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【最終章完結!】婚約破棄された悪役令嬢が枯れた大地で掴んだのは最高の安眠でした。  作者: 月雅
第4章

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第4話:絶対零度の防衛線


ヒュオオオオ……。


風の音が、まるで亡者のうめき声のように聞こえます。


地下都市を出て数時間。

私たちの目の前に、天を突く巨大な建造物が現れました。

半透明の青いクリスタルでできた「氷の塔」。

その美しさは息を呑むほどですが、塔の周囲に広がる光景は、まさに地獄の美術館でした。


「……あれは、人か?」


クラウス様が松明たいまつを掲げ、絶句しました。

塔へと続く雪原に、無数の彫像が立っています。

逃げようとする姿勢のまま凍りついた兵士。

祈るように手を組んだ老人。

それらは全て、カチカチに凍った人間でした。


「接近する者を、瞬時に凍結させる自動防衛システム……。恐ろしいセキュリティですわ」


私は分厚い毛皮のコートに顔を埋め、ガタガタと震えました。

寒さだけではありません。

ここには、明確な殺意としての冷気が漂っています。


「リゼットさん、見てください! 氷像の中に、まだ微かに魔力を感じる人がいますぅ!」


エリナ様が叫びました。

彼女の目は、氷の中に閉じ込められた人々の「命の灯火」が見えているようです。


「完全に死んではいないのですね。なら、急げば解凍できますわ」


「ああ。だが、どうやって近づく? 俺たちの足も、踏み出した瞬間に凍りつきそうだ」


クラウス様が足元の雪を踏みしめました。

靴底がバリバリと音を立てて凍っていきます。

この先は絶対零度の領域。

生身の人間が立ち入れば、数秒でアイスキャンディーの完成です。


私はため息をつき、懐から一本の剣を取り出しました。

刀身が赤く脈動する、魔道具の剣です。


「クラウス様。これをお使いになって」


「これは?」


「私の農園の温室用に開発した『ヒート・ブレード』です。本来は土を温めるための農具ですが、出力最大にすれば熱波を放ちます」


「……また農具か。貴様の農園には、伝説の武器庫並みの装備があるな」


クラウス様は苦笑しながら剣を受け取りました。

そして、魔力を流し込みます。


ボォォッ!


剣から紅蓮の炎が噴き上がりました。

周囲の雪が一瞬で蒸発し、心地よい熱気が広がります。


「よし、これなら行ける。エリナ、防御は頼めるか?」


「はいっ! 任せてくださいぃ!」


エリナ様が両手を広げ、金色の結界を展開しました。

熱を逃がさず、冷気を遮断するドーム状のバリアです。


「では、私はここで応援していますので、お二人は頑張ってくださいませ」


私はタガヤスゴーレムの背中に隠れ、ぬくぬくと手を振りました。


「……リゼット。まさか、俺たちだけで行かせる気か?」


「当たり前ですわ。私は寒さに弱いのです。貴方たちが道を切り開いてくれないと、一歩も動けません」


「はぁ……。わかった。俺の背中から離れるなよ」


クラウス様は諦めたように笑い、炎の剣を振りかざして先頭に立ちました。

エリナ様がそれに続き、私は一番安全な最後尾につきます。

これぞ適材適所、完璧な布陣です。


私たちは氷の彫像が並ぶ参道を進みました。

塔からの冷気が襲いかかりますが、クラウス様の剣がそれを焼き払い、エリナ様の結界が弾き返します。


『警告。高密度ノ冷気圧縮弾、接近』


ナナのドローンが警告を発しました。

塔の上部から、青白い光の弾が降り注ぎます。


「させんッ!」


クラウス様が一閃。

炎の斬撃が空を裂き、氷の弾を蒸発させました。

夫ながら、惚れ惚れする強さです。

やはり暖房器具(物理)として最高のパートナーですわ。


私たちはついに、塔の入り口である巨大な扉の前までたどり着きました。

高さ十メートルはあるクリスタルの扉は、堅く閉ざされています。


『アクセスコード送信……拒絶サレマシタ』


ナナが青い光を扉に照射しましたが、扉はうんともすんとも言いません。


ハチガ、拒ンデイマス。「来ナイデ、凍ッテシマウカラ」ト……』


「凍ってしまうから来ないで……? 随分と矛盾した心配ですわね」


私は呆れて、タガヤス君の陰から顔を出しました。

どうやら、この塔の管理AIは、侵入者を殺したいのではなく、何かを恐れて遠ざけようとしているようです。


「ナナ。回線を繋いで。私が直接、文句を言ってやりますわ」


『了解。……接続』


私は扉に向かって、拡声魔法で叫びました。


「引きこもりの管理人さん! 今すぐ開けなさい! 貴女のせいで、外は寒くてたまりませんのよ!」


私の声が響いた、その直後でした。

ズズズ……と地響きが起こり、巨大な扉がゆっくりと開き始めました。


しかし。

そこから吹き出してきたのは、歓迎の言葉ではなく、視界を全て白く染めるほどの猛吹雪でした。


「うわぁっ!?」

「キャーッ!」


「……っ、前が見えませんわ!」


扉の奥から、悲痛なほどの冷気と共に、少女の声なき叫びが聞こえた気がしました。

それは拒絶というよりも、助けを求める悲鳴に近いものでした。


私はコートの襟を必死に押さえながら、覚悟を決めました。

どうやら、ただの暖房調節では済まないようです。

この猛吹雪の中心にいる、寂しがり屋の迷子を叩き起こさなければなりません。


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