第17話 継がれし書物、絶対的な意気
昨日は神気の出し方と抑え方を2人に学んだ。そしてそれを実践的に繰り返し、神気を練りだす時間を短縮することができた。そしてなにより…俺は神気を練りだし、体に纏うことができた。
俺には潜在的にある神気が多く、やりたての人間が出せていい量ではないらしい。それは2人の反応を見れば明らかだった。潜在的神気が多ければ多いほど神気を増やしやすいらしく、鍛錬次第では伸びるとのことだ。ならすることは一つ。神気を増やすんだ。
翠花「蓮乃。明日から真くんの神気を増やす鍛練をするけどさ、増やすのって私と同じやり方でいいの?」
蓮乃「まあそうなるでしょうね。あのやり方が最も効率がいいですから」
真「翠花姉と同じやり方ってどんなものなの?」
翠花「ん~?それは、な・い・しょ♪」
真「えー?教えてくれてもいいのに…」
翠花「楽しみが減るでしょ?せっかくの稽古なんだから楽しまないとね」
稽古ってそういうものか?教える側だからそういう楽観的なノリなのだろうか。
蓮乃「明日にでもやりますし、なにも痛めつけるようなことでは…なくはないですが、不安になることはありませんよ」
真「痛めつけることもなくはないんじゃん!そんなの聞いて不安にならない方がすごいよ!」
痛いのは勘弁だ。神気を増やすことと痛い思いをするのは別にできないのか?
翠花「でも多少きつくないと神気増やしにくいからね~。楽な方法でミリレベルの神気が増えるかちょっと痛いの我慢して神気をめっちゃ増やすかどっちがいい?」
真「後者です!痛いのも我慢できます!」
翠花「よし、いい子」
彼女にはやはり俺を引き付けるなにかを持っている。誘導の仕方がうまいというか彼女の掌の上で踊らされてるというか。だがそこに乗せられてる俺も俺だがな…
蓮乃「明日になればどんなことをするのかもわかりますから。あ、翠花さま」
翠花「ん?どうしたの?」
蓮乃「本日の晩ご飯、いかが致しましょう。買い物に行かなければいけないので」
翠花「そっか。そうだね~。魚の照り焼きとか?」
蓮乃「承知しました。では買いに行ってきますね」
翠花「うん。行ってらっしゃい」
蓮乃さんは道場を出て、買い物に行った。俺たちはどうするのだろうか。
真「翠花姉。この後ってどうするの?なにかやる?」
翠花「私はちょっと勉強しなくちゃなんだよね…。私将来の夢が医者だからさ。そのために頑張らないと」
確かにこの人は我流という男を殺さず、治療をし見逃していた。人を殺すことなんてこの人はしないのだろうな。それにしても医者が将来の夢なんてすごいな。前の俺とは大違いだ。
真「あー…。じゃあ僕何してればいいかな」
翠花「んー…。特にないかもしれない…」
真「えー!暇になっちゃうよ!」
翠花「あ、じゃあいい本を渡してあげるよ。結構太い本だけど。一回私の部屋に来て」
真「え?う、うん」
そう言い道場を出て、翠花姉の部屋に入った。翠花姉はその例の本を棚から取り出し、ほこりを払って俺に渡した。大きな本だ。30センチものさしが入りきらなさそうなくらいには大きい。そして厚さもそれなりにある。こんな本をどうしろというのか。
翠花「この本はね、能力のことなら大体書いてあるよ。例えば…あ、これとか。火系の能力は神気を使用することで火を出すことができるとか。偉人能力もあるよ。『織田信長』とかあるね。この本にはそれなりに能力について書いてあるからさ、よかったら読んでみてよ。はい」
そう言い翠花姉は俺に分厚く重い本を手渡した。これは重い…。何キロくらいあるのだろうか。
翠花「結構分厚いけど、この本を読破することができれば能力に対して詳しくなれるよ。能力に詳しくなるということは戦闘で相手の能力に応じた対応の仕方ができる。神気も必要だけど、知識も大切。私や蓮乃がいないときとかに読んでみて」
真「わかったよ。自然能力がやっぱりいいのかな?」
翠花「そうだね。能力者は自然能力が多いね。体感半分くらいの人かな?それくらいの人数相手に知識で有利をとれる。知識ってやっぱり偉大なんだよ」
真「この本読んでみるよ。戦闘で有利がとれるって聞いてから読みたくて…!」
翠花「いいよ。その本私は完全に読み切ったから。真くんにあげるよ」
真「本当!?やったー!」
翠花「ちゃんと中身を読んでいるか定期的にテストはするよ。前の能力説明のときみたいに覚えてないと、やっぱり読んでないねってなっちゃう。戦闘に関わることだからこれは本当にテストをするよ」
まあ生きるか死ぬかの世界だ。知識がなくて死んでしまったらあの時勉強しておけばよかったは通用しないだろうしな。気合い入れて勉強をしよう。
翠花「でもそんなに身構える必要はないかな。私が聞くのは最低限。この本に書いてないことを実践ではしてくる可能性もある。その能力者の癖とかもあるからこの本は本当にすべての能力者に共通してることを書いてるって感じ。頑張ってね」
真「うん!頑張るよ!」
俺はこの本を持ち、リビングに向かい、この本を開いた。この本の目次があった。…だがそこに神話能力の表記はなかった。やはり神話能力は珍しいものという認識で間違ってはなかった。両親も持っているからそれが当たり前になっていた。翠花姉や蓮乃さんでも神話能力については知らなかった。確か翠花姉はこの本を読み切ったと言っていた。だが俺が神気を暴走させ、スサノオに会ったと言った時の彼女の反応は未知の存在を見た時の反応だった。この本にも書いていないからか。
真「それだけ珍しいのか…。僕の能力って」
俺はそんなことを考えながらこの本を流し読みしていた。どれくらいページがあり、中身がどんなものなのかが気になり本を見ていた。本を流し読んでいる最中にこんな紙切れが入っていた。その字はとても汚く、人が書いたような文字ではなかった。今の俺では読むことができない。断片的になら…何とかレベルだ。
「王なる…しも…がふし…らを…えん…?なんだこれ」
読める文字はそれくらいだった。王という文字には惹かれたが、それでもしょうもない中身なんだろうな。一応この本のもとあったページに差し込んでおき、俺は続きをパラパラめくっていった。
…多い。量が多い。能力の説明も見開き1ページで1能力という効率が悪い。もう少し端折ることはできなかったのだろうか。これを読み切ったという翠花姉はすごいな。
そんな風に思っていたら玄関のドアが開いた。
蓮乃「ただいま帰りましたー」
蓮乃さんが買い物から帰ってきたのだ。俺はリビングにいたため、蓮乃さんがいる玄関に向かった。
真「蓮乃さんおかえり!」
蓮乃「ええ。リビングから出てきましたね。何かしてらしたのですか?」
真「あ、うん。本を読んでたの!」
そう言い俺はリビングに置いていた翠花姉からもらった本を持って来た。そして彼女に見せた。
蓮乃「ああ、その本ですか。能力の勉強ですね。大事なので手を抜くことのないようにしてくださいね」
真「わかってるよ!」
蓮乃「では夜ご飯の準備をしてきますね」
真「お願いします!」
俺はそのままリビングで本を読んでいた。キッチンからはいい匂いがする。今にもよだれが垂れそうなくらいのいい匂いだ。
蓮乃「真くん。翠花さまを呼んできていただけますか?」
真「わかった」
蓮乃さんに言われた通り翠花姉を呼びに、翠花姉の部屋に向かった。ドアをノックし呼んだ。
真「翠花姉。ごはんができたって」
……だが返事が返ってこない。勉強をしているからドアを開けないようにしているが…返事をしてくれないのはショックだ。もう一度やってみた。
真「翠花姉ー!ごはんできてるよ!」
声を上げて言ってみたが、それでも反応がない。もうドアを開けてしまった方が早い気がする。俺はドアを開けてみた。
真「翠花姉?ご飯だ…よ…」
俺はあまりの光景に目を疑った。翠花姉はもちろん勉強をすると言っていて、机に向かい、ノートにペンを走らせている。だがその量が異常だった。さっきまではなかったA4サイズのノートが7冊も積みあがっていたのだ。翠花姉の部屋を出てから大体2時間くらいは経っているはず。2時間くらいで7冊なんてありえていいのか?だが彼女の集中力を見て思わず呼ぶのをためらってしまった。そんな風に思っていたら翠花姉がこちらに気づいたのかこちらを向いた。
翠花「あ、真くん。ごはんかな?」
真「う、うん。勉強の途中だったらあれなんだけど…」
翠花「大丈夫だよ。ごはんはしっかりと食べないとね」
真「ノートの数すごかったね。そんなに勉強捗ったんだ」
翠花「そ、そうだね。結構頑張っちゃったかも」
そんな会話をしながら俺たちはリビングに入った。
翠花「よし、食べようか」
翠花姉の掛け声で俺たちは食べ始めた。
蓮乃「翠花さま。明日からの真くんの稽古で一つ提案があるのですが…」
翠花「なに?」
蓮乃「私が彼の稽古を見るのはだめでしょうか」
真「え?」
突然の提案に俺は驚いた。今までは翠花姉が見てくれていた。蓮乃さんはもちろん後ろから見てはいた。だが、その蓮乃さんがメインで稽古をつけるというのは…
真「いや…それは…」
翠花「そんなのだめだよ!!!」
翠花姉が今までで聞いたこともないような大きな声で怒鳴った。俺は驚きのあまりご飯の茶碗を床に落としてしまった。割れてはいなかったのがよかった。それにしても翠花姉がここまでの大声を出すのは珍しい。
翠花「なんでそんな提案をするの!?私が真くんの面倒を見るって約束したんだよ!?」
一種の狂気すらも感じそうなくらいの声で蓮乃さんに詰め寄っていた。
翠花「いくら蓮乃がそう言っても私は絶対に真くんの面倒を見る!答えて!なんでそんな提案をしたのかを!!」
蓮乃「それは…翠花さまの中学入試が近づいてきたからですよ…。あなたには医者になるという夢がある…。けれど真くんの稽古を見ているから最近は勉強ができていないのでと…」
翠花「ふーん…てことは蓮乃は私を真くんの面倒を見ながらだとできないと思ってるんだ?」
蓮乃「いえ…そんなことは…」
まずいまずい!翠花姉と蓮乃さんが喧嘩を始めてしまった…。どうすればいいんだ!
真「翠花姉…。け、喧嘩は…」
翠花「私を誰と思っているの!?私は源翠花!源一族で唯一叡智を極めたものだよ!中学入試なんて私にとって通過点でしかないの!蓮乃がしてる心配はいらない心配!」
すごい自信だ。清々しいほどの大きな自信に俺は喧嘩の制止よりも期待が勝っていた。
翠花「蓮乃!」
蓮乃「は、はい!」
翠花「私は絶対に中学入試ではヘマはしない!そして真くんを一人前に育てること!これが私たちの役目なの!いいね!」
蓮乃「はい!」
翠花「ふう。…っふふふ。あははは!」
翠花姉が突然笑い出した。喧嘩をして…壊れてしまったのだろうか…
蓮乃「ふふ…」
蓮乃さんまで…。何が起きているんだ。
翠花「はあ。久々にこんな声出したかも!新鮮だ~!」
蓮乃「そうですね。久しぶりに聞きましたよ。あれだけの翠花さまの大声は」
2人が突然和やかな空気に戻った。…なにが起きたんだ?
真「え?え!?」
翠花「真くん。私たちね。たまーにこういう風に口喧嘩をよくするんだ~」
口喧嘩をよくする?ん?これは理解できていない俺がだめなのか?感覚がバグってきたな。
蓮乃「これは一種の…体調チェックのようなものなのですよ。時折こういう風に言い争うこと。まあ今回に関しては翠花さまが一方的でしたがね」
体調…チェック?本当に何を言ってるの?この人たち。
翠花「まあそんなとこにしておいて、鍛錬に関しては私が引き続き教える。蓮乃は私が説明だったりが難しい時のサポート役になるかな。いいよね?」
蓮乃「もちろんでございます。真くんも翠花さまの方がやる気になるでしょうから」
そこに関しては否定できない。実際近い年齢だからこそ、そして彼女が俺のことを弟のように見てくれてるからこそやりやすい。蓮乃さんだと少し硬くなってしまうんだよな。
翠花「一番は真くんが強くなれるように私たちがサポートをする。これは変えないよ。絶対に」
真「えっと…期待してるね!うん!」
なんていうか…疲れたな。今日俺は神気を練りだすという快挙を成し遂げたんだ。だがそれすらも霞むくらいにはこの2人の日常がすごすぎた。ごはんを食べていたが…連日の疲労からか毎日眠たい…
翠花「あれ、真くん~?寝ちゃったね。まあ今日は我流たちとの戦闘みたいに見てたんじゃなくて、実際に神気を練りだした。初めて神気を練るのは結構疲れるから。頑張ったよ真くんはね」
俺は眠っていた。ごはんを食べながら。明日から増やす神気があるというのに……




