表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【最終章完結!】婚約破棄された悪役令嬢が枯れた大地で掴んだのは最高の安眠でした。  作者: 月雅
第4章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/50

第1話:寒さは敵です


今すぐ、お家に帰りたいです。


心底そう思いました。

目の前に広がるのは、視界を埋め尽くす白い壁。

猛吹雪です。

上も下もわからなくなるほどの暴風雪が、私たちの魔導馬車を激しく揺さぶっています。


「……リゼット。大丈夫か」


隣に座るクラウス様が、私を強く抱きしめてくれました。

彼の体温だけが、この白い地獄における唯一の救いです。


「大丈夫ではありませんわ。……まつげが凍って、目が開きません」


私はガチガチと歯を鳴らしながら答えました。

最高級の羊毛コートを三枚重ね着し、その上から魔獣の毛皮を羽織っていますが、それでも寒さが骨の髄まで染みてきます。


ここは北の果て、ノースガルドの国境付近。

手紙には「寒い」と書いてありましたが、これは寒さというレベルではありません。

生命活動を拒絶する、死の世界です。


「リゼットさん、くっついてくださいぃ! 私、出力を上げますからぁ!」


向かいの席のエリナ様が、両手を広げて飛びついてきました。

彼女は今、全身から金色の光と熱を放っています。

まさに人間暖房器具。

聖女の尊厳などかなぐり捨て、私たちはエリナ様を中心に団子状態になっていました。


『警告。外気温、マイナス四〇度。魔導エンジンの出力低下。コノママデハ、三十分後ニ凍結シマス』


私の肩に乗ったナナ(ドローン)が、無慈悲な数値を告げました。


「マイナス四〇度……!? 冷凍マグロになる温度ですわよ!」


「リゼット。引き返そう。これ以上の前進は自殺行為だ」


クラウス様が深刻な顔で提案しました。

本来なら、その通りです。

ですが、ここで引き返せば、あの手紙をくれた少年や、幻の食材「雪解けカブ」はどうなるのでしょう。

何より、この異常気象を放置すれば、いずれ私の農園も凍りついてしまいます。


「……いいえ。進みますわ」


「しかし、道がないぞ。雪に埋もれて何も見えん」


「道がないなら、作ればいいのです。……雪の下にね」


私は震える手で、懐から「黄金のスコップ」を取り出しました。

そして、馬車の窓を少しだけ開けます。


ヒュオオオオ!


殺人的な冷気が吹き込んできましたが、私は構わずスコップを外へ突き出しました。

そして、馬車の後部に連結していた「荷物」に向かって叫びました。


「タガヤス君! 出番ですわよ!」


ズズズ……ン!


吹雪の向こうから、巨大な影が現れました。

私の愛機、古代の農業用ゴーレム「タガヤス君」です。

彼は寒冷地仕様のオイルを差してあるため、この寒さでも平気で動けます。


『ガガ……タガヤス……命令ヲ……』


「全面、掘削! 地下へ潜りますわよ!」


私がスコップで地面を指すと、タガヤス君の目が赤く光りました。

巨大な右腕のドリル(本来は深耕用ロータリー)が唸りを上げます。


ギュイイイイイン!!


凍りついた大地が、豆腐のように砕かれました。

タガヤス君は猛烈な勢いで地面を掘り進み、あっという間に人が通れるほどの大きな穴を開けました。


「よし、全員馬車から降りて! 地下へ避難します!」


私たちは荷物を担ぎ、転がり込むように穴の中へと滑り込みました。

タガヤス君が入り口を塞ぐと、嘘のように風の音が止みました。

地下はひんやりとしていますが、地上の殺人的な冷気に比べれば天国です。


「ふぅ……。生き返りましたわ」


私はカンテラの明かりをつけ、ほっと息を吐きました。

地下トンネルは、タガヤス君が開けたばかりの土の匂いがします。


「とんでもない力技だな。国境を地下から越えるとは」


クラウス様が呆れつつも、私の背中についた雪を払ってくれました。


「正規ルートの雪山越えなんてやってられませんもの。さあ、タガヤス君。このまま王都までトンネルを掘り続けるのです!」


私たちはタガヤス君を先頭に、暗い地下道を進み始めました。

これなら風も雪も関係ありません。

地中を進むモグラ作戦です。


一時間ほど進んだ頃でしょうか。

先頭を行くタガヤス君が、不意に停止しました。


『ピピ……障害物……金属反応……』


「金属?」


私が駆け寄ると、掘削された土壁の中から、太いパイプのようなものが露出していました。

錆びついていますが、明らかに人工物です。


「……これは、古代の地熱パイプ?」


私はスコップの柄でパイプを叩いてみました。

カン、と鈍い音がします。

そして、微かですが、パイプ自体が温かいのです。


「やはり。この国には地下に熱源があるようですわ。……ナナ、解析を」


『了解。……コノ配管ハ、第9プラント(氷の塔)カラ伸ビテイル「排熱ダクト」ト推測シマス』


「排熱ダクト……。ということは、これを辿れば目的地に着くわけね」


私たちはパイプに沿って進むことにしました。

これはいわば、古代の暖房システムの裏道。

地上よりも遥かに快適なルートです。


しかし、快適な旅は長くは続きませんでした。


開けた空間に出た瞬間。

カシャン、カシャン、と無数の足音が響き、私たちは包囲されてしまいました。


「動くな! 何者だ!」


幼い、けれど必死な声。

ランタンの光に照らされたのは、ボロボロの服を着て、錆びた槍を構えた少年たちの集団でした。


彼らは痩せこけ、頬はこけ、目はぎらぎらと光っています。

その背後には、薄暗い地下空間に作られた、粗末なテント村が広がっていました。


「……地下都市?」


私は息を呑みました。

ノースガルドの人々は、寒さから逃れるために地下で暮らしていたのです。


「怪しい奴らめ! 塔からの刺客か!?」


リーダーらしき少年が、切っ先を私に向けました。

敵意剥き出しです。

ですが、私は彼の槍よりも、彼のお腹が「グゥ~」と鳴った音を聞き逃しませんでした。


どうやら、最初の交渉相手は、寒さではなく空腹のようです。


私はゆっくりと両手を挙げ、黄金のスコップではなく、魔法の鞄から「あるもの」を取り出しました。


「怪しい者ではありませんわ。……温かいスープはいかが?」


私の言葉に、少年たちの視線が槍から私の手元へと釘付けになりました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ