第56話 動き出す日常
俺たちは嵐紗さんを連れて屋敷に向かった。嵐紗さんと翠花姉はめっちゃ質問してた。俺にはあまり聞こえなかったが、一つ聞こえたことがあった。
翠花「いつから真くんのこと?」
嵐紗「夏祭り。一緒に回ったでしょ?その時にこの子がいい子だなって思ってね」
翠花「そのいい子というのはどういう観点で?」
嵐紗「顔も服装も性格も潜在能力も全部。真くんは絶対に強くなる。翠花ちゃんが真くんを育ててくれれば真くんは伸びる。私もサポートするから、真くんに強くなってほしいんだ」
翠花「どうやらそこは一緒のようですね。いいでしょう。一緒に頑張りましょう」
俺のことだった。鍛錬は嵐紗さんも参加するって聞いてたが…加減はしてほしいな?
俺たちは屋敷についた。蓮乃さんはリビングでコーヒーを飲んでいた。
翠花「ただいま、蓮乃。真くんの鍛錬してくるね」
蓮乃「おかえりなさい翠花さま、真くん。帰ってきて早々鍛錬とは…頑張りますね」
真「実は事情があって…」
蓮乃「事情?」
俺がそう言うと同時…
嵐紗「私がいるのだよ」
嵐紗さんが壁からひょこっと出てきた。
蓮乃「黄帝…なぜあなたが?もしかして真くんの鍛錬を見るなんて言いませんよね?」
嵐紗「言わない言わない。見るんじゃなくて一緒にやるんだよ」
蓮乃「そうですか。それは…ってダメですよ。真くんにあなたが求める技術ができるとは…」
嵐紗「なら教えればいいんだよ。それに私は翠花ちゃんにも言ったけどスピードには自慢があってね。真くんにスピードが足りないというのなら私が打ってつけだと思うよ?」
翠花「確かに真くんにはスピードも必要ですが…」
嵐紗「一番真くんに教えてる翠花ちゃんが迷ってちゃだめでしょ。わかってるのなら教えてあげればいい。真くんにとっての課題が目の前にあるのなら解決をする。当然でしょ?」
ここまで決断力が早いとは…思ってもみなかった。もしかして…黄帝って言われてる理由って…決断力が早いから?いやわからないけれども。
真「翠花姉、今日は嵐紗さんも入れてやってみようよ」
翠花「まあ真くんがそう言うなら…」
嵐紗「よし決まり。どこでやるの?」
翠花「道場があります。どうぞ」
嵐紗さんを道場に連れ、俺たちは鍛錬をすることになった。
翠花「今日も覇王流の稽古…と言いたいけれど、せっかく黄帝がいるから、競り合いについてをやろうか」
真「競り合い?」
蓮乃「言ってしまえばスピード勝負ですね。いかに相手の剣よりも早く、正確に相手の攻撃を受け止めたり攻撃したりですね。また近接戦特有の駆け引き等もあります」
なるほど、そういうのもあるのか。俺が接近戦をしたことって…鍛錬以外だと…あ、朱雀と戦った時があるか。
翠花「じゃあ試しに真くん、嵐紗さんとやってみてよ」
真「え!?」
嵐紗「やろうか。大丈夫。手加減は得意なんだ~」
手加減…どこまで加減してくれるのか…。俺が追い付けるくらいのスピードがいいな…。
俺と嵐紗さんは木刀を持った。そして向かい合う…。
嵐紗さんの空気はふんわりしているが…スピード自慢の彼女に俺が追い付けるかどうか…。
翠花「でははじめ!」
翠花姉の声で俺は嵐紗さんに向かって剣を振った。だが…
嵐紗「届かないね。そんなスピードじゃ」
全く剣が届かない…。神気を使ってないとはいえ、俺が振るうすべての剣が簡単にはじかれている…。
蓮乃「翠花さま、彼女は剣技という点で見れば素人ですが…」
翠花「動体視力と身体能力、反応速度で真くんの剣をいなしてる。『黄逸の早帝』の名に恥じないスピード。しかも神気を開放してなくてこれ。ほんとに手加減しているってのがわかるね。神気を開放してれば多分真くんは受ける以前の問題かも」
どれだけ振っても当たらない、それどころか…
嵐紗「そこだ」
俺が右足を出して踏み込もうとしても嵐紗さんが俺の右膝を叩いて足を動かせないし…
嵐紗「今度はそっちか」
木刀を両手で振ろうとすれば肩を同時に叩かれ動けない…
右足、左手、腰…そのどれもが動こうとする前に止められる…何一つ思い通りに動かさせてくれない…。
まるで俺がどこを動かすかがわかっているかのような動きをしてくる嵐紗さん…
動かしたい場所も動かせなくなった俺は最終的に…
その場でとどまるだけのサンドバックと化した…。
真「く…」
翠花「もう無理だね。動かさせてもらえてない。止めようか」
蓮乃「ですね。これが黄帝ですか…」
翠花「嵐紗さん、ストップ」
翠花姉のその言葉に嵐紗さんは俺の体を叩くのを止めた。
翠花「どうだった?真くん。これが競り合い。体の動きが読まれるとこうなってしまうの。まあ極端な例はこんな感じ」
真「全然動けなかったよ…。未来視でもしてるのかなって思ったよ…」
嵐紗「まあしてるっちゃしてる」
真「え?」
未来視を…してる!?神気は出していなかった…どういうことだ!?
嵐紗「私の家系はちょっと特殊でね。目の機能で相手が動く場所を見れるんだ。体の筋肉の動きから、物体の移動くらいだけどね。神気を込めればもっと見れる」
真「た…例えば…?」
嵐紗「相手の神気の流れ、血液の流れ、神経の流れ。もっと詰めればそうだな、体の細胞単位まで見れる。けど私はそこまでやらないかな。だって気持ち悪いしね」
そこまで見れるのか…。つまり嵐紗さんは俺の体の内側の動きを見て俺が動かす前に叩いてたってことか…。
翠花「それに適応するのにもそれなりに厳しいものがあるとは思うけど…読みあいも多少は…」
嵐紗「一応した。ここを叩いたら次はここ…とかは考えてる。予測通りに真くんが動いてくれて後半めっちゃ楽しかった」
真「遊びじゃないんだけどな…」
嵐紗「君もこっち側にこればできるよ」
できる気がしません。はい。
蓮乃「これは要鍛練ですよ。真くん」
真「……はい」
翠花「けど嵐紗さんとの鍛錬は真くんの体の動きの癖を直すにはいいんだよね」
嵐紗「まあおおよその癖はさっきのでわかったしね」
真「え…あったの?」
嵐紗「うん。真くんさっきの競り合いで動かせなかったら体の反対のところを動かすんだよ。右腕を動かそうと思ったらその後は左足を動かそうとする。どのタイミングを基準にそれが起きてるかはわからないけど、私は競り合いの最中に受けたら絶対に見るね。そこは直しておきたいかも」
体の動き…確かに動かせないならそう動かしてるかもしれない…。癖も読まれ、筋肉の動きも見られてたら…ああなるのも納得だ…。
真「頑張ります…」
嵐紗「頑張ってね」
翠花「じゃあここからは私とやろうか。競り合いの練習。また神気を使ってより早い競り合いにも対応してもらいたい。今日はとりあえずやってみようの回だね」
真「はーい…」
神気を使っての競り合いとか…対応できる自信ないし…しかもそれがよりによって翠花姉との競り合いだろ?いや多分だけど誰でもボコボコにされると思う…。
翠花「自信なくしちゃってるような声だね。大丈夫だよ。最初は追い付けないってわかってるから。もちろん抑えるから」
真「それならまだ…」
嵐紗「その場合私っている?」
翠花「嵐紗さんは真くんの癖をまとめたり蓮乃に教えてもらってもよろしいですか?それが真くんの課題って真くん自身が理解できると思うし、私たちも直せばいいところがわかるので」
嵐紗「りょーかい」
虹帝達の一人をそんな風に使っていいのかな…。まあいいか。手伝ってくれるって言ってたしな。
翠花「じゃあ早速行くよ。構えて」
真「うん」
俺は木刀を持つ翠花姉に向かって踏み込み、木刀を振った。だがそれは空を切り…
翠花「競り合いの練習だよ。そんな踏み込みだと…」
俺は翠花姉に背中を向けてしまった…。それを翠花姉が逃すはずもなく…。
真「あだ!」
俺は翠花姉が振るう木刀によって背中を叩かれてしまった…。
翠花「力任せは競り合いではない。スピードと読みあい、パワーももちろん必要だけど、今はいいから。さ、今度は力まずに力を抜いて、まずは私に木刀を当てることに集中しようか」
真「ふう…うん!」
そこから俺は翠花姉にスピードに関する鍛錬、剣をはじかれないようにする鍛錬、予測とか狙いの推測をすることなど、競り合いで必要なことを教えてもらった。
翠花姉との鍛錬をしていると、気づけば空は暗くなっていた。だが今日の鍛錬はとても実践よりで楽しくもあった。
翠花「じゃあ今日はこれくらいにしておこうか。お疲れ様、真くん」
真「ありがとうございました!」
嵐紗「ほい、これ」
嵐紗さんが俺に向かってノートを渡してきた。
真「これは?」
嵐紗「鍛錬の最中の癖をまとめたノート。さっき言われてたやつ。書いといたから参考にしてね」
真「ありがとうございます!」
翠花「私も後で見ようかな」
嵐紗「そんな翠花ちゃんにも、はい、これ」
翠花「え?」
嵐紗さんは翠花姉にもノートを渡した…。
嵐紗「剣術という観点ではなく、神気を使っての鍛錬があったでしょ。神気だけに焦点を絞っての癖とか特徴をまとめたの。っていっても翠花ちゃんにはいらないものかもだけどね」
翠花「いえ…これを私は見ないというてはありません。私以上の強さを持つあなたが書いてくれた神気に関するノート、参考にさせていただきますね」
嵐紗「そっか。じゃあノートも渡したことだし帰ろうかな。また…月曜日か。土日は私忙しいからな~。遊びには行けないや」
真「そうなんだ…じゃあ嵐紗さんがまとめてくれたノートを見て、しっかりと鍛錬するから!」
嵐紗「一日二日で直るものではないと思うけど頑張ってね」
真「うん!頑張る!」
嵐紗「じゃあ失礼するか~」
その時嵐紗さんから…
「ドオン!!!」
圧倒的な神気を感じた…。俺には感じれないほどの圧倒的な神気を…。
真「な…なにを…」
翠花「多すぎる…。真くん…大丈夫…?」
真「う…うん…」
なぜ俺が感じれないほどの神気をこの人は出しているのだろうか…。
翠花「なぜそれほどまでの神気を出したのですか?」
嵐紗さんが振り向きながら答える…。
嵐紗「こっちの方がかっこいいじゃん?それに…」
嵐紗さんが…一呼吸を置いて言った…。
嵐紗「帝国まで結構距離あるからね。一瞬で帰りたいんだよ。神気出して飛ぼうかなって」
飛ぶ…嵐紗さんも飛ぶような能力を持っているのか…?
真「嵐紗さんは…どんな能力を…持ってるの…?」
嵐紗「見せた方が早い…かな。ほいっと」
そう言い嵐紗さんは…どこからか…神秘的な槍を出した…。
真「や…やり?それを…」
翠花「どうするんです?」
嵐紗「こうするの」
道場の窓に向けて穂先を向け…力強く握ったその瞬間…
「ガタガタ…」
窓は震え…ホワイトボードや椅子、机が揺れている…。そして空気が…息が吸えないほどに…震えていた…。
そして嵐紗さんが窓の開いてるところに向けて突きを放った…。
その瞬間、音は消え、世界は一瞬黄色に染まった。
嵐紗「『裂駆音逸突』」
俺の耳が壊れると錯覚したかのような、爆発したかのような音が俺の耳に入った…。咄嗟に俺は耳を塞いで目を閉じた…。
目を開くと…嵐紗さんはすでにいなかった…。
翠花「……早すぎるね…私でも見えなかったな…」
蓮乃「さすが黄帝…。大陸最速の名に恥じぬスピードですね…」
翠花「嵐紗さんも帰ったことだし…ご飯食べようか」
蓮乃「ですね。早速取り掛かります」
俺たちは道場から屋敷に戻った…。俺の耳には未だに耳鳴りがしていた…。
翠花姉、蓮乃さんと夜ご飯を食べ、翠花姉と一緒にお風呂に入って、そのまま俺は寝た。
そこから土日を挟み、翌週の月曜日、事件は起きた。
朱雀「ミーンミンミンミンミーン」
全く似ていないセミの音が聞こえた。俺はその音で起きた。
真「季節は…もう過ぎたろ…」
朱雀「わらわ以上にうるさいやつがおったのでな。真似してみたぞ」
真「いらないよ…起きるか」
俺は部屋を出てリビングに向かった。すでに翠花姉と蓮乃さんは起きていて机にはいつも通りご飯の用意ができていた。
真「おはよう、2人共」
翠花「おはよ~」
蓮乃「おはようございます」
俺と翠花姉は椅子に座って蓮乃さんの残りの分の準備を終わるのを待っていた。すぐに準備が終わったようで俺たちは朝ごはんを食べた。
3人「いただきます」
朝ごはんを食べるときは結構無心なんだよな。寝起きってのがあるだろうけど。
俺たちは朝ごはんを食べ終えた。
3人「ごちそうさまでした」
俺と翠花姉は学校への準備に取り掛かった。俺はいつものように準備が早く終わり行くだけになった。リビングで翠花姉を待っていた。
翠花姉が最近の流行り(なのかは知らないけど)の三つ編みをやってほしいと言ってきた。最近ずっとやってるからか今日は結構いい出来だ。
真「どうかな?翠花姉」
翠花「いいね。前よりも早くて上手になってる。これはもう毎日やってもらおうかな?」
真「が、頑張るよ」
翠花「ふふ。じゃあ行こうか」
真「うん」
俺たちは玄関の扉を開け学校に向かった。一緒に歩いていると結夢と日菜子さんがいたので一緒に向かった。
少しすると学校が見えてきた。俺たちは校門に向かって歩いている時…
「パシャ」
あの音が聞こえた…。校門に到着していない段階でシャッター音が聞こえるとは思っていなかったが俺の耳は捉えた。
真「ここで…聞こえるのか…!?」
日菜子「どうかした?真くん」
真「えっと…」
日菜子さんは…シャッター音が鳴っていること自体を知っているのだろうか…。日菜子さんとは話していないし…知らないかもしれない…。
結夢「もしかしてシャッター音?」
真「う、うん」
翠花「また聞こえたのか…。最近多いんだ」
日菜子「…なんか怖いね…。何もないといいけど…」
翠花「だね…。とりあえず学校に行こうか」
俺たちはシャッター音のことを気にしつつ校舎に向かった。
俺たちは校舎に時間通りに到着し先生が来るのを待った。すぐに先生が来てHRを始めた。
中等部の校舎で翠花と日菜子は昇降口に向かって歩いていた。そこで日菜子が口を開いた。
日菜子「真くんが言ってたシャッター音ってさ、ここ最近ずっとなの?」
翠花「真くん曰く、私と一緒にいるときはほぼ毎回鳴ってるらしいよ。ない時もあるらしいんだけどよくわかんない。けど真くんがそう言うから間違いないと私は思うよ」
日菜子「相変わらずだね。真くんファーストだ」
翠花「そんなことないよ」
そんな会話をしていると翠花たちの下駄箱が見えてきた。翠花は下駄箱の扉に手をかけた…だが…そこで手が止まってしまった…。
翠花「…」
日菜子「どうしたの?翠花」
翠花「ううん。なんでもないよ」
そう言い翠花は扉を開けた…。そこには…
下駄箱を埋め尽くすほどの…大量の写真が裏返った状態で貼ってあった…。
翠花「……なに…これ…」
翠花は写真を一枚手に取り見た…。それは…
翠花「これ…私の…しゃ…しん…」
日菜子「え!?」
日菜子も翠花の下駄箱を見た…。翠花は貼ってあるすべての写真を剥がし手に取った…。
翠花「これは…私が真くんと下校してるときの…これ真くんと道場で鍛錬してるときの…全部…全部私の…写真…」
日菜子「……」
全てを翠花は…見た…。翠花の顔は…未だかつてないほど…青ざめていた…。
そんな中でも翠花は自分の上履きを手に取ったのだが…上履きの下に封筒が置かれていた…。
翠花「まだ…なにかあるの…?」
翠花はその封筒を手に取り封筒を開けた…。そこには…
真と翠花が映っている写真が入っていたのだが…その写真は…真の顔の部分だけが破られており、そして付箋が貼り付けてあった…。それを翠花は読んだ…。
翠花「……!!」
翠花の反応に日菜子は気づき翠花に近づいた…。
日菜子「どうしたの!?翠花!」
翠花の手は震えていた…。翠花の手から付箋が落ちる…。日菜子はその付箋を手に取り読んだ…。
日菜子「……まさか…真くんまで…」
その付箋は…
「こいつはなんだ?こいつは消す」
そう書かれていた…。翠花は震える手を抑え、拳を握った…。そして一息ついた…。
翠花「私だけじゃない…真くんも危ない…!」
写真と付箋が表していたのは…翠花だけでなく真にも危険が迫っているという事実だった__




