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Chapter 22 パンポンの町


テラはヴァンを連れてレンヌに戻った。


城に着くと、ヴァンをフィオナに預ける。


「ヴァンさん……大丈夫なんですか!?」


フィオナは慌てて駆け寄り、ヴァンの顔を覗き込んだ。


テラが答える。


「怪我というより極限的な疲労だ。時間はかかるが、寝ていればそのうち回復する」


フィオナは安堵しかけたが、すぐにテラの腕に気づく。


「わかりました……って、テラ様も!

その腕、どうしたんですか!」


「多少壊れただけだ。心配はいらない」


フィオナは困った顔で腕を見る。


「これは……私には治せませんよね……」


テラは少し微笑んだ。


「治療ではなく、修理だからな」


ヴァンを任せると、テラはその足で城の奥へ向かった。

マルディナとキレルに状況を報告し、指示を出すためだ。


二人はテラの姿を見るなり、すぐに腕へ目を向けた。


マルディナが声を上げる。


「テラ!その腕、大丈夫なの!?」


テラは落ち着いた声で答える。


「私にはダメージを認識するための擬似的な痛覚機能がある。

だが、人間が感じる痛みとは別物だ。気にしなくていい」


二人は顔を見合わせ、なんとも言えない表情を浮かべる。


だがテラは話を続けた。


「当面の食料と物資を西へ輸送してほしい。向こうには三百人いる。

今後は拠点として運用する。農耕、インフラ、医療関係の経験者も何人か派遣してくれ」


キレルが確認する。


「戦闘人員はどうされますか」


「レムリアを十名連れて行け。

それと――フィオナとレオも西へ」


キレルは少し首を傾げる。

フィオナは理解できるが、レオの理由がわからない。


それを見てマルディナが言った。


「あの子は誰とでもすぐ打ち解けるでしょう。

向こうの人たちともすぐ馴染めると思うわ。良い人選よ」


キレルは納得して頷いた。


二人はすぐに準備へ向かった。


テラはその背を見ながら、左腕の修理について考えていた。


だがヴァンが回復するまでは、この城を離れるわけにはいかない。


そう判断していた。



――西の拠点


レグナートの子。


まさかそんなはずはない。


グレインとジェニスは、ほぼ同時にそう思った。


レグナートの一族の子はダルマシオンにコアを奪われる。

だからこそ、目につかないよう人間の中に混ぜる可能性はある。


だが、今は状況が違う。


ダルマシオンはすでに死んだ。


ここに置いておく理由がない。


ドミナスに子を育てる概念がないとしても、

あえて人間の手元に置くとは考えにくい。


二人はそんな会話を交わしたあと、まずは話してみることにした。


ジェニスが優しく声をかける。


「ねえ、きみ。名前は?」


その子はジェニスを見た。


「……カイル」


紫がかった目。

僅かに青みがかった肌。


レグナートの子かはわからない。

だが、ドミナスの子には見える。


ジェニスは続ける。


「いくつかな?」


「知らない」


見た目は五歳くらいだ。


だが人間の五歳よりも、大人びている。


「ここに知ってる人はいる?」


「いない」


ジェニスは少し笑った。


「そっか。じゃあ、私が最初の友達かな」


カイルは小さく首を振る。


「僕にかまわないで」


そう言って歩き去ってしまった。


グレインが呟く。


「ダメか」


ジェニスは肩をすくめる。


「グレイン様、お子様はいらっしゃらないのですか。

人見知りの子なら、あれくらい普通ですよ」


「そ、そうか……」


ジェニスはカイルの背を見ながら言った。


「ただ……普通の子供にはない鋭さがありますね。

レグナートの子かどうかはともかく、ドミナスの子ではある気がします」


これは大きな問題だった。


ドミナス。

しかも子供。


どう扱うべきか。


グレインは決めた。


「この件はレンヌと相談だ」


その時、ロドリックが呟く。


「あの子も、なかなか美しいな……」


二人は振り向き、冷たい目でロドリックを見つめた。



二日後。


レンヌから救援が到着する。


フィオナとレオの姿もあった。


レオがグレインに声をかける。


「おっちゃん、勝ったんだな。さすがだぜ」


グレインは苦笑した。


「俺じゃない。今回はテラとヴァンだろうな」


フィオナもレオも嬉しそうな顔をしている。


グレインは到着した人々を労った。


ここから、本格的に町づくりが始まる。



まずは会議だ。


グレインが口を開く。


「皆、聞いてくれ。これから本格的に町づくりを進める。

この洞窟から東の湖まで、およそ二キロ。

そして北と南へ十キロ。この範囲を町とする」


ロドリックが頷く。


「縦長の町ということですな」


「そうだ。今は三百人だが、将来的には二千人まで見込む。

洞窟は保管庫と避難場所に使う。周囲に司令所と軍事施設。

中央は居住区だ。湖には舟を出せる港を作る。

農地は町の外、北と南に広げる」


ロドリックが思い出したように言う。


「ところで……町の名前はどうされます?」


グレインは少し考えた。


三百人がここで生きていく。


やがて子供が生まれ、畑が広がり、町になる。


名前は必要だ。


「名前か……確かにあった方がいいな。

ロドリック、お主が決めていいぞ」


ロドリックの目が輝く。


「おお!それでは……」


少し考えてから言った。


「パンポンにしましょう!」


フィオナが首を傾げる。


「パンポン……可愛らしい名前ですね」


レオが笑う。


「ちょっと弱そうだけどな」


グレインが聞く。


「どういう意味だ?」


ロドリックが誇らしげに答える。


「ケルト語で『水辺の橋』という意味です。

湖に面していますし、レンヌへ続く橋とも言えましょう」


グレインはゆっくり頷いた。


「なるほど。良い名だ」


ロドリックが満足そうに言う。


「ああ……美しくまとめてしまった」


グレインは無言になる。


フィオナが小声で言う。


「変わった方ですね……」


レオも頷く。


「今までいなかったキャラだね……」


グレインは気を取り直す。


「よし。手分けして資材を確認だ。足りない物はレンヌに要請しろ。

それと、パンポンという町の名も伝えておいてくれ」


「人々の仕事の割り振りはロドリックに任せる」


会議は解散した。


会議が終わると、グレインはフィオナとレオを呼び止めた。


二人が振り返ると、グレインは少し声を落として言う。


「カイルのことだ」


レオが眉を上げる。


「ドミナスの子……ってさ、ドミナスに大人とか子供とかあるのかよ」


グレインは腕を組んだ。


「ジェニスが少し話をしたが、分かったのは名前くらいだ。

レオ、お前は歳も近いし、誰とでも分け隔てなく付き合える。機会があったらカイルと話してみてくれ」


レオはすぐ頷いた。


「わかったよ」


グレインは念を押すように続ける。


「今までも人間と一緒に過ごしていた。危険はないと思うが……無理はするな」


レオは冗談っぽく笑う。


「ドミナスでも、相手が五歳なら負けないかな?」


グレインはすぐに言った。


「やめておけ」


二人はそれぞれ散っていく。


レオはフィオナと一緒にカイルのところへ向かった。


少し離れた場所に、カイルはいた。


なるほど、とレオは思う。


確かに近寄りがたい雰囲気をまとっている。


カイルは何をするでもなく、遠くを見つめていた。


武器はない。


遠目に見れば、ただの子供だ。


レオは気にせず歩み寄る。


「よぉ」


カイルはゆっくりと視線だけ向けた。


レオはそのまま話しかける。


「俺はレオだ。カイル、だよな」


カイルはわずかに反応する。


レオは続けた。


「一人で何してんだ?」


「別に」


「どこか痛いとか、しんどいとかは?」


「いいや」


レオはにっと笑う。


「よし!じゃあ一緒に仕事だ!」


カイルは不思議そうな顔をする。


「これから外で町づくりするんだ。人手がいる。

軽い物くらいなら持てるだろ」


カイルは戸惑う。


「え、僕は――」


レオは言い切った。


「サボりはダメだぜ。みんなの町なんだ」


そう言うと、レオはカイルの手をぐいっと掴んだ。


そのまま外へ連れていく。


フィオナは少し離れた場所から、その様子を見ていた。


さすがレオだな。


そう思いながら、二人の背を見送る。


やがてレオはカイルを連れてグレインのところへ戻ってきた。


「おっちゃん」


グレインは振り返る。


カイルの手を引いているレオを見て、少し驚いた。


だがすぐに、さすがだと思わざるを得なかった。


レオが言う。


「俺たちでもできる仕事、ある?」


グレインは微笑んだ。


「もちろんだ。助かる」


こうして――


パンポンの町が始まろうとしていた。



数日後。


レンヌ。


ヴァンがテラのもとへやってきた。


テラは声をかける。


「ヴァン、もう大丈夫なのか」


ヴァンは肩を回しながら答える。


「あぁ……迷惑かけたな」


テラは淡々と言う。


「レグナートは押さえた。気にするな」


ヴァンは苦笑した。


「でもさ、あいつ結局ピンピンしてたよな。

やられたの、演技だったってことだろ」


テラは少し考えてから答えた。


「その可能性はある。

だが、足止めされているとダルマシオンが信じる程度には健闘したはずだ」


ヴァンはふっと笑う。


「テラ……だいぶ話うまくなってきたな」


テラは話を戻した。


「お前が復帰したなら、私は一度修理に行きたい」


ヴァンが眉を上げる。


「行くって……どこにだよ」


テラは答える。


「私がこの星に乗ってきた船だ。

それほど遠くはないが、修理時間も含めると十日は空ける。

その間、この場所はお前が守れ」


ヴァンは少し考えた。


そして頷く。


「行ってこい。

テラが万全じゃねぇと、結局ここも危ない」


テラも頷いた。


「頼んだ」


そう言うと、マルディナにも伝え、テラはレンヌを後にした。



テラの乗ってきた宇宙船は、レンヌの南、五キロほどの沼地にあった。


長さ十五メートル、高さ三メートルほどの楕円形。


テラのような外惑星任務用ユニットを派遣するための船だ。


輸送が主目的で、武装はない。


物資もほとんど積まれておらず、あるのは緊急用の修理装置くらいだった。


ユニットと船の選定は、派遣先の星の危険度や任務によって決まる。


テラもこの船も、今この星で起きているような激しい戦闘を想定して選ばれたものではない。


沼の縁に立ち、テラは船を見上げた。


そして気付く。


入り口のドアが開いている。


テラは警戒しながら船内へ入った。


内部は静まり返っている。


だが、何かの気配があった。


テラはゆっくり奥へ進む。


操縦席に辿り着いたとき――


黒い影が、蠢いていた。


【現在の保護対象:2,236人】

【増減:±0人】

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