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謝罪

彩李ちゃんと会うことになった週末、僕は奏ちゃんの自宅に車で向かった。

事前に奏ちゃんには「病気でどこも行けなかっただろうから、景色の良いところで気分転換しよう」と伝えていた。


彩李ちゃんのお母さんは、にこやかな笑顔で見送ってくれた。

彼女を助手席に乗せて車を走らせているのだが……


僕が大好きな人が、手を伸ばせば触れることができる場所に座っている。

しかも車の中は当然だけれど、ふたりっきりだ。

僕は今日、彩李ちゃんに謝らないといけないというのに、うるさいほどに心臓がバクバクと音を立てて鳴っている。


とにかく目的地に着くまではと、いつもの会話をすることにした。

そう、診察室と同じ会話だ。

これだと、安心して会話できるから運転に集中できる。

休暇が終わって仕事を始めたことも気になっていた……というのは、ほぼ言い訳だった。


目的地にたどり着き、一面の菜の花畑を目にして彩李ちゃんは「素敵!」と嬉しそうに顔をほころばせた。

食事の前に散策を提案すると「いいの?」と嬉しそうに尋ねてくる。


心の中で咲田に感謝しつつ、菜の花畑を一緒に歩く。

デートみたいに二人で並んで歩ける日が来るなんて。

僕はこれから謝らなきゃいけないのに、もうこのまま幸せなままでいいんじゃないか…と思ってしまうくらいに幸せを感じていた。


途中、東屋を見つけて座ると菜の花畑が見渡せた。

周りには桜の木も何本か植えてあり、遠くには海も見てていて…

隣には彩李ちゃんがいて……


「きれい…」


そう呟く彼女は本当に美しかった。

高校生の頃は、凛としていながらも触れたら壊れそうなくらい儚げな女の子だった。

今は……凛とした雰囲気は変わらず持っているものの、そこにしなやかな強さが加わってきているように感じる。


「うん。きれいだ…」


気づけば、僕も呟いていた。

この幸せな時間を壊したくは無かったけれど、僕は話さなければならない。

それが終わらなければ、先には進めない。

彩李ちゃんが、僕の方を見て何か話しかけようと口を開きかけていたが、僕は一気に話し出した。そうしないと、決心が揺らぎそうなくらい幸せな時間だったから。


「今日は僕のために時間を取ってくれてありがとう。

そしてごめんね、彩李ちゃん。僕はずっと高校の時の音楽室でのことを謝りたかったんだ…」


彩李ちゃんを泣かせるつもりは無かったこと、それを言えないまま高校を卒業してしまったことを後悔していること。

そして、ずっとピアノや音楽の話をしたかったことを話した。


今さらと思っているのかもしれない。

彩李ちゃんは大きな目を見開いて、微動だにせず僕の話を聞いていた。


「一方的に謝罪を押し付けてしまう形になってごめんね。

過去のことを思い出させるようなことになって申し訳ないと思う。

それでも…僕のひとりよがりな思いなんだけれど、僕はずっとあの時のことを謝りたかったんだ」


そう、これは僕の自己満足。許してもらおうなんて思っていない。

と次の瞬間、「ごめんなさい…」という言葉とともに、彼女の大きな目から涙があふれてきた。


え!? どうして!?

僕はまた失敗してしまったんだろうか……


慌ててハンカチを取り出して彩李ちゃんの手に握らせる。

どうして、僕はこう上手くいかないんだろう…

泣いている女の人にどう接したらいいのか、何と言葉をかければいいのか…

「ごめんね」としか言えない僕は自分が情けない。


「違うの…悪いのは私なの……碧くんは何も悪くないの………」

そう言って彩李ちゃんは話し始めた。


プレッシャーに押しつぶされ、音楽の中で一番大切な『自分がこの曲をどう弾きたいのか、どんな音を出したいのか』ということを忘れ、自分を見失っていたこと。

そんな中、僕の弾く『月の光』には僕の意思を感じ取れたこと。

そして何より楽しそうにピアノを弾く僕の姿が羨ましくて、自分を惨めに思ったこと。

いたたまれない気持ちで音楽室から逃げ、その後も避けてしまったこと。


しかし、同時に感謝しているとも……。

あの時のことがあったから、もがき苦しんでいた自分は答えを見つけることができたのだと。

自分の音楽に魂を吹き込んで、生きている音楽を奏でたいと思えるようになったと。


時折詰まりながらも一生懸命に話してくれる彩李ちゃんを見ているうちに、自然と手が伸び彼女の背中を撫でていたのだった。



この作品を見つけて読んでいただき、ありがとうございます。

興味惹かれる作品でしたら、評価いただけると嬉しいです。よろしくお願いします。

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