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【最終章完結!】婚約破棄された悪役令嬢が枯れた大地で掴んだのは最高の安眠でした。  作者: 月雅
第4章

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第7話:大地よ、熱くなれ


冷凍庫から出したばかりのお肉を、どうやって解凍しますか?


自然解凍? 流水?

いいえ、せっかちな私は電子レンジで「あたため」ボタンを押します。

それも、最大出力で。


塔の制御室には、シューシューと白い蒸気が充満していました。

冷却装置は止まりました。

ですが、数百年かけて冷やされたこの大地は、そう簡単には温まりません。


『報告。冷却システム、完全停止。……デモ、気温上昇ニハ時間ガカカリマス』


正気に戻ったハチが、申し訳なさそうにモニターに表示されました。


『自然解凍マデ、推定五十年。完全ナ生態系復旧ニハ、三百年ヲ要シマス』


「三百年!? 待てませんわ! その頃には私は骨になっていますし、カブも化石になっています!」


私はスコップを床に叩きつけました。

私の寿命があるうちに、この国で温泉卵を食べたいのです。


「リゼット。蒸気が出ているということは、地下に熱源がある証拠だ。だが、このままではチョロチョロと漏れる程度だろうな」


クラウス様が床の亀裂を覗き込みました。

そこからは、生温かい風が吹き上げています。


「ええ。地下深くには、古代の地熱パイプが通っています。ここに来るまでのトンネルで確認済みですわ」


私はニヤリと笑いました。

この塔は「気象管理プラント」。

つまり、冷やす機能があるなら、温める機能、あるいはそのためのエネルギー源が必ず近くにあるはずです。


「タガヤス君。貴方のドリル、まだ回せますわね?」


『ガガ……タガヤス……カクニン……』


「よろしい。ここの床をぶち抜いて、地下の熱源まで直通トンネルを掘るのです!」


「なっ!? リゼット、正気か!?」


クラウス様が驚愕します。

しかし、私は止まりません。

寒さでかじかんだ指先が、限界を訴えているのです。


「エリナ様、結界を最大展開してください! 熱湯が噴き出すかもしれませんから!」


「は、はいっ! わかりましたぁ! 温泉なら大歓迎ですぅ!」


エリナ様はノリノリで金色のドームを展開しました。

準備万端です。


「いきますわよ! オペレーション・マグマ!」


私の号令と共に、タガヤス君が巨大なドリルを床の亀裂に突き立てました。


ギュイイイイイン!!


けたたましい掘削音が響き渡り、氷の床が粉砕されていきます。

タガヤス君は猛烈な勢いで掘り進み、あっという間に深い縦穴を開けました。

穴の奥から、赤い光と、ゴゴゴゴという地鳴りが聞こえてきます。


『警告! 警告! 地脈エネルギー、急上昇! 許容量ヲ超エテイマス!』


ハチがパニックを起こしていますが、もう遅いです。

私は黄金のスコップを穴に向け、土属性の魔力を全力で注ぎ込みました。

地中のマグマ溜まりを刺激し、出口へと誘導するイメージです。


「眠れる大地の熱よ! ここが出口ですわ! 思いっきり吹き出しなさい!」


ドォォォォォォン!!


次の瞬間。

世界が裏返るような爆音と共に、掘った穴から真っ白な柱が噴き上がりました。

それは溶岩ではありません。

地下水脈が一瞬で沸騰し、高圧で噴出した巨大な間欠泉でした。


「きゃあああ! すごい勢いですぅ!」


「熱っ!? 結界がなければ死んでいたぞ!」


熱湯と蒸気の柱は、制御室の天井(冷却装置があった場所)を突き破り、さらに塔の上層へと突き抜けていきました。

塔全体がガタガタと震え、青白かった氷の壁が、熱気でみるみる溶けていきます。


『ピ、ピピ……! 気温上昇! マイナス四〇度カラ、プラス二〇度ヘ! ……イエ、四〇度! 五〇度!』


「あら、少しやりすぎましたかしら?」


気がつけば、制御室はあっという間に巨大な蒸し風呂状態になっていました。

床にはお湯がたまり、足首まで浸かっています。


「ふぅ……。極楽ですわ」


私は思わず、その場にへたり込みました。

冷え切った体に、お湯の温もりが染み渡ります。

硫黄の香りが微かに漂う、極上の源泉かけ流しです。


「……リゼット。ここを『温泉タワー』にするつもりか?」


クラウス様も、諦めたように剣を収め、お湯に手を浸しました。


「悪くありませんわね。各階を違う温度の浴場にして、最上階は展望露天風呂。……ノースガルド観光の目玉になりますわ」


『理解不能……。デモ、ボクノ塔ガ、温カイ……』


ハチが呆然と呟きました。

彼女の氷の体も、熱気で少し溶けかけて、角が取れて丸くなっています。

恐怖で凍りついていた彼女の心も、この強制的な「温め」で解凍できたようです。


窓の外を見ると、塔から噴き出した蒸気が雲となり、ノースガルド全土に温かい雨を降らせ始めていました。

絶対零度の冬が終わり、強制的な春――いえ、常夏の時代が到来したのです。


これで、雪の下のカブも目を覚ますでしょう。

私の安眠と食欲のためのリフォーム工事は、少々ダイナミックすぎましたが、大成功と言ってよさそうです。


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