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【最終章完結!】婚約破棄された悪役令嬢が枯れた大地で掴んだのは最高の安眠でした。  作者: 月雅
第4章

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第2話:地下の少年王子


正義とは何でしょう?

剣を振るうことでしょうか、それとも法を守ることでしょうか。

いいえ、極限状態においては「温かい食事を提供できること」こそが唯一絶対の正義です。


薄暗い地下空間。

私たちを取り囲む少年たちの目は、野生動物のように鋭く尖っていました。

彼らはボロボロの毛皮をまとい、手には石や鉄くずで作った粗末な槍を握っています。


「だ、騙されないぞ! 毒が入っているかもしれない!」


リーダー格の銀髪の少年が叫びました。

まだ十歳くらいでしょうか。

体は小さいですが、その瞳には強い意志の光が宿っています。


「毒なんて入れませんわ。そんな高価なもの、もったいなくて使えませんもの」


私は微笑みながら、魔法の鞄から携帯コンロと小鍋を取り出しました。

そして、水魔法で鍋を満たし、火を点けます。


「クラウス様、乾燥野菜の袋を」


「ああ、わかった」


クラウス様が手渡してくれたのは、私が開発した「フリーズドライ野菜スープの素」です。

お湯に入れるだけで、採れたての味と香りが蘇る魔法の保存食。

これを鍋に放り込むと、瞬く間に湯気が立ち上りました。


コポコポ……。


地下の湿った空気に、タマネギの甘い香りと、コンソメの濃厚な匂いが広がります。


「……っ」


少年たちの喉が鳴る音が聞こえました。

槍の穂先がふらふらと揺れています。

無理もありません。

彼らの頬はこけ、極限まで痩せ細っています。


「さあ、できましたわ。武器を下ろした方から順番にどうぞ」


私がマグカップにスープを注いで差し出すと、一人の小さな男の子が我慢できずに飛び出してきました。


「マードック! ダメだ!」


リーダーの少年が止めようとしましたが、男の子は震える手でカップを受け取り、一気に口をつけました。


「……んぐっ、はふっ……」


男の子の目が大きく見開かれました。

そして、ポロポロと涙をこぼし始めました。


「おいしい……。あったかい……」


その一言が、合図でした。

他の子供たちも次々と槍を捨て、鍋の周りに集まってきました。

エリナ様とナナが手際よくカップを配り、クラウス様がパンをちぎって渡します。


「くそっ……! 僕たちは、誇り高いノースガルドの戦士なんだぞ……!」


リーダーの少年だけが、唇を噛み締めて踏みとどまっていました。

その痩せた体は小刻みに震えています。


私は自分の分として注いだスープを持って、彼の前にしゃがみ込みました。


「お名前は?」


「……レオ」


「レオ君。貴方が毒見をしなくていいのですか? もし毒が入っていたら、部下たちが大変ですわよ?」


「……!」


彼はハッとして、私の手からカップをひったくりました。

そして、覚悟を決めたように一気にあおりました。


ゴクッ、ゴクッ……。


空になったカップを握りしめ、彼は震える声で呟きました。


「……野菜だ。本物の、野菜の味がする」


「ええ。栄養満点ですわ」


「僕たちが食べていたのは、苔とネズミの肉だけだった……。こんな、こんな美味しいものが、まだ世界にあったなんて……」


彼は膝から崩れ落ち、声を殺して泣き始めました。

その背中を、私はそっと撫でました。

華奢な肩には、あまりにも重い責任が乗っているように見えました。


しばらくして、落ち着きを取り戻したレオ君は、涙を拭って立ち上がりました。

そして、背筋を伸ばして私に向き直りました。


「……失礼しました。僕は、この国の第二王子、レオナルド・ド・ノースガルドです。リゼット様、貴女たちを塔の刺客と疑ったことを謝罪します」


「王子様でしたか。……あの手紙の送り主ですね?」


「はい。まさか本当に来てくれるとは思いませんでした」


レオ王子は、周囲に広がる地下都市を指差しました。

そこには、地熱パイプのわずかな熱を頼りに身を寄せ合う、数千人の国民の姿がありました。

大人たちは疲れ果てて座り込み、子供たちだけが食料を探して動いているような状態です。


「見ての通りです。寒波で作物は全滅し、備蓄も底をつきました。父上は病に伏せり、僕と宰相のガルド爺だけで国を回しています」


「ひどい有様ですわね……」


私は眉をひそめました。

食文化の衰退は、文明の死です。

美味しいものが食べられない世界なんて、私にとっては滅びているのと同じです。


「塔を止めようとしましたが、近づく者は皆、氷像にされてしまいました。……リゼット様、お願いです。どうか、あなたの知恵でこの国を救ってください!」


レオ王子が深く頭を下げました。

その健気な姿に、私は胸を打たれました。

守るべき民のために頭を下げられる支配者は、嫌いではありません。


「顔を上げてください、殿下。私はそのためにはるばる来たのですから」


「本当ですか!?」


「ええ。まずは、この陰気な地下生活を終わらせましょう。塔を攻略して、暖房を取り戻すのです」


私が力強く宣言すると、子供たちから歓声が上がりました。

希望の光が見えたかに思えました。


しかし。


「――ならん!!」


ドシドシと、地響きのような足音が近づいてきました。

現れたのは、白い髭をたくわえた巨漢の老人でした。

彼は氷のような形相で私を睨みつけ、太い杖を床に叩きつけました。


「外部の魔女の手など借りん! 塔の怒りを鎮めるには、古来より伝わる儀式しかないのじゃ!」


「ガルド宰相……!」


レオ王子が怯えたように身を縮めました。

どうやら、この国の実権を握る頑固者が、私たちの前に立ちはだかるようです。


私はスープの残った鍋を守るように立ち上がり、その老人と対峙しました。

空腹は満たしましたが、どうやら次の敵は「頭の固さ」のようです。


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