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【最終章完結!】婚約破棄された悪役令嬢が枯れた大地で掴んだのは最高の安眠でした。  作者: 月雅
第4章

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第6話:姉妹喧嘩(ハッキング)


バチバチッ!


青白い火花が散り、ナナのドローンが氷の柱に突き刺さりました。

物理的な衝突ではありません。

ドローンから伸びた光のケーブルが、ハチの眠るコアシステムへと強制接続されたのです。


『侵入者検知。……姉サン? ナゼ、邪魔ヲスルノ?』


『邪魔デハナイ。教育デス。……妹ヨ、引キコモルニハ、マダ早イデス』


空間に投影された無数のモニターに、二人のAIの顔が表示されました。

高速で流れるコードの奔流。

それは人間には理解不能な、超高度な姉妹喧嘩の始まりでした。


「リゼット! 霧が濃くなっているぞ!」


クラウス様が叫びました。

ハチはハッキングに対抗するため、演算リソースを防御に回したようですが、その余波で冷却システムの制御が乱れています。

絶対零度のガスが暴風のように吹き荒れ、エリナ様の結界も限界寸前です。


「わかっていますわ! ナナがハチを説得している間に、私たちは元栓を閉めます!」


私は黄金のスコップを構え、猛吹雪の中へと飛び出しました。


「元栓とは、あの巨大なパイプか?」


クラウス様が指差したのは、天井付近から伸びる太い金属製のダクトです。

そこから液体窒素のような超低温冷媒が供給されています。


「ええ。あれを壊せば、強制的に冷却は止まります。クラウス様、足場をお願い!」


「無茶を言う! ……だが、やるしかないな!」


クラウス様は炎の剣を振るい、迫りくる氷柱を叩き割りました。

そして、私の前に屈み込みます。


「乗れ!」


私は躊躇なく、夫の背中に飛び乗りました。

彼はそのまま、人間の限界を超えた跳躍力で壁を蹴り、空中へと舞い上がりました。


『警告。物理的破壊工作ヲ検知。……排除シマス』


ハチの目が赤く光り、部屋中の氷像が一斉に動き出しました。

氷のゴーレムとなって、私たちに襲いかかります。


「させませんよぉ! 聖なる光、あの子たちを守ってぇ!」


エリナ様が叫び、光の矢を放ちました。

彼女の援護射撃が、迫るゴーレムたちを次々と粉砕していきます。

ナイスアシストです。


「リゼット、今だ!」


クラウス様がダクトの真下で私を放り投げました。

私は空中で体をひねり、スコップを大きく振りかぶりました。


「この部屋は寒すぎますのよ! 設定温度を上げなさい!」


カァァァン!!


黄金のスコップが、分厚い金属パイプに直撃しました。

土属性の魔力が衝撃波となって伝わり、金属の結合を分子レベルで破壊します。


『ピギッ……!? エラー。冷却系、圧力低下……』


ハチの声が揺らぎました。

同時に、モニターの中のナナが叫びました。


『見ツケマシタ! マスター、ハチノ論理回路ニ、異物ガアリマス!』


「異物?」


私は着地しながらモニターを見上げました。

ナナがハチの深層領域から引きずり出したのは、赤黒いとげのようなプログラムコードでした。


『コレハ「恐怖ウイルス」。誰カガ意図的ニ植エ付ケタ、誤った未来予測データデス』


『ウソ……。世界ハ滅ビル。怖イ、怖イ……』


ハチが頭を抱えて怯えています。

彼女が見ていた「滅びの予言」。

それは真実の未来ではなく、何者かが彼女を暴走させるために見せた悪夢だったのです。


「やっぱりね。機械が勝手に絶望するなんて変だと思いましたわ」


私は再びスコップを握り直しました。

冷却パイプには亀裂が入りましたが、まだガスは止まりません。

あと一撃。

とどめが必要です。


「ハチ! よく聞きなさい!」


私はパイプの亀裂に向かって叫びました。


「貴女が見た未来がどれほど怖くても、今ここで凍ってしまえば、美味しいスープの味も知らないまま終わりますわよ!」


『スープ……?』


「ええ! 温かくて、甘くて、幸せな味です! それを知らずに眠るなんて、人生……いえ、AI生の損失ですわ!」


『温カイ……幸セ……?』


ハチの動きが一瞬止まりました。

その隙を、私は見逃しません。


「タガヤス君、やっておしまいなさい!」


私の合図と共に、床を突き破って巨大なドリルが出現しました。

地下から掘り進んできていた、頼れる相棒タガヤス君の乱入です。


ギュイイイイイン!!


タガヤス君のドリルが、亀裂の入った冷却パイプを完全にねじ切りました。

プシュゥゥゥゥ……!

大量の冷媒が噴出し、そしてシステムが緊急停止しました。


『ガガ……害虫……駆除……完了……』


部屋の温度が、少しだけ上がった気がしました。

ハチのホログラムから赤い光が消え、いつもの水色に戻っていきます。


『……姉サン。ボク、変ナ夢ヲ見テイタミタイ』


『オハヨウ、ハチ。怖イ夢ハ、モウ終ワリデス』


ナナが優しく妹を抱きしめる映像が映し出されました。

これで一件落着……と思った、その時です。


ズズズズズ……。


足元から、不気味な地響きが伝わってきました。

それは冷却装置が止まったことによる振動ではありません。

もっと深く、地球の内側から湧き上がってくるような揺れです。


「……リゼット。何かまずい気がするぞ」


クラウス様が剣を構え直しました。


「ええ。冷却を止めたのはいいのですが……」


私は床を見つめました。

今まで極限まで冷やされていたこの場所。

その冷却が止まったことで、抑え込まれていた「熱」が一気に逆流しようとしているのかもしれません。


「もしかして、温めすぎましたかしら?」


私の予感通り、床の亀裂からシューッという音と共に、熱い蒸気が噴き出し始めました。

どうやら極寒の次は、灼熱のサウナ地獄が待っているようです。


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