シンデレラ前
いつからだろう。
日付が変わる前に、布団に入るようになったのは。
昔は、夜が一番自由だった。
仕事が終わって、家に帰って、ようやく一日が自分のものになる。テレビをつけて、ゲームを起動して、録り溜めた番組を消化する。誰にも急かされない時間は、いつも夜にしかなかった。
だから夜更かしをしていた。
眠くないわけじゃない。ただ、時間が足りなかった。
昼間は会社のもの、夜は自分のもの。そう割り切らないと、バランスが取れなかったのだ。
日付が変わる瞬間を、なぜかちゃんと見届けていた。
「今日も一日、終わったな」と確認するための区切りみたいなものだった。
それが、いつの間にか変わった。
テレビは途中で消し、ゲームはセーブポイントで終える。
「続きはまた今度」と、自分に言い聞かせるようになった。
時間が足りなくなったわけじゃない。
むしろ、時間の使い方が現実的になっただけだ。
翌日の仕事、朝の目覚まし、寝不足のつらさ。
楽しさのあとに来る疲れを、ちゃんと想像できるようになってしまった。
少しだけ寂しい。
夜を削らないと、自分の時間を持てなかった頃を思い出すからだ。
それでも、電気を消して目を閉じる。
日付が変わる瞬間は、もう見届けない。
今日を引き延ばすより、明日をちゃんと迎えることを選ぶ。
そうして眠る夜が増えた。
それはきっと、諦めじゃなくて、折り合いだった。




