また今度
いつからだろう。
「今度飲もう」が、予定じゃなくなったのは。
別れ際に、よく口にする言葉だ。
「また連絡するよ」
「今度飲もうな」
その場の空気を、少しだけ温かくしてくれる便利な言葉。
昔は、本当に連絡していた。
日程を決めて、店を探して、終電を気にしながら笑っていた。
「今度」は、ちゃんと未来の話だった。
今は違う。
言葉を交わした瞬間から、それが実現しないことを、どこかで分かっている。
約束しないわけじゃない。ただ、決めないだけだ。
忙しいから、という理由は本当だ。
仕事もあるし、生活もある。
でもそれ以上に、予定を増やすことが少し怖くなった。
会えば楽しいのは分かっている。
昔話もできるし、近況も聞ける。
それでも、帰り道の疲れや、翌日のことを先に考えてしまう。
「今度飲もう」は、嘘じゃない。
ただ、優先順位が低くなっただけだ。
相手のことを嫌いになったわけでも、縁を切りたいわけでもない。
むしろ逆だ。
無理をして会って、疲れた顔を見せるより、
元気なまま「またね」と言える距離を保ちたくなった。
だから今日も、約束を確定させないまま別れる。
連絡先は消さない。思い出も消さない。
ただ、同じ時間を過ごす日は、少し先送りにする。
「今度飲もう」は、別れの言葉じゃない。
今の自分が選んだ、ちょうどいい余白だ。




