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【最終章完結!】婚約破棄された悪役令嬢が枯れた大地で掴んだのは最高の安眠でした。  作者: 月雅
最終章

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第3話 鉄屑たちの挽歌


爆風が頬を打ち、私は思わず目を閉じました。


「タガヤス君!」


目を開けると、私の愛機である農業用ゴーレム・タガヤス君が、壁に叩きつけられている姿が見えました。

彼の右腕のドリルはひしゃげ、装甲からは黒い煙が上がっています。


対する敵、黒い巨人のガーディアンは、無傷のまま悠然と砲口をこちらに向けていました。

その単眼が赤く明滅し、次なる破壊の光を溜め始めています。


「くっ……! 硬すぎるぞ、こいつ!」


クラウス様が炎の魔剣を振るいますが、ガーディアンの装甲には傷一つつきません。

エリナ様の光のバリアも、先ほどの砲撃で粉々に砕け散ってしまいました。


『警告。戦力差、九千パーセント。……撤退ヲ推奨シマス』


ナナのドローンが、絶望的な数値を告げました。


「撤退? 冗談ではありませんわ」


私は黄金のスコップを握りしめ、煙を上げるタガヤス君の足元へ駆け寄りました。

彼はまだ動こうとしています。

ギギギ、と軋む関節を鳴らし、主(私)を守ろうと立ち上がろうとしています。


「軍事用だか何だか知りませんが、私の可愛いスタッフを鉄屑扱いするなんて許せません」


私はタガヤス君の装甲に手を触れ、土属性の魔力を流し込みました。

応急処置です。

曲がったフレームを無理やり矯正し、動力炉に喝を入れます。


『ガガ……マスター……逃ゲテ……』


「お黙んなさい。貴方はまだ『有給休暇』を消化していませんよ。働きなさい」


私はニヤリと笑いました。

農業用が軍事用に勝てない?

そんな常識、私の農園では通用しません。

農業とは、硬い土を砕き、荒れ地を切り拓く、最も原始的で力強い営みです。


「クラウス様! 敵の足元を狙ってください!」


「足元? だが、あの装甲じゃ……」


「装甲じゃありません! その下の『地面』です!」


私の意図を察したクラウス様が、即座に反応してくれました。

彼は剣を地面に突き立て、爆炎を地中へと送り込みます。


「吹き飛べッ!」


ドォォォン!!


ガーディアンの足元の岩盤が砕け、バランスが崩れました。

巨大な黒い体が一瞬、大きく傾きます。


「今です、タガヤス君! 『接ぎ木用カッター』最大出力!」


『……リョウカイ……!』


タガヤス君が最後の力を振り絞り、左腕を突き出しました。

そこについているのは、太い枝を剪定するための高出力レーザーカッター。

本来は木を切るためのものですが、関節の隙間を狙えば、鉄の神経網など「枝」同然です。


ギュイイイイイン!!


タガヤス君がガーディアンの懐に飛び込み、その膝関節の隙間にカッターをねじ込みました。

火花が散り、金属が溶ける嫌な臭いが立ち込めます。


『ピガガガガ……!? エラー、エラー……!』


ガーディアンが暴れますが、タガヤス君は離しません。

農家が一度掴んだ雑草の根を離さないように、執念深く食らいつきます。


「そのまま! へし折りなさい!」


バキンッ!


鈍く、重い音が地下道に響き渡りました。

ガーディアンの左足が膝から下で切断され、巨体が完全に崩れ落ちました。

すかさずクラウス様が飛び乗り、首元のメインカメラを剣で貫きます。


プシュゥゥゥ……。


黒い巨人の赤い瞳から光が消え、動かなくなりました。


「……やりましたわ」


私はへなへなと座り込みました。

勝った。

けれど、代償は小さくありませんでした。


ガシャン。


役目を終えたタガヤス君が、前のめりに倒れました。

彼の体はボロボロで、オイルが血のように流れ出しています。

胸部のハッチが開き、中から焦げた臭いが漂ってきました。


「タガヤス君……」


『損傷率、七八パーセント。……駆動系、全損。……申シ訳アリマセン、マスター……』


スピーカーから流れる声は途切れ途切れです。

もう、自力では動けないでしょう。

普通なら、ここで廃棄処分です。


ですが。


「……ナナ、ハチ。貴女たちの予備パーツを出しなさい」


私は立ち上がり、二人のAIに命じました。

ナナとハチは顔を見合わせ、そして頷きました。


『了解デス。当機ノ拡張ユニットヲ提供シマス』


『ボクノ冷却パーツモ使ッテ。……コノ子、頑張ッタカラ』


彼女たちが差し出したのは、ドローンの予備バッテリーや、冷却用の高性能ファンでした。

サイズは違いますが、私の土魔法で結合部を「接ぎ木」すれば使えます。


「クラウス様、そこを押さえていて。エリナ様は光魔法で溶接をお願い!」


「お、おう! 任せろ!」


「はいっ! 治れぇぇぇ!」


私たちは敵地での野外手術を開始しました。

軍事用の残骸から使えそうな装甲を剥ぎ取り、タガヤス君に移植します。

不格好なツギハギだらけの姿。

けれど、それは新品の時よりもずっと頼もしく、愛おしい姿でした。


数分後。


『……再起動……成功……』


タガヤス君の目が、再び緑色に灯りました。

彼はゆっくりと体を起こし、自分の新しい腕(ガーディアンの装甲を移植したゴツい腕)を不思議そうに眺めています。


「おはよう、タガヤス君。休憩時間は終わりですわよ」


『ガガ……マスター……アリガトウ……』


彼は不器用に頭を下げました。

相棒の復活に、私は胸が熱くなるのを感じました。


「さて、戦利品の確認ですわ」


私は沈黙したガーディアンの胸部をこじ開けました。

そこにあったのは、予想していた魔石や兵器のコアではありませんでした。


透明なカプセルの中に、一粒の小さな「種」が浮いていたのです。


「これは……?」


『検索完了。……コレハ古代ノ「世界樹ノ種」デス』


ナナがカプセルをスキャンしました。


『マザーノ中枢ヘアクセススルタメノ、唯一ノ物理認証キー(パスコード)。……セドリックハ、コレヲ守ルタメニガーディアンヲ置イタノデス』


「種が、鍵……」


私はカプセルを手に取りました。

冷たい機械の中で守られていた、たった一つの命の源。

マザーを作った古代の人々もまた、最終的に信じたのは兵器ではなく、植物の生命力だったのかもしれません。


「皮肉なものですわね。セドリック様はこれを『管理』の道具にしたつもりでしょうけれど……」


私は種をポケットにしまいました。

農家の私にとって、種は管理するものではなく、育てるものです。


「行きましょう。この種を、あるべき場所に植えに」


タガヤス君が道を塞いでいた瓦礫をどけました。

その先には、広大な空間が広がっていました。

無数の光のケーブルが脈打つ、マザーコンピュータの心臓部。


そこには、世界を緑に沈めた元凶が、静かに私たちを待っていました。

最後の扉が開かれます。

美味しいご飯を守るための、私の戦いはクライマックスを迎えようとしていました。


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