第61話 約束
少し時が経ち、俺は病院で翠帝から診察を受けた。
仁「…ふむ。完治だ」
真「本当ですか!?」
仁「ああ。普段通りに体を動かせるだろう。2週間、よく頑張った」
真「ありがとうございます!」
仁「だが無茶に体を動かすな。完治しているとはいえ、万が一負傷してしまうとまずいからな。1週間は無茶な行動はするな。1週間経ったらまたここに来てくれ。その時によさそうならもう自由に動いて構わん。学校には俺から言っておく。真は少しリハビリをさせてから戻らせるとな」
真「あ…はい…」
学校には行けない…か。だが自分の体のことだもんな。そこは受け入れるしかないな。
仁「能力の使用も1週間経ってからだ。いいな?」
真「それはなんでですか?」
仁「神気の循環は神経を通して…ってこんなの言ってもわかるわけないな」
なんか難しそうだ。神経だとか循環だとか、そんなのを小1が理解できるわけないもんな。なんなら大人でも難しいんじゃないか?
真「とりあえず能力は使っちゃダメなんですね?」
仁「ああ。そこだけは覚えていてくれ」
真「わかりました…けど…」
仁「なにかあったか?」
真「前みたいに襲われたらどうすれば…」
仁「ああ、それなんだがな。入ってきてくれ」
翠帝は奥の方の空間に向かって声をかけた。すると影から人がひょこっと出てきた。
嵐紗「やあ、マイエンジェル」
それは…嵐紗さんだった。まさか…いや、最近よく会うし予想はできたかもしれない。
真「ら、嵐紗さん。どうしてここに?」
嵐紗「それはもちろん君を守るために決まってるじゃないか」
真「え?」
嵐紗「仁くんに頼まれてね。真くんが負傷をしてる間、無茶をしないように監視するのと、何かあれば真くんを守れって」
真「翠帝…」
俺は翠帝の方を見た。翠帝はコクって頷いていた。
仁「なにかあればまずいからな。それに嵐紗もよく思っているとのことだ。もしかしたらその期間が終わってもいるかもしれないな?」
真「あー…」
嵐紗「なにその微妙な反応」
嵐紗さんが俺の頬を軽く横に伸ばした…。めっちゃ痛い。
嵐紗「この口が言うのか!」
真「ら、らりもいってらいれす!いたいれす!」
仁「まあそのくらいにしておいてやれ。嵐紗」
嵐紗「ほいほい」
嵐紗さんが頬を戻してくれたが…つねられたのもあってジンジンする…。
…そして嵐紗さんが俺を持ち上げ、椅子に座った。その後に嵐紗さんの太ももに俺が座る形となった。嵐紗さんの腕は俺のお腹にある。
仁「ということで真、少しの間嵐紗がいる生活になるがいいな?」
俺は嵐紗さんの方を見た。ん?みたいな顔をしてた。これは断れる気がしないな…まあ断る気もないが。
真「はい。大丈夫です」
仁「よし、では病室に戻っていいぞ。嵐紗もな」
嵐紗「はーい」
俺と嵐紗さんは俺の病室に戻った。
真「そういえば嵐紗さん、僕の近くにいてくれるってことですけど、荷物ってどうするんですか?」
嵐紗「もちろん荷物を持ってくるよ。蓮乃ちゃんにも言っておくから」
真「そうなんですね」
嵐紗「そうそう」
ということは…一時的にだが俺、翠花姉、蓮乃さん、嵐紗さんの4人があの屋敷にいることになるな。
そんなことを考えていると…
「コンコンコン」
ドアノックがされた。
真「どうぞ」
扉が開いた。そこにいたのは…
翠花「調子はどう?真くん」
蓮乃「あれ、黄帝様もいらっしゃるのですか」
翠花姉と蓮乃さんだった。翠花姉は車椅子に座っていて、蓮乃さんが押している。
真「翠花姉…車いすなんだ。まだ」
翠花「そうだね~。まだ翠帝様からいいよって言われてないからね」
翠花姉は多分俺以上の重傷だった。聞いた話だが心臓を斬られてしまったらしい。大量出血、嵐紗さんが迅速な対応をしたから助かった…とのことだ。そしてその状況を翠帝の医療技術で手術をした。それがなければ翠花姉は死んでいた…と。本当に翠帝には感謝しかない。
真「そっか…。そういえばなんで来たの?」
翠花「ちょっと真くんに言わなきゃいけないことがあってね」
言わなきゃいけないこと?なんだろうか…。
真「な…なに?」
翠花「私ね、少しの間、実家に帰るの」
真「え?」
翠花「実家に帰る。やるべきことを見つけたの」
真「…」
やるべき…こと…。翠花姉のすべきこと…か…。
翠花「私は…あいつに負けた。だから私も真くんもこんなことになっちゃった。もう真くんをこんな目に合わせたくない…そう思ったんだ」
翠花姉は…自分が負けたことをそんなに気にしていたのか…。
翠花「だから私、ちょっとの間だけ実家に帰る。お兄ちゃんや蓮乃、両親に覇王流を改めて教えてもらうの」
真「……」
翠花姉がいない屋敷での生活を…俺は想像ができなかった。
真「そっか…」
これは無意識なんだろう、俺は頬をぷくっと膨らませた。
嵐紗「どうした~?そんな顔をしちゃって!」
嵐紗さんが俺の膨らんだ頬を指で突っついた。
真「ぶ!」
嵐紗「こういう時はそんな顔をするんじゃなくて、頑張ってね!って言ってやればいいんだよ」
真「わ…わかった!翠花姉!蓮乃さん!頑張ってね!」
こういう時は素直に言われたことを聞くのがいいよな。うん。
蓮乃「ふふ」
翠花{ありがとうございます。黄帝…いや、嵐紗さん}
「うん!頑張るよ!私!」
蓮乃「私も翠花さまを鍛えられるよう頑張りますね」
2人はそう言い、病室を出ていった。
真「けど…2人がいないから…どうしようかな…」
嵐紗「何か不安なの?」
真「ご飯も、洗濯も蓮乃さんがやってくれてたし、稽古は翠花姉に見てもらってたし…」
嵐紗「なら私が全部やろうじゃないか」
真「え?」
嵐紗「私もそれなりにできるよ」
真「…意外」
嵐紗「……」
なんだろうこの無言の圧…と思ってたその時…
嵐紗「その口を縫い合わせてやろうか!」
また俺の頬を軽く横に伸ばした。…なんか心なしかさっきよりも強い…
真「いらいれす!ごめんらさい!」
俺がそう言うと嵐紗さんはその手を離してくれた…。めっちゃ痛い…。
嵐紗「全く。一応私、彼氏いたことあるからね?」
真「あ、そうなんですね」
嵐紗「まあもう別れたけどね。私が求める人ではなかった。高望みだったのかもしれないけどね」
真「嵐紗さんの理想の人ってどんな人なんですか?」
嵐紗「ん~…」
嵐紗さんが口に手を当てて考え始めた。そんなに難しい質問しちゃったかな?
嵐紗「ありのままを私に見せてくれる人。付き合ってるから見栄を張るとか、できないことをできるといって失敗するとか。できないならできないって言ってくれればいいのになって」
真「あー…なんていうか難しいですね」
嵐紗「そうだね。でも、だからこそ私は子どもが好き。子どもはそんなことをせず、ありのままに過ごしてる。真くんがさっき言った『意外』も、多分真くんは思ったから、ぽろっと言っちゃったんだろうけど、それでいいんだよ。私からしたらね。お世辞なんて大っ嫌い。思ったことをそのまま言ってくれればいい、好きに行動してくれればいい。それこそが私が求めるものだからね」
嵐紗さんは…直感的なことが好きなんだろう。俺がさっき言ってしまった「意外」という言葉も嵐紗さんは受け止め、そのうえで直感で俺の頬をつねった…のかな?感情的になればそのまま動く、ある意味本能で生きていると言っても過言ではないのかもしれない。
真「そう…なんですね」
嵐紗「よく私はショタコンと言われるけど、そもそも大人が嫌い。子どもとよく関わってるからそういうレッテルが貼られてるんだろうね」
真「え?嵐紗さんその…なんだっけ…」
嵐紗「ショタコン?」
真「それです。ショタコン…なんですか?」
嵐紗「ううん、私は子どもは好きだけど、そんなに言われるほどではない。大人よりは子どもの方が好きってだけだよ」
真「あー…」
嵐紗「まあこんなの聞いててもつまんないよね。よし!終わり!」
嵐紗さんが手を叩いた。結構いい音なってた。
真「あ、はい」
俺がそう言った…そしたら嵐紗さんが無言で何か物を置いた。
真「これ…トランプ?」
嵐紗「スピード、やろうじゃないか」
真「あ、はーい」
俺は嵐紗さんとスピードを10回くらいやったんだけど…
真「勝てないんですけど…」
嵐紗「真くん弱いな~。一回も負けなかったね、私」
真「僕が勝つまで付き合ってください!」
嵐紗「いいよ~」
結局俺は嵐紗さんと就寝時間になるまでずっとやりまくった。今思えばやばいかもしれないが、それだけやってても一回も勝つことはできなかった。嵐紗さん強すぎ!!
日は昇り、俺は翠帝の診察室に向かった。嵐紗も一緒だ。
仁「では今日で退院だ。荷物…はあまりないな。まあ忘れ物はないように気をつけろよ」
真「はい」
嵐紗「私は荷物をすでに持って来てあるから、帰ったら屋敷に直行だね」
真「ですね。あ、あとで翠花姉から鍵もらわないと」
仁「…それなんだがな、今翠花は家族が病室にいて入れないかもしれない。少し時間をおいてから入ってあげてくれ」
真「家族?」
仁「ああ。源一族の人間が来ている。おそらく翠花の稽古に関することだろうな」
真「翠花姉も稽古するって昨日言われました」
仁「覇王流だけは俺が習得できなかったこの国に伝わる最強の流派。鍛練でどこまで化けるか。ポテンシャルがあるだけに楽しみだ。前やったときは神気が多かったから勝てただけ。神気も増え、剣術に磨きもかかるとなれば…俺以上の逸材になるだろうな」
覇王流って…そんなにすごい流派なのか…!それを扱える人に稽古をつけてもらっていたのか…真面目にやってないわけではないが…難しすぎて諦めてた部分もあった…。次につけてもらえる時にはしっかりと受けなければ!
嵐紗「まあそれはそれだけど、真くんも稽古つけてあげなきゃね」
仁「それはお前の仕事だろう?嵐紗」
嵐紗「だね」
真「……え?」
嵐紗さんが…俺の稽古を見る!?
仁「今の真は神気が足りていないんだ。いくら神話能力といえど、それを扱える神気がなければ宝の持ち腐れ。それに君は両目とも絶眼だ。もうひとつ神話能力を解放することも可能だ。それを解放できれば…真もこの国基準で見ても上位に位置するレベルの強さになるだろう。鍛練、頑張れよ」
翠帝にこういわれると…やる気が出てきた。どんな鍛錬でも俺は頑張ろう…!
真「はい!」
嵐紗「じゃあ…あっちが終わり次第か。とりあえず真くん、荷物を一緒にまとめに行こうか」
真「あ、はい」
そこから俺と嵐紗さんは荷物をまとめた。といっても持ってきたものがないだけに、学校の鞄くらいだった。俺はそれを持ち、再び翠帝の部屋に入ろうとしたのだが…
「ガラガラ」
それよりも前に出てくる人がいるようだ。俺はその人を待ったのだが…
翠花「あれ、真くんに嵐紗さん。翠帝様に何か用が?」
それは翠花姉だった。どうやらもう車いすでの生活からは戻っているようだ。…え?昨日は車いすじゃなかったか!?
真「え…あ、う、うん。それよりも翠花姉…立ってる…」
俺は思った疑問をそのまま翠花姉にぶつけた。
翠花「ちょっと強引にだけど能力を使ったんだ。私自身に『治癒』を使ったの。翠帝様にはちょっと怒られたけどね。でも迷ってる暇はないって言ったら、『勝手にやるな、俺がやればよかっただろう』ってさ。あ、真くん、翠帝様から言われたんだけど、屋敷の鍵、はい、これ」
真「あ、うん」
翠花姉から鍵を受け取った。
嵐紗「真くんは任せて」
翠花「はい、お願いします。本来なら私も見たいですが…あいにく今はできるような状況ではない。嵐紗さんなら任せられます」
嵐紗「任された。流派の訓練はしない。やるのはとにかくスピードを増すこと、神気を増やすこと。この二つだけ。変な癖がついたらすぐに直すから」
翠花「はい。お願いしますね。では失礼…」
真「翠花姉!!」
俺は声を張り上げた。このまま翠花姉と少しの間だが離れるのも俺には辛いから。
翠花「ど、どうしたの?」
真「ま…また、覇王流の稽古…つけてね。今度の僕はもっと…強く…なってるからね…!」
そう言ったその時…翠花姉が俺のそばに近寄ってきた…。そして翠花姉が…俺のことを抱きしめたのだ…。
翠花「私も強くなって、今度こそ君を守れるように強くなって見せる。真くんも私も、頑張ろうね!!」
真「…!うん!約束だよ!」
俺はそう言い小指を翠花姉に出した。
翠花「?これは…なに?」
真「指切りげんまん。翠花姉も出して」
翠花「う、うん」
戸惑いながらも翠花姉は小指を出した。そして指を絡めた。
真「指切りげんまん、嘘ついたら針千本のーます!指きった!」
俺は指切りげんまんを歌い終え、翠花姉と絡んでいる指を離した。
真「翠花姉!約束だよ!」
翠花「…うん。わかった!約束!」
翠花姉が去り際、小指を立ててウィンクをした。その翠花姉は…とても美しかった。
そこから俺たちは翠帝の部屋に入り、退院の許可を得て屋敷に戻った。
真「戻ってきた、マイホーム!」
嵐紗「翠花ちゃんの屋敷」
真「翠花姉の屋敷!」
屋敷に戻り、嵐紗さんの荷物を整えたり、ご飯を食べたり風呂に入ったりと、1日が終わるころには空はすっかり暗くなっていた。
嵐紗「じゃあ寝ようか」
真「ですね。あ、嵐紗はどこで寝るんですか?」
嵐紗「真くんはどこで寝るの?」
真「僕は…翠花姉の部屋のベッド…ですかね。毎日翠花姉と一緒に寝てるのでそこなら安心感が」
嵐紗「じゃあ私も一緒に寝させてもらおうかな。いいよね?」
真「はい!大丈夫です!」
嵐紗「よし、じゃあ寝ようか。おやすみ、真くん」
真「おやすみ、嵐紗さん」
俺は嵐紗さんと一緒にベッドで寝た。翠花姉ではない、別の人と寝ることが初めてだったのでわくわくで少しだけ眠れなかったが、俺の意識はすぐになくなった。




