大人になった
いつからだろう。
正月に、実家へ帰らなくなったのは。
大学に入って、一人暮らしを始めた。
最初の正月は、迷わず帰った。帰省ラッシュに揉まれて、駅で家族と合流して、いつもと同じこたつに入る。それが当たり前だと思っていた。
二年目の正月、帰らなかった。
理由はいくつかあった。
バイトがあるとか、課題が残っているとか、交通費が高いとか。どれも嘘じゃない。ただ、どれも決定打でもなかった。
「今回は帰らない」と連絡すると、
母は少し間を置いて「そう」とだけ言った。
それ以上、理由を聞かれることはなかった。
年が明ける瞬間、アパートの窓から花火の音が聞こえた。
テレビでは、知らない芸人が騒いでいる。
実家にいれば、決まった番組を見て、決まった時間に年越しそばを食べていたはずだった。
帰らない正月は、思ったより静かだった。
自由だとも感じたし、少しだけ落ち着かなかった。
実家は、変わらずそこにある。
帰ろうと思えば、帰れる距離だ。
それでも、「帰らない」という選択をしたことが、
自分の中で何かをはっきりさせてしまった気がした。
子供でいる時間は、終わるときに知らせてくれない。
気づいたときには、もう次の場所に立っている。
正月が終わって、また日常が始まる。
アパートの小さな台所で湯を沸かしながら、
少しだけ背伸びをした気分になった。
帰らなかった正月は、
大人になった最初の年だったのかもしれない。




