同じクラスで
高校に入った僕は、あの日願った通りふたりと同じクラスとなった。
そして、女の子が伊藤彩李、男の子が一ノ瀬優輝という名前だと知ることになる。
ふたりが付き合っているということも……。
同じ部活に入った優輝とは、将来同じように医学系を目指していたこともあって良く話すようになった。
彩李ちゃんはといえば……彼女は外部から来た人とはほとんど話をしていなかった。
僕が見る限り、話しかければ返事しているけれど、自分からは話しかけることはなくて、どこかよそよそしいようにも見える。
それは、優輝と仲が良い僕に対しても同様で。
気になった僕は、ある時優輝に尋ねてみたのだった。
「僕、彩李ちゃんに嫌われてるのかな?」
「いや。誤解しないでほしいんだけど、今のところあれが彩李の精一杯なんだ。
そのうち、慣れてきたら少しはましになるとは思うけど……」
優輝は苦笑いしながら、彩李ちゃんが小学校のときに容姿のことで苛められていたこと。
そのため、中学校に入ったばかりの時は緊張でガチガチだったこと。
だけど、少しずつ心を開いて友達を作っていったことを話してくれた。
「今、クラスの半分は知らない人だからな。緊張してああなってるんだ。
それでも最初から会話ができてるから、中学校の時に比べたら雲泥の差なんだけど。
特に男子がダメなんだよ。ひどく揶揄われたみたいでさ。
だから、碧には慣れてる方じゃない? 俺とよく話してるし、大丈夫だと思ってるんだろ。
ま、焦らず見守ってやってよ」
少し離れた場所にいる彩李ちゃんを愛おしそうに見て話す優輝に、チクリと胸が痛んだ。
僕は優輝から話を聞いた後、彩李ちゃんにはこれまで以上に穏やかに接するようよう心がけた。
その後、優輝が話したとおり彩李ちゃんとの会話も増えてきたけれど、優輝と一緒であることが多くて、彼女とふたりで話をすることは殆どないままだった。
彼女のことを考えると仕方のないこととはいえ、優輝と3人で話す機会が多くなればなるほど、僕の心の中に広がるザラリとした感触に戸惑っていた。
優輝が彼女を大切にしている様子を目の当たりにするたびに、ふたりが3年間積み重ねてきた時間を否応なしに感じてしまう。見ていて微笑ましいふたりのはずなのに息苦しくなる。
彼女がピアノを弾くことを知ったのは、入学して1カ月ほど経った頃。
部活が終わった優輝がいつも校舎の中に行くのを不思議に思って尋ねた時のことだった。
「どうしていつも校舎に戻ってるの?」
「ああ。彩李と一緒に帰ろうと思って。
彩李は合唱部の伴奏していて、終わったら俺が来るまでピアノ弾いて待ってるんだ」
「え?彩李ちゃん、ピアノ弾くの?」
「うん。どうやら上手いらしい。賞もいくつか取ってるし。
合唱部の伴奏は、中学校の時に彩李のピアノを聴いた音楽の先生が是非って言われたらしくてね。
彩李もピアノを弾くのが好きで、将来ピアノを弾く仕事をしたいから、伴奏することはいい経験になるって引き受けたらしい」
「俺にはよく解らないんだけど」と言いながらも嬉しそうに話していた。
僕はその時、何故だか解からなかったが、自分もピアノが弾けると優輝に話すことをためらってしまった。
僕は小さいころからピアノを習わされていた。
母は音楽大学でピアノを学んだ人だった。今は趣味で弾いているだけだったが、僕も兄も問答無用でピアノのレッスンに放り込まれた。
しかし、何に対しても執着しなかった僕がピアノだけ特別に好きになるはずもなく。
それでも器用だった僕は、ピアノでもその力を発揮させたようで、高校に行く頃にはかなり難しい曲も弾けるようになっていた。
「医者になるのにピアノなんて必要ない」と訴え、何度も辞めたいと言ったのだが、何故かピアノだけは母はもちろんのこと、父からも辞めることは許してもらえなくて習わされ続けていたのだった。
決して音楽が嫌いだったわけではない。家で流れるクラシック音楽を聴くのは好きだったし、両親に連れられてコンサートに行くのも嫌ではなかった。
ただ、僕自身がピアノを弾くのは仕方がないからであって、自分から弾きたいと思うことはなかった。
だから、彩李ちゃんがピアノを好きだって聞いて、そんな人が近くに居るんだと興味がわいたのだった。
どんなふうに弾くんだろう……
話を聞いてから彼女が弾くピアノのことが気になって、聴いてみたいと思うようになった。
音楽室にはさすがに行く勇気は無かったし、優輝も嫌がるだろう。
でも、音楽室のある校舎の下に行ったら聴こえてくるかもしれない。
そう思って、ある日、部活が終わると音楽室のある校舎の方へ行ってみたのだった。
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