第59話 目覚め
俺はあの男に…斬られた…。そして俺は死んだんだろう。不思議と体が痛くないし、それどころか心地よさすら感じる。
「目覚めたか、真」
いつもの聞き慣れた声に俺は反応した。
真「この声は…朱雀か…?」
朱雀「ああ。目を開けよ。真」
俺は朱雀の言う通りに目を開けた。だがそこは…赤い世界、地面も空もすべてが赫色に染まる世界だ…。
真「ここは…」
朱雀「かつてわらわとお主が戦った場所、『こころの世界』じゃ。見覚えがあるであろう?」
見覚えは…ある。朱雀と戦った時も、スサノオと初めて会った時もここだった。
真「でもなんで…俺…あの男に…」
朱雀「確かにお主はその後を知る前に気絶してしまったからのう。では先に結論を言おう」
真「結論?」
朱雀「そうじゃ」
朱雀「真。お前は死んでおらん」
真「え?」
待ってくれ…だってあの状況だぞ?男は刀を構えていた。振り下ろすだけで俺の命を奪えた。なのに…死んでいない?どういうことだ?
朱雀「なぜ生きているのか。これはわらわにもわからん。じゃが、真がわらわと喋っていること。これだけで生きているという証明になる。能力は使用者が死ねば消える。じゃがこうして話せている。つまり生きているということじゃ」
能力は使用者が死ねば消える…。そして朱雀と話しているから生きている…か…。
真「とりあえず俺は生きているんだな?」
朱雀「ああ」
真「わかった。あと一つ聞きたい」
朱雀「なんじゃ?」
真「俺はどれくらいの間意識がなかったんだ?」
朱雀「この世界では3日じゃ」
真「この世界?」
朱雀「現実では未だ目を覚ましておらん。この世界から脱した時、現実でも目を覚ますであろう」
真「じゃあ今から帰ると言ったら戻れるのか?現実の世界に」
朱雀「可能じゃ。じゃが今は勧めん」
真「な、なんで?」
朱雀「現実世界のお主は背中を斬られた。それによって大きな手術が行われた。翠帝がオペをするほどの大きな手術がな」
翠帝が…俺を手術したというのか…。翠帝は医療大国の皇帝を務めるだけあってその腕前は一級品と翠花姉が言ってたし…信じてもいいんだろう。
朱雀「詳細は省く。じゃがそれほどの手術だったと思っておいてくれ」
真「わ…わかった」
朱雀「今は…そうじゃな、不自由なく動ける程度に回復している最中じゃ。数日とせずに治る。さすがは翠帝じゃな」
真「そんな大きなけがをしても…数日もせずに治せるのか…すごいな、翠帝って」
朱雀「そして真よ。戻れるのは…そうじゃな、『こころの世界』であと…6時間くらいか。その間はこの世界から動くことを禁ずる。よいな?」
真「構わない。というか戻って悪化するくらいならこっちで待ってた方がましだよ」
せっかくの手術を俺が動いて台無しになってしまったらだめだからな。そこは弁えてるよ。
朱雀「では真よ、聞くがお主…この世界でどうするつもりじゃ?」
…この世界って…見渡す限り…何もないよな…。暇つぶしできるものが…ないな。
真「…寝る?」
朱雀「ダメダメ。許すわけがなかろうて」
真「じゃあさ朱雀、無茶ぶり言ってもいい?」
朱雀「ここから脱するはさっきも言ったが禁ずるぞ」
真「違う違う。ちょっとしたことだよ」
朱雀「なんじゃ?」
真「大きな鳥の姿になった時や俺の体から翼が生えてる状態の時に、スピードが速すぎて壁にぶつかることがよくあるんだ。それをなんとかしたい。対策とかある?」
朱雀が目を丸くして俺に言う。
朱雀「ふ、その向上心、見事じゃ。つまりこの世界でも鍛錬をしようというわけじゃな?」
真「ああ。あの男に勝てるようになりたい。翠花姉を守れるような男になりたいんだ」
朱雀「さすがじゃ。そういうことなら手伝おうじゃないか。ちなみにこの世界で会得したことはもちろん現実でも可能じゃ。しっかりと覚えることじゃ」
真「わかった。頼むよ」
朱雀「心得た!!」
能力の使用者である俺が朱雀に教えを乞うことに朱雀は喜んでいた。俺は目覚めるまでの間、朱雀との鍛錬をした。今の俺にできることはこれくらいしかないと思ったからな。
朱雀「まずはわらわと同じように鳥の姿になれ。話はそこからじゃ」
真「わかった」
俺は神気を開放し朱雀の鳥の姿になった。
朱雀「まずはお主の現状を見ようではないか。とりあえず、急旋回をしてみろ。地面や壁にぶつかっても構わん」
真「わかった」
俺は地面を蹴り、翼を羽ばたかせ、ある程度の高さまで上昇した。
朱雀「そこからわらわのところに来るまでに3回急旋回するのじゃ!」
朱雀はそういうが…この距離で3回は…できる気がしない…。50メートルあるかないかくらいだ…。
俺は物は試しの精神で朱雀のところへ向かった。
朱雀「もっと速くじゃ!遅すぎてあくび出てまうて!」
結構スピード出してるけど…これでも遅いのか…。スピードを上げるため俺は翼を羽ばたかせた。
朱雀「うむ!そのスピードでこちらに来い!」
朱雀が納得いったスピードで俺は向かった…のだが…速すぎるスピードを俺は制御することが出来ず…
真「うわ!!」
2回目の旋回で俺は地面にぶつかった…。
朱雀「へったくそじゃな!わはは!」
真「初めてこれだけのスピードを出したんだ…しょうがないだろ…」
朱雀「まあ実際にこんなスピードを出すことはあまりない。よほどやばい時に逃亡するときにはこれくらいのスピードを出さんといかんかもじゃけどな」
真「…まあいつか出すかもって思えばいいか」
朱雀「そうじゃな。さてと、まずはスピードはこれよりは遅くても構わない。わらわでもやらん。あのスピードは」
やらないのかよ。まあ出せるように頑張ってねってことなんだろうな。
朱雀「鍛錬の時ならばさっきの速度の…そうじゃな、7割くらいでええじゃろう」
真「意外と下げるんだな?」
朱雀「まあな。実戦で相手だけでなく障害物も考えられるスピードはまあこれくらいじゃろう」
真「なるほどな。7割なら多少は制御できるだろうけど、急旋回となると話が変わるよな?」
朱雀「もちろんじゃ。そこで活用するのがわらわのこの金色の尾じゃ。これこれ」
朱雀は自分のしっぽをちょんちょんと指していた。
真「これが…どうなるんだ?」
朱雀「まずはやって見せた方が早いな。お主に入る。少々借りるぞ」
真「あ、ああ」
俺は体の主導権を朱雀に渡した。朱雀は翼を羽ばたかせ、どんどん上昇していく。
朱雀「この尾は自分が使いたいように使える。攻撃にも防御にも。そして数は9本あるので一度に9本まで操ることが可能じゃ」
真「へえ、結構便利なんだな」
朱雀「そうじゃな。まずはそのままのスピードで見せよう」
その言葉と同時…朱雀が翼を羽ばたかせた。それは相当なスピードで、俺なら制御ができないくらいのスピードだ…。
朱雀「ここで旋回じゃ!」
朱雀はそう言い、自身の尾を前に突き出した。するとその尾が…朱雀の体から抜け、視線の少し先に留まり、金色に輝く魔方陣を展開した。
朱雀「この魔法陣の効果は自分で変えることができる。今ならわらわがどれだけ強い力で足蹴にしても壊れないようにした」
そう言った朱雀は自身が出した魔法陣に向かって進み、魔法陣に足をぶつけた。魔法陣は壊れることなく朱雀の体を支えている。
朱雀が魔法陣を蹴ると…
「ギュン!!」
えげつないスピードで加速をした…!
朱雀「これじゃ。これを真にやってもらいたい。ちなみにわらわの尾を増やすとその分曲がれる数も増やせる。難易度は上がるから徐々に増やしていくが安牌じゃろう」
真「なるほど。やってみる」
主導権が戻り、俺は自分の思い通りに動けるようになった。朱雀は俺の横で飛んでいる。
朱雀「まずは尾を飛ばすところじゃ。鳥の状態でバク転するといえばわかるかのう」
真「そんなんで飛ぶの?」
朱雀「回った勢いで尾が飛んでいくんじゃ。これはできるぞ」
真「わかった」
俺はとりあえず勢いをつけて回転をした。すると…
真「うお!」
俺の尾が目の前に出ている…!
真「これできてる!?」
朱雀「できておるな。けどそんなに勢いよくやらんでもできるぞ。まあできてるしよいか」
ここまで勢いはいらなかったっぽいね。できたしいいか。
朱雀「出たことじゃし次は飛びながらやるのじゃ。飛びながら羽を出す。最初はゆっくりとスピードを出してやってみい。慣れていくとスピードが速くなる」
慣れは大事だよな。どれくらいゆっくりなんだろう。とりあえず俺は翼を羽ばたかせず、翼を広げて滑空状態になった。これでもそれなりに速いけど、制御できないほどではない。
朱雀「まずはそこからじゃな。そこから回転をするのじゃ!」
朱雀に言われた通りに俺は体を回転させた。尾が飛び出し、そこに向かってそのまま突っ込んだ。
朱雀「魔法陣は勝手に出る!効果だけ頭で思い浮かべればよい!『壊れない魔法陣』と思い浮かべれば魔法陣は壊れなくなるぞ!」
壊れない魔法陣…壊れない魔法陣…!俺は強く思い浮かべた…。思い浮かべながら尾に向かって進むと魔法陣が展開され、そしてその魔法陣に足を付けた…!
朱雀「そこから魔法陣を蹴れ!」
俺は魔法陣を蹴った。すると加速をすることが出来た。魔法陣は壊れ、元々あった部位に戻ってきた。すごいなこれ。
朱雀「これが流れじゃな。まずはこれに慣れていけ。慣れればスピードを上げることも可能になるはずじゃ」
真「わかった。数をこなすか~」
そこから俺はこの流れをたくさん練習した。うまくいかず失敗したことも何回もあった。調子に乗ってスピードを上げすぎて制御できず地面にぶつかったりもした。それでも俺は何回も練習をした。
少し時は経って、体感で2時間くらいずっと練習をしてた。この世界だと時計もなければ、太陽のような時間が過ぎることを示すものもない。本当に体感だった。
朱雀「形になってきたな。スピードも申し分なし。それをあっちでも扱えれば飛行ならそれなりに戦える。使いこなしていけ」
真「ああ。ありがとう、朱雀」
朱雀「よいよい。お主が強くなるのであれば本望じゃ。さて、こんな練習をしている傍ら、現実世界では2日は経過したようじゃ」
真「え!?」
2日も…まあそれくらい経たないと戻ることを許さないと言われていたし、やりたいことをおおよそ完成させることもできた。まあ問題はないか。
朱雀「どうする?戻るか?」
真「…ああ。翠花姉や結夢が心配してくれてるかもしれないしな。戻るよ」
朱雀「そうか。まああっちでも会えるしな。いつも通りの日常になるように頑張るぞ、真よ」
真「ああ!じゃあ、行ってくる!」
朱雀「うむ!」
俺はこっちの世界での朱雀と別れを告げた。直後、世界は眩い光に包まれた。
「パチ」
俺は目を開けた。そこは…見慣れた翠花姉の部屋の天井ではなく、真っ白な天井で、カーテンが俺の近くを囲んでいた。
真「…どこだ?ここは?」
俺がそう言葉を発した直後…
「ガラガラ!」
勢いよくカーテンが開き、人が入ってきた。その人は…
結夢「真くん!よかった…目が覚めて…」
結夢だった。俺が予想した通り結夢が心配してくれていた。だがここまで勢いがいいとは思ってなかった。
真「結夢…」
結夢「怪我…大丈夫?」
真「俺は…どうなったんだ?」
「はっきり言って危ない状態だった」
カーテンの外から声が聞こえた。
真「結夢、カーテンを開けてくれる?そこには誰がいるのかわからないんだ」
結夢「うん」
結夢がカーテンを開けてくれた。そこに立っていたのは…
仁「よお。俺だ」
翠帝、橘仁だった…。
真「翠帝…」
確かに朱雀が言ってたな。俺は結構危ない状態で、翠帝が手術をするほどの大きな手術だったと。やってくれた彼がここにいるのも納得できる。
仁「とりあえず目が覚めてくれてよかった。真も翠花も目が覚めてなかったからな。お前だけでも目が覚めてくれてよかったぜ」
真「そうだ…!翠花姉!翠花姉はどうなったんです!?」
仁「翠花は…まだ目が覚めてない。翠花は…心臓が斬られてた…。俺は俺が持つ医療技術をすべて使った。あとは翠花が頑張るしかないんだ」
真「しん…ぞう…」
翠花姉は最後に…袈裟に斬られていた…。その刃が心臓に届いても…おかしくは…ないのか…。
真「僕が強ければもっと…」
仁「聞かせてくれ、真。お前たちに何があった?」
真「……」
俺は覚えていることをすべて話した。羅弾という男が俺たちの前に現れ、男が界魔将団であること、翠花姉の一族との因縁があること、颯治さんを狙っていること。そして…俺たちが斬られたことを…。
それを聞いた翠帝は深くため息をついていた…。
仁「そうか…。それは災難だったな。そしてその羅弾という男は界魔将団と名乗っていた…か」
真「はい…。それに翠花姉が言ってたんですけど、学校での嫌がらせをその男に聞いてたんですけど、本当に知らないみたいな感じで…」
仁「翠花が学校で嫌がらせを受けているというのは知っていた。それにそれをやった男が手紙を置いていったんだ。だがそれは別の男だ。確か名前は…藤鷹蜂明だったな。そいつとは名前が違う。2人を襲った奴の名前は羅弾と君は言ってたな」
真「はい」
仁「つまり翠花は蜂明という男と羅弾という男の2人から狙われている…か。本格的に界魔将団のやつらが動き始めてきたな。それに他の国でも界魔将団の被害の報告を受けている。胸騒ぎがするな…。杞憂だといいんだがな」
他の国でも界魔将団の被害…不安になるな…。しかも俺に関しては被害者だしな…。
真「そういえば仁さん、なんで僕はここにいるんです?とてもあの状況から逃げられたとは思えないんですが…それに僕はどれくらいの傷を負ってたんですか?」
仁「傷に関してだが、手術が失敗してたらお前は一生動くことが出来ない。それくらいひどい怪我だったぞ」
真「ど、どんな感じなんですか?」
仁「お前はな、脊髄に傷が入っていた」
真「せ、せきずい?なんです?それは」
仁「簡単に言ってしまえば神経の通り道だ。そこに傷が入ってしまっていたんだよ。真にもわかるように言うなら…ゲームでコントローラーのボタンを押してるのに画面は何も動かないと言えばわかるか?」
つまり…動きたくても動けない…ということか…。脊髄が大事な体の機能の一部というのは知っていたが、そこまで大事とは…。
真「な、なるほど…」
仁「頑張ったんだぞ?脊髄の修復、後遺症が残らないよう神気で傷を塞いだり、難しい治療の数々…まあ君に言ってもしょうがないことだろうけどな」
真「…とりあえず、ありがとうございます。仁さんがいなければ僕は…」
仁「まあいい。動けそうだしな。とりあえず無茶な行動を起こすなよ?」
真「わかってますよ」
仁「ならいい。んじゃ俺は翠花の部屋に行く。なにかあったら言ってくれ」
そう言い翠帝は病室を出ていった。結夢は完全に放置された状態で、翠帝が出てから声を発した。
結夢「真くんも大変だったね…。界魔将団?から襲撃を受けるなんて」
真「全くだ。結夢はないの?」
結夢「ないね。これぽっちも」
真「そうか…。まあいいや。そういえば今日は何曜日?何日寝てたのかもわかってないんだ…」
結夢「今日は土曜日。学校はお休みだよ。多分真くんは5日は寝てたんじゃないかな?」
真「そうなんだ…」
まあ最後の二日は鍛錬に回してたけどな。まあ朱雀に動くなと言われてたし。
真「あ、日菜子さんは?」
結夢「お姉ちゃんは…」
結夢が声を発そうとした瞬間…
「ガラガラ!」
病室のドアが勢い良く開いた…。そこにいたのは…
日菜子「はあ…はあ…」
息が絶え絶えな日菜子さんだった。その日菜子さんがこちらに視線を上げた。
日菜子「真くん…よかった、起きてるみたいで」
真「なにかあったんですか?」
日菜子「あったもなにも…翠花が目を覚ましたんだよ!」
その言葉に俺は詰まっていた何かが取れたように一気に安心感が押し寄せた。
真「よかった…翠花姉…」
日菜子「真くんは動けるの?」
真「多分無茶な範囲で動かなければ大丈夫だと思います」
結夢「なら真くん、私が車いす押すから乗って」
真「わかった」
俺たちは日菜子さんの案内で翠花姉がいるであろう病室に向かった。
俺が病室に入り、そこで目にしたのは__




