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Chapter 23 技術者


宇宙船の操縦席。


暗い空間の奥で、何かが蠢いていた。


テラは一歩踏み込む。


「誰だ」


静かな声だった。


その瞬間、影が跳ね上がる。


「うわぁっ!!」


何かに足を取られたのか、影はその場で転げ回った。

慌てて立ち上がり、こちらを見る。


人間の男だった。


歳は五十歳ほど。

眼鏡をかけた、小柄な男だ。


男はテラを見て目を見開く。


「だ、誰だいあんたぁ!」


「この船の持ち主だ」


テラが淡々と答える。


その瞬間、男の顔がぱっと明るくなった。


「なんと! そうなのか!」


感心したように声を上げる。


テラは表情を変えない。


「ここで何をしている」


男は慌てて手を振った。


「あんたの船だとは知らずすまんすまん。

ワシはドラム・ベルクだ。珍しいモンだと思って、勝手に調べておった」


テラの視線が操縦席へ向く。


操作パネルが外されている。

配線や部品は、見るからに元の状態ではない。


「いやぁ……これは。調べたら戻すつもりだったんじゃよ。でも夢中になってたら元の状態を忘れちまってな」


ドラムは頭をかきながら言う。


悪びれた様子はあまりない。


テラは操作パネルに手を触れる。


……反応がない。


「……」


「仕方ない。戻すからそこをどいてくれ」


ドラムは素直に横へ下がった。


「見てても良いかの?」


「好きにしろ」


テラは床に散らばるパーツを拾い上げる。


だが、片腕のため動きは普段より遅い。


それを見てドラムが眉をひそめた。


「あんた、その腕どうした。というかあんたの身体はどうなってるんだい」


テラは手を止めずに答える。


「この腕は戦闘で壊れた。私はこの船と同じ機械だよ」


ドラムの目が丸くなる。


「す、すごいことじゃ……これもドミナスの関係なのかい」


「私はこの星の存在ではない。この船に乗って別の惑星から来た」


ドラムは一瞬ぽかんとした。


すぐに顔を上げる。


「空から来たってのかい。待てよ。じゃあこれは空を飛ぶのか」


「ああ。宇宙に出るという意味でだがな」


ドラムは腕を組んで唸る。


「その腕じゃ大変じゃろ。元はワシのせいじゃ、手伝わせてくれ」


テラは少しだけ視線を向けた。


「助かる」


ドラムはすぐにしゃがみ込み、

テラの指示通りにパーツを拾い始めた。


しかし作業をしながらも、好奇心は止まらない。


「この紐みたいなのは何のためにあるんじゃ」


「そのコードは電気信号を伝えるための道だ。この星の人間には分からないと思うが……」


ドラムは配線を見つめながら首を傾げる。


「言葉の意味はわからんが、別の場所で出した指示のようなものがこの紐を伝わって、別の部品を動かすようなものか?」


テラの手が一瞬止まった。


少しだけ視線を向ける。


「この部品は?」


ドラムが別の部品を持ち上げる。


「それはコンバーターだ。部品によって対応する信号や電圧が違うから、適切なものに変換する」


「なるほどなるほど」


ドラムは何度も頷いた。


その後も質問は止まらない。


エネルギー源、操作方法、ディスプレイの用途――。


テラは一つずつ答えていく。


完全に理解できているわけではないはずだが、

ドラムは理屈の筋だけは掴んでいるようだった。


「お前は今まで何をしていた」


テラが手を止めずに尋ねる。


ドラムは少しだけ考えるように視線を上げた。


「ワシは昔、この地方の領主の元で技術顧問をやっとった。生活を豊かにするための仕掛けを考える仕事じゃな」


「だから私の説明の意味が分かるのだな」


テラが言う。


ドラムは首を振った。


「いや、分からんよ。あんたの説明は聞いたことのない技術ばかりじゃ」


そう言ってから、少し笑う。


「だが、何をしたいのかはなんとなく分かる」


テラは小さく頷いた。


「それは分かると言って良い。

レンヌに来ないか。お前にしかできないことがある」


ドラムは一瞬だけ目を細める。


「この船みたいなものを作れるのか?」


「残念ながらそれは無理だ」


テラは即答した。


「理論は教えられるが、この星では実現するための材料や機械製造が不可能だ」


一拍置く。


「それに、その星の文明を大きく変えてしまうような技術供与は制限されている」


ドラムは腕を組み、しばらく考え込んだ。


「言いたいことが言えんとは、不憫なやつじゃな」


テラは気にした様子もなく続ける。


「だが、基礎理論は教えられる。それに基づいて人間たちが主体になるなら、私が手伝うこともできる」


ドラムはふっと笑った。


「まだよく分かってないが、お主の技術に触れられるならワシはついていくぞ」


「よし。私はこの腕の修理に一日はかかる。明日、同じ時間にここに来れるか」


「わかった。一度隠れ家に帰って荷物をまとめるよ」


ドラムは操縦席をもう一度名残惜しそうに見回し、船を後にした。


静寂が戻る。


テラは操縦席の後部へ向かった。


そこには修理室がある。


内部に入り、装置の中央に横たわる。


すぐに自動修復装置が起動した。


無数の機械腕が降りてくる。


静かな作業音が、船内に満ちていった。


翌日。


テラの左手は完全に修復されていた。


船の通信装置から、いくつかの信号を母星へ送る。

信号は無言のまま宇宙へ放たれていく。


約束の時間になったがドラムは現れない。


テラは船の外へ出る。

沼地の上に立ち、周囲を見渡した。


東の方向、二キロほど先。


人影が見える。


ドラムだ。何かに追われている。

後方には魔物が三匹。


「二キロか」


テラは脚部にエネルギーを集約させた。


深くしゃがみ込み、地面がわずかに沈む。


そして――跳躍。


衝撃とともに、テラの身体は弾道弾のように空へ射出され、一直線にドラムへ向かった。


ドラムは息を切らし、大荷物を抱えて走っていた。


背後から迫る足音。


振り返る。


人型の魔物が三体。距離はどんどん縮まっていく。


もう駄目だ。そう思った瞬間。


遠くから轟音が迫ってくる。


空気を裂く音。


次の瞬間、轟音と衝撃。


爆風に吹き飛ばされ、ドラムは地面を転がった。


「ぐあっ……!」


何が起きたのか分からない。


隕石か?


砂煙の向こうを見る。


そこに立っていたのは、昨日会ったテラだった。


着地の衝撃で、魔物の一体が足元で潰れている。


残る二体。


テラの腕から光の刃が伸びる。


一瞬で二体の魔物は崩れ落ちた。


「大丈夫か」


テラが振り向く。


ドラムはまだ地面に座り込んでいた。


「……あんただったのか。今、飛んできたか?」


「ああ、近かったからな」


テラは淡々と言う。


ドラムは苦笑した。


「助かったよ」


「ここからレンヌは少しある。連れて行こう」


ドラムは嫌な予感がした。


「まさか飛ぶんじゃないだろうな」


「安心しろ、さすがに徒歩で行く」


そう言うと、テラはドラムを荷物ごと持ち上げた。


脚部が変形する。


ホバー推進が起動し、地面を滑るように加速する。


景色が一気に流れ始める。


時速百五十キロ。


「こ、これを徒歩とは言わんだろ!」


ドラムが叫んでいた。


【現在の保護対象:2,237人】

【増減:+1人】

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