
すると…悪魔が落ちた右腕を左手で拾った。そして…にらみつけるような目で俺のことを見た…。
アンドラス「…お前…本当に齢10いかないガキか?そら神野郎の力があるのも関係してんだろうが…胆力がおかしい…お前と同じ年のガキならまずそれはできないぃ…」
真「実際できているじゃないか。それにこんな環境で生きていたら…」
アンドラス「そうなる…とでも言う気か?お前…なんか違和感あるなぁ。この世界の魂とは違う、別の何かがお前を乗っ取ってるような…」
…それに関しては間違っていないんだよな…。俺は転生者だ。前世は一般企業のサラリーマンで火災による事故で命を落として、この世界に赫星真として転生し生を受けた。
なら…俺の魂ではない、赫星真という人間本来の魂はどんなものなのだろうか…。
実際、こんな危ない状況にも巻き込んでしまっている。大厄災に関しては避けられなかったとして…俺が翠花姉と蓮乃さんから学び、力を得るということは俺の選択だ。本来の赫星真という人間の選択肢ではないのかもしれない…。
「ううん、ぼくもそれをえらぶよ」
…誰の声だ?いや…この声は…俺だ。いや、本来の真の声だ。だが…なんだろう、視界が白色に染まっていく…。
「そうだよ。ぼく。あかほし しん。おじちゃんをよんだのだ!わっはっは!!」
そ、そうか…。ところで…なんで君は俺に話しかけてきたんだ?
「おじちゃんのたましいがゆれたから」
魂?俺の魂が揺れた?どういうことだい?
「あいつのことばでゆらいだの。おじちゃん、おれってなんだ?ってなったでしょ。でもね、ぼくはおもう。おじちゃんはぼくであり、ぼくはおじちゃん」
…どういうことだ…わからない、君は難しい言葉を使うんだね…。
「うん!だってぼくあたまいいもん!」
なら…おじさんでもわかるように教えてくれるかい?
「うーん…やだ!!」
どうしてかな?俺は君であり、君は俺だと君は言った。それを理解しているんじゃないのかい?
「やだといったらやだ!」
そうか…。
「あ!でもね、いっこだけいっておきたいことがあるの!」
なんだい?それはおじさんでもわかることかい?
「うん!」
じゃあ教えてくれ。それはなに?
「これからはぼくもいっしょにいてあげる!」
…え?
「あのおとりさんとか、あのすっごいおさむらいさん!あのこたちといっしょにいるの!」
それってつまり…君はスサノオと朱雀と一緒にいるということかい?
「そんななまえなんだ!うん!そうだよ!」
でも…どうして?君のことを乗っ取っている側だから言えたことじゃないのはわかっている。君はなぜその選択を?
「おじちゃんのため!だから、おじちゃんのせかいに、おさむらいさんとかおとりさんがいるせかいにぼくをつれていって!」
連れて行くって言ったって…どうすれば…?
「かんたん!ぼくにだきついて!」
…抱き着く?ハグをしろということ?
「はぐ?わかんないけど、たぶんそう!」
君に抱き着いて何が起こるかなんてわからないが…わかった。失礼。
「おじちゃんからだあったか!くまさんみたい!」
そ、そうか…ってあれ?どこに行ったんだい?
真くん?君は…
「パキン!!」
な、なんだ!?白い空間が…赤い空間に…
「来たよ!!おじちゃん!おさむらいさんもおとりさんもいるせかい!!」
…真くん…。
スサノオ「突然少年が来たと思ったが…なんだろうな、この違和感の無さは」
朱雀「うむ。まるで最初からいたような感じがするわい」
スサノオたちがそんなことを言うのか…君は一体…
「いったでしょ?ぼくはあかほし しん」
…それは何回も聞いた。だがそれでは…
「なら…そうだね、こっちのすがたのほうがいいのかな?」
…こっちの姿…?
「うん!」
両手を絡めるように握って…なにを…球体のような形になって…
スサノオ「少しだけ待つのだ。真。この御方が姿を現す」
「もうよいぞ。スサノオ」
スサノオ「はい」
球体が割れていく…。…!?なんだ君は…
「これが僕だ。陸聖の皇帝、ロゼアだ。ただ僕は少し特殊な体をしててね。誰かの魂がないと僕の魂が存在できないんだ」
それは…どういうこと?
「簡単な話だ。君は僕の魂を乗っ取ったと言ったね。それは間違っていない。だが重要なのはそこではない。この『赫星真』という体は君の魂で動く。そこに僕の魂も共存していると考えてくれればいい」
俺の魂で動く「赫星真」という体に共存する「赫星真」という魂…?難しい…。
「ふふ、そうか。まあ結論を言うと君の魂があることでこうして僕も存在することができる、ということだ」
俺の魂があるから君の魂も存在できる…?
「この世界の住民は肉体一つに魂を一つしか持たない。だが時折肉体一つに魂が二つ存在する者が現れる。そう、君のような存在だ」
もしかして…転生した魂と本来この世界にある魂の2個が存在するって話か?
「そう、その通り。転生?というのをした人間は魂が二つある肉体を得る。何百年に一人の逸材だ。僕はそのうちの転生した魂ではない方の魂を掌握した。だからさっきも何度もあかほし しんと言ったのは本来の魂である『赫星真』を僕が掌握したんだ」
じゃ、じゃあその赫星真本来の魂は…
「それこそが君なんだ。君は赫星陽希と赫星破那との間に生まれた赫星真という人間なんだ」
…もうなにもわからない…話が複雑すぎて…し、しかも今はあの悪魔との戦闘中で…
「そうだね。ならこの話はまた今度するとしよう。頑張って勝つことだ。君ならきっとできる」
そう彼が言うと、赤い世界は消えていった…。
アンドラス「気がしてならねえってわけだ」
真「…そうか」
俺はあの人に託された…?いや、なにもわからない。難しい話は俺は苦手だ。まあ結論…
真「お前に勝って、羅弾にも勝てば全てが終わるってわけだ」
アンドラス「…は、俺の右腕をやったからって調子に乗ってんな?」
その時アンドラスの右腕が剣に吸収され…そして…血を纏う剣が顕現した…。
アンドラス「勝てるといいなぁ。まあ無理だろうがよぉ」
ロゼアが言っていたことを知るためにはまず俺はこいつに勝たないといけない。いや、勝つ。もうそれだけを考えるんだ。
真「勝つ。もうお前に臆することはないんだ」
ロゼアのことが気になるが…まあいい。ここではない少し離れた場所で羅弾との戦いはまだ続いているんだろう。こいつに勝ってすぐに向かおう__




