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【最終章完結!】婚約破棄された悪役令嬢が枯れた大地で掴んだのは最高の安眠でした。  作者: 月雅
第4章

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第9話:北国グルメフェスティバル


「ノースガルドの復活に、乾杯!」


レオ王子の可愛らしい、けれど力強い音頭で、祝宴が始まりました。


場所は、かつては極寒の地獄だった塔の前の広場。

今はもう、ポカポカとした春の陽気(地熱暖房のおかげです)に包まれています。

地下から持ち出したテーブルには、この国の宝とも言える食材たちが所狭しと並んでいました。


「さあ、召し上がれ。とれたての『雪解けカブのミルク煮』ですわ」


私は大鍋から、トロトロに煮込まれたカブをよそいました。

真っ白なスープに、真珠のようなカブが浮かんでいます。

仕上げに散らしたのは、乾燥パセリ代わりの「氷晶草クリスタルハーブ」。


ガルド宰相が、震える手でスプーンを運びました。


「……う、うまい。甘い……!」


頑固な老人の目から、またしても涙がこぼれ落ちました。

カブは舌の上で解けるほど柔らかく、噛むたびに優しい甘みが口いっぱいに広がります。

スパイスで叩き起こした体とは違う、芯から染み渡るような滋味深い味。


「爺や、よかったね……。本当によかった……」


レオ王子も、口の周りをクリームだらけにしながら笑っています。

痩せこけていた子供たちの頬にも、ようやく赤みが戻ってきました。

やはり、美味しい食事こそが最強の回復魔法ですわね。


「リゼット。こっちの魚もすごいぞ」


クラウス様が、大皿を差し出してきました。

そこにあるのは、ガラス細工のように透き通った刺身の山。

幻の魚、「氷魚こおりうお」です。


「わあ……! キラキラしていますぅ!」


エリナ様が目を輝かせています。

私は一切れ、岩塩と柑橘かんきつを少しだけ絞って口に放り込みました。


「…………っ!」


言葉が出ません。

コリッとした歯ごたえを感じた直後、体温で脂が一気に溶け出しました。

それは濃厚なのに、決してくどくない。

まるで最上級のバターと、清流の水を同時に味わっているような感覚です。


「これは……お酒が欲しくなりますわね」


「ああ。こんな美味い魚は、王都の晩餐会でも出たことがない」


クラウス様も夢中でハシを進めています。

私たちの周りでは、国民たちが歌い、踊り、食べています。

地獄のような寒さを乗り越えたからこその、爆発的な喜び。

その中心にいられることは、料理人冥利みょうりに尽きます。


『人間トイウノハ、非効率ナ生き物デスネ』


ふと、テーブルの端から声がしました。

管理AIのハチが、小型の携帯端末にホログラムとして現れていました。


『栄養摂取ナラ、サプリメントデ十分デス。ワザワザ調理シテ、時間ヲカケテ食ベル。……無駄ガ多イデス』


「あら、ハチ。その『無駄』が楽しいのですわよ」


私は氷魚の刺身を一切れ、ホログラムの目の前にかざしました。


「貴女も、いつか体が持てたらわかりますわ。この脂が溶ける瞬間の、脳が痺れるような快感を」


『快感……。データ不足デス。デモ、皆ガ笑ッテイルノハ、悪クナイ光景デス』


ハチの表情は無機質ですが、その光は以前よりも柔らかいピンク色を帯びていました。

彼女は今、塔の温度管理を完璧に行い、この宴の快適な環境を維持してくれています。

立派な「おもてなし」のプロです。


宴もたけなわ。

私は満腹のお腹をさすりながら、夜空を見上げました。

オーロラが揺らめく美しい空。

ノースガルドの旅は大成功でした。

あとは、お土産のカブと魚を馬車に詰め込んで、愛する我が家へ帰るだけ……。


そう思っていた、その時です。


『――ピッ! 警告。緊急信号ヲ受信』


私の肩に乗っていたナナ(ドローン)と、テーブルの上のハチが、同時に警告音を発しました。

二人のAIの目が、赤く明滅します。


「なによ、もう。デザートの時間ですのよ?」


私が不満げに尋ねると、ナナが深刻な声で答えました。


『マスター。王都の方角カラ、強力ナ招集信号ガ発信サレテイマス』


「王都?」


『肯定。発信源ハ、王都ノ地下深クニ眠ル「第1管理プラント」。……通称「セントラル・タワー」デス』


ザワッ、と。

酔いが一瞬で醒めるような感覚が走りました。

第7プラント(私の農園)、第9プラント(ここ)、そして第1プラント。

古代の遺跡たちが、見えない糸で繋がっていきます。


『信号ノ内容ハ……「全テノ端末ハ、直チニ王都ヘ帰還セヨ」。コレハ、最高レベルノ強制命令デス』


ハチが補足しました。

彼女のホログラムが小刻みに震えています。

それはまるで、絶対的な「親」の命令に怯える子供のようでした。


「王都へ帰還……?」


クラウス様が剣呑けんのんな顔つきになりました。


「リゼット。嫌な予感がするな。王都には、廃嫡されたセドリックがいるはずだ」


「……ええ。あの元婚約者、また余計なことをしたんじゃありませんこと?」


私の脳裏に、シュタイン教授の顔と、セドリック様の顔が重なりました。

もし、彼らが王都の地下にある「中枢」に手を出したとしたら。

それは、私の農園だけでなく、世界中のシステムを巻き込む大惨事になりかねません。


「……帰りましょう、クラウス様」


私は食べかけの氷魚を置き、立ち上がりました。


「私の安眠と食卓を脅かす元凶を、根こそぎ『収穫』しに行かなくてはなりませんわ」


北国の宴は、唐突に終わりを告げました。

次なる舞台は、全ての始まりの場所――王都。

そこで待つのが、美味しい野菜か、それとも世界の滅びか。

確かめに行こうじゃありませんか。


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