第28話 剣神の伝承、明日へ向けて
俺は未だに右腕に痛みが走っている。翠花姉によって多少痛みは引いてきたが…それでも痛みが止むことはなかった。
少し時が経ち、こころの世界に行ってくれていた朱雀が戻ってきた。それとほぼ同タイミングで痛みがゆっくりとではあるが引いてきた。俺の中で何が起きているのか。それを朱雀に聞いてみた。
真「おかえり。朱雀。体内で何が起きていたか教えてもらえるか?」
朱雀「真の中には元々スサノオがいたのは知っておるじゃろう。そのスサノオが少し興奮しておってのう」
翠花「興奮…ですか?」
朱雀「うむ。というのも翠花よ。スサノオによるとその構えはスサノオが現世にいた時に当時の人間に教えた構え、とのことじゃ。誰から教わったのじゃ?」
翠花「覇王流のことですよね?これは…」
朱雀「いや、正確には先ほど構えたこう…右腕をガッ!として右足をズン!ってやつじゃ」
翠花「……」
翠花姉は見たこともないような顔をしていた。目を点にして口もポカーンとした顔だ。朱雀…説明下手すぎじゃないか?なにが右腕をガッ!として右足をズンッ!だよわかるわけないだろ。
真「翠花姉…た、多分…こんな構えかな?」
俺はさっき見た翠花姉の構えを見様見真似でやってみた。それを見てやっと理解できたようだ。
翠花「あー。いやわかんないでしょ。右足をズンッ!とか。朱雀様、もう少し上手に説明していただけるとありがたいんですが…」
朱雀「わかりやすいじゃろうて!真は理解できておるし!」
真「聞いた人みんなが理解できる説明じゃないとわかりやすいには入らないよ…」
朱雀「そういうもんか…今後見直さねば…」
翠花「それで、あの構えがどうしたんです?」
朱雀「ああ、その構え、誰から教わったのじゃ?」
翠花「”覇世の構え”は宗家に伝わっていて、私は元々知っていました。”王羅の構え”は蓮乃から教えてもらいました。おそらく分家はこちらが主流なんでしょうね。それがどうかしたのですか?」
真「”王羅の構え”ってさっき僕に向けたやつ?」
翠花「うん。別に何か特別というわけではないんだけどね…」
というか宗家と分家で扱っている構えが違うのか。確か翠花姉は宗家、蓮乃さんは分家、同じ流派なら宗家分家問わず一緒でいいだろうに。何か訳があるのだろうか?
朱雀「その構えを見てスサノオは興奮しておった。何か伝承のようなものはないのか?」
翠花「伝承…。私は宗家を4歳で追い出されています。そのようなものは知らぬままこの屋敷に、蓮乃によって育てられました。覚えているのは当時教わった覇世の構えだけ。王羅の構えなら蓮乃に聞いてみるのがいいかと」
朱雀「そうか。それはひどいのう。宗家の顔…見てみたいものじゃ。そして蓮乃なら知っているかもしれんのじゃな?」
翠花「はい。彼女は分家出身で、分家で最強と言われています。彼女ならその伝承とやらも知ってると思います」
朱雀「では蓮乃に聞いてくるとするか。真よ。痛みが治まり次第…」
真「もう大丈夫だ。2人ともありがとう。いけるよ」
翠花「無理しちゃだめだよ?」
真「完全ではないけどもう誤差程度。これなら全然動ける」
翠花「そっか。心配もいらないみたいだし、蓮乃のところに行こうか。朱雀様、真くん。行こうか」
俺たちは蓮乃さんのところへ向かった。医務室は道場からも近い。道場で負った怪我を治療しやすいからなのだろう。そして道場と屋敷も近いからすぐに向かえる距離だ。
屋敷に入り、蓮乃さんがいるリビングに向かった。蓮乃さんは洗濯物を畳んでいた。翠花姉がドアを開けた。蓮乃さんはそれに気づいて畳むのをやめた。
蓮乃「本日の鍛錬は終わりましたか?」
翠花「うーん…中断って言い方が正しいかな」
蓮乃「中断…ですか。何かあったのですか?」
翠花「私ね、真くんに覇王流の構えを教えてたの。”覇世の構え”と”王羅の構え”の両方ね。それで、王羅の構えを見せたら真くんの中にいるスサノオが興奮したって朱雀様が言っててね。王羅の構えとスサノオ様についての関連を私に教えてくれた蓮乃なら何か知ってるんじゃないかって思って」
蓮乃「なるほど…私も詳細は知りませんが、王羅の構えとスサノオ様に関することは一つだけ知っていますよ」
真「本当!?どんなのどんなの!?」
知っているのか。蓮乃さんはスサノオとその…王羅の構えの構えの伝承を…!
蓮乃「覚えている範囲で、ですがよろしいですか?」
翠花「うん。お願い」
蓮乃「…スサノオ様は私たちがいるこの世界に存在し、私たちの祖先にあたる当時の源一族に剣術を教えた、という伝承があります。実家にあった書庫にそう書いてあった本を読んだことがあります。しかしその本は見たこともない文字だったのもあり、読めませんでした。父も母も読むことができませんでした。しかし、最初のページだけは古文にあたる文法で、解読し、先ほどの文章になりました。これが伝承…なのですかね。私が知っていることはそれだけです」
スサノオは俺たちの世界に存在していて、蓮乃さんの祖先にあたる人たちに剣術を指導した…!そんな伝承があるなんて…こんなことを聞けるとは思っていなかったな…!
翠花「そんな伝承があるんだ…。私全く知らなかったな…」
蓮乃「翠花さまは早くにこの屋敷に来ましたからね。知らないのも無理はありません」
朱雀「その話を聞けて良かった。スサノオがなぜ興奮したのかもおおよそわかったからのう」
真「わかったのか?今の伝承を聞いただけで…」
スサノオがどんなことに関与しているのかも今の俺にはわからないんだが…朱雀はわかるというのか。神同士だからこそわかるもの…ということか?
朱雀「翠花はその王羅の構えを真に向けてやった。真はその圧を受け、それと同時に中にいるスサノオも同じ圧を受け取り、同じ構えをした翠花を見て、自身が教えた構えを扱えている人間がいることに興奮した、そう考えるのが普通じゃな。本人に聞いても奴が教えた構えを見て心が躍ったと言っておったし確定でよいじゃろう」
翠花「それじゃあ…真くんに王羅の構えは教えてはいけないんですか?」
朱雀「そういうわけでもない。久々に見て驚いたと言っておったし次からはなくなるじゃろう。安心して真に教えてくれ」
翠花「そうなんですね。わかりました。ですが今日は終わりにしましょう。明日もある」
蓮乃「それがよいでしょう。お昼にしましょう。鍛錬は時間が経つのが早いですね」
真「え?」
したことと言えば…翠花姉に基本的な剣の構え、覇世の構えを教わったくらいだ。そこに俺の右腕が痛んだから朱雀に聞いてきてもらって、蓮乃さんに伝承を聞いたくらいだ。蓮乃さんが時計を指さしている。しかもめっちゃ笑顔で。そのまま視線を指している方に向けると…
蓮乃「今午後の2時です」
真「うっそ!!?」
時計の針は2時を指していた。何が大きかったのだろうか?剣の構えなんてすぐに終わったし…やっぱりスサノオ関連が一番時間を食ってるような気がするな。
翠花「実際私待ってる時間長かったし妥当だよ?真くんは時間が過ぎるのが早いみたいだね。しっかりと集中してる証拠だ。偉いぞ~」
翠花姉はそう言い俺の頭を撫でた。褒めてくれる時はいつも頭を撫でてくれる。これが病みつきになるんだよな~。
それにしても時間の経過ってこんなに早いものか?集中していた(らしい)とはいえここまで時間が早く進むものなのか。俺の中では疑問となることが増えているな。今は考えてもしょうがないかもしれないが…
翠花「と言っても私そこまでお腹減ってないんだよね。真くんは?」
真「実は僕もそんなにかな…」
蓮乃「では量を少なめにしますか?それとも昼を抜いて夜に大きくいきますか?」
翠花「夜を大きく!」
真「じゃあ僕…お肉がいいな」
蓮乃「承知しました。明日の入学式に向けての決起集会のようなものにしましょう」
翠花「おー!」
蓮乃「では買い物に行かないといけませんね。他に何か必要なものはありますか?」
真「特にないかな」
翠花「私も」
蓮乃「そうですか。では行ってきますね」
真・翠花「いってらっしゃい!」
蓮乃さんは買い物に出かけた。俺と翠花姉は翠花姉の部屋に向かった。
翠花姉は机で勉強をすると言い、勉強を始めた。俺はベッドの上で能力の本を読んでいた。
太陽もどんどん沈み、夕焼けがきれいになる時間まで寝たり本を読んだりしていた。その時、ドアが開く音がした。玄関から声が聞こえた。
蓮乃「ただいま戻りましたー」
蓮乃さんが帰ってきたようだ。翠花姉と目を合わせ、2人で玄関に向かった。蓮乃さんは大荷物でとても重たそうだ。
真・翠花「おかえり!」
翠花「多いね。手伝うよ。肉は解凍しとけばいいね?」
蓮乃「はい。お願いします。あ、真くん。これらを冷蔵庫にお願いします」
真「はーい」
俺たちは手際よく蓮乃さんが買ってきた食材を冷蔵庫や冷凍庫にしまい、ものの数分ですべてしまうことができた。
蓮乃「少々解凍まで時間がかかりますのでお二人ともお風呂にどうぞ」
翠花「そっか。じゃあ行こっか。真くん」
真「変わらないんだね…」
翠花「もっちろーん。ずっと一緒に入るんだぞ!」
そう言い翠花姉は俺の腕を引いて浴室まで連れて行った。6歳になった今でも変わらないのは…いかがなものかと思うがな。しかも中学生になるんだぞ?この人は。
翠花「じゃあ入ろうか」
真「うん」
俺と翠花姉は浴槽に一緒に入っている。前に比べると狭くなったな。俺も翠花姉も成長しているというのがわかる。身長も俺は結構伸びた。翠花姉も10センチくらい伸びている。そりゃあ狭く感じるわけだ。
翠花「明日は入学式かー。真くんは初めてだね。緊張する?」
真「うん。やっぱり初めての環境って緊張するよ」
翠花「それが普通だよ。大丈夫」
真「翠花姉は中学校は緊張しないの?」
翠花「緊張はするけど、それ以上にやばいのがあってね…」
真「や、やばいの?」
入学式以上にやばいもの…なんだ?入試の結果発表か?いや、翠帝の推薦だから入試はないはず、100人友達作らないといけないとかか?だとしたら確かにやばいな…。
翠花「その名も…」
真「ごくり…」
翠花「なんだっけ?」
真「ずこ!!」
忘れてんじゃねえよ!何してんだこの人は!思わずお湯に顔突っ込んじゃったじゃないか!
翠花「あはは、冗談冗談~。覚えているよ~」
翠花姉はめっちゃ笑顔でそう言った。全くこの人は…!
翠花「それはね、中学校の新入生代表スピーチ。みんなの前で私がスピーチしないといけないの。といっても典型文だから何も面白くないし、真くんは寝てていいよ」
真「寝てていいものなのかな…」
翠花「読む私が言ってるんだもん。いいよ」
いやだめじゃないか?だめだろ絶対。起きてなきゃダメだろ。うん。
翠花「あ、あと入学式はね、今年入学する小学生から大学生まで合同でやるらしいよ。そして中学校以上の代表生徒がそれぞれスピーチをするって感じ。多分スピーチしてる人以外みんな寝るでしょ。これ」
それはそれで結構だるいな…寝てもいいかもしれんな。スピーチって大体2~3分くらいか?それが合計3人だから、10分の睡眠か。悪くない仮眠だ。
真「結構めんどくさいんだね」
翠花「そうなんだよね~。一応任されたからには頑張るけど」
真「翠花姉が読んでいるときだけ起きてようかな?」
翠花「嬉しいこと言ってくれるじゃ~ん。このこの!」
真「ヴぃ!」
翠花姉が俺のほっぺを引っ張った。全然力を入れてないのかそこまで痛くはなかった。
翠花「それじゃあ、ご飯もあるし体を洗っちゃおっか。座って」
真「うん」
翠花姉が俺の身体をゴシゴシと洗ってくれている。
翠花「前に比べて体おっきくなったよね。男の子は成長するのも早いんだね~」
真「そう?あまりわからないよ」
翠花「本人はね。他の人から見たら結構な成長だよ。私は間近で見てるからしっかりとわかるんだ。はい、終わったよ」
真「ありがとう」
翠花「私もすぐ終わらせるからちょっとだけ待っててね」
翠花姉はいつも早く体や髪を洗うが、それでも髪質はきれいだし体が荒れてるってわけでもない。特別なものでも使ってるのだろうか?
翠花「よし、終わったよ」
真「やっぱり早いね。そんなに急がなくてもいいのに」
翠花「そうかな?そんなに急いだつもりはないのにな」
真「明日さ、ゆっくりとって言い方はあれだけどしっかりと洗ってみてよ」
翠花「しっかり?うーん…わ、わかった。じゃあ出よっか」
浴室に出て、翠花姉に体を拭いてもらって、部屋着に着替えた。翠花姉も同様に着替え終わっていた。
翠花「ご飯食べに行こうか。蓮乃も終わってるだろうしね」
真「うん。ご飯楽しみだよ」
俺たちはリビングへ向かった。蓮乃さんは既に肉を解凍しきっていた。蓮乃さんが俺たちに気づいた。
蓮乃「出られましたか。ではご飯にしましょう」
その肉はとても大きく、少し分厚い本くらいの大きさだ。俺の手を足しても足りないくらいには大きい。
真「大きい…こんなの食べられないよ」
翠花「大丈夫。みんなで分けるの」
蓮乃「さすがにこの大きさを一人で食べるのは厳しいですね…」
真「そっか。そうだよね」
翠花「真くん。どれくらい食べる?三等分だと蓮乃きついよね?」
蓮乃「ですね。私はそこまでたくさん食べるわけではありませんから。私は2割ほどいただきましょうか」
翠花「じゃあ真くん5割、私3割でいっか」
真「え!?」
流石にそんな大きさ食べれないと思うのだが…でも翠花姉はいけるでしょみたいな顔をしてるし…食べるしかないか…
翠花「食べられなかったら私が食べるよ。残しても大丈夫だからね」
真「多分翠花姉に行くと思うよ…」
翠花「なら半分こにしようか。蓮乃、半分でお願い」
蓮乃「承知しました」
蓮乃さんが肉を言われた通りに切って皿に盛った。
翠花「それじゃあ」
3人「いただきます!」
俺たちは肉をしっかりと噛んで食べた。ご飯を食べている最中はそこまで会話をすることはない。翠花姉は勢いよくご飯を食べるし蓮乃さんは食が細いのかはわからないが小食気味だ。もちろん稀に会話をすることもあるが、ついているテレビのことくらいだ。あとは俺が話しかけない限りは会話があまりない。
ご飯を食べ終えた。翠花姉はお腹いっぱいと思えるジェスチャーをとった。
翠花「ふう。お腹いっぱいだね」
真「うん。おいしかったよ」
蓮乃「それはよかったです。では」
3人「ごちそうさまでした」
翠花「蓮乃、明日早いから私寝るね」
真「もう寝ちゃうんだ」
翠花「真くんも寝ないとだよ。もう9時回りそうだし」
やっぱり…なんというか時間の進みが早いような?いや、確かに風呂は結構長く入ったかもしれないが…それでも早い。時間ってここまで短いものなのか?
真「もう9時か…ならやっぱり寝ようかな」
蓮乃「それがいいでしょう」
明日は入学式だし翠花姉は寝てもいいと言ってたけどよくないしな。俺は歯磨きをしに洗面台へと向かった。そして歯磨きをしっかりとやって、2人に挨拶をした。
真「2人とも、おやすみ」
翠花「私も寝るよ。おやすみ、蓮乃」
蓮乃「はい、おやすみなさい。2人とも」
俺と翠花姉は部屋に向かった。そしてそのままベッドに入った。
翠花「早いね。真くん」
真「うん。ちょっと緊張してきたから。寝ないとやばいかも…」
翠花「ふふ。そっか。じゃあ早く寝ようね」
そう言い翠花姉は電気を消して、俺が入っているベッドに入ってきた。
翠花「それじゃあ、おやすみ。真くん」
真「うん。おやすみ。翠花姉」
俺たちは目を閉じた。明日の入学式に向けて__




